マンション大規模修繕工事で頻発する住民クレーム:種類・原因・対策の徹底解説
更新日:2025年12月19日(金)
マンションの大規模修繕工事は建物の資産価値維持に不可欠ですが、その工事期間中には多くの住民クレーム(苦情)が発生しがちです。「騒音がひどい」「説明が足りない」といった声が次々寄せられ、理事会や修繕委員会が対応に追われるケースも少なくありません。実際、大規模修繕で何らかのトラブルを経験した管理組合は全体の約65%に上るとの調査結果もあり、クレーム対応は決して珍しい課題ではないのです。 本記事では、マンション管理組合の理事や修繕委員の方向けに、大規模修繕工事において住民からよく寄せられるクレームの具体例とその原因、未然防止策、発生時の初動対応について解説します。適切な知識と対策を身につけ、クレームを最小限に抑えて円滑に大規模修繕工事を進めましょう。
- 本記事のポイント
- 典型的なクレームの種類と発生原因を理解し、事前に対策を講じる方法が学べる
- 工事関係者と住民の円滑なコミュニケーション・情報共有の重要性と具体策がわかる
- クレーム発生時の初動対応フローと再発防止の実践テクニックが身につく
大規模修繕工事でよくある住民クレームの具体例
大規模修繕の工事中、居住者(区分所有者や入居者)の生活にはさまざまな支障が生じるため、以下のような典型的なクレームが発生します。
騒音・振動に関する苦情
ドリルやハンマー等の作業音、振動が日中長時間続き「生活に支障をきたすほどうるさい」という不満。
粉塵・臭気による苦情
外壁のはつり作業や塗装作業で舞う粉じんや塗料臭により「部屋が埃っぽく汚れる」「空気が悪く健康に悪い」といった訴え。
日照・景観の遮断
建物全体に足場と防護ネットを張るため「部屋が暗くなる」「景観が損なわれる」との不満。
エレベーター利用制限
工事資材搬入等でエレベーターが一時使用不可になり「外出や荷物運搬に支障が出た」という声。
ベランダ使用禁止
防水施工や塗装期間中ベランダで洗濯物が干せないことへの不満。植物の水やりやペットの世話など日常行為も制約されます。
プライバシー侵害の不安
足場上を作業員が行き来することで室内を覗かれる心配や、生活を見られるストレス。「カーテンを開けられず息苦しい」との声もあります。
防犯面の不安
足場設置によりベランダ経由で侵入可能になるため、「空き巣被害が心配」「防犯対策は万全か」といった懸念。
工事スケジュールへの不満
工期が延びる遅延や作業時間帯への苦情。たとえば「予定より工事が長引き生活への影響が増大した」「早朝から作業され眠れない」といった声です。※天候不良など不可抗力で工期延長せざるを得ない場合もありますが、居住者にとっては理由に関わらず大きなストレスとなります。
説明不足へのクレーム
「事前に聞いていた話と違う」「工事内容や日程について十分な説明がなかった」といった不満。施工中に急に張り紙が出てベランダ使用禁止を知った、など情報伝達の不足に起因する苦情です。
業者・作業員の態度に対する苦情
工事関係者のマナーや応対への不満。「挨拶がなく感じが悪い」「作業員の喫煙や私語が目に余る」といった指摘や、住民からの質問に施工業者が取り合ってくれない等のクレームも時折見られます。こうした印象の悪化が他のクレームを増幅させることもあります。
以上のように、居住環境の変化や情報不足が引き金となって、多種多様な苦情が持ち上がります。
クレームが起きやすい原因:情報共有不足・合意不備・準備不足など
では、なぜこれほどクレームが生じてしまうのでしょうか。主な原因として考えられるポイントを整理します。
情報共有の不足
管理組合から居住者への事前周知が不十分だと、工事への理解が得られず不満が噴出します。大規模修繕は専門用語も多く複雑なプロジェクトですが、専門知識を持たない一般の居住者にも分かるよう情報提供しないと「知らされていない」「勝手に工事が進んでいる」といった不信感を招きます。例えば工事開始前に工事内容・日程・注意事項を具体的に伝えなかった場合、後になって「聞いていない」とクレームになる可能性が高まります。
合意形成プロセスの不備
大規模修繕工事の実施には区分所有者の決議(多数決)が必要ですが、形式的な決議承認だけで十分な合意形成ができていないと、後になって反対意見や苦情が出やすくなります。修繕委員会が理事会や他の組合員と十分コミュニケーションを取らずに独断で計画を進めてしまうと、「話を聞いていない」と反発する組合員が現れることもあります。実際、管理組合のアンケートでも「組合内での合意形成が大変だった」と感じる理事・修繕委員は約30%に上るとの報告があります。意見対立が残ったままだと工事中にも不平不満が噴出しやすく、クレーム増加につながります。
住民説明会の準備不足
事前に開催する住民向け説明会で十分な説明や質疑応答対応ができないと、住民の不安が解消されず不満が残ります。例えば専門用語ばかりで具体的な生活影響の説明がない、質問に明確に答えられなかった、といった場合です。その結果、「やはり納得できない」と不満を持った住民が工事開始後にクレームを寄せる事態になりかねません。
クレーム対応窓口の混乱
苦情の受付体制が整っていないことも原因になります。誰に言えばいいのか分からなかったり、理事や管理会社など窓口が複数あって対応にバラつきが出たりすると、住民の不信感を招きます。「問い合わせたのにたらい回しにされた」「言っても改善されない」と感じると、クレームはエスカレートしがちです。対応窓口が不明確なままだと初期対応の遅れにも直結します。
その他の要因
計画段階でのリスク見落としもクレームの火種となります。例えば騒音源となる作業を平日の昼間だけでなく土日に実施する計画にしてしまった場合、在宅者から強い苦情が出ることが予想されます。また工事中の居住者の要望・意見を受け付ける仕組みがないと小さな不満が蓄積して大きなクレームになりがちです。加えて、施工業者との契約・打合せに不備があり現場対応が行き届かない場合(例:養生不足で汚れが発生等)も、結果的に住民クレーム増加の一因となります。
以上のように、情報共有・合意形成・事前準備・対応体制の不足が複合的に絡み合ってクレーム多発を招いていることが分かります。裏を返せば、これらの原因に的確に対処することで苦情発生をかなり抑制できる可能性があります。次章ではその具体的なクレームを未然に防ぐ方法を詳しく見ていきましょう。
クレームを未然に防ぐためのポイントと対策
大規模修繕工事におけるクレームをゼロにすることは難しくても、事前の工夫次第で苦情の件数を大幅に減らすことは可能です。管理組合が取るべき主な予防策を以下に整理しました。
十分な事前周知(掲示・回覧物の活用)
工事に関する情報はできるだけ早く・詳しく・分かりやすく共有します。掲示板への貼り出しや各戸への回覧・チラシ配布によって、工事の目的・内容、日程、注意事項(騒音や使用禁止項目など)を事前に周知徹底しましょう。特に高齢の方や日中留守がちな方にも確実に情報が行き渡るよう、紙ベースの通知は有効です。また最近ではメールや専用アプリ等を用いて進捗を連絡する手法も検討されています。いずれにせよ、「知らなかった」を生まないよう周知は重ねて行うくらいがちょうど良いでしょう。
住民説明会の開催と丁寧な説明
工事着手前にマンション内で住民説明会を開き、工事の内容や必要性、予想されるトラブル要因、スケジュールについて直接説明し、住民の理解を得ることが重要です。説明会では十分な質疑応答・相談の時間を設け、住民の疑問や不安をその場で解消します。例えば「工事期間中にどの設備がどのくらい使えなくなるか」「騒音が発生する時間帯」など具体的な質問に答えることで、信頼関係を築き協力を得やすくなります。一度の説明会ですべての出席者が納得できなくても、追加の個別相談や回答書の配布などフォローを行い、合意形成に努めましょう。
工事スケジュールの可視化と共有
住民が工事による生活影響を具体的に把握できるよう、スケジュールを見える化して提供します。工事項目ごとの日程表やカレンダーを作成し、「●月●日~●日は外壁高圧洗浄(騒音あり)」「○月△日~△日はベランダ防水塗装(終日ベランダ立入禁止)」など影響内容と期間を明示します。特に騒音や振動が発生する時間帯やベランダ使用制限の日時は事前に詳細を通知し、可能な限り住民の生活への配慮(例:在宅勤務者へのイヤーマフ配布検討等)を行います。スケジュールの変更や天候による順延などが発生した場合も、その都度迅速に情報をアップデートして周知することが大切です。
住民アンケートの活用(意見の事前把握)
工事計画段階で居住者アンケートを実施し、工事への要望や不安点を事前に拾い上げる方法も有効です。例えば「工事期間中に特に心配なことは何ですか?」など自由記述や選択肢で意見を募り、集計結果を計画に反映させます。あるコンサルタント会社の例では、着工前にアンケートや説明資料を用意して住民の声を吸い上げることで合意形成がスムーズに進み、トラブルが起きにくくなると報告されています。アンケート結果は説明会でフィードバックし、「皆さんのご意見を踏まえてこのような対策を講じます」と示すことで住民の安心感を高められます。
施工業者との連携と住民対応の徹底
実際に現場で住民と接する施工業者や現場監督とも緊密に連携し、住民対応に万全を期すことも重要な対策です。契約時に居住者対応の方針を業者と確認し、苦情があった場合の迅速な報告・対処を取り決めておきます。たとえば「騒音や臭気に関する苦情が出たらすぐ管理組合に報告し、原因箇所の作業を一時中断して対策を検討する」といったルールを共有します。
また、マナー教育も依頼しましょう。挨拶励行や禁煙ルール徹底など、作業員一人ひとりが住民に配慮した行動を取ることでクレーム発生を抑えられます。実績のある優良業者は住民対応も丁寧で、塗料臭に敏感な方への配慮(換気の案内や低臭塗料の提案)、ベランダ利用制限日の周知徹底など細やかな気遣いをしてくれるものです。業者選定の段階からコミュニケーション能力や誠実な対応姿勢にも注目するとよいでしょう。
以上の対策を講じることで、「知らなかった」「聞いていない」という不満を未然に防ぎ、住民と管理組合・工事関係者が協力体制を築いた上で工事に臨むことができます。もちろん完全に苦情をゼロにするのは難しいですが、事前の丁寧な説明と情報共有により苦情の件数自体を減らし、万一クレームが出ても大事に至らないようにすることが可能です。
クレームが起きた際の初動対応フロー
万全の準備をしていてもクレームが発生してしまうことはあります。重要なのは、苦情が出た際に迅速かつ的確に初期対応することです。初動対応が適切であれば問題の深刻化や住民の怒りのエスカレートを防ぐことができます。以下に基本的な初動対応の流れを示します。
窓口の一元化と受付
苦情はまず決められた窓口で一括して受け付けます。管理組合では事前に「苦情・問い合わせ担当」を明確に定めておき、理事長または担当理事、管理会社のフロント担当者などが一次窓口になります。住民には「○○へのご連絡をお願いします」と周知し、迷わず連絡できるようにします。窓口担当者は苦情を受けたら親身に傾聴し、まず謝意と共感を示しましょう(「ご不便をおかけし申し訳ありません。お気持ちお察しします。」など)。感情的な苦情であっても真正面から受け止める姿勢が大切です。
苦情内容の記録(5W1H)
受け付けた苦情は速やかに記録します。日時・氏名・部屋番号・連絡先、そして苦情の具体的内容(何が、どこで、どのように問題か)を5W1Hで整理して書き留めます。例えば「●月●日14時頃、205号室Aさんより『ドリル音がうるさすぎる』との電話。騒音計測85dB、当日13:30~15:00に外壁はつり作業実施。」といった具合です。客観的なデータ(騒音値や写真など)があれば併記します。この記録の蓄積が後の交渉や再発防止策検討に役立ちます。
関係者への速やかな連絡と現場確認
苦情の内容に応じて、関係する施工業者・現場監督に即時連絡し現場状況を確認します。例えば騒音苦情であれば作業担当者に一時中断を依頼し、騒音源や作業方法を点検します。漏水など緊急性の高いものは直ちに理事長や専門業者とも連絡を取り、初動対応(応急処置や危険防止)を行います。管理組合内でも関係理事に共有し、対応方針を協議します。初動はスピード勝負であり、「様子を見ましょう」と放置せず迅速に動くことが肝心です(小さな不満のうちに対処することで大クレーム化を防げます)。
住民への一時回答とフォロー
苦情申出者には、調査・対応方針をできるだけ早く(目安として48時間以内)一次回答します。「現在原因を調査しており、●日までに対応策をご報告します」など、経過や見通しをこまめに連絡することで、住民の不安・怒りを和らげる効果があります。回答の際は専門用語を避け、住民目線で分かりやすく説明します(業者の言い分をそのまま伝えると言い訳に聞こえるため、自分の言葉でかみ砕いて伝えるのがポイントです)。苦情対応中は相手の感情に寄り添い、「おっしゃる通りです」「ご迷惑をおかけしています」と共感を示しながら誠実に対応しましょう。
根本対応と再発防止策
一次対応後、苦情の原因に対する根本的な解決策を検討・実施します。施工方法の改善が必要なら業者に指導し(契約書の仕様を再確認し必要に応じ是正要求)、工事スケジュールの見直しや追加措置(防音シート追加、清掃頻度増など)を講じます。対応策を講じたら当該住民へ結果を報告し、状況が改善したかフォローアップします。トラブルが解決した後は必ず「なぜ起きたか」「どう防げたか」を関係者で振り返り、対応マニュアルやチェックリストに反映させましょう。例えば「今後は工事説明会で質疑応答記録を作成する」「週1回の定例ミーティングで苦情進捗を共有」「全戸に緊急連絡先一覧を配布する」「苦情受付窓口は一本化する」といった再発防止策を仕組み化し、同じ問題を繰り返さないようにします。
以上が基本的な初動対応フローです。特に窓口を一元化しておくこと、そして苦情記録の徹底と迅速な対応が重要です。初期対応次第で住民の印象は大きく変わります。「ちゃんと話を聞いて誠実に対処してくれた」と感じてもらえれば、たとえ不満はゼロにならなくても理解を示してもらえるものです。管理組合内で事前に対応手順をマニュアル化し訓練しておけば、いざという時も落ち着いて対処できるでしょう。
まとめ:適切な対策でクレームを恐れない大規模修繕へ
大規模修繕工事における住民クレームの種類・原因・対策について詳しく見てきました。クレーム対応は理事・修繕委員にとって頭の痛い問題ですが、事前の丁寧な情報共有と合意形成、そして的確な初動対応によって多くのトラブルは防ぐことができます。国土交通省や住宅金融支援機構のガイドラインでも、修繕工事を円滑に進めるには居住者への周知徹底と専門家の活用が重要だと指摘されています。
管理組合の皆様が過度にクレームに怯えることなく、安心して大規模修繕工事を完遂するために、適切なコミュニケーションと専門家の知見をフルに活用し、マンションの未来につながる修繕プロジェクトを成功させましょう。
大規模修繕の支援サービス「スマート修繕」
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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