屋上防水の部分補修:トラブル時に全体改修せず済むケースと工法・費用・業者選びのポイント
更新日:2025年10月31日(金)
屋上の防水層に不具合が起きたとき、必ずしも高額な全面改修が必要とは限りません。劣化が軽微であれば「部分補修」で対応し、防水機能を回復できるケースもあります。 本記事では、部分補修が適している状況と判断のポイント、補修工法ごとの特徴と選び方、費用相場と追加費用の注意点、全面改修が必要な状態の見極め方、そして業者選定のポイントについて解説します。
- 本記事のポイント
- 屋上防水で部分補修が有効なケースと、全面改修が必要な劣化の見極め方がわかる。
- ウレタン防水・シート防水それぞれの補修方法と費用相場を理解できる。
- 業者選びの注意点を知り、信頼できる施工会社を見極める判断基準を身につけられる。
 
部分補修が適している典型的な劣化・症状
屋上防水の部分補修が有効なのは、防水層全体が健全な状態で一部に限定した劣化や損傷が生じているケースです。具体的には、防水層表面の小さなひび割れ・剥がれ、局所的な膨れ(ふくれ)や穴あきなど、雨水の侵入につながる軽度な不具合が発生した段階であれば、部分的な補修工事で対応可能です。
防水層の劣化症状にはさまざまありますが、初期段階の小さな損傷であれば、早めに部分補修することで大規模な改修を先延ばしできます。例えばウレタン塗膜防水では、経年による表面の細かなひび割れやピンホール(小さな穴)は一見目立たなくても防水性低下のサインであり、軽度であればその箇所にウレタン樹脂を再塗布するだけで十分な防水効果を回復できます。シート防水でも同様に、大きな雨漏りが起きていない段階で部分的な膨れ・破れ・剥がれを見つけた場合は、該当部位のみの補修で対処可能です。
また、シート防水で小規模な膨れ・破れがあるケースでは脱気筒による内部の湿気抜きやパッチ当てで破損箇所を覆う処置、熱溶着によるシートのめくれ補修など部分的な対策で済ませられるケースがあります。これは防水層全体が寿命に達しておらず局所的なダメージのみなら部分補修で十分対応できるケースです。
部分補修の工法別特徴と選定基準(ウレタン防水・シート防水)
防水層の部分補修では、原則として既存の防水工法に準じた補修方法を選ぶことが基本です。工法ごとに適した材料や施工手順が異なるため、既存防水層との相性や施工部位の状態を十分に確認した上で、最適な補修方法を検討します。必要に応じて異なる工法を併用し、防水性能の維持・回復を図ることもあります。
■ ウレタン塗膜防水の部分補修
ウレタン防水は、液体状のウレタン樹脂を塗布して防水層を形成する工法であり、部分補修にも同様の材料が使用されます。補修の際は、まず劣化部位の清掃と下地処理を行い、プライマー塗布後にウレタン樹脂を重ね塗りして防水膜を再形成します。最後にトップコートで保護仕上げを行います。
液状材料を用いるため、細かいひび割れや入り組んだ形状にも対応しやすい点がメリットです。また、同種材料同士の重ね塗りは密着性にも優れるため、確実な補修が可能です。
■ シート防水の部分補修
シート防水では、破損した部分を切り取り、下地の補修を施した後、新しいシートを貼り付けるのが基本の手順です。ただし、既存シートとの接合部には隙間や段差が生じるため、防水性を確保するには追加処理が不可欠です。
具体的には、補修シートと既存シートの継ぎ目にシーリング材やウレタン防水塗料を用いて密封し、その上にトップコートを施すことで、水の侵入を防ぎます。特にシート防水では、単に新しいシートを貼るだけでは不十分であり、複合的な補修工法が求められます。
部分補修の費用相場と注意すべき追加費用
マンション屋上の防水部分補修は、施工範囲が限定的であるため、全面改修と比べてコストを抑えやすい点がメリットです。一般的な相場は、1㎡あたり約5,000~10,000円が目安ですが、工事範囲や使用材料、下地の状況によって費用は前後します。
■ 基本費用と見積もりの考え方
部分補修の費用は、「使用する材料の単価 × 施工面積」によって算出されます。
 ウレタン防水・シート防水など工法ごとに単価の違いはありますが、標準的な相場としては以下が目安です:
- ウレタン防水補修:約5,000~10,000円/㎡
- シート防水のパッチ補修:1箇所あたり約30,000~50,000円程度(材工共)
5㎡程度の補修であれば、全体で5万円~7万円程度に収まるケースもあります。
■ 注意すべき追加費用
部分補修には、以下のような別途費用が発生する可能性があるため、見積もり時には事前に確認することが重要です。
● 足場仮設費(※マンション屋上を想定)
マンションの屋上であっても、高所作業の安全確保のために足場や高所作業車が必要になる場合があります。特に10階建て以上の中高層マンションでは、安全基準により仮設足場の設置が義務づけられるケースもあり、足場仮設だけで15万~20万円以上の追加費用がかかることもあります。
小規模な補修でも「高所作業=足場が必要」という前提があるため、他の工事(外壁補修や定期点検など)と同時に行うことで、足場費用を効率化できる場合もあります。
● 下地補修費
防水層の下にあるコンクリートやモルタル下地の劣化が進んでいる場合、以下のような補修作業が追加で必要になることがあります。
- コンクリートのひび割れ注入
- 浮き部のモルタル補修
- 下地の再形成やプライマー塗布の強化
- 防水層下の断熱材交換(断熱防水の場合)
これらの補修は数万円〜数十万円規模の追加費用がかかることもあります。
■ 長期的な視点での判断が重要
部分補修は、初期費用を抑えられる一方で、劣化の進行具合によっては短期間で再補修や全面改修が必要になる場合もあります。
結果として割高になるリスクもあるため、「どこまで補修で対応できるか」「あと何年持たせたいのか」など、中長期的な視点で費用対効果を見極めることが重要です。
全面改修が必要となる防水劣化の見極め方
部分補修では対応しきれない状態にまで防水層の劣化が進んでいる場合は、全面改修(防水層の全体的な更新)が必要になります。
 とくに、雨漏りが発生している場合や、広範囲にわたる劣化症状が見られる場合には、応急的な補修では再発リスクが高く、根本的な改修を検討すべきタイミングです。
■ 全面改修を判断する主なポイント
| 見極めポイント | 内容と判断基準 | 
| 経過年数 | 前回の防水工事から10年以上経過している場合、防水層は耐用年数(10~15年)に近づいており、劣化が顕在化しやすい段階です。 | 
| 劣化の範囲 | 損傷が複数箇所に及んでいる場合や、全体的な膨れ・ひび割れが見られる場合は、部分補修では対応が困難です。 | 
| 雨漏りの有無 | 既に室内への漏水が発生している場合、防水層のどこか1箇所だけでなく全体的な防水性の低下を疑うべきです。 | 
| 再補修の頻度 | 過去に繰り返し補修を行っているにもかかわらず新たな不具合が出る場合は、防水層そのものが寿命を迎えているサインです。 | 
| 下地の劣化状況 | 防水層の下のコンクリートに含水や浮き、ひび割れが見られる場合、単なる表面修繕では再発を防げません。 | 
■ 工法別に見る「改修が必要なサイン」
- ウレタン防水:10年を超えると、トップコートの劣化、ウレタン層の硬化・クラックが進行しやすく、部分的な補修では防水性能の回復が難しくなります。
- シート防水:継ぎ目の接着劣化や、全体的な浮き・剥がれが確認された場合、パッチ補修では止水性能の維持が困難です。特に端部の浮きが全周にわたる場合は全面改修が必須です。
■ 全面改修を避けた場合のリスク
小規模な劣化であれば部分補修は有効ですが、劣化が進んだ状態で補修を繰り返しても根本的な解決にはつながりません。むしろ補修費用が積み重なることで、最終的に全面改修と合わせて高額になるリスクもあります。
また、漏水が構造体まで達している場合、鉄筋腐食など建物の躯体劣化につながるため、防水工事だけでなく下地からの改修が必要となる可能性もあります。
■ 専門業者による診断が重要
改修の必要性は、外観からの判断だけでなく、下地の状態や含水率などの調査が必要です。信頼できる専門業者やコンサルタントに調査を依頼し、「今の状態なら部分補修で済むのか、全面改修が妥当か」を客観的に判断してもらいましょう。
業者選びの注意点と比較ポイント
屋上防水の部分補修を依頼する際は、信頼性と実績のある専門業者を選ぶことが何より重要です。防水工事は専門的な知識と技術が求められる分野であり、小規模な補修であっても施工品質や提案力によって仕上がりに大きな差が生じます。
複数の業者に見積もりを依頼し、調査内容・工法提案・見積金額の根拠・保証内容を比較しましょう。価格の安さだけで判断せず、丁寧な説明とアフター対応の有無も含めて検討することが、後悔しないためのポイントです。
優良な業者は、現地調査に時間をかけ、写真付きの報告書で劣化状況を具体的に説明してくれます。また、築年数や使用状況、過去の補修履歴を踏まえて、部分補修・全面改修の両方の選択肢を中立的に提示する傾向があります。こうした業者は、無理な営業トークを避け、建物にとって本当に必要な工事を提案してくれます。
一方で、調査を簡単に済ませ、「すぐに全面改修が必要」と結論づけるような業者には注意が必要です。調査や説明が雑な場合、施工の質にも不安が残る可能性があります。
また、施工後の保証やフォロー体制も重要です。保証期間の有無や、万が一の再施工対応、定期点検の実施など、施工後も建物を見守ってくれる業者であれば、長期的な信頼関係を築くことができます。
最終的には、「この業者なら、小規模な部分補修でも手を抜かず、誠実に対応してくれる」と確信できるかどうかが大切です。
価格だけにとらわれず、提案内容・対応姿勢・施工体制を総合的に評価すれば、建物の防水性能を長持ちさせ、資産価値を守る結果につながります。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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