古い油圧式エレベーターのデメリットと今後の課題
更新日:2025年11月28日(金)
古い中低層のビルやマンションでは、今も油圧式エレベーターが多く利用されています。確かに、油圧式には将来的な部品供給の不安や電力消費の大きさなど、いくつかの注意点があります。しかし一方で、既存の油圧式をそのまま使ってリニューアルできるため、工期が短く費用を抑えられる大きなメリットもあります。 本記事では、油圧式エレベーターの特性や運用上の課題を整理しながら、安全性やコスト、将来の更新制限、関連法制度の動向も含めて、より実務的な視点でわかりやすく解説します。
- 本記事のポイント
- 油圧式エレベーターの構造や特徴、そのメリットとデメリット(オイル漏れや消費電力、階数制限など)を理解できる。
- 維持管理・保守の注意点や、部品供給の不安などから「計画的な更新やメンテナンス」の必要性がわかる。
- 今後の選択肢(制御機器更新/ロープ式への全面入替)や、安全装置・省エネ化・法令対応といった“将来重視のリニューアル”方法を検討する指針が得られる。
油圧式エレベーターとは?仕組みと特徴
油圧式エレベーターは、電動ポンプで油圧ジャッキ(油圧シリンダー)を動かし、油の圧力でかごを上下させるタイプのエレベーターです。ロープで吊り上げるロープ式と異なり、屋上に巻上機を置く必要がなく、油圧シリンダーがかごを直接押し上げる構造になっています。そのため、重量物の運搬に適しており、建物最上階に重い機械を設置する必要がないという大きなメリットがあります。
この特徴から、マシンルームレス方式が登場する以前の低層建物(3~5階程度)では、油圧式が合理的な選択肢として広く採用されてきました。しかし、現在は新設市場の主流がロープ式(機械室レス型)に移行しており、油圧式は特殊用途を除いてほとんど新規導入されなくなっています。その結果、設置から20年以上経過した古い油圧式エレベーターが更新時期を迎えるケースが増えており、リニューアルや維持管理が重要な課題となっています。
油圧式エレベーターの代表的なデメリット5点
油圧式エレベーターの代表的なデメリット5点
油圧式エレベーターにはいくつか注意すべき点がありますが、現状でも油圧式エレベーターのままのリニューアルで十分対応可能です。
ここでは代表的な5つの特徴を整理します。
- オイル漏れや油特有の問題
油圧式は作動油を使用するため、経年劣化でシールやバルブからオイル漏れが起こることがあります。漏れた油は機器故障や昇降の遅れ、異音の原因となる場合があります。また、油の臭いや廃油処理の手間も注意点ですが、定期点検や交換を行うことで安全かつ快適に運用できます。 - 消費電力がやや高め
油圧式は高圧油を送る方式のため、ロープ式に比べて電力消費が大きくなる傾向があります。昇降時のモーター負荷や電気代が多少かさむことがありますが、運用状況に応じた省エネ型ポンプの導入やインバーター制御で改善可能です。 - 対応できる階数に制限がある
構造上、油圧式は一般に5~6階程度までの低中層建物向けです。また、昇降速度はロープ式より遅くなることがあります。しかし、建物の階数や用途を考慮すれば十分な性能を発揮できるケースが多く、重量物の運搬にも適しています。 - 乗り心地・加減速の面でやや制約
従来型では発進・停止時の揺れや動作音が気になる場合があります。とはいえ、近年はインバーターやAI制御による改修技術で振動や騒音を抑え、快適性を向上させることが可能です。 - 新設の減少と部品供給の変化
新築向けにはほとんど採用されなくなっていますが、独立系のエレベーター会社では既存油圧式のリニューアル対応が進んでいます。既存設備を活かして低コスト・短工期で更新できるため、必ずしも置き換えが必要なわけではありません。
油圧式エレベーターは、古くなると注意点が増えることは事実ですが、既存の設備を活かしたリニューアルで多くの課題をカバーできます。特に独立系エレベーター会社では対応実績が豊富で、低コスト・短工期で快適性や安全性を向上させる改修が可能です。デメリットを理解しつつ、賢く活用することで、油圧式ならではの利点も享受できます。
メンテナンス・保守上の課題とリニューアルの可能性
油圧式エレベーターの維持管理では、部品調達や更新費用に関する注意点があります。主要メーカーでは既に新規製造を終了しているため、純正部品の供給は順次減少しています。しかし、これは「リニューアルや計画的な更新の重要性」を示すものであり、適切に対応すれば安全・快適に運用を続けることが可能です。
一般に、エレベーター部品は製造終了後20~30年程度で供給が止まるケースが多く、油圧式は設置台数が少ないため代替品も限られます。そのため、重大な故障に備えて計画的な更新を行うことが推奨されます。しかし、油圧式は既存設備を活かしたリニューアルが可能で、独立系エレベーター会社では対応実績が多数あります。これにより、新設よりも低コスト・短工期で更新できる点は大きなメリットです。
費用面についても、ロープ式に置き換える場合は既存設備の撤去や建物補強が必要となるためコストがかさみますが、油圧式のままリニューアルする場合は比較的手軽に改修でき、対応できる業者も増えています。また、保守技術についても、独立系のエレベーター会社には油圧式に精通した技術者が在籍しており、計画的な保守・改修を行うことで長期的な運用が可能です。
将来の更新・置き換え時の選択肢(ロープ式への更新や補助制度)
古い油圧式エレベーターを今後更新する場合、①思い切ってロープ式エレベーター(巻上機式)に置き換える、②油圧式のまま制御機器等を更新する、という二つの選択肢があります。
それぞれメリット・デメリットがあるため、現場の条件に合わせた修繕計画が重要です。
- ①ロープ式エレベーターへの全面リニューアル(入替工事)
油圧式を撤去し、最新のロープ式(多くは機械室レス型)エレベーターに新設交換する方法です。メリットは、最新基準に適合した安全装置や省エネ性能を備えたエレベーターになるため、乗り心地や安全性、エネルギー効率が飛躍的に向上する点です。また将来の保守部品も入手しやすくなり、メーカー保証も得られます。
一方デメリットは、工事費用が高額になることと、工期が長くエレベーター停止期間も長引く点です。特に油圧式からロープ式への変更では、建物側の構造補強(機械架台の荷重点変更への対応)や電源設備工事、建築確認申請などが必要となり、費用・期間ともに大きく膨らむ傾向があります。また既存の昇降路寸法によっては、新しいロープ式エレベーターのかご寸法や定員が制約される可能性もあり、計画時には注意が必要です。
- ②油圧式エレベーターの部分的リニューアル(制御リニューアル等)
現状の油圧ジャッキやかご筐体は活かしつつ、ポンプや制御盤など主要機器を新しい油圧式対応機器に交換する方法です。
メリットは、費用が抑えられ(ロープ式への全交換に比べて概ね半分程度のコストと試算されるケースもあります)、工事期間も短くて済む点です。また建物構造への影響が小さいため、建築確認申請などの手続きも原則不要で、居住者への負担が比較的軽微です。
デメリットは、油圧式特有の古い構造を一部引き継ぐため、ロープ式ほど大幅な省エネ・高速化は実現できません。メーカーによっては油圧式をマシンルームレス化(油圧シリンダーを残しつつ巻上機設置)する更新パッケージを提供している例もありますが、機種や状態によって適用可否が異なります。
いずれの場合も、「油圧式だから必ずロープ式に全面交換しなければならない」というわけではなく、コストと効果のバランスを見極めた最適な更新計画の検討が重要です。専門家と相談し、現状の油圧式エレベーターの状態や利用状況を踏まえて、最も費用対効果の高いリニューアル方法を選択することが望まれます。
現行制度での対応策(安全基準・省エネ義務への対応)
古い油圧式エレベーターを維持・更新していく際には、現行法制度に照らした安全対策や省エネ基準への対応を考慮することが大切です。既存設備には一定の経過措置が認められており、当時の基準で設置されたエレベーターは直ちに法違反になるわけではありません。しかし、安全性向上や計画的な運用の観点から、自主的な安全装置の追加や更新計画を進めることが推奨されます。
法令上の扱い
建築基準法では、建築物や設備が改正前の基準で適法であれば、後の基準強化の遡及適用は受けません(いわゆる「既存不適格」扱い)。つまり、古い油圧式エレベーターも当時の基準に適合していれば現状維持は可能です。ただし、定期検査で指摘を受けた場合や、大規模改修・増築に合わせて更新する際には現行基準への適合が求められることがあります。特に賃貸住宅などでは、入居者の安全確保がオーナーの責務となるため、計画的な更新は安心・安全の観点でも有効です。
安全装置の導入
平成21年(2009年)の建築基準法施行令改正により、新設エレベーターには以下の装置が原則義務化されています:
- 戸開走行保護装置:扉が開いたままエレベーターが動かないようにする安全装置
- 地震時管制運転装置:地震を検知すると最寄階に停止・ドア開放し乗客を避難させる装置
また、停電時自動着床装置は義務ではありませんが、安全対策として推奨されています。
古い油圧式では未搭載のケースもありますが、後付けによる対応も可能で、補助金制度を活用すれば設置費用の一部を支援してもらえる場合もあります。独立系エレベーター会社でも施工実績があり、比較的短期間で安全性を向上させることができます。
省エネルギーへの対応
近年、省エネ性能向上が求められており、建築物省エネ法の改正により新築建物は省エネ基準適合が原則義務化されています。油圧式は電力消費が大きい傾向がありますが、既存設備でも以下のような対策で効率改善が可能です:
- 高効率ロープ式への置き換え
- インバーター制御導入による待機電力削減
- 定期的なオイル管理による駆動効率の維持
これにより、省エネ基準に近づけつつ、運用コストの抑制にもつながります。
現行制度下での油圧式エレベーター対応のポイントは以下の通りです。
- 法令上求められる安全基準との差を確認し、必要に応じて安全装置を追加・アップグレード
- エレベーターの更新や効率改善で省エネ基準への適合を目指す
- 廃油や環境負荷物質の適切な処理と管理を徹底する
法的に猶予されているからといって放置せず、計画的に安全性・省エネ性能を改善することで、入居者の安心と建物価値の維持が可能です。油圧式のままでも適切なリニューアルで、安全・快適・省エネの向上を実現できます。
まとめ
油圧式エレベーターは、特に中低層建物で長年にわたり活躍してきた方式です。現在では消費電力やオイル管理、部品供給の制限など、いくつか注意すべき点があります。また、安全基準や省エネ基準への対応も考慮が必要ですが、これらは計画的な管理やリニューアルで十分に対処可能です。
適切な知識と専門家のサポートを活用すれば、油圧式エレベーターでも安全性・快適性・省エネ性能を向上させながら建物価値を守ることができます。管理組合やビルオーナーは、本記事で紹介したポイントを踏まえ、最適なタイミングと方法での更新・改良を検討することが重要です。
不安や疑問がある場合も、早めに信頼できるエレベーター技術者やコンサルタントに相談し、将来を見据えた判断を下すことが、安心・安全な運用につながります。
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- エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者

坂本 高信
独立系最大手のエレベーター会社にて、営業現場および管理職として18年間従事。リニューアル、保守、修繕といった複数の部署で実務経験を積み、営業部長などの管理職も歴任。多様な案件を通じて、エレベーターの運用と維持に関する専門知識を培う。その豊富な現場経験を活かし、エレベーターリニューアルに関する実用的かつ現実的な視点から記事を監修。
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