エレベーターの全撤去リニューアルとは?費用や工事の段取りについて解説
更新日:2025年05月30日(金)
築年数が30年を超えるマンションやビルでは、エレベーターの老朽化が深刻な課題です。エレベーターの全撤去リニューアルとは、現在使用中のエレベーター設備一式を撤去し、新品のエレベーターにまるごと取り替える改修方法です。 古いエレベーターを最新の安全基準に適合した機種に更新することで、安全性・快適性を大幅に向上させ、将来的な故障リスクを低減できます。本記事では、全撤去リニューアルの概要や検討タイミング、費用相場や他方式との比較、さらに工事を依頼する際の注意点を解説します。全撤去リニューアルについて検討している人は参考にしてみてください。
- 本記事のポイント
- エレベーター全撤去リニューアルの工事内容や費用相場を学べる。
- リニューアルを検討すべき時期や安全性・省エネ面のメリットがわかる。
- エレベーター改修工事を成功させるための注意点や補助金活用のポイントを把握できる。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
エレベーターの全撤去リニューアルとは?
エレベーターの全撤去リニューアルとは、既存エレベーターの主要部品をすべて取り外し、新しい機器一式に交換する大規模改修工事のことです。その結果、実質的にエレベーターを新設したのと同等の状態になり、古い装置に起因する不具合や安全上の課題を根本から解消できます。
全撤去リニューアルでは古いエレベーターを丸ごと新調するため、部分的な部品交換では改善しきれない経年劣化の問題にも対応できます。例えば30年前後使用されたエレベーターでは、制御装置、巻上機(モーター)/油圧ユニット、内装に至るまで劣化が進み、部品供給も終了する時期となります。全撤去リニューアルに踏み切れば、こうした旧式エレベーターを現行の最新モデルに置き換えることで、耐用年数がリセットされ長期にわたり安定運行が期待できます。
国土交通省のガイドラインでも、エレベーターは一般的に築後30年程度での交換(リニューアル)を計画するよう推奨されています。これは15年目に中間的な補修を行い、30年目に設備更新する長期修繕計画がモデルケースとされているためです。
過去の建築ブーム期に設置された多くのエレベーターが更新時期を迎えている事実があります。令和5年度に定期検査報告があった全国約76万台の既存エレベーターのうち35%程度(約26万台)しか戸開走行保護装置など新基準の安全装置が設置されていないというデータもあり、依然として多数のエレベーターが旧式のまま稼働している現状が浮き彫りになっています。そのため、安全・安心の観点から古いエレベーターの計画的な更新が社会的にも求められているのです。
リニューアルを検討する時期
エレベーターの全撤去リニューアルは、設置後おおむね25~30年が経過したタイミングや、故障・不具合が増えて安全性に不安が生じた時期に検討するのが適切です。また、最新の安全基準に適合していない古いエレベーターや、省エネ性能の劣る機種も、更新を前向きに考えるべき段階と言えます。
エレベーターは年月とともに部品が磨耗し、故障の頻度が高まります。メーカー各社は計画耐用年数を20~25年程度と想定しており、多くの管理組合では築後25~30年前後でエレベーター交換工事を計画します。この時期を過ぎると、製造メーカーから部品供給停止の通知が届く場合もあります。実際、設置から30年を迎える頃には修理用部品の入手が困難となり、万一の故障時に長期停止に陥るリスクが高まります。こうした老朽化の兆候が見られたら、早めにリニューアル計画を立てることが肝要です。
安全性の観点も重要です。エレベーターの安全基準は過去の事故を教訓に強化されてきました。例えば、平成21年9月28日以降に新設されるエレベーターには戸開走行保護装置(UCMPと呼ばれ、かごの戸が開いたまま誤って動いた場合に自動停止させる装置)の設置が義務づけられています。しかし、それ以前に設置された既存エレベーターには適用されず、全面的な撤去・新設(=全撤去リニューアル)を行うまでは戸開走行保護装置を設置しなければならないという法的義務はありません。そのため旧式のまま使われているエレベーターは多くあるのが実情です。
国土交通省は「より高い安全性の確保の観点から、改修やリニューアルによる機能更新を積極的に行ってほしい」と建物所有者に呼びかけており、法的義務がない場合でも自主的な安全対策が推奨されています。古いエレベーターには他にも地震対策(地震時管制運転装置や耐震補強)や非常時の非常用連絡装置の未整備といった課題があり、現行基準に合わせた更新によって初めてそうした安全装置が備わります。
エネルギー効率の面でも、新旧エレベーターで大きな差があります。近年のエレベーターはインバーター制御やLED照明、回生ブレーキシステムなどを採用し、消費電力が旧型に比べて大幅に削減されています。古いエレベーターをそのまま使い続けると電力効率が悪く、建物全体のエネルギーコストやCO2排出量の面で不利です。全撤去リニューアルにより省エネ性能の高いエレベーターへ交換すれば、環境負荷軽減やランニングコスト削減にもつながり、長期的なメリットが得られます。
全撤去リニューアルに要する費用
エレベーターの全撤去リニューアルには数千万円規模の費用がかかります。一般的な目安として1基あたり約1,500万~2,000万円程度が想定されます。この内訳には古いエレベーターの撤去工事、新しいエレベーター機器の購入・据付工事、関連する建築改修や諸経費が含まれます。高額な投資となりますが、安全性向上によるメリットを考慮すれば必要な支出とも言えます。条件を満たせば公的な補助金制度を利用できる可能性もあり、費用負担を軽減できるケースがあります。
全撤去新設以外にもリニューアル方法はあります。
リニューアル方式ごとの費用相場は次のようになります。
制御リニューアル
約500万~700万円程度(制御関連機器の交換が中心)
準撤去リニューアル
約1,200万~1,700万円程度(巻上機や制御盤・かご等主要部分を交換し、一部既存流用)
全撤去リニューアル
約1,500万~2,000万円程度(エレベーター設備をすべて新調)
全撤去リニューアルは最も高額ですが、その分得られる安全・性能向上効果も最大です。実際の費用はエレベーターの規模(定員や停止階数、高さ)、採用機種のグレード、工事範囲(建物側の補強工事や意匠工事の有無)によって増減します。また、都市部か地方か、メーカー系か独立系業者かによっても見積もりは異なります。共通仕様で複数社から見積もりを取ることで適正価格を把握することが重要です。
費用の大きさから、管理組合では長期修繕計画に基づき計画的に積立金を用意していることが多いですが、想定以上に費用がかかる場合は不足分の捻出も検討しなければなりません。以下に費用面で押さえておくべきポイントをまとめます。
費用の内訳
撤去費用(古い機械類の解体・搬出処分)、新設エレベーター本体費用(昇降機設備一式)、据付工事費(レールや枠の取り付け調整、試運転検査)、建築付帯工事費(機械室や乗場出入口枠の補修、補強工事など必要に応じて)、諸経費(設計監理費・確認申請手数料等)に大別できます。見積書を取り寄せた際は、これら項目ごとの金額を確認し、不要な工事や過剰仕様が含まれていないか精査すると良いでしょう。
エレベーター規模による差
一般に、停止階が多い高層建築や大容量(定員)のエレベーターほど費用は高くなります。また、内装仕上げを高級仕様にするか簡易にするかでも金額に差が出ます。自社ビル用途か賃貸マンション用途かなど、建物グレードに見合った仕様選定も費用面のポイントです。
補助金活用の検討
補助金を活用できれば数百万円規模の負担軽減が期待できます。ただし要件を満たすためには、地震時自動着床装置の追加設置などを行う必要があります。補助金申請の手間や、交付決定までのスケジュールも考慮に入れ、採否を判断しましょう。補助金の存在を知らずに工事を終えてしまうと遡って受給はできないため、計画段階で情報収集することが肝心です。
制御リニューアルと準撤去リニューアルとの比較
エレベーター改修には「全撤去リニューアル」のほかに、規模の異なる「準撤去リニューアル」と「制御リニューアル」があります。それぞれ費用や工事期間、更新範囲が異なり、メリット・デメリットがあります。一般に、制御リニューアルは費用・工期が最も少なく、全撤去リニューアルは最大、準撤去リニューアルはその中間に位置づけられます。建物の状況や予算に応じて最適な方式を選択することが重要です。
リニューアル方式ごとの主な違いを以下にまとめます。
制御リニューアル
エレベーターの制御盤や押しボタン、配線など電気系統を中心に交換する方法です。かご・レールなど構造部分は基本的に既存を流用します。費用は最も低く、工事期間も短いため、費用負担と期間を抑えつつ、安全性・性能を向上できる点がメリットです。デメリットは交換範囲が限定的となり、制御リニューアルのみでは新たな安全装置(戸開走行保護装置など)の追加義務は生じないため、既存不適格な部分が残ってしまう点には留意が必要です。
準撤去リニューアル
既存設備の一部を残しつつ、主要部分を交換する中規模改修です。一般的には巻上機(モーター)や制御盤、エレベーターのかご本体、ワイヤーロープなど主要コンポーネントを新品に交換し、建物側と一体化している乗場の扉枠やレールなどは再利用する工法を指します。費用は中程度で、おおむね1,200万~1,500万円前後が目安です。工期は全撤去より短いですが、約40日~60日ほどかかります。メリットは、エレベーターの心臓部ともいえる機械・電気部分を更新するため、安全性・信頼性が大幅に向上する点です。制御リニューアルでは手を付けない部品も交換するため、新品同様の動作性能が期待できます。既存の扉枠やレールを流用することで工事費用と工期を圧縮でき、建物へのダメージや騒音埃も軽減されます。デメリットとしては、制御リニューアルほど費用は抑えられず、いくつか旧部品が残るため全交換ほど包括的ではない点が挙げられます。
以上の比較を踏まえ、「費用・工期を抑えたいなら制御リニューアル、投資してでも抜本的に刷新したいなら全撤去リニューアル、その中間が準撤去リニューアル」と整理できます。
エレベーターの改修依頼を行うときの注意点
エレベーター全撤去リニューアル工事を円滑に成功させるには、信頼できる業者選定と住民への丁寧な対応、 そして計画的なスケジュール管理が欠かせません。工事期間中はエレベーター停止による影響が避けられないため、事前準備と周知徹底でトラブルを防ぎ、費用・品質両面で納得のいく成果を得ることが大切です。以下に注意すべきポイントを3つ挙げます。
複数社から見積もりを取り適切な業者を選定する
エレベーターリニューアルは高額な工事のため、相見積もり(複数社からの見積取得)による業者選定が重要です。競争原理を働かせることでコストダウンが期待でき、かつ各社の提案内容を比較検討することで最適なプランを見極められます。実務上、エレベーター更新工事ではメーカー系列会社から独立系メンテナンス会社まで複数の選択肢があります。各社で提案される工事範囲や価格、アフターサービス内容に違いがあるため、1社だけの提示額で即決するのは避けるべきです。共通の仕様書を作成して複数の業者に見積もりを依頼すれば、条件を揃えた上で金額や提案を比較しやすくなり、公平な競争入札が可能となります。
また、工事費だけでなく更新後のメンテナンス費用も含めて複数社から見積りを取得し、長期的視野で判断することが大切です。リニューアルの見積もりと同時にその後の保守契約についても同時に検討しましょう。保守契約内容(フルメンテ契約かPOG契約か等)によって将来的な維持費が変わるため、初期費用とランニングコストを総合的に検討する必要があります。
住民への周知徹底と合意形成を図る
エレベーター全撤去リニューアルでは、工事期間中エレベーターが使えなくなるため、マンションの居住者やビル利用者への周知と協力依頼が不可欠です。事前に丁寧な説明と代替策の検討を行い、合意形成を図っておくことで、工事への理解を得てトラブルを防ぐことができます。
エレベーター工事期間中は高層階の住民や足の不自由な方は階段を利用せざるを得ず、大きな負担がかかります。エレベーターが1基しかない建物では生活動線が断たれるため、なおさら慎重な対応が必要です。こうした影響を軽減するには、工事スケジュールの工夫(できるだけ利用者が少ない時期や時間帯に実施)や、必要に応じた支援策の検討(宅配便の一時停止や代行、重い荷物の運搬サービス検討等)が考えられます。工事日程を決める際には管理組合やテナントなど利用者に計画を共有し、事前に必要性や工期を丁寧に説明して協力を取り付けることが大切です。こうした合意形成プロセスを怠ると、工事中の苦情やトラブルの発生に繋がる恐れもあります。
工事計画の綿密化とスケジュール管理
エレベーターのリニューアルを円滑に完了させるには、事前の計画立案とスケジュール管理が重要です。工事の各工程(設計・発注・製造・既存撤去・新設・検査)を綿密に計画し、必要な許認可手続きがあれば漏れなく行い、進捗を逐一確認することで、想定外の遅延やトラブルを防止できます。
エレベーターの更新工事には長いリードタイムが伴います。新規エレベーターの製作期間、納期には通常数ヶ月を要し、その後の既存設備撤去と新設据付・調整、さらに検査・検収まで相当の期間がかかります。また、全撤去リニューアルでは建築基準法に基づく建築確認申請が必要な工事となるため、申請から許可が下りるまで数週間程度見込んでおく必要があります。加えて、補助金を利用する場合は所定の期間内に工事完了・報告を行わなければなりません。これら多段階のプロセスを的確に管理することが求められます。
以上3点に留意して準備を進めれば、エレベーターリニューアル工事は大きなトラブル無く進められるはずです。費用面・技術面で信頼できる業者を選び、利用者への気遣いを忘れず、計画的に実行することが成功の秘訣です。
まとめ
築30年以上のマンション・ビルでは、エレベーターをリニューアルすることが、安全で快適な建物運用を続ける上で避けて通れない課題となってきます。結論として、エレベーター設置後、約25年~30年を目安に古いエレベーターをリニューアルすることが望ましく、エレベーターリニューアルの各方式の費用対効果を検証し、適切な判断を下す必要があります。エレベーターリニューアルは費用は大きいものの、更新を怠れば故障や事故のリスクが高まり、結果的に居住者の安心・建物の価値を損ねてしまいかねません。国や自治体の支援策も活用しつつ、専門家の知見を借りながら計画的にリニューアルを実施することで、今後数十年にわたり安心して使えるエレベーター環境を整備できます。
エレベーターリニューアルは一大プロジェクトですが、本記事で述べたように結論→根拠→証拠→具体説明のステップで検討を進めれば、適切な時期に的確な判断ができるでしょう。まずは現状のエレベーターの状態を把握し、必要に応じて信頼できる業者や専門家に相談してみてください。
エレベーター等修繕の支援サービス「スマート修繕」
- 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
- 事業者からのマーケティング費で運営されており、見積支援サービスについては最後まで無料でご利用可能です。大手ゼネコン系を含む紹介事業者は登録審査済でサービス独自の工事完成保証がついているため、安心してご利用いただけます。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
こちらもおすすめ
本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
.png&w=640&q=75)
遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者