マンション大規模修繕工事の談合とは?違法性と摘発事例
更新日:2025年10月29日(水)
マンションの大規模修繕工事(長周期で行う外壁補修や防水工事など)は、住環境と資産価値を守るために不可欠です。しかし、その施工業者選定を巡って「談合」と呼ばれる不正が起きる可能性があります。 2025年には公正取引委員会が大規模修繕の談合疑惑で大手業者に立ち入り検査を行う事態となりました。マンション大規模修繕工事で談合が起きると、住民が積み立てた修繕積立金の無駄遣いや工事品質の低下につながりかねません。本記事では、マンションの大規模修繕工事における談合の実態と防止策を解説します。
- 本記事のポイント
- マンション修繕工事で発生する談合の仕組みと、独占禁止法に基づく違法性を理解できる。
- 実際の摘発事例や典型的な談合手口を知り、不正を見抜く視点を身につけられる。
- 相見積もり・第三者チェック・契約条項など、談合を防ぐための実践的な管理組合対策を学べる。
マンション大規模修繕工事の談合とは?
マンション修繕工事における談合とは、複数の工事業者があらかじめ受注者や入札価格を取り決める不正行為です。競争が行われず工事費が不当に高騰し、適正な品質も確保されなくなる問題があります。
談合は独占禁止法(不当な取引制限)に違反する違法行為であり、発覚した業者には公正取引委員会による排除措置や課徴金納付命令などの行政処分、場合によっては刑事罰も科されます。同様の不正入札は公共工事で古くから問題視されてきましたが、民間のマンション工事においても決して許されない行為です。
マンションの管理組合(区分所有者で構成)の立場から見ると、談合によって築き上げた修繕積立金が適正価格以上に支出され、本来受けられるべき工事の質や範囲が損なわれる恐れがあります。管理組合は工事の専門知識を持たないケースが多く、不正な高値契約や手抜き工事に気付きにくいため、談合は住民の資産と安心な暮らしを脅かす深刻な問題なのです。
公正取引委員会による摘発事例
この問題の深刻さを裏付ける出来事として、公正取引委員会(公取委)による大規模な調査が行われました。2025年3月、公取委は首都圏のマンション大規模修繕工事で談合の疑いがあるとして、業界大手の長谷工リフォームや建装工業、清水建設グループのシミズ・ビルライフケアなど約25社もの施工会社に一斉に立ち入り検査を実施しています。これはマンション修繕業界では初めての本格的な談合摘発調査であり、日頃表面化しにくい問題にメスが入った形です。
この調査対象には業界の主要企業がほぼ網羅されており、「マンション大規模修繕の談合は数十年以上も日常的に行われ、業界全体に広がっている」との専門家の指摘も現実味を帯びました。実際、国土交通省も2017年に不適切なコンサルタントによる談合被害の存在を指摘し注意喚起していましたが、こうした長年の懸念が公取委の動きによってようやく表面化したと言えます。談合は一部の悪質な業者だけでなく業界構造に根付いた問題であり、管理組合側が十分注意すべき課題です。
マンション大規模修繕工事の談合が起きる原因と典型的な手口
なぜマンション修繕工事で談合が繰り返されるのでしょうか?背景には、業界の構造的な問題と巧妙な手口の存在があります。大規模修繕の施工業者やコンサルタント業者は互いに狭い業界内で繋がりが強く、元請や下請の関係を通じて横のネットワークが形成されてきました。
管理会社が加盟会社から見積もりを取る「業者会」制度では、参加企業がお互いに顔見知りのため暗黙の調整が起こりやすく、表面的には競争していても実質的には出来レースになりがちです。さらに管理組合側の知識不足もあり、不正が専門的手口で隠蔽されると見抜くのが難しい状況です。
ここでは典型的な談合の手口をいくつか紹介します。
受注業者の事前内定とダミー見積もり
あらかじめ「今回の工事はA社に受注させる」と決め、他の数社からは alibi(アリバイ)として見積もりだけ提出させます。表向きは相見積もりでも、実態は特定業者ありきの出来レースです。
設計監理者と施工業者の癒着
コンサルタントや管理会社が極端に安い設計監理料で契約を受け、裏で提携する施工業者から高額な工事費を得て差額を埋め合わせます。設計・見積段階から受注予定業者が深く関与し、不当に高い工事仕様が組まれるケースです。
応募条件の恣意的な設定
見積もり参加企業を募る際に、資本金や実績などの条件を過度に厳しく定めます。意図的にハードルを上げることで、特定の業者しか応募できない環境を作り出し市場を閉鎖します。
見積書の代行作成
受注予定の業者が他社の見積書作成まで手助けする場合があります。他社は形だけ参加し、提示された金額も受注予定業者が算出したものという巧妙な手口です。
バックマージンの授受
工事代金の一部(例えば総額の10~20%程度)がキックバックとして関係者間で受け渡される場合があります。本来は不要な経費にもかかわらず見積もりに上乗せされ、管理組合の負担となります。
これらの手口はいずれも一見すると適正なプロセスに見えますが、裏では談合や癒着によって競争原理が歪められています。専門知識のない区分所有者には発見が難しく、この見せかけの競争によって気付かぬうちに修繕積立金が浪費されてしまう危険があります。実際に、上記のような不正を通じて住民が長年積み立てた数千万円規模の修繕資金が知らぬ間に失われていた事例は多数あります。談合の温床となる業界慣行と巧妙な手段を理解し、管理組合として警戒することが必要です。
マンション大規模修繕工事の談合による被害とリスク
談合が行われると、マンションの管理組合や区分所有者が被る経済的被害は甚大です。競争なき談合によって契約金額が適正相場を大きく上回れば、本来不要だった支出により修繕積立金が減少します。例えば通常なら数千万円で済む工事が談合で水増しされ、数百万円単位の余計な負担が生じる可能性もあります。前述のように悪質なケースでは住民の大切な積立金が何千万円も余計に失われ、将来の修繕計画に支障をきたす恐れがあります。
また、談合は工事品質の低下リスクも伴います。価格調整が目的の場合、受注業者は高止まりした予算内で利益を確保しようとし、手抜きや安価な材料使用などで帳尻を合わせる誘惑が生じかねません。本来であれば競争入札によって技術力や提案力の優れた業者が選定され品質向上が期待できますが、談合ではそうしたメリットが失われます。
さらに、談合に関与した業者が行政処分を受けると契約履行が滞るリスクもありますし、管理組合と住民の信頼関係にもヒビが入ります。このように談合は金銭面・品質面の両方でマンションに深刻な悪影響を与えるため、決して看過できない問題です。
マンション大規模修繕工事の談合を防ぐための対策
では、管理組合として談合被害を避けるにはどうすれば良いでしょうか。最後に談合を未然に防ぐための具体策を紹介します。以下を実践することで、公正な業者選定と工事契約の透明性を確保しやすくなります。
複数業者からの見積取得
管理会社や特定コンサルタントに推薦された業者だけでなく、できる限り複数の施工業者から見積もりを取り比較検討します。選択肢を広げることで不正な取り決めを見破りやすくします。
第三者専門家への相談
マンション管理士、一級建築士等の国家資格者など中立的な第三者に意見を求めます。管理会社とは独立した立場の専門家に見積内容や仕様をチェックしてもらうことで、不正の兆候を指摘してもらえます。
選定過程の記録と共有
業者選定のプロセスを議事録などで詳細に記録し、理事会や組合員に共有します。手続きをオープンにすることで不透明な決定が入り込む余地を減らし、抑止力とします。
契約への違約金特約条項
工事請負契約書に「談合行為が発覚した場合には受注者に違約金を支払わせる」との条項を盛り込みます。談合が発生した際の経済的ペナルティを明示することで業者側に強い抑止効果を与えます。
上記の対策は横浜市など行政機関も管理組合向けに推奨している方法です。特に違約金特約条項の導入については、2025年6月に国土交通省がマンション関係団体宛ての通知で強く促しています。国土交通省は公共工事で実施している談合防止策を民間マンションにも広げる観点から、談合が確認された場合に契約金額の一定割合(例:10%)を違約金として課す条項の導入を提唱しました。違約金条項は違法行為の抑止力になるだけでなく、万一談合が起きた際に管理組合の被害回復に資する仕組みでもあります。導入にあたっては訴訟リスクなど留意点もありますが、弁護士等の助言を得て契約書に盛り込む価値は大いにあるでしょう。
まとめ
マンション大規模修繕工事における談合問題について、その違法性や具体的な手口、被害例、そして防止策まで解説しました。談合は管理組合の財産である修繕積立金を奪い、工事の質にも悪影響を及ぼす重大な不正です。近年、公正取引委員会の摘発や国の対策強化により表面化しつつありますが、根絶には管理組合側の理解と警戒が不可欠です。公正な競争による適正価格と品質の確保こそが、マンションの資産価値と安全な暮らしを守る道です。そのため、本記事で紹介したような対策を講じ、透明性の高い工事発注を行いましょう。談合のない健全な修繕プロセスを実現することで、住民が安心して暮らせるマンション管理を目指したいものです。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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