修繕積立一時金・借入金に伴う問題とこれらへの対応について
2024/09/04
マンションの大規模修繕に向けて修繕積立金が不十分な際などに修繕積立一時金・借入金が検討されます。 これらは決議に伴う困難、経済的負担、住民間の関係性の悪化リスクなどの大きな問題を伴うものであり、「できる限り回避、軽減」、「再発防止」を目指すべきものとなります。 この記事では、修繕積立一時金・借入金の決議要件・問題点、短期的対応:直近の工事計画の見直し、中長期的対応:長期修繕計画の継続的見直しについてご紹介いたします。これら情報が皆様の大規模修繕の計画に少しでもお役に立つと幸いです。
目次
修繕積立一時金について
修繕積立一時金とは、毎月徴収する修繕積立金とは別に臨時で徴収するものとなります。
大規模修繕などを行うにあたり、手元の修繕積立金だけでは足りない場合にその不足分を、マンションの各戸から専有部分の面積などに応じて徴収します。
徴収額は不足額次第となりますが、100万円を超えるケースもあります。
決議要件
普通決議が必要となります。具体的には、議決権(区分所有者が所有する専有部分の面積の占有率)総数の50%以上を有する組合員が出席し総会が成立したうえで、出席者の議決権(同上)及び区分所有者(専有部分を所有している者の数)の50%超が賛成することとなります。
問題点
大きく2つの問題があります。
1)決議に伴う困難
総会での決議に難航することがあります。
修繕積立一時金は、住民にとって予定外の負担であることもあり、住民の理解、賛同を得るのは簡単ではありません。
特に、ご年配の方々からの反対が多い傾向があります。背景としては、年金生活であることや(今後の居住予定期間が比較的短いことなどより)一時金の負担額がより大きく感じることが考えられます。
2)徴収に伴う困難
総会で無事決議に至ったとしても、全ての住民から遅滞なく回収することは簡単ではありません。
住民ごとに経済事情は異なります。年収・家族構成・住宅ローン・介護など様々な背景より一時金の支払いがすぐには難しい住民もいる可能性もあります。
また、一時金決議に反対した住民が徴収にスムーズに応じるとも限りません。
国土交通省の調査において管理費・修繕積立金の滞納があるマンションは全体の25%弱となっているように、管理費・修繕積立金の滞納は身近な問題であることがうかがえます。
仮に、一時金徴収が予定通りに進まない場合、工事費用が十分にまかなえず、最終的には一時金の追加徴収、借入金、工事内容の変更などの検討を余儀なくされます。
これらの事態により、一時金徴収に応じた住民が不公平感、憤りを抱き、ひいては大きな住民問題に発展していくケースもあります。
借入金について
借入金とは、共用部の工事資金の不足分などの調達を目的に、金融機関などから借り入れるお金のことです。
代表的なものに独立行政法人住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」があります。概要(2022年4月1日時点)は以下の通りとなります。
- 無担保、低金利
- 公益財団法人マンション管理センターの保証料が必要
- 融資限度額は以下の通り
以下の①又は②のいずれか少ない額が融資額の上限となります。
(融資額は10万円単位で、最低額は100万円です(10万円未満切捨て)。)
【工事費等から決まる融資額の上限】
① 融資対象工事費(-補助金)
【管理組合の修繕積立金から決まる融資額の上限】
② 毎月徴収する修繕積立金×80%以内÷毎月の返済額×100万円(*)
* 既に他の借入れがある場合は、今回の融資額に係る借入金の毎月の返済額に当該借入れに係る毎月の返済額を加えた額が、毎月徴収する修繕積立金額の80%以内であることが必要です。
詳細は以下URLからご確認いただけます。
決議要件
一時金と同様で、普通決議が必要となります。
問題点
大きく3つの問題があります。
1)決議に伴う困難
一時金と同様となります。ただ、借入金は一時金のように一時的に多額の負担をする必要がないため、決議は比較的通りやすい傾向があります。
2)利子・返済に伴う負担
組合による借入金の利子支払い・返済に伴う負担の発生、ひいては修繕積立金の増額の恐れがあります。
3)借入金の存在に伴う資産価値低下
組合の借入金の存在 = 財務状況の悪さをうけ、物件の資産価値 ≒ 再販価格の低下の恐れがあります。
短期的対応:直近の工事計画の見直し
修繕積立一時金・借入金は、上述の通り、決議に伴う困難、経済的負担、住民間の関係性の悪化リスクなどの大きな問題を伴うものであり、軽々に実施判断すべき事項でなく、「できる限り回避、軽減」を目指すべき事項となります。
それにあたっては先ず、修繕積立一時金・借入金の検討の背景となっている大規模修繕など工事の工事計画・費用の妥当性をしっかり見直す必要があります。
妥当性確認におけるポイントは下記4点となります。
1)他人任せでなく、組合主導で行うこと
2)工事時期が適切なのかを見直すこと(場合によっては後ろ倒しを検討)
3)工事範囲が適切なのかを見直すこと(場合によっては、修繕積立金の範囲内実施を検討)
4)工事会社・見積の選定にあたっては、相見積を公正に行うこと
中長期的対応:長期修繕計画の見直し
修繕一時積立金・借入の検討が必要となっているということは、過去の長期修繕計画の策定、見直しなどが適切になされていなかった可能性があります。再発防止などに向けて、行政などが行っているマンションアドバイザー派遣制度などを活用し、長期修繕計画をしっかりと見直すことをおすすめいたします。
また、一度見直した計画が、法令・建築技術(工法、材料など)・建物の劣化状況・修繕費の相場の変化に伴い、妥当性を失っていくことは往々にしてあるため、継続的に見直す必要があります。見直し周期は国土交通省のガイドラインでは5年となっています。
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この記事の著者
豊田 賢治郎
「スマート修繕」代表。過去2年間の顧客マンションへの訪問回数は400回を超え、チェックした見積書の数は千を超える(2024年7月末時点)。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「日本経済新聞」、「羽鳥慎一 モーニングショー」、「日曜報道 THE PRIME」、「モーニングサテライト」。
中小企業診断士
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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