タワーマンションの屋上防水:役割と改修のポイント
更新日:2025年11月28日(金)
タワーマンション(高層マンション)の屋上防水は、建物全体を雨水から守り、その寿命や安全性に直結する極めて重要な要素です。管理組合にとって、屋上防水の構造や劣化の兆候を正しく理解し、適切な時期に防水改修を計画することは、長期的な建物維持に欠かせません。 本記事では、屋上防水の役割と構造、劣化の兆候と点検項目、防水改修のタイミングと判断基準、主な防水工法の種類と特徴、改修費用の目安と修繕積立金計画、大規模修繕と連携するメリット、そして業者選定・施工管理時の注意点について解説します。 実務に役立つ具体的な数値やポイントを挙げながら、管理組合の防水計画策定に役立つ知識をまとめました。
- 本記事のポイント
- 屋上防水が建物全体を雨水や劣化から守り、寿命延長につながる重要性を理解できる。
- 劣化の兆候(ひび割れ・膨れ・剥がれ・雨水滞留など)と、それを見逃さない点検項目を知り、トラブル初期に対処する目安がわかる。
- 主な防水工法(アスファルト防水・シート防水・ウレタン防水)の特徴と耐用年数、費用相場、そして長期修繕計画との連携の重要性が理解できる。
タワーマンション特有の屋上防水の役割と構造
タワーマンションの屋上防水は、建物全体を覆う大きな傘のような役割を果たし、最上階の住戸だけでなく建物全体の構造体を雨漏りから保護しています。屋上からの雨水浸入を防ぐ防水層は、コンクリート躯体の劣化や鉄筋腐食を防ぎ、建物の寿命延長に寄与します。特に高層建築では紫外線や風雨の影響が強く、耐久性の高い防水構造が求められます。
屋上防水の構造は一般に、鉄筋コンクリートの屋根スラブ上に勾配調整層と防水層を設け、その上を保護塗料や保護コンクリートで仕上げる形になります。タワーマンションの屋上はほとんどが平らな陸屋根であり、水はけを良くするためわずかな勾配と排水ドレンが配置されています。加えて、高層建物では最上階への熱侵入を防ぐため断熱材や遮熱層を組み合わせた「保護断熱型屋根」が採用されることも特徴です。
例えば、アスファルト防水の上にコンクリートを被せて防水層を物理的に保護する押さえコンクリート構造は「保護断熱工法」とも呼ばれ、紫外線や熱から防水層を守り耐久性を大幅に向上させます。
このような構造は高層マンションの屋上防水に多く採用されており、強風や直射日光に対する耐久性と長寿命を実現します。断熱材と高反射率のトップコート(遮熱塗料)を組み合わせることで、最上階住戸の室内環境を快適に保つ工夫も行われています。
また、タワーマンションの屋上には給水タンクや機械室などを収めた塔屋(ペントハウス)や、居住者が利用できるルーフバルコニーなどが設置されている場合があります。これら塔屋やルーフバルコニーの床面も本体屋上と同様に防水層で覆われており、建物頂部全体で一体的に雨水を遮断しています。複雑な形状をした設備基礎や配管貫通部には入念な防水処理が施され、隙間からの漏水を防いでいます。
総じて、タワーマンションの屋上防水は多層的な構造と高機能な材料によって、厳しい環境下で建物を守る重要な役割を担っているのです。
屋上防水の劣化の兆候と点検項目
屋上防水は経年とともに少しずつ劣化しますが、管理組合として早期に劣化の兆候を把握し対処することが肝心です。以下のような症状が見られたら注意が必要です。
防水層のひび割れ・膨れ
紫外線や気温変化の繰り返しにより防水層が硬化・劣化し、表面に細かなひび割れが発生したり、防水シートや塗膜が下地から浮いて膨れたりします。こうしたクラックやフクレは防水性能低下のサインです。放置するとそこから雨水が浸入し、下地コンクリートを痛める恐れがあります。
防水層の剥がれ・破れ
シート防水の場合、接着面の劣化や強風の影響でシート端部が剥がれたり、継ぎ目が開いてしまうケースがあります。また塗膜防水では、経年劣化で塗膜が部分的に剥離したり、厚みの不足した箇所が破れて穴が空くこともあります。これらも雨漏りに直結しやすい劣化症状です。
水たまり(雨水滞留)
雨が降った後に屋上表面に水たまりが残るのは、防水層や下地の不陸(勾配不良)や排水ドレン詰まりが原因です。常に水が滞留する状態は防水層を長時間水にさらし、劣化を加速させます。特にパラペット(立ち上がり)付近に水が引かない状態で溜まっている場合は注意が必要です。
排水口(ドレン)周りの異常
ドレンに落ち葉やゴミが詰まっている、ドレンの金属部品が錆びて穴が空いている、といった異常も点検で確認すべき項目です。排水ドレンの詰まりは水たまりの原因となり、防水層の劣化を加速させるため定期的な清掃と点検が必要です。雨季の前など定期的にドレンの詰まりを取り除き、排水がスムーズに行われる状態を保ちましょう。
室内への雨漏り兆候
屋上からの漏水は、最上階住戸の天井や壁に茶色いシミとなって現れる場合があります。また雨天後に室内でカビ臭いにおいがする場合も、見えない箇所で水が侵入し内装材が湿潤・腐敗している可能性があります。小さなシミでも内部では構造体や断熱材の損傷が進行しているケースがあるため、発見したら早急に原因を調査する必要があります。特にタワーマンションでは配管シャフトを伝って下層階に漏水が広がることもあり、初期対応が遅れると被害が拡大しかねません。
以上のような兆候は、専門知識が無くても定期点検の際の目視である程度発見できます。防水層の表面状態(ひび割れ・膨れ・色あせ)、ドレンの詰まり具合、屋上に上がって手すり越しにパラペット外壁のシーリング劣化などもチェックポイントです。防水層の初期劣化は外見から判りにくいことも多いため、少なくとも10年に一度は専門業者や建築コンサルタントによる調査診断を受けると安心です。早期発見・補修が大掛かりな改修や漏水事故を防ぐ鍵となります。
防水改修の必要時期と判断基準
屋上防水の改修時期を判断する際には、築年数(前回改修からの経過年数)、防水材料の耐用年数、そして漏水や劣化の発生状況(履歴)の三つが重要な判断基準となります。
一般的に、防水層の耐用年数は工法や材料によって異なりますが約10~20年程度とされています。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」でも、屋上防水の大規模改修サイクルはおおむね12~15年程度と想定されています。実際、多くのマンションでは築12~15年目に最初の大規模修繕工事を行い、その中で屋上防水の補修または更新工事を実施するケースが一般的です。さらに築24~30年頃に2回目の大規模修繕を行い、屋上防水については防水層の全面撤去・新設を24~30年周期で計画することが標準モデルとされています。これは、防水層自体の耐久性能と劣化スピードを踏まえ、部分補修を繰り返しても限界が来る時期に一新する考え方です。
ただし、適切な改修時期は建物の環境条件やメンテナンス状況によって前後します。例えば、日当たりが非常に強い環境や屋上の利用頻度が高い場合、防水層は想定より早く劣化することがあります。逆に遮蔽物が多く直射日光や風雨の影響が少ない環境では多少長持ちするケースもあります。一般的な目安として、ウレタン塗膜防水や塩ビシート防水は10~15年程度、アスファルト防水(保護コンクリート仕上げ)は15~25年程度で劣化が目立ち始めると言われます。国交省ガイドラインでは、外壁塗装や屋上防水を含む大規模修繕工事の周期は「部材・工法仕様により異なるが一般に12~15年程度」とされています。
防水改修時期の判断でもう一つ重要なのは、過去の漏水履歴です。もし最上階などで雨漏りが発生し応急補修で凌いでいる場合、たとえ築年数が浅くても根本的な防水改修を検討すべきです。特に複数箇所で漏水が起き始めた場合は、防水層全体が寿命に近づいている可能性が高く、計画的な改修の前倒しを検討してください。小規模な部分補修で対応可能なケースもありますが、部分的な防水補修では保証が付かない場合もあり、結局他の箇所から再度漏水するリスクがあります。防水層全体を一括改修した方がトータルでは安全・確実な場合も多いため、漏水の有無と頻度は重要な判断材料です。
以上を踏まえ、管理組合としては長期修繕計画に沿って12~15年ごとの防水改修を基本としつつ、10年目前後で専門家による点検結果を確認し、劣化症状や漏水の兆候があれば計画の前倒しも検討する柔軟性が必要です。材料の耐用年数に近づいたら予算措置を準備し、時期を逃さず改修することで、雨漏り被害による二次損傷や居住者への影響を未然に防ぐことができます。
主な屋上防水工法の種類と特徴
屋上防水の工法には様々な種類がありますが、マンションで主に採用されるのはアスファルト防水、シート防水、ウレタン塗膜防水の3種類です。それぞれ工法の特徴やメリット・デメリットが異なり、建物の構造や予算、要求性能に応じて採用されます。
ここでは主な防水工法3種類について、その特徴を紹介します。
アスファルト防水
アスファルト防水は、防水材料として古くから使われてきたアスファルトを用いる工法で、世界最古にして最も信頼性が高い防水材料とも言われます。
加熱溶融したアスファルトを下地に流し、そこにアスファルト系防水シート(ルーフィング)を積層していく熱工法が代表的で、通常2層以上の厚い防水層を形成するため水密性・耐久性が非常に高いのが特徴です。適切に施工・メンテナンスすれば15~25年程度の長寿命を実現でき、大規模マンションやビルの屋上に多く採用されています。施工不良が起きにくい安定した工法であり、「耐久性重視の伝統的工法」と位置付けられます。
アスファルト防水にはいくつか施工法のバリエーションがあります。従来主流のガスバーナーによるトーチ工法や常温で貼り付ける改質アスファルトシート工法など、改修現場の環境に合わせて臭気や煙を抑えた工法も開発されています。仕上げ方法も二通りあり、前述したようにコンクリートで防水層を覆う「押さえコンクリート仕上げ」(=保護工法)と、防水シート表面を砂付きシート等で仕上げて露出させる「露出仕上げ」があります。一般に押さえコンクリート仕上げの方が防水層が紫外線にさらされず長寿命になりますが、施工コストや重量増を考慮して計画する必要があります。
メリット
防水層自体が厚く頑健で耐久性が高い。長寿命のため改修頻度を減らせ、トータルコストを抑えやすい。さらに下地への密着性が高く、水漏れのリスクが低い傾向があります。保護コンクリート型にすれば耐荷重性にも優れます。
デメリット
施工に手間と熟練を要し、工期が長めになる傾向があります。アスファルトを溶かす際の臭気・煙や、資材搬入時の重量物(熱したアスファルト釜など)の扱いなど、施工環境に制約があります。また他工法に比べ屋上荷重が増える(保護コンクリートの場合)ため、構造設計上の検討が必要です。改修時に既存防水の撤去処分量も多くなります。
シート防水(塩ビシート防水・ゴムシート防水)
シート防水は、工場製作された防水シート(主に塩化ビニル樹脂系や合成ゴム系)を現場で下地に貼り付けて施工する工法です。防水シートを接着剤または機械的に固定し、継ぎ目をシームテープや溶着で処理することで防水層を形成します。
最大のメリットは施工の簡便性で、一枚物のシートを広げて貼るだけなので作業が速く、工期短縮やコスト低減に繋がりやすいです。材料にもよりますが耐候性・耐久性も比較的高く、耐用年数は一般に約10~15年程度です。工期や人件費を抑えやすいためトータルコストも低めになりやすいでしょう。
タワーマンションでは、下地が大面積で平坦な屋上にシート防水を採用するケースも多く見られます。塩ビシート防水は耐候性に優れ、防カビ剤なども配合されて長寿命化が図られています。近年では下地に固定用ディスク板で機械的に留め付ける「機械固定工法」も普及し、接着剤を使わずに強風圧に耐える施工が可能です。これは高層建築物の屋上防水にも適した方法です。
メリット
シート防水は施工が迅速で、天候に多少左右されにくく安定した品質が得られます。材料品質が工場で管理されているためムラが少なく、適切に施工すれば防水性能が高いです。改修の際、既存防水層の上に重ねてシートを貼る「カバー工法」も可能な場合があり、撤去廃材を減らせる利点もあります。
デメリット
シート同士の継ぎ目や端部処理が弱点となりやすく、施工管理の良否が性能に直結します。貼り付け不良やシーム部の接着不良があると漏水リスクがあります。またシート自体が比較的薄いため、鋭利な物が当たると破れやすい点にも注意が必要です。屋上に設備機器を設置する場合は、シートを傷つけないようゴムマットを敷くなどの配慮が必要です。さらに塩ビ系シートは可塑剤の揮発で経年硬化するため、適時トップコートの再塗装やシームテープの打ち直しなどのメンテナンスが推奨されます。
ウレタン塗膜防水
ウレタン防水(ウレタン塗膜防水)は、液状のウレタン樹脂を現場で塗布し、化学反応によって硬化させて防水膜を形成する工法です。「塗る防水」とも呼ばれ、複雑な形状にも継ぎ目のない一体的な防水層を作れるのが利点です。
立ち上がり部や細部の多い屋上、ルーフバルコニー、開放廊下などにも適用しやすく、改修工事で非常によく用いられています。耐用年数は材料グレードにもよりますが約10~15年程度で、費用相場は5,000~12,000円/㎡が目安です。
ウレタン防水は液体を塗り重ねて所定の膜厚を確保する必要があるため、職人の技量に左右されやすい面もあります。一般的に2~3層の塗り重ね+トップコート仕上げで施工され、乾燥養生期間が必要なため完工まで数日~1週間程度要します。トップコート(上塗り保護層)は紫外線からウレタン防水膜を守る重要な役割があるため、5~7年ごとにトップコートを塗り替えることで防水層本体の劣化を遅らせることができます。
メリット
継ぎ目の無いシームレスな防水膜を形成できるため、隅々まで防水処理を施しやすいです。複雑な形状の屋上や配管・手すりの根元まで一体で塗膜を張り巡らせることができ、シート防水では難しい細部施工も可能です。また比較的軽量で下地へ負担をかけません。改修時に既存防水を撤去せず重ね塗りできるケースもあり、工期やコストを抑えられる場合もあります。
デメリット
現場塗り工法ゆえに施工品質にバラツキが出やすく、職人任せになりがちです。所定厚みを均一に確保できていないと耐久性に影響します。さらに紫外線に弱く劣化しやすいため、トップコートの定期再塗装を怠ると塗膜が早期に硬化ひび割れを起こします。他の工法と比べ耐用年数が短めで、長期的には改修回数が増える傾向があります。加えて、施工中に雨が降ると塗りたての膜が白化・発泡して不具合が生じるため天候リスクに注意が必要です。
以上、3種類の工法それぞれに長所短所がありますが、総じてアスファルト防水は高耐久だが工期・コスト高め、シート防水は施工性良くコスト安だが継ぎ目管理が重要、ウレタン防水は密着性高く汎用性大だが定期メンテ必須といった特徴があります。
実際のマンション屋上防水では、立地条件・予算・求める耐久年数に応じて最適な工法を選定する必要があります(場合によっては複数工法の組合せも検討されます)。いずれの工法においても、防水層に十分な厚みを確保し、適切な施工管理を行うことが高品質な防水を長持ちさせるポイントです。
防水改修工事の費用目安と修繕積立金の考え方
屋上防水の改修にかかる費用は、防水工法の種類や施工面積、そして建物の高さや施工条件によって変動します。管理組合としては、長期修繕計画の中で防水改修費用を見積もり、計画的に修繕積立金を積み立てておく必要があります。
ここでは費用の目安と、予算計画上の考え方について説明します。
防水工法別の単価相場
一般的な防水改修工事の単価相場は次の通りです。
アスファルト防水
約11,000~22,000円/㎡
材料自体は安価ですが施工手間が大きく、人件費や重機費用等がかかるため中程度の単価になります。保護コンクリート仕上げの場合はさらにコスト増(コンクリート打設費用など)となります。
シート防水(ゴムシート・塩ビシート)
約8,000~15,000円/㎡
施工が比較的容易で工期も短いため、単価は抑えめです。材料費と人件費のバランスで幅がありますが、大面積施工では㎡単価が下がる傾向です。
ウレタン塗膜防水
約5,000~12,000円/㎡
– 下地処理や塗り重ね工程に手間がかかる分、若干シート防水より高めです。複雑形状の部位を含む場合や高品質のウレタン材を使う場合は上限寄りになります。
以上は防水層の施工単価ですが、実際の見積もりではこれに下地調整費用や諸経費が加わります。下地のひび割れ補修・傾斜調整・断熱材交換などが必要な場合、㎡単価が上記より上振れします。また仮設工事費(足場設置等)や資材搬入費も考慮しなければなりません。高層マンションの場合、屋上へ資材を搬入するのにクレーンやゴンドラを使用したり、外部足場を設置したりする必要があり、それがコスト増要因となります。例えば地上からクレーンで資材を吊り上げる場合は数十万円単位の費用が発生しますし、周囲に十分な作業スペースが無い都心部物件では安全養生や深夜作業対応等で追加費用がかかるケースもあります。
修繕積立金と長期計画への反映
屋上防水改修の費用は決して安くないため、日頃から計画的に修繕積立金を確保しておくことが肝要です。国土交通省のガイドラインでも、長期修繕計画の中で屋上防水や外壁など主要な修繕項目について修繕周期と工事金額の目安を定め、総額を算出しておくことが求められています。例えば築15年目に屋上防水の部分補修費○百万円、築25~30年目に全面改修費○千万円、といった形で計画に織り込み、その時点で不足なく資金手当できるよう積立金を設定します。近年では国や自治体から修繕積立金のガイドラインも示されており、「〇戸規模・〇階建てのマンションでは月額◯円/㎡程度が目安」などモデルケースも公開されています。自分たちのマンションの状況に合わせて適切な積立金額を検討しましょう。
なお、防水改修費用は工法選定や発注方法によって削減の余地もあります。複数業者から相見積もりを取り、工事内容と単価の妥当性を精査することが大切です。見積書では防水面積×単価だけでなく、仮設足場費○○万円、廃材処分費○○万円など内訳を詳細に確認しましょう。特に足場費は工事全体の20~30%以上を占めることもあり、大規模修繕と別立てで屋上防水のみ行う場合は割高になりがちです。この後述べるように、できるだけ他工事と足場を共用して行う計画を立てるのが望ましいでしょう。
大規模修繕と連携するメリット
タワーマンションの屋上防水改修は、単独で行うことも可能ですが、定期的な大規模修繕工事とタイミングを合わせて実施することで多くのメリットが得られます。国交省ガイドラインでも、外壁塗装(足場が必要な工事)と屋上防水等を同時に行うケースがあることに触れられています。
具体的なメリットを以下にまとめます。
足場費用の削減
大規模修繕で外壁工事のために仮設足場を組む際に、同じ足場を使って屋上防水改修も行えば、足場の設置・解体費用を二重にかけずに済みます。足場費は数千㎡規模のタワーマンションでは数百万円~1千万円超になることもありますが、一度の工事で済ませればその分コスト圧縮になります。また足場を共有できれば、高所作業の安全性も高まり、工事管理も一本化しやすくなります。
一貫施工による効率化
外壁塗装、防水改修、シーリング打替え等の工事をまとめて行うことで、工期を短縮できます。各工事を別々に行うより、同じ業者または協力関係にある業者間で段取り良く進められるため、トータルの作業日数が減り、居住者への影響期間も短くなります。特に騒音や異臭(アスファルトの溶解臭やシンナー臭)といった環境負荷も、一度に集中して終わらせた方が住民負担が軽減します。
相乗効果による品質向上
建物全体を一斉に改修することで、接合部の納まりや防水ディテールを最適化できます。例えば屋上防水の立ち上がり部分と外壁のシーリング処理を同時施工すれば、取り合い部での漏水リスクを低減できます。部分的な改修では対応しきれない細部の一貫した防水設計が可能となり、トラブル防止につながります。
計画立案と住民説明が容易
管理組合として長期修繕計画に沿って「築○年目に大規模修繕工事を実施」とあらかじめ決めておけば、それに合わせ屋上防水も更新する計画を立てやすくなります。住民への工事説明会も一度で済み、資金計画も統合的に検討できます。何度も修繕工事を行うより合意形成がスムーズになる点もメリットです。
以上のように、屋上防水は大規模修繕工事の一部として扱うことが望ましく、実際ほとんどのマンションでそのように計画されています。ただし例外的に、築年数に対して防水劣化が著しく早く進行した場合(例えば築8~10年で漏水発生など)は、大規模修繕を待たず緊急的に屋上防水のみ改修する判断も必要です。この場合も、後年の大規模修繕時には足場を組んで外壁・鉄部塗装など他の工事を行う予定があるため、防水のみ先行施工した部分との取り合いを慎重に検討する必要があります。将来的な整合性を考慮し、可能なら先行工事した防水部分に対して後工事で支障が出ないよう配慮した設計・施工を行いましょう。
業者選定・施工管理時の注意点
屋上防水改修工事を成功させるには、信頼できる施工業者の選定と適切な施工管理が欠かせません。管理組合が発注者として留意すべきポイントを以下にまとめます。
保証内容と期間の確認
防水工事後には通常、施工業者と材料メーカー連名の防水保証書が発行されます。一般的な防水工事の保証期間は5年~10年程度ですが、工法や使用材料、業者の方針によって異なります。長期の安心を得るため、契約時に何年間の保証が付くかを必ず確認しましょう。特に部分的な補修工事では保証対象外となるケースもあるため注意が必要です。
なお、日本防水材料協会や全国防水工事業協会などに加盟する業者は独自の長期保証制度を持つ場合もあり、15~20年の保証を提供できるケースもあります。保証内容(漏水時の無償補修範囲など)も詳細に説明を受け、書面で取り交わしておくことが重要です。
業者の信頼性と実績
防水工事は技術力が問われる分野です。相見積もりを取る際は、価格だけでなく業者の資格・実績・信頼性を重視しましょう。具体的には、一級防水施工技能士が在籍しているか、マンション大規模修繕の実績が豊富か、メーカーから施工認定を受けているか(メーカー保証を出せる資格があるか)等を確認します。防水業界団体(例えば関東防水管理事業協同組合など)に加盟している会社は、安全管理や施工基準の面で信頼できる傾向があります。過去の施工事例や顧客の評判も参考になるでしょう。
施工中の安全対策
屋上での防水改修作業は高所作業となるため、墜落・転落防止対策の徹底が最重要です。労働安全衛生規則では、高所作業において開口部や端部に作業者が立ち入る際は仮設手すり(安全柵)や安全帯の使用が義務付けられています。実際の現場でも、足場を設置しない場合はパラペットに仮設欄干(スタンション手すり)を取り付ける、作業員全員がフルハーネス型安全帯を着用する、といった措置が講じられます。管理組合としても、施工計画書や安全対策計画を事前に確認し、不十分な点があれば指摘しましょう。また、居住者に対する安全配慮(落下物防止ネットの設置、工事エリアへの立入禁止表示など)も怠りなく行ってもらう必要があります。
工期管理と天候対策
防水改修は天候に大きく左右されます。契約時に工期を確認するとともに、雨天時の対応策について業者に確認しましょう。特に既存防水を撤去する工程では、施工中の降雨対策が極めて重要です。対策としては、工事中は常にシートで養生できるようスタンバイしておく、天気予報を注視して撤去作業日は晴天が続く日に限定する、などの計画が考えられます。また真夏や真冬の極端な気温環境下では材料の硬化不良等が起こる場合もあるため、施工に適した時期を選定することも大切です。工期遅延が起きないよう工程管理を徹底してもらい、万一遅れる場合の対処(追加費用や住民周知方法)についても取り決めておくと安心です。
工事監理と検査
防水改修工事では、施工中および完了時のチェックを厳格に行う必要があります。管理組合として可能であればコンサルタントや設計事務所に工事監理を依頼し、施工手順や材料品質の確認、試験施工の立会いなどを行うと良いでしょう。特に防水層の膜厚検査(所定の厚みが確保されているか)や水張り検査(完工後に一定時間散水して漏水がないか確認)は必須です。引渡し前には保証書に加えて施工写真や検査報告書の提出を受け、内容を確認してください。こうしたエビデンスを残すことで、万一将来不具合が生じた際の原因追及や補修交渉もスムーズになります。
以上が、屋上防水改修に臨む際の主な注意点です。タワーマンションの屋上防水は建物の生命線とも言える重要部分ですから、信頼できる専門業者の技術により適切に施工・維持していくことが不可欠です。管理組合として十分な知識を持ち、計画的かつ慎重に対応することで、マンションの長寿命化と資産価値維持に繋げていきましょう。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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