マンション管理組合の役員を断るには?義務の有無と上手な断り方
更新日:2025年09月29日(月)
マンションにお住まいの方なら、「次はあなたが管理組合の役員です」と言われて戸惑った経験があるかもしれません。マンション管理組合の役員とは、理事長や会計などマンション運営の中心となる役職のことです。しかし「忙しくてとても無理」「高齢で負担が大きい」など、様々な事情で役員就任を断りたい方も多いでしょう。 本記事では、マンション管理組合の役員を断る方法について、以下のポイントを解説します。 ・マンション管理組合の役員に就任する義務はあるのか?法的根拠は? ・どんな理由なら役員就任を断れるのか(正当な理由の例) ・役員を断る際の上手な伝え方や例文(トラブルを避けるコツ) ・管理規約に定められた役員を回避する方法(輪番制・辞退届・代理人・協力金など) ・どうしても断れなかった場合の対処法や負担を減らす工夫 ・高齢者やITに不慣れな人にも分かりやすく伝える工夫 実用的なアドバイスを心がけました。マンションの皆さんが円満に問題を解決し、安心して快適な暮らしを続けられるよう、ぜひ参考にしてください。
- 本記事のポイント
- 役員就任は法的義務ではないことを理解できる。
- 断るときに使える正当な理由と誠意ある伝え方がわかる。
- 規約を活用した回避策や負担を減らす工夫などが学べる。
マンション管理組合の役員に就任する義務はある?
まず気になるのは、「役員になるのは義務なのか?」という点でしょう。結論から言えば、管理組合の役員就任は法的な義務ではありません。マンションの区分所有者(部屋の持ち主)は区分所有法という法律で管理組合への加入自体は義務付けられていますが、役員になることまでは法律にも標準管理規約にも明記されていません。
区分所有法第25条でも「集会(総会)の決議によって管理者(役員)を選任できる」とあるだけで、「必ず選ばれた人は引き受けなければならない」とは書かれていません。つまり、役員をお願いされても本人が承諾しなければ就任は成立しないというのが法律上の考え方です。
また、「それなら規約で役員を強制すればいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、たとえマンションの管理規約に「全員順番で役員を義務とする」と書いてあっても、本人の意思に反して就任を強制する規定は無効とされています。民法90条の公序良俗(社会秩序や倫理に反する行為の禁止)に反するためです。実際、管理組合役員就任義務を定めても法的効力はなく、罰則もありません。ですから、「役員になりたくないけど法律違反になるのでは…」と心配する必要はありません。
しかし、ここで安心して終わりではありません。法律上は断れるからといって簡単に拒否することには注意が必要です。管理組合はあくまで住民全員の協力で運営するものですから、正当な理由なく断れば周囲の反感を買う可能性があります。みんなが「義務じゃないから」と次々断ってしまえば、管理組合の運営自体が成り立たなくなってしまいます。そうなるとマンションの清掃や修繕が滞り、住環境が悪化し、ひいては大切なマンションの資産価値も下がってしまうかもしれません。法律的に罰則は無くても、円滑なマンション生活へ影響が出る恐れがあることは心に留めておきましょう。
ポイント
役員就任に法的義務はありませんが、「断る権利」があるからといって軽率に拒否すると、人間関係の悪化やマンション全体への悪影響につながりかねません。権利の主張とともに、共同生活の責任も考えるバランスが大切です。
どんな理由なら役員就任を断れる?正当な理由の例
では、どのような場合に「役員はできません」と断ることが正当と認められやすいのでしょうか。基本的には、「やむを得ない事情」がある場合に限り、周囲も納得してくれるでしょう。以下に役員を辞退できる主な理由の例を挙げます。
健康上の問題
自分自身の病気や心身の不調、または家族の介護・看病などがある場合です。たとえば「持病の治療で定期的な通院が必要」「要介護の親の世話があり時間が取れない」といった状況なら、役員の仕事が大きな負担になるため周囲も理解しやすいでしょう。このような場合は遠慮なく事情を説明すべきです。ただし、同じように介護や病気の方が他にも多いと「お互い様」の状況になるため、「自分は特別に大変なんだ」という客観的な理由を具体的に示すことが必要になります。
仕事が多忙で時間が取れない
仕事との両立が極めて困難なケースです。ただ単に「仕事が忙しいので…」というだけでは理由として弱く、他の住民も「皆仕事くらいしている」と思うかもしれません。しかし例えば「出張が続いて月の半分以上不在にしている」「夜勤があり理事会(日中や夜の会議)にほとんど出席できない」など、具体的に勤務形態やスケジュール上どうしても無理な事情を説明すれば、理解を得られる可能性があります。「勤務状況が変われば引き受ける意思はある」と付け加えるのも誠意ある対応です。
小さな子どもの子育て中
乳幼児や手のかかるお子さんがいる家庭では、急な発熱への対応や保育園の送迎などで決まった会議に参加するのが難しい場合があります。共働きで子育て中の方にとって、夜間の理事会出席や週末の作業は負担が大きいでしょう。この場合も「子どもが成長したら必ず引き受けますので、今回は順番を延期させてください」といった形で、将来的には協力する意思を示すことが大切です。ただし、周囲からは「家族で協力すれば何とかなるのでは?」と思われることもあるため、協力体制を検討した上でそれでも難しい事情を説明しましょう。
高齢で負担が大きい
高齢の方の場合、体力面や健康面で役員業務の遂行が難しいケースがあります。例えば、急な体調変化や通院頻度が高く、継続的に役員の責務を果たすのが難しいといった状況です。ただし、「自分は高齢だから無理だ」という一言だけでは周囲も納得しづらい場合があります。なぜならマンション全体が高齢化している場合、自分だけが特別ではないことも多いからです。そのため、具体的に何がどれだけ困難なのかを伝える工夫が必要です。たとえば「耳が遠く、会議の場で多数の人の発言が聞き取れない」「腰痛がひどく長時間座れない」等、年齢ゆえに生じている具体的な支障を説明すると理解されやすくなります。場合によっては診断書の提出を求める組合もありますが、書面があれば周囲もより納得してくれるでしょう。
長期不在にする予定がある
仕事の海外赴任や実家への長期帰省など、これから数ヶ月~一年以上家を空ける予定がある場合も正当な辞退理由になりえます。「○月から半年間海外出張で不在にする」というように、物理的に参加できないことが明らかな場合です。このようなケースでは他の方にお願いせざるを得ないでしょう。ただし、一時的な不在でリモート参加など代替手段が取れる場合は完全な辞退が認められないこともあります。
以上のようなやむを得ない事情があれば、管理組合側も柔軟に対応せざるを得ません。一方で、次のような理由は「正当な理由」とはみなされにくいので注意しましょう。
単に面倒だから・関心がないから
これは本音として多いかもしれませんが、「面倒だからやりたくない」では協調性に欠ける印象を与えてしまいます。他の人に押し付けて自分は楽をしたいだけと思われ、強い反発を招くでしょう。ご近所づきあいの上でもマイナスですので、決して表向きの理由にはしないほうが賢明です。
付き合いが苦手だから
これも実際には多い理由かもしれませんが、マンションで共同生活を送る以上、最低限のコミュニティ参加は避けられません。「人前で話すのが嫌」「近所の揉め事に関わりたくない」といった理由で断ると、「権利(快適な生活)は主張するのに義務(管理への協力)は果たさない人」という印象を持たれてしまいます。結果的に日常のご近所関係がぎくしゃくするリスクもあります。
嘘の理由や曖昧な言い訳
「引っ越すかもしれないので…」など確定していない話で断ったり、事実と異なる嘘の理由をでっち上げるのもNGです。万一嘘だと露見すれば信頼を損ない、今後本当に困ったときに誰も助けてくれなくなるかもしれません。曖昧な理由でごまかすより、たとえ言いにくい事情でも正直に説明する方が誠実です。
ポイント
役員就任を断るなら、誰もが納得できる「正当な理由」が不可欠です。健康・仕事・介護などやむを得ない事情は遠慮なく伝えましょう。一方、「忙しい」「面倒だ」といった主観的な理由だけでは周囲も引き下がってくれません。具体的かつ客観的に、「なぜ役員が務まらないのか」を説明することが大切です。
役員就任を断るときの伝え方と例文~円満に辞退するコツ~
断る理由の用意ができたら、次に大事なのはその伝え方です。ただ「できませんから!」と突っぱねるのはトラブルの元。角が立たない断り方を心掛けましょう。ここでは、役員就任を上手に辞退するための具体的な方法や例文を紹介します。
丁寧かつ誠意ある態度で伝える
役員を断る際は、申し訳ないという気持ちと協力する意思があることを示すのが基本です。決して高圧的だったり投げやりな態度にならないようにしましょう。具体的には、以下のような点に気をつけます。
冒頭で謝意を示す
「お声がけいただきありがとうございます」「ご期待に沿えず申し訳ありません」など、まず礼儀正しく感謝とお詫びを述べます。いきなり否定から入ると反感を買いやすいので注意しましょう。
理由は具体的に説明する
上記で整理した正当な理由がある場合は、できるだけ具体的な事情を伝えます。例えば仕事なら「月に○回の出張があり○○委員会に出席できない恐れがある」、健康なら「医師から○週間に一度安静が必要と言われている」など、詳細に述べるほど相手も理解しやすくなります。抽象的に「忙しいので…」ではなく、「どう両立が難しいのか」を説明することが大切です。言いにくいプライベートな事情でも、「なぜできないのか」を誠実に話せば多くの方は受け止めてくれるでしょう。
今後の協力姿勢も示す
今回断る代わりに将来的には協力する意志があることを伝えるのも効果的です。例えば「来年なら子どもが少し手が離れるのでお引き受けできます」とか、「仕事が落ち着いたら必ず参加します」といった一言があると、「自分だけ逃げるつもりではない」と示せます。難しい場合でも「書類作成など在宅でできる範囲ならお手伝いします」など代替案を出すと印象が違います。
可能なら代役を提案する
自分の代わりに役員を引き受けてくれそうな人に心当たりがあれば、自分で打診しておいて紹介するのも一つの方法です。管理組合としては「誰かが役員をやってくれること」が解決になりますから、代わりの人を提示できればスムーズに了承が得られやすくなります。もちろん代役探しは簡単ではありませんが、日頃からご近所同士助け合う関係を築いておけば非常時に頼みやすくなるでしょう。
以上を踏まえて、断るときの話し方の一例を示します。
例文(断りの伝え方)
「役員のお話をいただき、ありがとうございます。せっかくのお申し出で大変心苦しいのですが、実は現在○○の事情で時間を十分に取ることが難しい状況です。このまま役員をお引き受けしても、皆様にご迷惑をおかけしてしまう恐れがあります。誠に勝手を申しますが、今回は役員就任を辞退させていただけないでしょうか。もちろんマンション運営に非協力的なつもりはなく、可能な範囲で協力したいと考えております。たとえば書類の作成や簡単な作業でしたらお手伝いいたしますし、来年度には状況が落ち着く見込みですので、その際は改めてお役に立ちたいと思っています。どうかご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。」
上記は一例ですが、ポイントは低姿勢で丁寧に、そして「できない理由」と「代替案や今後の協力意向」をセットで伝えることです。書面で提出する場合(役員辞退届など)も、同様の内容を簡潔な文章でまとめるとよいでしょう。
例えば、
役員辞退届の文例
「この度、〇〇マンション管理組合〇年度役員就任の件につきまして、家庭の事情(要介護者の介護)により役員業務を全うすることが困難な状況です。誠に恐縮ではございますが、今年度の役員就任を辞退させていただきたくお願い申し上げます。なお、来年度以降であれば状況も落ち着く見込みでございます。その際には微力ながら管理組合運営に協力させていただく所存です。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。」
このように書面にすると、自分の気持ちを整理して正確に伝えることができます。マンションによっては辞退理由を申請する書類を用意しているところもありますので、指示があれば所定の手続きに従いましょう。
トラブル回避のための配慮ポイント
断る際には周囲への配慮も忘れずに。以下の点に気をつければ、より円満に辞退できるでしょう。
唐突に拒絶しない
ある日突然何も言わず「私はやりません!」と突っぱねるのは避けましょう。それまでの話し合いの流れを無視して急に拒否すると、相手も感情的になってしまいます。迷っている場合も「実は○○な事情で迷っています」と早めに相談しておくと良いです。断るにしても根回しひとつで印象は大きく変わります。
嘘や言い訳はしない
前述の通り、不確かな引越し予定など嘘の理由でごまかすのは逆効果です。仮にそれで一度逃れても、後で嘘とわかれば信用を失います。特にご近所では噂も広がりやすいので、誠意を持って本当の理由を伝える方が長い目で見て得策です。
一度引き受けてすぐ辞めない
「とりあえず引き受けて、後から辞任しちゃおう」というのも良くありません。役員選出には手間がかかりますし、途中辞任は残されたメンバーに大きな負担と迷惑をかけます。どうしても無理なら最初から辞退する方がまだ誠実です。一度承諾した以上は任期を全うする覚悟で臨みましょう。
感謝の気持ちを示す
自分は断るにせよ、引き受けてくれる他の方々への感謝や労いを伝えると印象が良くなります。「○○さんが理事長をやってくださって助かります」など、運営に協力している人をねぎらう言葉をかければ、「何も協力しない人」という悪感情も和らぐでしょう。
ポイント
断り方ひとつでその後の人間関係は大きく変わります。十分な理由説明と低姿勢な対応で相手の理解を得ましょう。決して感情的にならず、最後まで円滑なコミュニケーションを心がけることが大切です。
管理規約で定める役員回避策:輪番制・辞退制度・代理人・協力金
各マンションの管理規約や運用ルールには、役員選出や辞退に関する取り決めが存在する場合があります。これらを知っておくと、正式な手続きで役員を回避できる可能性があります。代表的な回避策を見てみましょう。
輪番制(順番制)の仕組み
多くのマンションでは、「輪番制」という方式で役員を選出しています。輪番制とは、部屋番号や棟ごとにグループ分けし、住人全員が順番に役員を務める方法です。公平に負担を分かち合うメリットがありますが、順番が来た人は基本的に断れない前提で成り立っているため、簡単に辞退が続くと制度自体が破綻するという側面もあります。
輪番制では通常、1年間など任期を区切って毎年全役員を交代します。ただ最近では継続性の欠如というデメリットを補うため、任期2年で半数ずつ交代する方式を採用する組合も増えています。
輪番制での辞退
規約上は義務でなくとも、輪番制を皆が守らないと人手不足で運営が回らなくなるため、よほどの事由がない限り断るのは得策ではないとされています。しかし前述のような正当理由がある場合、総会や理事会で事情を説明して了承を得れば辞退が認められるケースもあります。その際、具体的な理由説明が求められる点は個人間で断る場合と同じです。輪番制の場合、一人が辞退すると次の人に順番が回るだけですが、断る人が続出すると現行役員の任期延長など問題が生じるため、組合としても安易な辞退は認めにくい立場であることは理解しておきましょう。
役員の辞退届や免除規定
マンションによっては管理規約や細則で「役員辞退の手続き」が定められている場合もあります。例えば、一定の年齢以上の高齢者は役員を免除すると規約に盛り込まれていたり、役員を辞退したい場合は理事会宛てに辞退届を提出するよう定めているケースがあります。ご自分のマンションの規約を一度確認してみましょう。
一般的に標準管理規約ではそこまで詳細な免除規定はありませんが、独自ルールで「役員の再任は○年以内にしない(連続で役員をしなくてよい)」や「○歳以上の組合員には役員をお願いしない」といった取り決めをしている管理組合もあります。こうした決まりがあるなら遠慮せず活用しましょう。
また、辞退届の提出は、単に口頭で断るより正式な手段として有効です。書面で「○○の事情により辞退したい」と申し出れば、理事会や総会でそれが議題に上がり、了承される可能性が高まります。提出先や形式は規約や理事会に確認し、適切な手続きを踏みましょう。
代理人の活用(家族など)
どうしても本人が役員を務められない場合、理事の役割を補助する形で家族が関与する方法が考えられます。例えば、高齢の親の代わりに子供(同居している成人の子)が理事会に同席し説明を補足したり、単身赴任中の夫の代わりに妻が情報を共有するといった協力体制です。
ただし、管理組合の理事は原則として総会で正式に選任される必要があり、代理で理事を務めることは認められていないのが一般的です。したがって、代理出席や代理人による職務遂行を前提とした運用を行うには、管理規約の見直しが必要となります。
例えば、「1親等以内の家族(同居・別居を問わず)を理事として選任できる」など、選任要件を緩和するための規約改正を行えば、実態に即した柔軟な運営が可能になります。これは高齢者世帯や事情のある家庭にとって負担軽減となるだけでなく、役員なり手不足の対策にもなります。
なお、規約改正を行わずに代理的な立場の家族が理事会に関与することは、あくまでサポート役としての「同席」や「助言」にとどめるべきであり、正式な理事の職務・権限を代行することはできません。
家族による補助や代理的支援は、必要に応じて柔軟に認められる場合もありますが、組合内での合意形成とルールの明確化が不可欠です。全体としての意思決定に支障が出ないよう、一時的・限定的な措置として活用し、長期的には制度の整備(規約改正)を検討するのが望ましいでしょう。
協力金(辞退ペナルティ)制度
最近増えているのが、役員を辞退する代わりに「協力金」などの名目で費用を負担する制度です。一部のマンションでは、「役員を断りたい場合は○万円を支払うこと」と規約に定め、実際に徴収している例もあります。これは、役員を辞退する人にはマンション運営の手間を他の人に任せる分だけ金銭で補ってもらおうという考え方です。
協力金の相場
金額はマンションによって様々ですが、一般的には月額数千円程度で設定されている場合が多いようです。例えば「月5,000円を2年間一括払い(計12万円)」といったケースがあります。この程度の負担であれば、管理規約に明記することで徴収することは可能とされています。逆にあまり高額な協力金だと、「特定の組合員に過度の負担を強いる」ことになり民法上問題になるため、その場合は対象者個別の同意が必要になります。
協力金を払えば断ってOK?
お金を払えば堂々と断れるのかというと、考え方は難しいところです。協力金制度は一見ペナルティのようですが、裏を返せば「お金で解決できるなら役員やらなくてもいい」という風潮になる恐れもあります。そのマンションで正式に決まったルールである以上従う必要はありますが、あまり「お金を払うから自分はノータッチでいいでしょ」という姿勢が強いと他の住民の心証は悪くなるでしょう。実際、役員を引き受けた人から見ると「お金で逃れられて不公平だ」と感じることもあり、住民間の不満やトラブルにつながりかねません。協力金制度を利用する場合でも、あくまでやむを得ない事情で辞退する人の救済措置と捉え、胸を張って「金払ったんだから文句ないでしょ」という態度は避けたいものです。
その他の回避策や緩和措置
上記以外にも、管理組合側で工夫している回避策があります。
早めの周知と募集
輪番制であっても、「来年度は〇号室の方が理事長候補です」と早めにアナウンスしたり、立候補や推薦を併用することで「どうしても無理な人は他の人が補う」体制を整える組合もあります。事前に順番や理由説明の場を設けることで、突発的な辞退を減らす狙いです。万一断る場合も、理事会に出席して直接理由を説明することを求めるなど、安易な辞退を抑制する工夫をしている所もあります。
任期や役職の見直し
「1年くらいなら…」と引き受けやすくするために、任期を1年に短縮する組合もあります。ただし任期が短いと継続性が損なわれやすいため、前述の半数改選と組み合わせるなど工夫が必要です。また、「副理事長は次期理事長に内定」など順番が読みやすいようにするケースや、報酬を支給してモチベーションを上げる組合もあります(報酬は出ても月数千~1万円程度が多いです)。
リモート参加の導入
最近では、理事会をオンライン会議で行えるようにするマンションも増えています。遠隔地に住んでいる区分所有者(例えば別荘的リゾートマンションのオーナーなど)でも、インターネット経由で理事会に参加可能にすることで役員を引き受けやすくする狙いがあります。Zoomなどのビデオ会議や電話会議を活用すれば、忙しい人も移動時間なく参加でき、高齢で外出が難しい人も自宅から出席できます。ただしIT環境の整備やセキュリティ面の検討は必要です。
外部専門家の活用
マンション管理士など外部の専門家に一部業務を委託する方法もあります。いわゆる「第三者管理方式」と呼ばれるもので、理事長や理事会そのものをプロに任せてしまうという大胆な仕組みです。これはマンション管理士などの専門家が理事長代理として運営する形で、区分所有者自身は意思決定だけ行い日常業務は専門家が処理します。極端な言い方をすれば、お金はかかるが役員の負担は劇的に減る(ほぼ無くなる)方法です。
近年、高齢化や担い手不足が深刻な組合では選択肢として検討が進んでいます。デメリットはやはり費用負担が増えること(専門家への委託料で管理費が月5~10万円以上アップする例も)や、住民の管理参加意識が下がってしまう懸念です。しかし背に腹は代えられない場合、最後の手段として第三者管理方式を導入するケースも出てきています。
ポイント
管理規約や組合の取り決めを確認し、正式なルールに沿った辞退手段がないか探りましょう。輪番制でどうしても難しい場合は、規約変更や専門家活用など抜本的な解決策を提案することも可能です。マンション全体の問題として役員負担を減らす工夫を考えることも大切です。
どうしても断れなかった場合の対処法・負担を減らす工夫
事情があって断りたいのに、「順番だからお願い」と押し切られたり、代わりが見つからず結局引き受けざるを得ないケースもあるでしょう。そのように「断れなかった…」場合でも落ち込む必要はありません。負担を軽減しながら役員を務める工夫はいくつかあります。
周囲に自分の状況を理解してもらう
就任することになったとしても、最初に「自分にできること・できないこと」をはっきり伝えておくことが重要です。例えば、「平日の夜は仕事で参加できないが、日曜なら可能」とか、「書類の作成は自宅で引き受けるが、人前での司会進行は難しい」などです。これを最初に理事長や他の役員に共有しておけば、役割分担の段階で配慮してもらえる可能性があります。無理をして全部抱え込むと結局途中で務まらなくなるので、自分の条件や限界を正直に伝えて協力を仰ぎましょう。
管理会社やプロの力を借りる
マンションには通常管理会社が関与しています。管理会社は事務手続きや会計処理など専門的な業務をサポートしてくれる存在です。役員の負担を減らすために管理会社を積極的に活用しましょう。例えば、理事会の案内文作成や会計報告書の作成などは管理会社担当者にお願いできることもあります。特に会計理事の業務は管理会社へ委託してしまっている組合も多く、専門知識やPCスキルがなくても回せる仕組みが整っている場合もあります。困ったときは一人で抱え込まず、管理会社の担当者に相談してみてください。
また、近年はマンション管理士など外部専門家を部分的に雇うことも選択肢にあります。例えば月に一度マンション管理士に理事会運営を指導・補助してもらう契約をしている組合もあります。費用はかかりますが、その分議事録作成や議案の整理など負担が軽減されます。もし自分が理事長など重い役職に就いた場合は、組合費で専門家サポートを検討する提案をしてみてもよいでしょう。
仲間と協力し合う
役員を一人で抱え込まず、他の役員や有志メンバーと協力しましょう。例えば理事会の出欠が厳しいときは副理事長や他の理事に代理で議事を進めてもらう、議案作成が難しければ過去の議事録を詳しい人に教えてもらう、掲示物作りが苦手なら得意な住民に手伝ってもらうなど、助け合いの姿勢が大切です。マンションによっては「役員OB」の有志グループがいて、現役役員を陰ながら支援してくれるところもあります。役員経験者に「分からないので教えてください」と尋ねれば、多くの場合親切に教えてくれるでしょう。人に頼ることをためらわないでください。共同住宅なのですから、お互い様の精神で助けを借りるのは悪いことではありません。
ITやツールを活用する
もしITに抵抗がなければ、便利なアプリやツールを使って業務を効率化するのも手です。例えば管理組合向けのスマホアプリで、収支管理や帳簿作成を自動化してくれるものがあります。回覧板もアプリ上で回せたり、オンラインで決議を取れる仕組みが登場しています。また無料のクラウドサービスを使って理事間でスケジュール共有を行ったり、チャットで簡易連絡を済ませれば、毎回集まる手間が減ります。最初は慣れなくても、一度覚えれば時間短縮になり心的負担も軽くなるでしょう。ただし高齢の理事がいる場合などは無理にIT化を推し進めず、サポート体制を整えてください。
発想を転換する
どうしても断れず役員になったなら、ポジティブに捉えてみるのも一つです。役員を経験するとマンション運営の裏側が分かり、資産価値を守る知識が身につきます。自分の提案次第で建物が良くなる楽しさもあります。報酬はほぼ無いに等しいボランティアですが、その代わり自分たちの暮らしをより良くするやりがいがあります。マンション全体を把握するので、防災時などいざという時にも役立つかもしれません。気乗りしない役回りでも、せっかくなら前向きに取り組んで得るものを得ようという発想に切り替えれば、精神的な負担は軽くなるでしょう。
ポイント
断れず役員になった場合も無理しすぎないことが肝心です。周囲に自分の状況を共有し、協力を仰ぎつつ、便利な仕組みも活用してみましょう。マンションの管理は一人で背負うものではなくチームで行うものです。抱え込まず助け合うことで、乗り切ることができます。
高齢者やITが苦手な人への配慮と伝え方
マンションには高齢の方や、パソコン・スマホが苦手な方も多くいらっしゃいます。そのような方々にとって役員の仕事は特に不安に感じられるでしょう。また、役員の話し合いや情報共有の際にも、専門用語やIT用語が飛び交うと理解が追いつかない場合があります。ここでは、高齢者やITに詳しくない人にもわかりやすく伝える工夫について考えてみます。
難しい言葉はかみ砕いて説明する
管理組合の議論では「長期修繕計画」「管理規約改正」「インスペクション」といった専門的な言葉が出がちです。ITが苦手な人には「オンライン総会」「クラウド共有」などの用語もピンとこないかもしれません。大切なのは、難しい言葉を使いっぱなしにせず噛み砕いて説明することです。例えば、「長期修繕計画(将来の大規模修繕の予定表)」や「オンライン総会(インターネットを通じて行う総会)」というように、カッコ書きで補足したり、図を用いて視覚的に説明すると理解してもらいやすくなります。
特に高齢者には、一度に多くを詰め込まずゆっくり丁寧に話すことも大事です。早口で専門用語を並べられると萎縮してしまいます。相手の表情を見ながら、疑問があればその都度説明を補うよう心がけましょう。
紙の資料や掲示を活用する
ITに不慣れな方は、電子メールやチャットで連絡されても見落としたりうまく返信できなかったりします。そういう場合は無理にデジタルに頼らず、紙の資料や掲示板でフォローするのが親切です。理事会の議事録やお知らせは紙でポストに投函したり、エレベーター内の掲示板にも貼り出すなど、アナログな方法との併用を検討しましょう。
また、文書の字が小さいと読めない高齢者もいます。文字は大きめ、レイアウトも見やすく工夫します。箇条書きや図解を交えて、内容を直感的に伝えるのも良いでしょう。マンション内で回覧板文化が根強い場合は、電子化ばかり進めず回覧も並行して使うなど、移行期間を設けて段階的に慣れてもらう配慮も必要です。
ITサポート体制を作る
管理組合の中にITサポート役のような人を決めておくのも一案です。比較的若くパソコンに詳しい理事が一人いれば、その人が高齢理事の代わりにメール送受信を手伝ったり、オンライン会議の設定をフォローしたりできます。高齢の役員さんには、タブレット端末を貸与して使い方をマンツーマンで教える、といった取り組みをした例もあります。要は、得意な人が不得意な人を助ける仕組みづくりです。
昨今は自治体などでも高齢者向けのIT講習会が開かれていますから、マンション単位で勉強会を開くのも良いでしょう。管理会社にお願いして、理事会でのZoom練習会などを開催してもらったケースもあります。「難しいから」「わからないから」と最初から諦めず、サポートがあれば意外と使いこなせる方も多いものです。
高齢者には役割配分を工夫
役員の仕事には多岐にわたる内容があります。専門知識が必要なもの、体力がいるもの、逆に経験がものを言うものなど様々です。高齢でITが苦手な方には、例えばベテランの知恵を活かせるポジションについてもらうのも手です。書記や会計などはPCが必要ですが、監事(理事の仕事ぶりを監督する役)は会議で発言を聞いていれば務まりますし、副理事長も理事長補佐なのであまり細かな事務はありません。マンションによっては「ご高齢の方には監事に就いてもらい、若手が実務をする」という分担をしている例もあります。
つまり、その人の得意・不得意を考慮した役割配分を組合内で話し合うことです。皆が納得できれば、「○○さんはメールはできないけど経験豊富だから監事で」といった形で、無理なく参加してもらうことも可能でしょう。大切なのは、お互いを思いやる気持ちと工夫です。
ポイント
高齢者やITが苦手な人にも安心して参加してもらうため、専門用語を避け平易な表現で説明する、紙媒体も併用する、ITに詳しい人がサポートするなどの配慮が必要です。マンションは多様な世代が暮らす場ですから、誰も取り残さない情報共有と言い換えが求められます。親切な伝え方を心がければ、みんなで協力しやすい雰囲気が生まれるでしょう。
まとめ:無理せず協力し合い、住み良いマンションライフを
マンション管理組合の役員について、その義務の有無から断り方のポイント、そして実際の対応策まで詳しく見てきました。最後に要点を振り返ります。
・役員就任は法律上の義務ではなく、断ることも可能です。罰則もありません。しかし正当な理由なく拒否すれば人間関係が悪化する恐れがあるので注意。
・役員就任を断れる正当な理由には、主に健康問題、介護、仕事上の都合、子育て、多忙による長期不在、高齢による体力的困難などがあります。単なる「面倒」や「関心がない」では周囲は納得しません。誰が聞いても仕方ないと思える事情を具体的に示すことが大切です。
・断るときは伝え方が肝心。丁寧で誠意ある態度で、具体的な理由と代替案(将来的な協力意思など)をセットで伝えましょう。「申し訳ない」という姿勢と「どうしても無理な事情」の説明がポイントです。例文を参考に、角が立たない断り方を心がけてください。
・管理規約や組合ルールを確認し、輪番制や辞退届、代理人や協力金制度など公式な回避策を活用しましょう。協力金制度がある場合でも乱用は禁物です。規約変更や第三者管理方式など、組合全体で負担軽減を図る選択肢もあります。
・どうしても断れず引き受けた場合でも、一人で抱え込む必要はありません。自分の出来ること・出来ないことを周知し、管理会社や他の役員の力を借り、ITツールも活用して負担を減らしましょう。マンション管理はチーム戦です。助け合いの心で取り組めば、きっと乗り越えられます。
・高齢者やITが苦手な人への配慮も忘れずに。難しい話はやさしい言葉に置き換え、紙の資料やサポート役を活用して、誰もが理解し参加できるよう工夫しましょう。思いやりある伝え方がコミュニティの結束を強めます。
マンションは多くの人が共同で暮らす場です。役員の仕事は確かに大変ですが、みんなで協力して運営することで快適な住環境と資産価値が守られます。無理なときは遠慮せず断って構いません。ただしその際はここで紹介した方法で円満に辞退し、代わりにまた別の形でマンションに貢献できれば理想的です。反対に引き受けた場合も、決して孤軍奮闘せず周囲に頼りながら進めましょう。
最後に、「住めば都」という言葉があります。住み慣れればどんな場所でも良い所に思えてくるという意味ですが、その裏には住民同士の支え合いがあってこそ「都(理想の住まい)」になるのだと思います。マンションも同じです。役員問題は悩ましいですが、皆で知恵を出し合い助け合うことで、きっと解決策が見つかります。本記事の内容が、そのヒントとなれば幸いです。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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