立体駐車場のパレットとは?耐用年数やメンテナンス不足によるトラブル事例
更新日:2025年09月30日(火)
立体駐車場のパレットとは、機械式駐車場で車を載せて移動・収納するための台座です。金属製で装置内でも特に大きく重要な部品であり、全国に数十万基もの機械式駐車装置が稼働しており、その安全な維持管理は社会的にも重要な課題です。パレットは雨風にさらされやすく錆び(腐食)も生じやすいため、定期的な点検や塗装などのメンテナンスが欠かせません。放置すればパレット破損や車両落下といった重大事故につながる恐れもあり、安全に長く使うために維持管理のポイントを理解する必要があります。 本記事では、パレットの耐用年数や点検頻度、メンテナンス方法、未整備によるトラブル事例を解説します。
- 本記事のポイント
- パレットとは何か、その役割と劣化しやすい要因がわかる。
- 点検・補修・再塗装など具体的なメンテナンス方法を学べる。
- メンテナンス不足によるトラブル事例と予防管理の重要性を理解できる。
立体駐車場のパレットとは
結論から言うと、パレットは車両を載せて動かす機械式駐車場の台座であり、車を載せるスペースそのものを指します。立体駐車場には自動車が自走して出入りする「自走式」と、機械装置で車を搬送する「機械式」がありますが、パレットは後者の機械式立体駐車場で使われる部品です。二段式・多段式、エレベーター式、タワー式など機械式立体駐車場の種類を問わず、車は一度パレットに乗せられてからリフトやコンベヤーによって所定の区画に運ばれます。
パレットには塗装仕上げや亜鉛メッキ仕上げがあり、多くの装置で採用されています。近年製造された装置では耐久性に優れた亜鉛メッキタイプのパレットが主流ですが、導入から20年以上経過した旧型装置では塗装タイプが多く、経年による錆びは避けられません。塗装仕上げのパレットは約3~5年で錆びや腐食が発生しやすく、塗装の剥がれや金属劣化が進行する前に塗り直しや点検が必要です。このようにパレットは構造上どうしても劣化していくため、機械式駐車場の安全性を保つ上で特に注意すべき部位と言えます。
なお、パレットに車両を入庫する際は、案内表示のある停止位置まで徐行し、アクセルを踏み込みすぎて前方のストッパー(車止め)を乗り越えないよう注意しましょう。また、車両サイズや重量の制限値を超える車を無理に入庫させるとパレットや機構の破損につながるため、メーカーが定める制限を必ず守って利用してください。
パレットの耐用年数と点検の必要性
機械式駐車場全体の法定耐用年数(減価償却上の指標)は15年と定められています。これは税法で定められた資産上の耐用期間に基づく目安に過ぎず、15年経過後に使用を禁じられるわけではありません。実際には、適切なメンテナンスを行えば15年を超えて20~25年程度使用できるケースも多いとされています。
特に屋内設置で環境に恵まれた装置では30年近く稼働している例もあり、大規模修繕を経て2回目の更新時期まで延命することも可能です。一方で、耐用年数は使用条件によって大きく変動します。例えば塩害の恐れがある海沿い地域や寒冷地では錆びの進行が早まりやすく、逆に屋内や地下に設置された装置は比較的長持ちする傾向があります。屋外に設置された機械式駐車場では、簡易な屋根や壁を設けて直接の雨風を遮ることで錆びの発生をある程度抑制することも効果的です。また、1日に何度も入出庫を繰り返すような利用頻度の高い駐車場ほど機械への負荷が大きく、摩耗や故障が生じやすくなります。
適切な点検・整備を欠かさなければ、機械式駐車場は20年以上安全に稼働させることも十分可能です。しかし、点検や整備を怠れば寿命が縮み、15年に満たないうちに重大な故障や事故を招くリスクがあります。こうしたことから国土交通省は、機械式駐車場の所有者に対し専門技術者による定期点検を行うよう求めており、ガイドラインでは「1~3ヶ月に1度」の頻度で点検することが目安とされています。
法的な義務こそありません(エレベーター設備のような法定検査制度は現状ありません)が、安全に長期間使用するためには管理者による自主的な点検・整備が欠かせません。また、利用者自身による日常的な目視点検に加え、専門業者による定期点検と必要な部品交換を着実に行うことが機械式駐車場を長持ちさせるポイントです。特にパレットは3~5年ごとの塗装補修や部品交換が必要になる部位であり、計画的なメンテナンスによって耐用年数の延長と故障・事故の予防が図れます。
メンテナンス不足によるトラブル事例
パレットのメンテナンスを怠ると、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。錆びが進行するとパレットの金属が薄くなって穴が開く場合があり、実際にパレット表面に空いた穴から下の階に停めた車両へ物が落ちる危険性も指摘されています。また、パレットに発生した錆粉が靴の裏に付着して車内を汚したり、上段パレットから錆び混じりの雨水が下段の車に垂れてボディを汚す被害も報告されています。
さらに、機械操作中に通常と異なる大きな軋み音が生じる場合は、パレットやリフトが正規の位置で停止していない可能性があり危険です。さらに、装置の動作速度が遅くなったり、頻繁にエラー停止するようになった場合も、パレットの歪みやモーター劣化など不具合の前兆と考えられます。本来ないはずの段差や隙間が生じていると、利用者がつまずくなど思わぬ事故につながるケースもあります。こうした異常を放置するとパレット全体の強度低下につながり、最悪の場合は車両を載せたままパレットが落下する事故にも至りかねません。なお、多くの機械式駐車装置には万一の場合にパレットが落下しないよう落下防止装置(ワイヤーロープ切断時にパレットを機械的に固定する仕組み)が設けられていますが、整備不良で機能しないと効果がありません。安全装置を含めた点検整備の徹底が重要です。
実際に、経年劣化した古い機械式駐車場ではパレット落下事故が発生しています。朝日新聞デジタルの報道によれば、2017~2019年度に車ごとパレットが落下した事故が全国で11件(うち人身事故1件)報告されており、その主な原因はワイヤーロープの破断やモーター不具合など部品の経年劣化でした。これらの事故ではメーカーが推奨する部品交換時期を大幅に超えて装置が使われていたケースが多く、日頃の点検で劣化の兆候を見逃していたことも指摘されています。また、古い装置で前面ゲート(出入口の安全扉)が未設置の場合、昇降中は中に立ち入れないよう後付けゲートを設置する安全対策も進められています。
パレットのメンテナンス方法と交換のポイント
パレットを安全に長く使うためには、計画的なメンテナンスと部品の予防交換が基本です。日常的にはパレットやレール部分のゴミ清掃を行い、表面に錆びが見られたら早期に除去します。専門業者による定期メンテナンスでは、以下のような工程でパレットの補修・整備を実施します。
錆び落とし
パレット表面の汚れや錆びをワイヤーブラシや電動工具で十分に除去します。小さな腐食穴であれば繊維シートと防錆剤で一時補修することも可能ですが、穴が拡大している場合は早めに溶接補修やパレット交換を検討します。
再塗装
下地処理として古い塗膜や錆をしっかり除去した後、新たに防錆塗料で全体を塗装します。適切な下地処理と塗装により金属面を保護し、今後数年間の耐久性を確保します。腐食が深刻な箇所は部材交換やパレットそのものの新調が必要です。
装置の点検
パレットの塗装作業時には機構を分解する場合もあります。再組立て後に昇降装置やロック機構が正しく作動するか入念に点検し、ワイヤーロープの張力やモーターの動作音なども確認して、安全装置が正常に働くことを保証します。
駆動部の調整
チェーンやワイヤーロープなどの駆動部には必要に応じてグリースアップ(給油)を行い、各センサーやスイッチ類も清掃・調整します。動作異常や摩耗の兆候がないか点検し、見つかった場合は部品交換や再調整を施します。
上記のようなメンテナンスを3~5年ごとに実施し、部品の劣化状況に応じてボルト・ワイヤー・モーターなど主要部品も適宜交換することが重要です。特に、パレット自体に深刻な腐食や変形が見られる場合は、早めに新しいパレットや駐車装置への更新を検討すべきです。また、製造後長期間経過した装置ではメーカーが補修用部品の製造を終了しているケースもあり、必要な部品が入手できない場合は装置全体の更新を検討せざるを得ません。
実際にパレット交換を行う際は、駐車場全体を一時停止して安全措置を講じ、大型クレーン車などで古いパレットを撤去し新品のパレットを設置します。工事期間中は駐車場が使用できなくなるため、代替駐車場の確保や利用者への周知を含めて施工計画を立てることが重要です。
なお、国土交通省が公表したマンション修繕積立金のガイドラインでは、機械式駐車場の維持管理費として1台あたり年間約10万円(月額5千~7千円程度)がモデルケースとして示されています。この中には定期点検や部品交換、数年ごとの再塗装費用も含まれており、あらかじめ修繕計画に組み込んでおくことが重要です。
実際、パレットの錆穴補修に百万円規模の臨時費用が発生したケースもあり、想定外の出費に備えた積立てが欠かせません。メンテナンスには費用がかかりますが、定期的な補修を怠って重大な故障が起きれば装置全体の長期停止や高額な修理費用につながり、結果的に大きな負担となります。専門知識が必要な機械装置ですので、必ずメーカーや保守点検業者、または信頼できる専門家に相談しましょう。
まとめ
機械式立体駐車場のパレットは、車を載せる要の装置である一方、経年劣化による錆び・腐食が避けられない部品です。その法定耐用年数は15年とされていますが、実際の寿命はメンテナンス次第で延ばすことができ、計画的な整備を実施すれば20年以上安全に使い続けることも十分可能です。一方、点検不足のまま使用を続ければパレット破損や車両落下事故につながるリスクが高まります。
安全に長く利用するためには、1~3ヶ月に一度の専門点検と3~5年ごとの塗装・部品交換を計画的に行いましょう。パレットの状態に不安がある場合は、早めにメーカーや専門のメンテナンス業者へ相談し、必要に応じて装置の更新・改修を検討することが大切です。適切な維持管理によって、機械式駐車場を今後も安心して長期間利用できるでしょう。そして、装置に異常を感じた場合は速やかに専門業者に点検を依頼し、安全第一で対応してください。
なお、維持管理が困難な場合には機械式駐車場そのものを撤去して平面駐車場に転換する選択肢もありますが、その際は収容台数が減ることや解体費用などについて十分に検討する必要があります。
機械式駐車場等修繕の支援サービス「スマート修繕」
- 一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- 機械式駐車場の支援実績は多数あり、更新、平面化、部品交換、塗装、自走式駐車場の防水等に対応。約300戸 多棟型マンションでの実績もあります。社内にはゼネコン、デベロッパー、修繕コンサルティング会社、修繕会社、管理会社出身の建築士、施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
- 事業者からのマーケティング費で運営されており、見積支援サービスについては最後まで無料でご利用可能です。紹介事業者は登録審査済でサービス独自の工事完成保証がついているため、安心してご利用いただけます。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
.png&w=640&q=75)
遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
24時間対応通話料・相談料 無料