キュービクルの撤去費用と内訳:工事手順・注意点ガイド
更新日:2025年08月25日(月)
マンションやビルに設置されている高圧受電設備(キュービクル)を撤去する「キュービクル廃止工事」には、高額な費用と専門的な手続きが必要です。 本記事では、撤去にかかる費用の目安や内訳、金額を左右する要因、工事の進め方、利用できる補助金制度までを解説します。また、高圧契約の解約やPCB含有機器の特別処分など、見落としやすい注意点も押さえています。
- 本記事のポイント
- キュービクル撤去に必要な費用構成とコスト変動の要因が明確にわかる。
- PCBやアスベストなど有害物処理や法令手続きの注意点を理解できる。
- 工事の進め方や見積比較、補助制度活用のコツを知り、安全かつ効率的に進められる。
キュービクルの撤去費用
キュービクルの撤去費用は小規模なものでも数十万円、大型設備なら数百万円規模になるのが一般的です。具体的な費用は設備の規模や状況によって大きく異なりますが、費用の内訳は大きく分けて以下の3つの項目に分類できます。
撤去工事費用
キュービクル本体の解体・取り外し作業や、敷地内から搬出するための作業にかかる費用です。電気工事士や作業員の人件費、現場監督や安全管理者の人件費、クレーン車・トラックなど重機車両の手配費用、養生や仮設足場・照明、安全柵・警備員といった安全対策費用などが含まれます。
例えば電気工事士の人件費は1日あたり約25,000~35,000円、クレーン付きトラック(ユニック車)なら1日あたり80,000~150,000円程度が相場とされています。現場の条件によって必要な人員・重機の稼働日数は変動し、小規模で屋外に設置されたキュービクルなら作業員3~4人とユニック車1台で1日程度(撤去工事費約20万円)で済むケースもありますが、大型工場の1,000kVA級キュービクルを地下室から搬出するような場合は人力中心の大がかりな作業が必要となり、数百万円規模の工事費になる可能性もあります。
廃材処理費用
撤去した設備の産業廃棄物処理にかかる費用です。キュービクルから出る主な廃棄物には金属くず、廃プラスチック類、ゴムくず、ガラス・コンクリート・陶磁器くず、廃油(絶縁油)などがあります。このうち鉄・銅などの金属くずは有価物として買い取ってもらえる可能性もありますが、それ以外の廃材は基本的に有償処分となり、許可を持つ産業廃棄物処理業者に委託して処分する必要があります。
処理費用はキュービクルの規模や重量に依存しますが、運搬費込みで少なくとも十数万円~数十万円程度は見込んでおくべきでしょう。絶縁油の抜き取り処理費用も含め、廃棄物の分量が増えるほど処分費も高額になります。また古い機器にPCBやアスベストを含む場合は「特別管理産業廃棄物」としてさらに厳重な処理が求められ、処理費用も飛躍的に高くなる点に注意が必要です。
その他の費用
上記の他に、撤去工事に付随して発生する諸経費もあります。たとえば電力会社との事前協議や契約変更・廃止の申請手続き、行政機関への各種届出作成費用、近隣対策費(事前周知や養生追加対応)、撤去後の基礎コンクリート処理費用などです。これらはケースによって必要性や金額が変わりますが、全体費用の約10~30%を付帯作業・諸経費として見込んでおくとよいでしょう。なお、高圧受電契約の解約そのものに電力会社への違約金等の費用は通常発生しません(契約後1年未満で解約する場合のみ、一部電力会社では基本料金相当額が割増精算されるケースがあります)。
キュービクルの撤去費用に影響する主な要因
キュービクル撤去費用は現場ごとに大きく異なります。
以下に主な費用変動要因をまとめます。
設置場所の条件
キュービクルが設置されている場所や周辺環境は費用に直結します。屋上や地下機械室など高所・狭所に設置されている場合、解体物の搬出にクレーン車やウインチ搬送など特別な手段が必要となり、その分の重機費・人件費が追加発生します。逆にトラック横付け可能な屋外平地にある場合は作業効率が良く、費用を抑えられます。また周囲の建物や道路状況によっては夜間作業や道路使用許可が必要になるケースもあり、これもコスト増要因です。
キュービクルの規模・容量
設備のサイズや容量(kVA)が大きいほど、解体に手間がかかり廃材量も増えるため費用が上がります。大型の変圧器や開閉器を含む受変電設備一式の撤去では、小型設備の撤去に比べて作業人数も日数も増え、運搬する産業廃棄物の重量も多くなるため、工事費・処分費ともに高額になります。実際、1000kVA級の大型キュービクル撤去では数百万円規模の費用になる可能性があります。
機器の構造・有害物質の有無
設備の製造年代や構造上の特性によっては、撤去時に特別な対応が必要です。例えば古いキュービクルで「ポリ塩化ビフェニル(PCB)」を含有した変圧器・コンデンサ類や、絶縁板などに「石綿(アスベスト)」を使用したものは、法令に従った専門的な処理が不可欠です。PCB含有機器は民間業者では処理できない場合もあり(高濃度PCBはJESCOという国の特殊会社での処理が必要)、別途長期間の計画と高額費用を要します。アスベスト含有部材も飛散防止養生や許可業者による除去が必要で、追加コストとなります。
契約形態・所有状況
キュービクルをリース契約で設置している場合、契約終了時に設備を原状回復・返却する義務があります。リース会社との契約内容によっては解約違約金や撤去費用の負担条件が定められていることがあるため、事前に契約書を確認しましょう。一方、自己所有の設備なら撤去判断はオーナー次第ですが、使わずに放置していると固定資産税の負担が続くほか、老朽化による漏電・火災リスクやテナント退去時の原状回復トラブルの原因にもなり得ます。不要になったキュービクルは責任を持って処分するのが原則です。
撤去後の電力供給形態
建物自体を解体・閉鎖するのでなければ、高圧受電設備を撤去した後に低圧電力への契約切替が必要になる場合があります。例えば小規模なビルでテナント減少により高圧契約をやめる場合、電力会社との協議で低圧契約(単相三線100/200Vや動力契約200Vなど)に変更し、新たにキュービクル無しで電気を引き込む工事が発生します。低圧への変更自体の手続き費用は基本かかりませんが、新たな受電設備(引込線や分電盤の設置)の工事費用が別途必要となり、これもトータルのコスト要因に含めて検討すべきです。
キュービクル撤去工事(廃止工事)の手続き・流れ
キュービクルの撤去にあたっては、単に設備を外すだけでなく契約上・法令上の所定の手続きを踏む必要があります。
ここでは一般的な撤去工事の流れを順を追って解説します。
PCB含有の有無確認(事前調査)
まず撤去予定のキュービクル内機器にPCB使用部品がないか確認します。製造年次やメーカー型式から推定するほか、確実には専門機関で油を採取分析して調査します。比較的古いキュービクルにはPCBが使われている可能性があり、PCB特別措置法により他者への譲渡・売却が禁じられているため事前検査が必須です。PCBが含まれている場合、処理方法が特殊になるため、撤去計画もそれに合わせたものにする必要があります。なお、PCB廃棄物は法律で2027年(令和9年)3月末までの全量処分が義務付けられており、未処分のまま放置すると罰則の対象となり得ます。
電力会社との協議・高圧契約解約
キュービクルを撤去して高圧受電をやめる際は、所轄の電力会社に対して高圧需給契約の廃止手続きを行います。撤去工事の日程に合わせて送電停止日を調整し、電力会社資産である引込線の撤去方法や電力量計(メーター)の取り外し手順も事前に打ち合わせます。契約廃止の申し込みは通常書面で行い、所定の「電気需給契約廃止届」を提出します(地域電力会社のWEBサイトからダウンロード可)。なお、低圧への契約変更を伴う場合は、同時に新たな契約申込み手続きも必要です。高圧契約の解約自体に料金は原則かかりませんが、契約期間にしばりがある場合は注意が必要です。
行政への工事届出等(必要に応じて)
キュービクルは設置時に電気事業法や消防法に基づく届出を行っているため、撤去(廃止)に際しても所管官庁への報告が求められる場合があります。たとえば受電容量が2,000kW以上の大規模設備では、着工の30日前までに経済産業大臣(担当: 産業保安監督部)への工事計画届出が必要です。また管轄の消防署にも、設備の廃止について事前相談し届出が必要か確認しておきます。所轄消防署長の判断で届出が求められるケースがあるため、消防法上の手続きを怠らないよう注意します。これら官公庁への手続きは、工事を依頼する電気工事業者が代行してくれることもあります。
電気工事業者の選定と工事計画の立案
信頼できる高圧対応の電気工事業者を選び、現地調査のうえ詳細な撤去計画を立てます。設備の規模・容量、設置場所、周辺環境(搬出経路やスペースの有無)などを踏まえて必要人員・重機や日程を算出し、作業工程を計画します。PCBやアスベストなど有害物質を含む場合は専門処理業者との連携スケジュールも考慮します。周辺テナントや近隣への影響(停電時間や騒音)にも配慮し、可能であれば夜間・休日での作業計画や養生対策も検討します。計画内容に基づき見積もりを取り、工事内容・処分内容が明確で内訳が詳細に示された見積もりかを確認しましょう。
受電停止・引込線の切り離し
撤去当日または直前に、電力会社の立ち合いのもと高圧の引込ケーブルをキュービクルから開放(切り離し)します。高圧側の開閉器を遮断後、ケーブルを絶縁処理して安全を確保した上で、電柱側または地中線の送配電網側で物理的に切断・撤去します。あわせて電力会社所有の計量用変成器(CT・PT)やメーター類も回収・撤去されます。これにより建物への高圧送電が停止し、キュービクルを電源から完全に分離できた状態で次の作業に移ります。
キュービクル本体の解体・撤去作業
電気工事業者によってキュービクル本体の解体作業を行います。キュービクル内部の高圧受電部・変圧器・開閉器・配電盤など各機器を取り外し、配線や母線を切り離します。大型の盤や変圧器は分割や油抜き処理を行い、設置箇所から安全に搬出できるサイズ・重量に解体します。設置場所によっては人力で運び出しやすい所まで台車等で移動させ、クレーン車で吊り上げて地上へ降ろすといった工程を踏むこともあります。最後にキュービクルの盤体(筐体)や架台、付帯する基礎コンクリートがあればそれも撤去します。作業中は第二種電気工事士以上の有資格者が指揮監督し、残留電荷の放電処理やアースの確保など安全措置を徹底します。
廃材の搬出・産業廃棄物処理
解体により生じた廃棄物を現場から搬出し、適切に処理します。鉄くずや銅などの金属類は業者による買取やリサイクルが可能な場合がありますが、その他の廃材(樹脂ケース類、陶器絶縁物、絶縁油など)は産業廃棄物として許可業者に委託処分します。処分委託にあたっては法定の産業廃棄物管理票(マニフェスト)を発行・交付し、処理完了まで適切に管理します。不法投棄や不適正処理が行われると排出事業者(依頼主)も法的責任を問われる可能性がありますので、許可取得済み業者への委託とマニフェストの保存・確認を確実に行いましょう。なお、PCB廃棄物を含む場合、専門処理ルートに沿って廃棄物を輸送・処理する必要があります(通常の産廃業者では扱えません)。
撤去完了後の届出・跡地処理
工事完了後、所轄の産業保安監督部に対しキュービクル廃止報告書を提出します。これにより当該設備に関する電気主任技術者選任や保安規程の届出内容も失効することになり、追加の手続きは不要です。また消防署への届出が必要と指示されていた場合は、消防法令に従って速やかに廃止届を提出します。建物を解体しないケースでは、撤去後の跡地も適切に処理します。基礎コンクリートを撤去・埋め戻すか、再利用しやすいよう整地しておくなど、次の利用計画に合わせて後片付けを行いましょう。
PCB含有キュービクルの処理と補助制度
キュービクルの変圧器やコンデンサーに「PCB(ポリ塩化ビフェニル)」が使われていた場合、その処分には通常以上に注意と費用が必要です。PCBは強い毒性と環境残留性を持つため使用・譲渡が厳しく規制されており、専門の処理施設でなければ無害化処理できません。
まずPCBを含むか判明した段階で、機器の濃度区分に応じた処分計画を立てます。高濃度PCB(濃度5,000ppm超)を含む変圧器・コンデンサ類はJESCO(ジェスコ)と呼ばれる国の全額出資特殊会社の処理施設にて無害化処理する必要があります。JESCOの処理施設は現在国内5箇所(北九州、大阪、豊田、東京(青梅)、北海道)にあり、事前に処理申込みを行い順番を待って搬入します。処理完了まで数年間待ちとなるケースもあるため計画的な対応が求められます。
一方、低濃度PCB(0.5~5,000ppm)機器であれば国から認定を受けた無害化処理業者や都道府県許可業者が民間処理できます。高濃度・低濃度のいずれにせよ、PCB含有機器を撤去する際は事前に自治体(環境局等)へPCB廃棄物に関する届出を行い、保管から搬出・処理まで厳格に管理する義務があります。
PCB廃棄物の処理費用は非常に高額です。国が定めたJESCOでの処理料金は全国一律で、例えば10kg超の機器で48.5万円、20kg超で55.9万円と重量に応じて上がっていき、大型キュービクルでは総重量が1,000kgを超えるため処理費用が約411.9万円にも達します。
費用負担を軽減するため、国はPCB処理に対する補助制度を設けています。「中小企業者等PCB廃棄物処理費用軽減制度」と呼ばれる制度で、対象要件を満たす場合に中小企業・法人は処理費用の70%、個人事業主は95%もの費用補助を受けることが可能です。該当する場合は利用しない手はなく、所定の申請を行いJESCOの審査を経て契約締結することで大幅な費用軽減が図れます。対象範囲や申請方法の詳細は環境省やJESCOの公式サイトで公表されていますので、自治体への届出時に合わせて確認・相談するとよいでしょう。
なお、PCBを含まない通常のキュービクル撤去には、このような国の補助金制度は基本的に存在しません。費用負担を抑える工夫としては中古市場での売却・部品リユースがあります。製造後年数が浅く状態の良いキュービクルであれば、中古電気設備として買い手がつき処分費不要どころか買取益が出る場合もあります。古い設備でも部品の一部(変圧器の鉄芯や銅線など)が再利用可能なら有価物として引き取ってもらえることがあります。撤去を検討する際は専門業者に機器の評価も相談し、リサイクル可能な部分は最大限活用することでコスト削減を図りましょう。
まとめと注意点
キュービクルの撤去(廃止工事)は、安全確保・法定手続き・産業廃棄物処理の適正管理など対応すべき事項が多岐にわたる工事です。単に設備を外すだけ、と安易に考えると重大なコンプライアンス違反につながる恐れがあります。費用も決して安くないため、なるべくコストダウンを図りたいところですが、不法投棄やずさんな工事でトラブルになれば本末転倒です。信頼できる専門業者を選定し、複数社から見積もりを取って内容と価格を十分に比較検討しましょう。
見積もりでは工事範囲や処分方法、追加費用の有無を質問し、不明点を明確にしておくことが大切です。最後までオーナー責任で適切に処分を終えることで、不要なリスクや費用を抑えることができます。早めの計画と確実な手続きを心掛け、キュービクル撤去を安全・円滑に進めてください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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