エレベーターピットとは?防水工事が必要になる理由や防水不良のリスクを解説
更新日:2025年11月28日(金)
マンションのエレベーターピットで漏水が発生すると、安全上のリスクが高まるだけでなく、エレベーターの故障や事故を招き、ひいては管理組合にとって高額な修繕費用の負担が生じる可能性もあります。そこで、その対策として、エレベーターピット防水工事を適切に実施して漏水自体を防ぐことが非常に重要です。 本記事では、マンション管理組合として知っておくべきエレベーターピット防水工事の基礎知識や注意点を網羅的に解説します。また、安全なエレベーター運用と余計な修繕費用の発生を抑える方法も併せてご紹介します。
- 本記事のポイント
- エレベーターピットの構造と、水が侵入しやすいため防水工事が重要である理由が理解できる。
- 漏水や湿気放置による設備故障・建物劣化・安全リスクなど、防水不良がもたらす多様なトラブルを把握できる。
- 適切な防水工法、工事のタイミング、管理組合と業者の連携、費用相場や見積取得のポイントなど、実際に工事を検討するうえでの実践的な進め方が学べる。
エレベーターピットとは?防水工事が必要な理由
エレベーターピットとは、エレベーターの最下部にある地下空間のことを指します。建物の構造上、地下水や雨水が侵入しやすく、常に湿気や水分にさらされる環境にあるため、防水工事は欠かせません。
ピット内に水が浸入すると、エレベーター機器の腐食や電気系統のショート、さらには感電事故などの危険が生じます。また、水分がコンクリート部分に浸透すれば、建物そのものの劣化を早める要因にもなります。したがって、防水工事はエレベーターの安全性と建物の耐久性を守るための重要な予防保全策といえます。
エレベーターピットには排水口やポンプが設置されている場合もありますが、地下水位の高い地域や集中豪雨時には、それだけでは十分に対応できないことがあります。管理組合としては、ピットは普段見えないが非常に重要な設備であるという認識を持ち、定期点検時に湿気や水溜まりの有無、コンクリートのひび割れなどを確認することが大切です。
もし漏水や湿気の兆候が見られた場合は、早めに専門業者へ調査を依頼し、適切な防水対策を講じましょう。早期の対応が、エレベーター設備の故障や建物全体の劣化を防ぎ、長期的な安全・安心につながります。
エレベーターピット防水不良によるリスクと管理組合の対応
エレベーターピットの防水が不十分な状態を放置すると、エレベーターの故障や運行停止などの直接的な支障だけでなく、修繕費の増大や居住環境の悪化といった二次的な問題にも発展します。防水不良はエレベーター設備の安全性と建物の健全性の両面に影響を及ぼすため、早期の把握と専門的な対策が重要です。
ピット内への漏水が続くと、制御盤やモーターなどの電気機器がショートや腐食を起こし、突然の停止や高額な機器交換を伴う故障につながることがあります。特にエレベーターが1基しかないマンションでは、長期間の停止が住民生活に直結する深刻な支障となります。
さらに、湿気がこもる状態が続くと、カビや細菌の繁殖による悪臭が発生し、それがエレベーター内や共用部に広がるケースもあります。こうした臭気トラブルは住民の不満やクレームの原因となり、建物全体の印象低下にもつながります。加えて、コンクリート内部に水分が浸透すると中性化やひび割れが進行し、将来的な補修範囲の拡大や修繕コストの増大を招くこともあります。
ただし、エレベーターピットは通常の管理組合や住民が立ち入って点検することはできません。そのため、定期点検を実施する保守業者や専門の防水業者に状態確認を依頼し、報告内容を丁寧に確認することが現実的な管理方法となります。点検記録に「湿気」「水たまり」「異臭」などの記載がある場合は、早急に詳細調査を依頼し、必要に応じて防水工事を検討しましょう。
小さな異常を早期に把握して対応することが、エレベーター設備の延命と、長期的な修繕費負担の軽減につながります。管理組合としては、定期点検の結果を形式的に受け取るのではなく、ピットの防水状態にも関心を持ち、専門家と連携して改善を進める姿勢が求められます。
エレベーターピット防水工事を行うべきタイミング
エレベーターピットの防水工事は、水が溜まってからではなく、異常の兆候が見られた段階で早めに検討することが重要です。実際に漏水してから対応すると、機器の交換や構造補修など多額の費用が発生する場合があるため、予防的な視点での判断が求められます。
管理組合としては、エレベーターの定期点検報告書や保守業者からの指摘に注目してください。以下のような内容が報告されている場合、すでにピット内部で防水性能が低下している可能性があります。
- 「ピット内に湿気・水滴跡あり」
- 「底部が常に湿っている」
- 「コンクリートに白い輪染み(エフロ)が見られる」
- 「金属部品にサビが発生」
- 「カビ臭やこもった湿気を確認」
このような指摘を受けた際は、専門の防水業者に現地調査を依頼し、軽微なうちに補修を行うことが理想的です。止水材の注入や防水塗装といった初期対応を早期に実施すれば、エレベーター停止や大規模な修繕を防ぐことができます。
また、防水層にも寿命があり、一般的には20〜25年程度が耐用年数の目安とされています。築年数が経過しているマンションでは、防水層が劣化している可能性が高いため、定期的な点検と計画的な補修を検討しましょう。
さらに、大規模修繕工事やエレベーター更新工事の時期に合わせてピット内防水を同時に実施するのも効果的です。これにより、エレベーター停止期間をまとめられ、住民への影響を最小限に抑えることができます。
このように、エレベーターピットの防水は「問題が起きてから」ではなく「兆候が見えた段階で動く」ことが肝心です。日常点検や報告書を有効に活用し、早めの対応で設備の安全性と修繕コストの抑制を図りましょう。
エレベーターピット防水工事の内容と主な工法
エレベーターピットの防水工事は、漏水箇所を特定して止水処理を行い、その上でピット全体に防水層を形成するという流れで実施されます。建物の状態や予算、地下水の有無などによって採用する工法が異なり、複数の手法を組み合わせて施工するのが一般的です。
主な防水工法の種類
① ひび割れ注入補修(樹脂注入工法)
コンクリートのクラック(亀裂)部分にエポキシ樹脂などを注入し、内部から隙間を塞いで止水する方法です。微細なひびにも樹脂が浸透し、水の通り道を完全に遮断します。
② 止水板・止水材の設置
打ち継ぎ部分など水が入りやすい箇所に、金属製の止水板を埋め込んだり、吸水すると膨張するシール材を施工する方法です。構造上の弱点を補う「予防的な止水対策」として有効です。
③ 塗膜防水工法(防水塗料の塗布)
ピットの床・壁面にウレタン系やセメント系の防水材を複数層に塗り重ねて、厚みのある防水膜を作ります。耐水圧や耐摩耗性に優れた材料が使われ、エレベーターピットでは最も多く採用される方法の一つです。
④ シート防水工法(防水シートの貼付)
柔軟な防水シートを壁や床に密着させ、継ぎ目を溶着して水の侵入経路を断ちます。
下地との密着性が重要で、施工精度が仕上がりを大きく左右します。
工法の組み合わせと選定の考え方
実際の施工では、一つの工法だけでなく複数を組み合わせるケースが多く見られます。たとえば「ひび割れに樹脂を注入して止水し、その上から塗膜防水を施工する」といった形で、多重防水を行うことで再漏水のリスクを大幅に低減できます。
施工前には、専門業者による現地調査・診断が欠かせません。ピット内の劣化状況、漏水箇所、地下水の影響などを確認したうえで、最適な工法や材料を選定します。エレベーターピットは狭く湿度も高いため、一般的な屋上防水とは異なる高強度・速乾性の専用材料が使用される点も特徴です。
管理組合が把握しておきたいポイント
工事を検討する際は、理事会として施工内容と目的を理解する姿勢が大切です。業者から「ひび割れ部を樹脂注入で補修し、その後ウレタン塗膜防水を2層施工します」といった説明を受けた場合、各工程の意味を理解しておくと判断がしやすくなります。
また、施工時の安全管理にも注意が必要です。ピット内は密閉空間のため、換気や作業員の安全確保を徹底することが求められます。近年では、有機溶剤臭が少ない水系材料や湿潤面でも硬化できる速乾性防水材など、より安全で効率的な工法も登場しています。
防水材の種類によって耐用年数やメンテナンス周期が異なるため、業者から十分な説明を受け、長期的な修繕計画に沿った選定を行うことが望まれます。
防水工事を行う際の注意点(エレベーター停止期間・住民対応など)
エレベーターピットの防水工事を行う際は、工事期間中エレベーターが使用できなくなる点に最大の注意が必要です。工期短縮の工夫を行い、事前に十分な住民周知を行うことで、生活への影響を最小限に抑えることが求められます。
エレベーターピット内での工事は安全確保のため、エレベーターを完全に停止した状態で行う必要があります。停止期間中は、特に高層階の居住者や高齢者・体の不自由な方に大きな負担が生じるため、事前説明会の開催や掲示・文書による丁寧な周知が欠かせません。管理組合・施工業者・住民が協力体制を築くことで、工事中の不便を軽減できます。
管理組合は、工事日程が確定した段階で、少なくとも工事開始の2〜3週間前までに住民へ通知しましょう。お知らせ文書の配布や掲示板告知に加え、希望者向けに簡単な説明会を行うのも効果的です。高齢者世帯など移動に支援が必要な場合は、買い物代行や臨時のサポート策を検討しておくと安心です。
また、工事を短期間で終えるためには、連休や夜間作業の活用、複数職人による集中的施工なども検討対象になります(ただし、夜間作業を行う場合は騒音対策と追加費用への配慮が必要です)。
施工を担当するのは防水工事会社であり、エレベーター会社ではありません。ただし、エレベーター設備の停止・再稼働には管理会社(保守会社)の立ち会いが必須です。そのため、エレベーターピットでの施工経験が豊富で、管理会社との調整に慣れた防水業者を選定することが重要です。
見積依頼時には、
・工期の目安と短縮可能性
・作業人員体制
・安全管理や立ち会いの段取り
などを具体的に確認しましょう。
エレベーターピット防水工事の費用相場
エレベーターピットの防水工事費用は、一般的なマンションの場合で約30万〜100万円程度が目安です。ただし、ピットの広さや深さ、劣化の進行度、採用する工法によって金額は大きく変動します。劣化が進んでいる場合やピットが大型のマンションでは、100万円を超えるケースもあります。
また、防水工事と同時に排水ポンプの交換など付帯工事が必要になることもあります。この場合、ポンプ交換費用として1基あたり20〜25万円程度が別途加算されるのが一般的です。工期は通常2〜3日ほどで、エレベーター停止期間を含めたスケジュール調整が必要です。
小規模マンション(1基・低層タイプ)では比較的費用が抑えられる一方で、高層マンションやピットが深い構造では、施工範囲が広くなるため材料費・人件費ともに増加します。工事規模に応じた現実的な予算を見込んでおくことが大切です。
見積書では、止水工事費、防水層形成工事費(塗膜やシートなど)、仮設排水ポンプ設置費
といった項目が明細として示されます。不明点があればそのままにせず、工法や作業内容を確認しましょう。複数社から見積を取り、金額だけでなく提案内容や工法の妥当性も比較検討するのがポイントです。
なお、夜間や休日に施工を依頼すると割増料金が発生する場合があります。可能であれば通常の稼働時間内で作業を完了できるよう調整し、不要な付帯工事は見送るなど、コストを抑える判断も検討しましょう。
最終的には、安全性を最優先にしつつ、緊急度・将来の修繕計画・費用対効果を総合的に踏まえて判断することが、管理組合にとっての最適な対応となります。
マンション管理組合によるエレベーターピット防水工事の対応フロー
エレベーターピット防水工事を安全かつ円滑に進めるには、管理組合内での計画立案から専門業者への調査依頼、見積取得、総会での決議、住民への周知・説明まで、一連のフローを順序立てて実施することが重要です。透明性の高い手続きを踏むことで、工事当日のトラブル防止や住民の理解を得やすくなります。
管理組合としての対応フローは以下の通りです。
専門業者への現地調査依頼
ピット内で漏水の兆候が見られた場合、まず防水工事専門業者や建物診断士に調査を依頼します。
・漏水原因や範囲、コンクリートの劣化状況を報告書にまとめてもらう
・必要に応じてエレベーター保守会社とも連携し、安全面を確認
見積取得と工法提案の確認
複数の信頼できる業者から見積書と工事提案を取り寄せ、理事会で内容を比較検討します。
・工事範囲や方法、費用の妥当性を確認
・必要に応じて技術コンサルタントの意見も活用
理事会承認と総会決議
・理事会で業者選定と予算案をまとめ、総会に議案として上程
・総会では工事の必要性・緊急度・費用負担などを説明
・過半数の賛成による決議で正式に工事発注
・議事録に承認内容を明記し、正式記録として残す
住民への周知・説明
・総会承認後、全住戸に工事日程・エレベーター停止期間・工事内容の概要を通知
・必要に応じて説明会を開催し、住民からの質問や不安に回答
・高齢者や妊娠中の方など、配慮が必要な世帯へのサポートも検討
・管理会社や清掃業者など、関係者への情報共有も忘れずに
工事実施と完了報告
・工事期間中は理事会メンバーも進捗を確認し、問題発生時は業者と協議
・完了後は施工箇所の立会い確認を実施し、報告書・保証書を受領
・組合員に完了報告を行い、一連の対応を終了
このフローを踏むことで、管理組合として適切かつ透明性の高い手続きを経た工事が実施できます。特に総会での決議と住民説明を確実に行うことは、その後のクレーム防止や組合運営の信頼性向上にもつながります。計画段階から情報をオープンに共有し、合意形成を重視することが、安全でスムーズな工事遂行の鍵です。
修繕工事の見積支援サービス「スマート修繕」
- 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
- 事業者からのマーケティング費で運営されており、見積支援サービスについては最後まで無料でご利用可能です。大手ゼネコン系を含む紹介事業者は登録審査済でサービス独自の工事完成保証がついているため、安心してご利用いただけます。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者

坂本 高信
独立系最大手のエレベーター会社にて、営業現場および管理職として18年間従事。リニューアル、保守、修繕といった複数の部署で実務経験を積み、営業部長などの管理職も歴任。多様な案件を通じて、エレベーターの運用と維持に関する専門知識を培う。その豊富な現場経験を活かし、エレベーターリニューアルに関する実用的かつ現実的な視点から記事を監修。
24時間対応通話料・相談料 無料


.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)


