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エレベーター落下防止装置の役割と維持管理

更新日:2025年11月28日(金)

マンションやビルのエレベーター安全管理において、エレベーター落下防止装置は乗客の命を守る不可欠な設備です。エレベーターをリニューアルする際には、これら安全装置の機能確認や必要に応じた交換を検討する必要があります。 本記事では、落下防止装置(エレベーターの墜落事故を防ぐ安全装置)の仕組み、点検・修繕時の注意点、関連する法令制度について解説します。 エレベーターの最適なリニューアル方法を判断するために、ぜひ参考にしてください。

本記事のポイント
  • 落下防止装置(調速機・非常止め装置・緩衝器など)の基本構造と、それぞれの役割が理解できる。
  • 法令上の設置義務や定期検査の基準、更新・点検の必要性が明確になり、法令遵守の重要性がわかる。
  • 装置の耐用年数、劣化や部品供給状況を踏まえた交換タイミングの判断、リニューアルの計画立てのコツがつかめる。

落下防止装置の基本構造と役割

エレベーターの落下防止装置は、調速機(ガバナ)・非常止め装置(セーフティギア)・緩衝器(バッファ)など複数の安全機構で構成され、異常時にかごを自動停止または衝撃緩和して墜落事故を防ぎます。

建築基準法の技術基準では、エレベーターには過速度を検出してかごを止める調速機(速度監視装置)と、それに連動して作動するかご非常止め装置(緊急ブレーキ)が必須と定義されています。

また、かごやおもりが万一底部に衝突した場合に備えて緩衝器(衝撃吸収装置)を設置することが求められています。これらの装置は機械的・電気的に連携し、多重の安全ネットを形成します。

例えば調速機はエレベーターの昇降速度を常時監視し、速度が規定値を超えると遠心力式の仕組みでスイッチを作動させます。まず電気的に制御装置へ信号を送りモーターへの動力を遮断し、それでも減速しない異常事態ではワイヤーロープを機械的にロックして非常止め装置(レールに作用するブレーキ)を作動させます。

非常止め装置(セーフティギア)はガイドレールを強力に掴み、かごを物理的に緊急停止させる装置です。法令上、低速エレベーター(毎分45m以下)には瞬時作動型(早切り式)、高速エレベーターには減速度を抑える徐行作動型(次第切り式)の非常止め装置を採用することとされており、停止時の乗客への衝撃が最小限になるよう設計されています。

さらに昇降路のピット(最下部)には緩衝器(バッファー)と呼ばれるバネ式や油圧式の装置が設置され、万一かごが終点を行き過ぎて底部に衝突した際に衝撃を吸収します。仮にすべてのワイヤーロープが切断するような最悪の事態でも、調速機と非常止め装置が作動してかごの落下を食い止め、最後の頼みとして緩衝器が残存エネルギーを和らげる仕組みになっています。

これら落下防止装置の多重防護によって、エレベーター利用者の安全が確保されているのです。

法令上の設置義務・点検基準

日本の法令ではエレベーターに落下防止のための安全装置(制動装置)の設置が義務付けられており、定期的に専門家による検査を行ってその機能を維持することが求められています。

建築基準法施行令第129条の10第1項において「エレベーターには制動装置を設けなければならない」と規定され、同条第2項・国土交通省告示第1423号により具体的な基準(調速機による過速度検出と非常止め装置の作動要件など)が定められています。

さらに同施行令第129条の10第3項では、制動装置に加えて戸開走行保護装置(UCMP)や地震時管制運転装置、非常通報装置、過荷重検知装置などの安全装置も設置義務が明文化されました。これらの規定強化は、過去の事故を教訓にエレベーターの安全性を高める目的で行われており、新設エレベーターではドアが開いたまま動かないようにする装置(UCMP)の搭載が必須となっています。

また建築基準法第12条第3項に基づき、エレベーターは年1回の定期検査が義務付けられています。国土交通大臣指定の昇降機等検査員など有資格者が法定検査を行い、昇降路や安全装置の機能を確認した上で「定期検査報告書」を所管行政庁へ提出する制度です。

定期検査では調速機の作動試験や非常止め装置のブレーキテスト、戸の錠装置や非常用設備の点検など細部にわたりチェックが実施されます。仮に安全装置の不備が見つかれば是正措置が求められ、検査未実施や報告怠りには罰則も規定されています。

こうした制度によって、エレベーター落下防止装置が常に正常に機能するよう維持管理が徹底されています。

装置の寿命と交換判断の基準

エレベーターの落下防止装置は頑丈に作られていますが経年劣化は避けられず、一般に耐用年数は20年前後とされます。経過年数だけでなく劣化状況や試験結果を踏まえ、約20年を目安に交換・更新を検討するのが適切です。

エレベーター主要部品の耐用年数は適切なメンテナンス下で概ね20~25年程度とされ、調速機もその範囲内で交換することが想定されています。実際、多くの建物では設置後20年前後で制御盤を含む安全装置類のリニューアル工事が行われており、メーカー計画寿命や保守部品供給期間ともおおむね一致します。

調速機(ガバナ)本体は長期間安定動作するよう設計されていますが、約20~25年使用すると内部のばねや遠心力機構、電気接点などに摩耗や劣化が蓄積します。使用環境や利用頻度によって寿命は前後し、高頻度で動くエレベーターでは15年程度で部品のガタつきや摩耗が進むケースもあります。

一方で稼働の少ない環境では25年以上故障なく動作する例もありますが、安全性を重視すれば経過年数だけに頼らず異常の兆候で判断することが重要です。具体的な交換判断基準としては、調速機ロープに切断や著しい錆が発生した場合、過速検出スイッチの動作不良が見られる場合、あるいは非常止め装置のブレーキテストで制動距離が基準を超える場合などが挙げられます。定期点検で異音・異振動が確認されたり、制動力低下の兆候が数値で示されたりした際には、たとえ故障に至っていなくても予防的な交換を検討すべきサインと言えます。

特に安全装置は万一の動作不良が重大事故に直結するため、「まだ使えるから」と引き延ばすことは避け、メーカーや保守会社の助言に従い計画的に更新することが望まれます。寿命末期に近い装置を抱えるエレベーターは、大規模修繕の機会に他の制御機器と合わせて一新するのが一般的で、そうすることで新技術への更新による安全性向上も図れます。

点検・交換・修繕時の留意点

落下防止装置や調速機など安全関連装置の点検・交換を行う際は、メーカーごとの仕様や部品供給状況をあらかじめ把握し、費用と工期を見通した上で計画することが欠かせません。特に古いエレベーターでは部品入手性が課題となり、交換工事に伴う長期停止や費用負担が大きくなる可能性があります。

一般的に、エレベーターメーカーは保守部品を生産終了後おおむね15年間供給します。しかし築20年以上の設備では、この供給期限を過ぎた調速機や非常止め装置などの旧型部品が入手困難となり、故障時に交換できないリスクが高まります。メーカーや保守会社から部品供給終了の通知が届いた場合は、機器の耐用年数に関わらず早めに更新計画を検討すべきです。安全を担う制御盤や調速機などで供給停止となった際には、更新時期を前倒しする事例も多く見られます。

費用面では、調速機交換だけでも装置代に加えて据付工事・試験調整・撤去処分・検査手続きなどが必要となり、総額は概ね70万~300万円程度が一般的とされています。1基あたり数百万円規模の出費となるため、管理組合や事業者には十分な資金計画が求められます。コスト抑制の方法としては、メーカー系だけでなく独立系保守会社も含めて複数社から相見積もりを取り、技術力・実績・安全管理体制も含めて比較検討することが有効です。

工期と利用者への影響も重要な検討要素です。調速機やセーフティギアの交換ではエレベーターを数日停止させる必要があるため、マンションであれば居住者への事前告知や代替手段の準備が欠かせません。建物の利用が少ない時期や時間帯を選ぶことで、利用者の不便を軽減できます。

また近年は、調速機単体ではなく制御盤や他の安全装置も含めて「制御リニューアル」としてまとめて工事を実施するケースも増えています。工事を一括化することで停止期間の短縮や費用効率の向上が期待でき、建物利用者への影響も抑えられます。

点検・修繕計画を策定する際は、部品供給期限の情報、費用対効果、工事スケジュールなどを総合的に考慮し、長期的な保全計画として位置付けることが重要です。

最新の技術動向

エレベーターの安全装置は技術革新により着実に高度化しています。電子制御化や自己診断機能を備えた落下防止装置が普及しつつあり、常時モニタリングや異常予知によって事故を未然に防ぐ仕組みが進展しています。

近年は、欧州で普及する機能安全規格(IEC 61508 など)を踏まえ、日本でもマイコンを用いたプログラマブル安全装置の導入が進んでいます。従来は機械式が主流だった過速度検出も、デュアルエンコーダを用いた電子式ガバナで冗長化するなど、センサ故障時でも安全停止できるよう設計の高度化が図られています。機械式ガバナと非常止め装置という基本構成は変わらないものの、電子制御の併用により監視精度と制御性が向上しています。

自己診断機能を持つ安全装置では、センサや回路の状態をマイコンが常時監視し、異常兆候を検知すると自動的に運転を停止して点検を促す仕組みが組み込まれています。さらに、IoTや遠隔監視の導入により、調速機やブレーキの動作データをクラウドで分析する予知保全が一般化しつつあり、摩耗や劣化を早期に把握して計画的なメンテナンスに活かす動きが広がっています。

具体例としては、戸開走行保護装置(UCMP)が挙げられます。これはドアが開いたまま動こうとした際に即座に検知・ロックする電子制御装置で、2009年以降の新設機に標準採用されています。また、地震後に遠隔で安全確認を行い、自動復旧できる地震時自動診断復旧システムも日立や三菱電機を中心に実用化が進み、緊急時の停止時間短縮に寄与しています。

今後は、機械式の信頼性と電子式の高度な診断能力を組み合わせたハイブリッド型安全装置が主流になると考えられます。通常は電子制御で細やかな監視を行い、万一電子系が故障しても機械式が確実に作動する二重構造を採用するなど、より高次の安全性が追求されています。AIや高度なセンサ技術の活用も進む見込みで、「事故ゼロ」に近づくための進化が期待されます。

こうした最新動向を踏まえ、既存設備の状態を的確に評価し、必要に応じてアップグレードや更新を計画的に進めることが重要です。

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  • 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
  • エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史

鵜沢 辰史

信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。

本記事の監修者

坂本 高信

坂本 高信

独立系最大手のエレベーター会社にて、営業現場および管理職として18年間従事。リニューアル、保守、修繕といった複数の部署で実務経験を積み、営業部長などの管理職も歴任。多様な案件を通じて、エレベーターの運用と維持に関する専門知識を培う。その豊富な現場経験を活かし、エレベーターリニューアルに関する実用的かつ現実的な視点から記事を監修。

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