ビルにエレベーターを後付け設置する費用とポイント
更新日:2025年11月28日(金)
エレベーターのない既存ビルでは、移動動線の不便さからテナントの利便性が低下し、入居検討時のマイナス要因になることがあります。オフィスワーカーや来訪者の快適性向上、物品搬出入の効率化、安全性の確保などを目的に、後付けでのエレベーター設置を検討するビルオーナーが増えています。一方、後付け設置にはまとまったコストがかかり、補助制度の利用可否や工事期間中の運用など、判断に迷う点も多いでしょう。 本記事では、既存ビルへのエレベーター後付けに関する主要ポイントを整理します。費用相場、補助金の活用、設置可否の判断基準、工事時の留意点、導入までの進め方などをわかりやすく解説します。
- 本記事のポイント
- 既存ビルにエレベーターを後付けする際の「構造条件」「敷地条件」「設置方式(内付け/外付け)」という判断軸がわかる。
- 設置にかかる費用相場(約3,000万〜8,000万円)、および補助金・助成金や税制優遇の活用可能性について知れる。
- 実際の導入を進める上での設計〜施工のステップ(調査 → 見積取得 → 基本設計 → テナント合意 → 施工)や、工事期間中の入居者対応・近隣配慮の大切さが理解できる。
エレベーター後付け設置が検討される背景
既存ビルへのエレベーター後付けが注目される背景には、テナントニーズの多様化、競争力確保、働き方の変化、安全性向上、そして関連法制度の整備といった要因があります。
特に1970~90年代に建てられた中低層ビルでは、当時の建築計画でエレベーター未設置のケースも多く、階段移動の負担やバリアフリーへの非対応が、オフィスワーカーや来訪者にとって利便性の低下につながっています。その結果、物件選択時の評価にも影響し、入居検討の段階で敬遠される要因となることがあります。
また、設備の充実度はビルの資産価値やテナント募集力に直結します。荷物搬入の効率化や社員・顧客動線の改善など、業務のしやすさに直結するエレベーターは、オフィス・店舗どちらにとっても重要な設備です。
近年は、建築物のバリアフリー化を促す関連法令(例:バリアフリー法)の改正や、建築基準法における耐震・避難設備基準の見直しも進み、既存建物でも可能な範囲での改善を図る流れが強まっています。法律上は義務化されていないものの、ビルの安全性とユーザビリティを高める改修として、エレベーター設置を検討するケースが増えています。
ビルオーナーとしては、まず自社ビルの利用状況やテナントからの要望、空室率の推移などを把握し、エレベーター導入が与える効果を検討することが重要です。また、国や自治体の補助金・税制優遇など、ビル改修を支援する制度も存在するため、事前に情報収集して検討材料に加えるとよいでしょう。こうした外部環境と自ビルの状況を総合的に踏まえ、後付け設置の必要性や優先度を判断していくことが求められます。
エレベーター設置可否の判断基準(敷地・構造・設置方式)
後付けエレベーターの可否は、敷地条件・建物構造・設置方式(外付け/内付け)といった物理的条件に加え、建築基準法・消防法など法規への適合性によって総合的に判断されます。
まず物理面では、エレベーターシャフト(昇降路)および機器を設置するためのスペースが確保できるかを確認します。一般的には幅・奥行ともに2.5m前後の空間が必要となり、建物内部で確保するか、外部に塔状の構造物を増築するかが検討ポイントとなります。
外付け設置の場合
建物外部にエレベーター塔を増築するため、建ぺい率や容積率が法定上限に収まるか事前に確認する必要があります。また、既存外壁との取り合いや出入口の新設など、外観変更に伴う設計調整も重要です。構造本体への影響は比較的少ないものの、増築扱いとなるため法的な手続きが必須です。
内付け設置の場合
建物内部の階段室や共用部にエレベーターを組み込む方式で、各階で床の開口を設ける工事(スラブ貫通)や壁面解体が発生します。 そのため、既存構造が穴あけや荷重増に耐えられるか、耐震性能や基礎強度の確認が不可欠です。内部空間を確保できる反面、構造補強が必要となるケースが多くなります。
設備・法規の要件
設備面では、乗降出入口の確保、電源容量の増設、機械室の配置などを検討します。 法規面では、以下のような要件が必要になる場合があります。
- 昇降路を囲う耐火性能の確保
- 各階出入口への防火扉設置
- 消防法に基づく非常灯・誘導灯の追加
- 改修を機に求められる既存不適格部分の是正
また、自治体によってはエレベーター設置に関する独自の条例や緩和制度があるため、事前に行政と協議することが望まれます。特に古いビルで検査済証がない場合や、違反建築の可能性がある場合は、「ガイドライン調査」と呼ばれる専門調査を行い、必要な是正工事も見込んでおく必要があります。
後付けエレベーター設置にかかる費用相場
エレベーター後付け工事の総費用は約3,000万~8,000万円が一般的な相場で、建物の階数や構造規模によって増減します。費用内訳にはエレベーター本体代だけでなく、設計費・土台や基礎工事、構造補強、電気設備工事、避難設備や防火区画整備、内装復旧、試運転調整まで含まれます。
費用が幅を持つ主な要因は、建物の高さ(停止階数)とエレベーターのサイズ・仕様です。高さが増すほどレールやワイヤーの長さ、昇降路の支柱等が大規模になり、工事量も増えるため費用も上昇します。
また耐震補強の必要性も費用に大きく影響します。古い建物で耐震基準を満たしていない場合、エレベーター取付け部分の柱や基礎を補強する工事が追加で発生し、数百万円以上のコスト増となるケースもあります。さらに外付け式では新たに塔屋を建てるための基礎工事や外構工事が必要になり、内付け式では既存配管類の移設や撤去、内装の解体・復旧費用がかかります。
このように本体価格+設置工事費に加え、関連する建築工事費・設計申請費・検査費などをすべて合わせた総額で予算を考える必要があります。
活用できる補助金・助成金制度
事業用ビルへのエレベーター後付けでは、国や自治体が実施するバリアフリー化支援、省エネ・防災関連の補助制度を活用できる場合があります。特に既存ビルの機能向上や安全対策を目的とした改修では、対象となる制度が複数存在し、条件が合えば費用負担を大きく抑えられる可能性があります。
主に活用される可能性のある制度
(1)自治体のバリアフリー改修助成制度(非住宅向けの対応がある自治体)
自治体によっては、オフィスビル・商業施設などを含む公共性のある建築物に対し、
- バリアフリー化(動線改善)
- エレベーター設置
- 主要設備の更新
を対象とした助成を行う場合があります。助成額は自治体により大きく異なりますが、数十万~数百万円規模の補助が設定されるケースがあります。
(2)防災・耐震改修関連の補助金・税制優遇
エレベーター後付けに伴い、避難経路整備や耐震補強を同時に行う場合、
- 耐震改修促進税制(固定資産税減額)
- 自治体の耐震改修補助金
- 防災設備更新の補助制度
が対象となる可能性があります。
(3)省エネ設備導入や建物機能向上の補助制度
エレベーター更新・設置と併せて
- 高効率照明
- 換気設備
- 省エネ化に伴う電源設備改修
を同時に行う場合、経産省や自治体の省エネ補助の対象となることがあります。単体のエレベーター設置は対象外でも、付帯設備改修で対象になるケースがあります。
補助制度の利用にあたっての注意点
- 募集期間・予算枠が限られるため、早めの情報収集が重要
- 工事計画が補助要件に適合している必要がある(例:バリアフリー要件、面積要件、公開性など)
- 多くの制度は実績報告後の後払いのため、工事費は一時的に自己資金または融資で立て替える必要がある
- 制度によっては他制度との併用不可の場合がある
- 補助金申請から交付決定まで時間を要するため、工期との調整が必要
エレベーター設置を検討する段階で、国土交通省、経済産業省、都道府県、市区町村の公式サイトや公募情報を確認し、最新の支援内容を把握しておくことが重要です。制度の適用可否は専門的な判断が必要となるため、施工業者や建築士、行政窓口に相談しながら計画段階から補助要件を満たす設計を行うとスムーズです。
設計・施工時の注意点(入居者対応・工事期間・法規制・騒音対策)
既存ビルにエレベーターを後付けする際は、テナント対応、工期管理、法規手続き、そして工事中の騒音・振動対策が重要なポイントとなります。事前計画が不十分な場合、テナントの業務支障や近隣トラブルにつながりやすいため、丁寧な調整が不可欠です。
1. テナントへの説明・合意形成
工事開始前に、テナントへ
- 工事内容
- スケジュール
- 騒音・振動が発生する時間帯
- 共用部の通行制限や動線変更
などを明確に説明し、十分な理解を得ることが必要です。説明会や資料配布を行い、安全対策・仮設動線・作業時間の制約などを丁寧に共有することで業務への影響を最小限に抑えられます。
2. 工期と営業への影響を踏まえた計画
エレベーター後付けの工期は一般に6ヶ月〜1年程度で、中規模以上のビルでは1年以上に及ぶこともあります。
そのため、
- テナントの契約更新時期との調整
- 作業音が発生しやすい工程のスケジュール管理
- 必要に応じた賃料調整(減賃)対応
など、ビル運営への影響を見込んだ計画が求められます。
3. 法規制と申請手続き
後付け設置には、以下のような手続きが必要です。
- 建築確認申請(設計図、構造計算書の提出が伴う)
- エレベーター設置届
- 建築基準法の完了検査
- 昇降機検査・消防検査
建築確認の審査には1〜2ヶ月程度かかるのが一般的で、指摘事項への対応が発生することもあります。
また、エレベーター稼働後は
- 毎月の法定点検
- 年1回の定期検査
が義務付けられ、安全管理を継続的に行う必要があります。
4. 騒音・振動・近隣対策
エレベーター用シャフトの増築や、内部でのスラブ開口工事は騒音・振動が大きくなりやすいため、施工業者と事前に以下を取り決めます。
- 防音シートや仮囲いの設置
- 作業時間帯の制限
- 振動を抑える工法の採用
- 共用部清掃や粉じん対策
また、近隣ビルや周辺住民への事前挨拶も重要で、不要なトラブルの防止につながります。
5. 工事中の運営と管理体制
工事期間中は、ビルオーナー/管理会社が現場と定期的に連携し、
- 安全管理の状況
- 進捗確認
- テナントからの要望・苦情対応
を適宜調整していくことが求められます。計画段階で作成した説明資料に加え、進捗共有や掲示物の更新を行うことで、テナントの不安を軽減できます。
導入判断時のステップ(調査→概算見積→基本設計→合意形成→施工)
エレベーター後付けの導入を円滑に進めるには、技術的な実現性とコスト、関係者の合意、法的手続きを段階的に確認しながら進めるプロセス設計が重要です。
一般的には、以下のステップで進めます。
① 現地調査・可能性診断
まず、エレベーター設置に対応できる建設会社・設計事務所に現地調査を依頼します。
調査では以下を確認します。
- 設置可能スペースの有無
- 内付け/外付けどちらが適合するか
- 既存構造の強度、耐震性
- 既存図面との整合、必要な補強範囲
必要に応じ、壁や床の一部を開口して構造確認を行うこともあります。この段階の情報に基づき、おおまかな実現可能性と課題が明らかになります。
② 概算見積の取得
現地調査を行った業者、もしくは複数の候補企業から概算見積を取得します。詳細設計前のため精度には限りがありますが、一般に±20%前後の幅を持つ概算が提示されます。
比較の際は、金額だけでなく以下も評価対象です
- 工法・工期・施工体制
- 補強の必要性(構造負荷の見立て)
- 補助金申請のサポート有無
- 施工中のテナント対応策
本体仕様や停止階などの前提条件を揃えて比較することが重要です。
③ 基本設計・計画策定
発注候補を絞り込んだら、基本設計フェーズに移ります。
- エレベーター位置・シャフト寸法・各階の出入口設計
- 構造設計(必要な補強の検討)
- 電源容量・配線ルートなど設備設計
- 行政との事前協議
- 建築確認申請の準備
この段階で、精度の高い工事費見積(実施設計前の確定見積)が提示されます。補助金を利用する場合、ここで正式な申請を行うことが一般的です。基本設計が固まることで、工期・工法・テナントへの影響もより明確になります。
④ テナント・関係者への説明と合意形成
ビルの場合、法的な決議義務はありませんが、工事への協力確保が実務上の要点となります。
説明内容の例
- 工事期間・作業時間帯
- 騒音・振動の発生タイミング
- 共用部の通路制限
- エレベーター導入後のメリット(利便性・物件競争力の向上)
反対意見がある場合は、工法の見直しや配慮策(動線確保、作業時間調整など)を検討し、丁寧に対応します。合意形成は円滑な工事推進に不可欠で、時間をかける価値があります。
⑤ 施工(契約 → 着工 → 検査 → 供用開始)
合意が得られたら正式に契約し、施工へ移行します。
工事の流れ(代表例)
- 近隣挨拶・仮設計画・足場設置
- 解体工事・スラブ開口
- 基礎補強・外付け塔の増築(外付けの場合)
- エレベーター本体の据え付け
- 内装・仕上げ復旧
- 完了検査(建築基準法)・昇降機検査
- 消防関係の検査
- 供用開始
工事中は定例会議を通じて進捗・品質・安全を確認し、テナントの要望には迅速に対応します。
供用開始時には、エレベーターの操作方法や非常時対応を入居者に共有し、運用体制を整えます。
まとめ
これらのステップを順を追って進めることで、技術・法規・費用・合意形成の課題を整理しながら、後付けエレベーターの導入を確実に進めることができます。
特に既存ビルの改修は個別条件が大きく異なるため、設計者・施工会社・行政・テナントとの連携を密に行うことが成功のポイントです。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者

坂本 高信
独立系最大手のエレベーター会社にて、営業現場および管理職として18年間従事。リニューアル、保守、修繕といった複数の部署で実務経験を積み、営業部長などの管理職も歴任。多様な案件を通じて、エレベーターの運用と維持に関する専門知識を培う。その豊富な現場経験を活かし、エレベーターリニューアルに関する実用的かつ現実的な視点から記事を監修。
24時間対応通話料・相談料 無料


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