タワーマンションのエレベーター管理とリニューアル実務ポイント
更新日:2025年11月28日(金)
タワーマンション(高層マンション)では、エレベーターは住民の日常生活や安全性に直結する重要設備です。管理組合の理事や修繕委員としては、「タワーマンション エレベーター」に関する正確な知識を持ち、適切な維持管理や更新計画を立てることが求められます。 本記事では、タワーマンションに多いエレベーター設備の特徴から、老朽化に伴うリスク、更新時期の目安、最新技術による機能向上、工事の進め方と住民対応、費用感や助成金制度、さらにメーカー以外の業者への依頼可否と選定ポイントについて解説します。
- 本記事のポイント
- タワーマンションのエレベーターは複数台設置・群管理されるため、安全性・快適性・維持費のバランスをとった適切な台数設計の重要性を理解できる。
- 築後20〜25年を超えた機器では部品供給停止や安全装置の未対応による故障・事故リスクが高まり、築30年付近での全面的な更新を検討すべき目安がわかる。
- 最新のエレベーターに更新すれば、地震時自動着床や省エネ、バリアフリー化、AI制御による待ち時間短縮など、安全・快適・コスト効率すべてを改善するメリットがあることを学べる。
タワーマンションのエレベーター設備の特徴
複数台のエレベーターと群管理制御
タワーマンションでは一般に戸数が多いため、エレベーターも複数台設置され、グループ制御(群管理運転)によって効率的に運行されています。エレベーター台数の明確な法律基準はありませんが、目安として「50戸あたり1台、100戸で2台以上」設置するケースが多く、戸数が多いタワーマンションでは4基以上のエレベーターが配置されることも一般的です。台数が多すぎると管理費増、一方で少なすぎると朝夕の待ち時間が長くなるため、戸数や階数に見合った適切な台数設計が重要です。
非常用エレベーターの設置義務
高さが31m(おおよそ10階建て相当)を超える建築物では、建築基準法により非常用昇降機(非常用エレベーター)の設置が義務付けられています。タワーマンションはこの高さ要件を満たすため、少なくとも1基は消防・救助活動に使用できる非常用エレベーターを備えています。非常用エレベーターには非常時専用の制御装置や通信設備が搭載され、ドアを開けたままでも昇降可能な特殊構造となっています。また予備電源の確保が法令で求められており、停電時でも一定時間稼働できるよう設計されています。平常時は通常のエレベーターとして住民が使用しつつ、火災時には消防隊が操作盤からかごを直接呼び戻して利用するなど、緊急用途に供される重要設備です。タワーマンションでは非常用エレベーターを含めた複数台のエレベーターがAI群管理によって制御され、混雑時でも効率的に配車されるようになっています。
高速・大容量エレベーター
高層階への移動が長距離となるタワーマンションでは、エレベーターの速度やかご容量も一般的な中低層マンションより大きく設計されています。分速150m以上の高速運転や20人乗り以上の大型かごを持つ機種が採用されることもあり、これらを複数台リンクさせて低層用・高層用に分けたゾーニング運転を行うケースも見られます(※ゾーン分け運行は主にオフィスビルで導入例が多いですが、超高層の居住棟でも採用例があります)。こうした特殊仕様のエレベーターでは、メーカー独自の技術や制御プログラムが使われるため、保守や更新の際には専門性の高い対応が必要となります。
老朽化による故障リスク・安全性低下とその背景
経年劣化と故障リスクの増大
エレベーターは精密な機械設備であり、経年とともに部品の摩耗や劣化が進みます。使用開始から20年を超える頃から制御装置や巻上機モーターなど主要部位の性能低下が顕著になり、動作不具合や小規模故障の頻度が増えてきます。さらに製造後25~30年が経過すると、メーカーから補修用部品の供給停止通知が届くケースもあり(一般にメーカー各社は耐用想定20~25年、部品保有期間を約25年としています)、故障時に交換パーツが入手困難となって長期停止に陥るリスクが高まります。築30年超のマンションで「エレベーターが頻繁に止まる」「修理に時間がかかる」という問題が生じやすいのは、老朽化と部品確保難が背景です。
安全装置未整備による事故リスク
古いエレベーターほど現在の安全基準を満たしていない可能性があり、利用者の安全性低下が懸念されます。例えば戸開走行保護装置(UCMP)は、かごの戸が開いたまま誤って動き出すのを自動検知して制止する装置で、2009年9月28日以降に新設されるエレベーターには設置が義務化されました。しかしそれ以前に設置された既存エレベーターには義務がないため、多くの古い機種ではこの装置が付いていません。国土交通省の調査によれば、2022年度に定期検査報告が行われた全国約76万台のエレベーターのうち、戸開走行保護装置が設置されていたのは約35%(約26万台)に過ぎないという現状があります。つまり約65%ものエレベーターが未だ旧基準のまま稼働していることになり、古い機種では戸開走行中に誤作動で動いて乗場との間に挟まれるといった重大事故のリスクが残存しています。この問題に対し、国土交通省や日本エレベーター協会は古い昇降機の計画的な更新による安全性向上を社会的課題として呼びかけています。
地震対策の不備と閉じ込め懸念
日本は地震大国であり、地震発生時のエレベーター閉じ込めも大きな安全課題です。近年の新型エレベーターは、初期微動(P波)を感知すると主要動(S波)による大きな揺れが来る前に自動で最寄階に着床してドアを開放し、乗客を避難させる「地震時管制運転(自動着床)」機能を標準搭載しています。しかし古いエレベーターにはこのP波感知システムがなく、地震発生時には停止してかご内に閉じ込められる恐れがあります。実際、東日本大震災など大地震の際には多数のエレベーター閉じ込め事故が発生し、これを教訓に業界全体で地震対策機能の強化が進められました。古い機種では地震時に自動復旧できる「リスタート機能」や、安全点検後に速やかに運転再開する「自動診断・仮復旧運転機能」も備わっていないため、震災後に長期間エレベーター停止となるケースもあります。老朽化した設備を放置するとこうした非常時の安全性にも課題を抱えることになるため、管理組合として早めの対策が望ましいでしょう。
エレベーター更新・リニューアルの適切な時期と目安
長期修繕計画上の目安
マンションのエレベーターは築後いつ頃に更新すべきか、国土交通省のガイドラインが一つの目安を示しています。同省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、築後おおむね30年程度でのエレベーター交換(リニューアル)を計画するよう推奨されています。
モデルケースとして15年目に中間的な補修を行い、30年目に設備更新する計画が掲げられており、実際多くのマンションで新築後25~30年でエレベーターの大規模改修(交換工事)を検討・実施するケースが増えています。もちろん建物の利用状況によって劣化速度は異なりますが、「エレベーター設置後25年以上経過」「故障や不具合が増えてきた」「製造後30年近くなりメーカーから部品供給終了の案内が来た」といった状況が見られたら、更新時期のサインと捉えて計画立案を始めるべきでしょう。
法定耐用年数と実際の寿命
エレベーターの法定耐用年数(減価償却上の目安)は17年と定められています。しかしこれは税法上の指標であり、実際の機械寿命とは異なります。メーカー各社では経済的耐用年数を概ね20~25年程度と想定しており、この期間内であれば適切なメンテナンスにより一定の性能維持が可能とされています。
20年を超えると旧式化した安全装置の問題(前述のUCMP未設置など)も顕在化するため、概ね20年経過で改修検討開始、25~30年で本格的なリニューアル実施というのが一般的な計画になります。日本エレベーター協会の資料によれば、最新のエレベーターへ更新することで「乗降時や乗車中の安全機能の強化」「地震感知器の設置による地震対策強化」「防犯カメラ設置」「車いす対応・点字表示などバリアフリー化」「インバータ制御やLED照明による省エネ仕様向上」といった性能強化が期待できるとされており、古い設備を更新する意義は安全・快適性から省エネまで多方面に及びます。エレベーターは建物の資産価値にも直結する“見えないインフラ”であり、築30年近くになったら管理組合として更新計画の検討を本格化させることが望ましいと言えるでしょう。
部分的改修との組み合わせ
完全な交換(フルリニューアル)以外にも、15年目程度で制御盤や内装だけ更新する部分リニューアルを行い、延命を図る管理組合もあります。例えばドアセンサーやインターホンなどを新型に変えて安全性を補強し、外観内装を綺麗にすることであと10年程度使い、その間に修繕積立金を積み増して30年目前後で全交換する、といった段階的対応です。
国土交通省ガイドラインでも「15年目で中間改修+30年目で更新」がモデルケースとされている通り、段階的な改修計画は資金繰りの面でも合理的です。ただし部分改修では根本的な旧式機構の刷新にはならないため、新基準の安全装置義務も生じず既存不適格が残る点には留意が必要です(例:制御盤交換のみではUCMPの追加義務は生じないため、結果的に未設置のままになる)。計画耐用年数を超えて無理に引き延ばすことは、故障リスクや安全性低下のリスクと表裏一体です。管理組合の判断として、費用とのバランスを見極めつつ計画的な更新に踏み切るタイミングを逃さないことが肝要です。
最新機種へのリニューアルで強化される機能
エレベーターを最新機種にリニューアルすると、安全面・快適面で様々な機能強化が得られます。ここでは代表的な新機能・先進技術を紹介します。
地震対策(地震時自動着床・復旧機能)
最新エレベーターはP波感知型の地震時管制運転を標準搭載しており、小さな初期振動をセンサーが検知した時点で「地震発生」と判断し最寄階に速やかに停止・ドア開放して乗客を避難誘導します。この機能により、大きな本震による揺れが来る前に閉じ込めを防ぐことが可能です。
また耐震設計も強化されており、レールやガイドシューの改良でかごの脱線・衝突防止性能が向上しています。さらに近年のモデルでは、地震で停止したエレベーターを自動診断して安全確認後に自動復旧運転させるシステム(被災時自動診断・リスタート機能)もオプション追加可能になりました。これにより、人的確認に頼らず迅速に運転再開できるケースが増え、震災直後の稼働停止時間を短縮できます。地震国の日本において、こうした最新の地震対策機能は非常に重要です。
非接触ボタン・衛生対策
コロナ禍以降、ボタンに触れずに操作できる「非接触型ボタン」が各社から開発・提供されています。。非接触化によりウイルスや汚れの付着リスクを減らせるほか、ボタン摩耗も防げるためメンテナンス性の向上にも寄与します。また抗菌・抗ウイルス仕様のボタンパネルや手すり、空調換気時にウイルスを抑制するイオン発生装置の搭載など、衛生面の付加価値も最新リニューアルのトレンドです。
待ち時間短縮の高度制御(AI群管理・行先予報)
最新のエレベーター制御システムはAI(人工知能)技術を活用して運行効率を飛躍的に高めています。混雑時間帯の配車最適化や複数台運行時の行先予約システム(ディスパッチャー制御)も普及しつつあり、エレベーターホールで行き先階を先に登録してから乗る方式にすることで、同じ方向・階域の乗客をまとめて効率輸送し、中間停止回数を減らすことができます。
これらAI群管理制御や行先階予約システムはオフィスビル中心でしたが、近年は大規模タワーマンションにも導入例が出てきました。朝夕ラッシュ時の「なかなか来ない」「各階に止まりイライラする」という不満を解消すべく、メーカー各社が制御アルゴリズムを日々進化させています。リニューアルにより旧式の「全階公平に止まるだけ」の制御から最新のスマート制御に生まれ変われば、住民のストレスも大きく軽減されるでしょう。
省エネルギー性能の向上
古いエレベーターを最新型に更新することで大幅な省エネ効果が得られる点も見逃せません。制御方式を昔のリレー制御や直巻電動機から、VVVFインバータ制御+高効率モーターに変えるだけで消費電力は大きく削減できます。加えて照明のLED化や待機時の自動消灯・ファン停止機能(省エネモード)で人が乗らない状態では照明・換気扇を休止して待機電力をカットできます。
このように、エレベーターのリニューアルはエネルギーコストの削減と環境負荷低減にも直結します。古いほど更新後の省エネ効果が高まる可能性が大きく「長い目で見れば新型に替えた方が経済的」といったケースも多いのです。
以上のように、最新エレベーターへの更新は安全・防災・利便・省エネのあらゆる面でメリットがあります。管理組合としては、メーカーや保守会社から新機能について情報提供を受け、リニューアルプランの検討に活かすとよいでしょう。
エレベーター改修工事の進め方と住民への対応
エレベーターの更新工事(リニューアル工事)を円滑に進めるには、事前準備と周到な住民対応が欠かせません。特にタワーマンションのように階数が多い建物では、工事期間中の居住者負担を最小限に抑える計画配慮が重要です。
以下に主なポイントを解説します。
工事期間の確保と段取り
エレベーター交換工事は通常、既存機器の製造メーカーへの発注~製造~現地工事~検査まで数ヶ月規模の長いリードタイムを要します。管理組合はまず更新方式や仕様を決定し、発注先と契約してから部材製作の期間を見込む必要があります。工事工程としては「既存エレベーターの撤去」「新設エレベーター機器の据付」「調整・検査」という流れで、建築基準法上の確認申請が必要なケース(全撤去新設など)では許可取得期間も考慮します。スケジュールの綿密な立案と関係各所との調整を行い、着工から完了までの工程表を事前に作成しておきます。また自治体の補助金を利用する場合、完了報告期限など制約があるため逆算して工程に組み込むことも重要です。
複数台設置時の運用計画
タワーマンションではエレベーターが複数基あることが多いため、工事は通常1基ずつ順番に行い、残りのエレベーターは運転継続する形で進めます。例えば2基ある場合はまず片方を停止して改修し、その間もう一方は通常通り稼働させることで、建物全体がエレベーターゼロになる期間をなくす対応がとられます。3基以上ある場合も同様で、一度に全エレベーターを止めてしまうことは避け、できる限り住民の生活動線を確保する計画にします。
もっとも、利用台数が減ることで朝夕ラッシュ時の待ち時間増など一定の不便は避けられません。そのため「〇月〇日~〇月〇日まで○号機を停止工事、残る△台で運行」などスケジュールを早めに周知し、住民に理解と協力を求めます。また停止期間中はエレベーター優先利用時間帯の設定(例:通勤通学時間帯は高齢者や荷物運搬は極力避けてもらう等)や、管理員による誘導など運用面での工夫も検討します。
単一エレベーター物件での対応
もし建物にエレベーターが1基しかない場合、工事期間中はその唯一のエレベーターが使えなくなるため、住民への影響は非常に大きくなります。特に10階以上の高層階に住む方や足腰の弱い高齢者・障害を抱える方にとって、数週間階段のみで生活するのは大きな負担です。
こうした場合は工事時期の選定と代替策の用意がより慎重に求められます。まず時期は、できれば長期休暇や在宅者の少ない時期(GW・お盆・年末年始など)を選ぶ、人の動きが少ない日中時間帯中心の工事にする等、負担軽減を図ります。また管理組合として可能なサポート策を検討します。
例えば宅配便の一時預かりサービスを実施して重い荷物を階段で運ばず済むようにする、介助スタッフやボランティアの配置(階段昇降の手助けや、ゴミ出し代行など)を行う、途中階の踊り場に休憩用の椅子を設置する、といった配慮です。
さらに昨今では、可搬型の階段昇降機(椅子式リフト)をレンタルして設置し、高齢者でも階段を昇降できるようにしたマンション事例もあります。これら代替措置には費用や人員手配も伴いますが、「エレベーターなし生活」を乗り切るため管理組合として出来る限りの支援策を用意すると良いでしょう。
いずれにせよ、工事前の丁寧な説明会の開催と合意形成が不可欠です。住民に工事の必要性や期間を周知し、質問や不安に答えておくことで、後のトラブルやクレーム発生を防ぎます。
騒音・振動など近隣対応
エレベーター工事では解体や重量物搬入出に伴い騒音・振動が発生します。特にエレベーターホールに面する住戸には影響が大きいため、事前に工程表と併せて騒音の大きい作業日程の告知や、防音シート設置などの対策を講じます。作業員の出入りも増えるため、作業時間帯の遵守(朝早くや夜間は作業しない)や養生導線の確保、エレベーターホール・廊下の清掃励行など、きめ細かな管理が必要です。場合によっては近隣住戸へ工事期間中の防音パネル貸与や在宅時間帯の調整協力をお願いすることも考えられます。管理会社や施工業者と連携し、「生活への影響を最小限にする」という視点で現場対応することが大切です。
以上のように、エレベーター改修工事はマンション全体の“大イベント”です。住民への周知徹底と合意形成、綿密な工事計画とスケジュール管理、信頼できる業者選定が三位一体となって初めて成功します。管理組合として事前準備を万全に行い、関係者が協力しあって乗り切りましょう。
エレベーター更新にかかる費用感と助成金の活用
エレベーターのリニューアル費用は、改修方式やエレベーター規模によって大きく異なります。一般的な費用目安としては以下の通りです。
制御リニューアル(部分改修)
制御盤や巻上機など主要パーツのみ交換する工事で、1基あたり約500~700万円が相場。工期・費用を抑えつつ性能向上が図れます。
準撤去リニューアル(部分新調)
既存の一部構造(レールや枠など)は流用しつつ、かごや制御装置など主要部を新品に交換する工事で、1基あたり約1,200~1,700万円が目安です。費用・工期は中程度ですが、安全・快適性は大幅に向上します。
全撤去リニューアル(フル改修)
既存エレベーター設備をすべて撤去し、新しい機種一式にまるごと交換する工事で、1基あたり約1,500~2,000万円が一般的です。費用は最も高額ですが得られる効果(安全性・省エネ・デザイン刷新など)も最大になります。
上記は目安であり、実際の費用はエレベーターの定員・停止階数・建物高さ、採用機種のグレード、現場条件(搬入経路や足場の要否)などで増減します。
例えばタワーマンションで高速・大容量エレベーターを交換する場合、台数も多く工期も長期化するため、数千万円規模の予算を見込む必要があるでしょう。管理組合としては、複数社から見積もりを取得して費用の妥当性を比較精査することが重要です。
その際、撤去費・設備費・据付費・建築付帯工事費・諸経費など項目ごとに金額をチェックし、不必要な工事や過剰仕様がないか専門家の意見も聞きながら判断します。
助成金・補助金の活用
エレベーター更新には多額の費用がかかるため、国や自治体の補助制度を活用できる場合があります。国土交通省は近年、既存エレベーターの安全確保促進策として防災対策改修工事への補助制度を拡充しており、2024年度予算では民間建築物における「リスタート機能追加」「自動診断・仮復旧運転機能追加」工事も補助対象に加えました。ただし国の補助を受けるには、そのエレベーターが所在する自治体で補助制度が整備されている必要があります。そのため、まずはマンション所在地の自治体にエレベーター改修補助の有無を問い合わせることが肝心です。
資金計画との調整
エレベーター更新費用は修繕積立金から支出するのが一般的ですが、高額なため長期修繕計画で計画的に積み立てておく必要があります。積立金が不足する場合、一時金徴収や長期修繕貸付制度の利用を検討することになります。国交省のガイドラインでは長期修繕計画期間を少なくとも30年以上とし、その中でエレベーター更新を含む大規模修繕工事を複数回組み込むことが推奨されています。エレベーター更新は特に費用インパクトが大きいため、直前になって資金不足とならないよう定期的に積立金計画を見直しましょう(必要に応じて専門コンサルタントの診断を受けることも有効です)。
メーカー以外の業者への依頼は可能か?実際の選定ポイント
エレベーターの保守・改修工事は、従来は設置メーカー系の子会社が一手に担うのが一般的でした。しかし近年は「独立系」と呼ばれるメーカー以外のエレベーター保守会社も増えており、管理組合が依頼先の選択肢を持てる時代になっています。
ここではメーカー系・独立系の違いや、業者選定時のポイントを解説します。
メーカー系 vs 独立系の違い
エレベーターの保守やリニューアルには、大きく分けてメーカー系と独立系があります。
メーカー系
三菱・日立・東芝・フジテック・オーチスなど、エレベーターメーカーや系列会社が提供するサービス
独立系
特定メーカーに属さず、複数メーカーのエレベーターを管理・改修できる専門業者
従来、高層マンションや特殊構造のエレベーターは「設置メーカーでしか対応できない」と考えられることが多かったですが、最近では独立系業者でも対応できるケースが増えています。
独立系の強み
- 複数メーカーの機種をまとめて管理できる
- 費用面で比較的割安
- 標準的な中低層から、高層マンションの一部特殊機種まで対応可能な業者も存在
例えば、15階以上のタワーマンションや、斜行式・リニア式の特殊構造、AI群管理運転を導入した高層ビルのエレベーターでも、対応実績がある独立系業者があります。
設置メーカーに限らず、まずはスマート修繕にお問い合わせください。
業者選定のポイント
エレベーター更新は高額なプロジェクトゆえ、複数社からの相見積もり取得が鉄則です。メーカー系1社の提案だけで即決するのではなく、独立系も含め複数の有資格業者に共通仕様で見積もりを依頼し、提案内容と金額を比較検討しましょう。
この際、各社で工事範囲やアフターサービス内容に違いがあります。例えばメーカー系は最新純正部品への全交換プランを提示してくるかもしれませんし、独立系は費用を抑えるため流用できる部分は残すプランを提案するかもしれません。そこで管理組合側で仕様書を作成し、「ここまでは更新する」「ここは既存利用する」といった要件を統一して各社に見積もりを依頼すると、公平な比較がしやすくなります。見積項目の漏れや条件違いによる誤解も防げるでしょう。
また業者の実績と技術力も重要な選定基準です。タワーマンションのエレベーター更新実績が豊富か、対象メーカーの機種に精通しているか、技術資格者(昇降機検査資格者や施工管理技士など)が配置されるか、といった点を確認します。独立系の場合、その機種に対応できる専用部品の調達ルートを持っているかもポイントです。近年はメーカー間の垣根が下がり、独立系でも主要部品(制御盤や巻上機など)は信頼性の高い互換品を提供できるケースもあります。
最後に更新後のメンテナンス契約についても検討しましょう。リニューアル工事後は新設備の保守契約を結ぶ必要がありますが、その年間保守料金も業者によって異なります。初期工事費だけでなく長期的なランニングコストも含めて総合判断することが大切です。
メーカー系は純正サービスゆえやや割高でも安心感があり、独立系は安価でも対応範囲を限定したPOG契約の場合があるなど差があります。更新工事と保守契約を同時に提案させ、トータルコストで比較すると良いでしょう。
以上を踏まえ、管理組合としては「信頼できる業者を選ぶ」ことが成功の鍵です。豊富な実績・技術力、見積内容の透明性、レスポンスの良さ、アフターサービス体制などを総合的に評価し、必要に応じて専門コンサルタントの支援も得ながら適切なパートナーを選定してください。
まとめ
タワーマンションのエレベーターは、住民の生活を支える重要な設備であり、安全性・快適性・信頼性を維持することは管理組合の重要な責務です。複数台の群管理や非常用エレベーター、高速・大容量仕様など特殊な設備が多く、老朽化すると故障リスクや安全性低下につながります。一般には設置後25~30年が更新の目安で、古い機種を使い続けることは住民の安心や建物価値の低下にもつながります。幸いにも国や自治体の支援制度も整いつつあり、これらを活用しながら計画的にリニューアルを進めることが大切です。
エレベーターのリニューアルは大きな決断ですが、最新技術への更新には多くのメリットがあります。安全装置や防災機能の強化、AI制御による待ち時間短縮、非接触ボタンやバリアフリー化、省エネ性能向上など、得られる付加価値は非常に大きいです。
管理組合の理事や修繕委員の方々には、まず現状設備の把握から始め、専門家や実績のある業者に相談することをおすすめします。相談を通じて、安心・安全で快適なエレベーター環境を次の世代まで維持する一歩を踏み出すことができます。こうした取り組みが、タワーマンション全体の資産価値や住み心地の向上にもつながるはずです。
修繕工事の見積支援サービス「スマート修繕」
- 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
- 事業者からのマーケティング費で運営されており、見積支援サービスについては最後まで無料でご利用可能です。大手ゼネコン系を含む紹介事業者は登録審査済でサービス独自の工事完成保証がついているため、安心してご利用いただけます。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者

坂本 高信
独立系最大手のエレベーター会社にて、営業現場および管理職として18年間従事。リニューアル、保守、修繕といった複数の部署で実務経験を積み、営業部長などの管理職も歴任。多様な案件を通じて、エレベーターの運用と維持に関する専門知識を培う。その豊富な現場経験を活かし、エレベーターリニューアルに関する実用的かつ現実的な視点から記事を監修。
24時間対応通話料・相談料 無料


.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)


