分譲マンションの給湯器交換費用:専有部・共用部の判断基準と負担のルール
更新日:2025年11月28日(金)
分譲マンションで給湯器(給湯設備)を交換する際、「それは誰が費用を負担するのか?」と悩むケースが多く見られます。給湯器の設置場所によって専有部分か共用部分かの扱いが異なり、費用負担の原則も法律や管理規約で定められています。 本記事ではマンション給湯器交換費用に関して、専有部・共用部の判断基準や国土交通省の標準管理規約に基づく費用負担ルール、さらに給湯器の寿命や交換費用の相場、トラブルを防ぐ管理規約整備のポイントまでを解説します。
- 本記事のポイント
- 給湯器本体は「専有部分」と見なされるのが一般的である理由と、その法的根拠(設置場所がどこであっても専用機器なら専有扱い)を理解できる。
- 給湯器交換にかかる費用の相場(標準タイプで本体+工事費約15〜20万円程度)と、耐用年数(約10年)を押さえ、交換を検討すべきタイミングが分かる。
- 管理組合と所有者間で起こりがちな費用負担や手続きのトラブルを避けるために、事前申請・規約整備・業者選定と近隣配慮など、給湯器交換を円滑かつ公平に進めるための実務的なノウハウが得られる。
給湯器は専有部分?共用部分? – 設置場所による判断基準
マンションの各戸に設置された給湯器本体は、基本的に専有部分(区分所有者の個人財産)とみなされます。たとえ廊下やバルコニーなど物理的には共用部分の空間に置かれていても、その給湯器が当該住戸専用である限り専有設備扱いとなるのが標準的な考え方です。
国土交通省のマンション標準管理規約(団地型除く)コメントでも「給湯器が廊下やベランダに設置されている場合は、共用部分内であるが専用的に使用できるので専有部分と考えられる」と明記されています。多くのマンションの管理規約でも、各住戸の給湯設備は専有部分に属すると定められています。つまり設置場所が共用廊下の壁面であれパイプスペース(PS)内であれ、その機器自体が特定の一戸のためだけに使われる設備であれば区分所有者に属する専有部材だということです。
上記の考え方は国土交通省のガイドラインや標準管理規約コメントに基づくもので、管理組合の運営指針として広く採用されています。自分のマンションの管理規約(規約集や使用細則)を確認し、「給湯器(ボイラー)」についての記載を探してみましょう。多くのケースでは標準管理規約に準拠して「給湯器は専有部分の設備」と明記されていますが、念のためお持ちの管理規約で給湯器の扱いを把握しておくことが重要です。これによって、給湯器交換時に誰が責任を負う設備なのかを事前に確認でき、管理組合との認識相違によるトラブルを防げます。
また、給湯器が共用廊下やバルコニーに設置されている場合でも、工事の際には共用部分を一時的に使用したり原状回復が必要になったりするため、管理会社や理事会への事前連絡を怠らないようにしましょう(これについては後述するトラブル防止策の章で詳述します)。
給湯器交換費用の負担原則 – 専有部分は所有者負担が基本
給湯器交換にかかる費用は原則として各区分所有者(専有部分所有者)の負担です。専有部分の設備の修繕・更新には、管理組合が集めた管理費や修繕積立金など共用部分の維持費を充当することはできません。したがって、分譲マンションでは給湯器が故障した場合、その住戸の所有者が自費で交換・修理するのが基本ルールとなります。
この負担原則はマンション標準管理規約および区分所有法の考え方に基づいています。標準管理規約では「専有部分に係る修繕は区分所有者の責任と負担で行う」旨が定められており、また管理組合の資金(管理費・修繕積立金)は共用部分の維持管理のために使われるべきものとされています。実例として、各戸に設置された電気温水器(給湯器)が地震で多数破損したケースにおいても、専有部分の設備である以上その修理・交換費用は全て各区分所有者が負担すべきと判断されています。管理組合の資金を使ってしまうと、「故障しなかった住戸」と「故障した住戸」で不公平が生じるため、法的にも認められないのです。
国土交通省のマンション標準管理規約に準拠した多くのマンションで、給湯器等の交換費用は各戸負担と規定されており、管理組合としてもその原則を周知しています。
例えば築年数が経ってマンション内の多数の給湯器が同時期に不具合を起こしたとしても、一括して修繕積立金で交換することは原則できません。各住戸ごとに自己負担で対応する必要があります。管理組合は「なぜ共用の積立金でまとめて交換できないのか?」といった住民からの疑問に備え、専有部分と共用部分の区分、および費用負担の原則(法律・規約に基づくルール)を平時から丁寧に説明できるようにしておきましょう。特に大規模修繕の際などに「ついでに各戸の給湯器も交換しては?」という提案が出ることがありますが、その場合も費用負担の原則を踏まえた上で、必要であれば各戸の任意参加による共同発注(一括交換の検討)など、公平性を確保したスキームを検討することになります。
設置場所や配管に応じた所有者・管理組合の責任分担
給湯器本体の維持管理責任は基本的に所有者にありますが、設置場所の構造や配管の取り合いによっては一部が管理組合の管理責任となる場合もあります。つまり、給湯器に関連する設備のどこまでが専有部分で、どこからが共用部分かという境界の判断によって、費用負担者・対応者が変わるケースがあるのです。
国土交通省の標準管理規約では、専有設備であっても建物の構造と一体となっている部分については管理組合が管理できる旨が規定されています。特に重要なのが配管類の境界で、標準管理規約等では「給湯器の配管の起点」が専有・共用の境となるケースが一般的です。
具体的には、パイプスペース(PS)内のメーターボックスまでは共用部分とみなし、そこから先に各住戸へ分岐して入る部分以降が専有部分と扱われる管理規約が多数派です。また、給湯器の排気筒(排気口)や給気口、および外壁を貫通して設置される配管部分などは建物の外観・構造上共用部分に該当するため、そうした部分の改変・修理には管理組合の許可が必要になります。
なお、専有部分と共用部分の境界に関する上記ルールは、標準管理規約の第7条や別表で示されています。
責任分担の例を挙げると、各戸に引き込まれる給水・給湯・ガス管は、共用の縦管(立管)から分岐してメーターボックスに至るまでが共用部分、メーターやバルブから先の各戸内部へ向かう横引き管が専有部分となるケースが典型です。この場合、メーターボックス内のバルブや立管部分で生じた漏水は管理組合の負担で修理し、一方で各戸の壁の中や床下での配管漏水はその住戸の所有者負担で修理することになります。
また、給湯器本体の故障原因が共用部分に起因する(例えば共用配管の劣化から生じたトラブルで給湯器が破損した)場合には、その給湯器交換費用を管理組合が負担すべきケースもありえます。現実には境界の判断が難しいこともありますので、管理規約で配管や付属設備ごとの専有・共用の扱いを細かく定めておくことが望ましいでしょう。そうすることで、いざ給湯器や関連設備に不具合が起きた際に「どちらが直すのか」を巡る無用な押し付け合いを避けられます。
給湯器の寿命と交換時期・費用の目安
マンション向け給湯器の寿命(耐用年数)の目安はおおむね10年程度です。設置から10年以上経過した給湯器は、部品供給の問題や故障リスクの高まりから交換を検討すべき時期といえます。また、給湯器交換にかかる費用相場は機種の種類や機能によって幅がありますが、標準的なタイプで概ね15~20万円前後(本体+工事費込み)、高機能タイプでは30万円以上になることもあります。玄関横のパイプスペース(PS)設置型かバルコニー壁掛け型かといった設置タイプの違いでも費用に差が生じ、一般にPS設置型のほうがやや割高になる傾向があります。
給湯器メーカー各社は「設計上の標準使用期間」を製品ごとに定めており、一般家庭で通常使用した場合約10年が寿命の目安とされています。そのため10年を超えて使用した給湯器は、たとえ動いていても内部劣化が進み故障の前兆が現れることが多く、早めの交換が推奨されます。特に使用頻度が高かったり寒冷地で使用したりしている場合は、10年を待たずに耐用年数に達するケースもあります。また、メーカーの部品保有期間も概ね製造後10年程度で終了するため、それ以降に故障すると修理不能となる可能性も高まります。
ご自身の給湯器が約10年を超えている場合、突然壊れてお湯が出なくなる前に計画的な交換を検討することをおすすめします。例えば設置後12~13年が経過し最近調子が悪いと感じるなら、修理より交換を優先した方が結果的に安心・安全です。交換費用は機種や状況によりますが、号数(給湯能力)を大型のものに変更したり、省エネ高効率タイプ(エコジョーズ等)に変更したりする場合は、追加工事費(配管の改修や排水設備追加等)が発生する可能性があるので注意が必要です。見積もりを依頼する際には現在使用中のタイプを伝え、追加費用の有無を確認するようにしましょう。
給湯器交換でトラブルを防ぐための管理規約整備と手続き
給湯器交換に伴うトラブルを未然に防ぐには、管理規約や細則で手続きルールを明確に定め、区分所有者がそのルールに従って事前申請・適切な工事を行うことが重要です。専有部分の工事とはいえ共用部分に設置された設備の交換作業である以上、管理組合への届出や近隣への配慮を欠かさないことが円滑な工事の鍵となります。
マンションで実際に起こりがちなトラブルとしては、「居住者が管理組合に無断で給湯器を交換してしまい、工事音や作業方法を巡って苦情・揉め事になる」、「勝手に能力の大きな機種に変えたため共用配管に負荷がかかる恐れが指摘される」等が挙げられます。
しかし、これらの多くは事前に管理規約上のルールを整備し、周知・徹底することで回避可能です。実際、マンションでは専有部分工事に関する細則を定めて事前申請を義務付けたり、工事ルール(時間帯や業者の資格要件など)を明文化したりすることで、給湯器交換時にありがちなトラブルを予防しています。管理規約上は専有部分に属する給湯器も、「物理的に共用部に設置される以上、規約に則った手続きやマナー遵守が必要だ」という考え方が重要です。
トラブル防止のために管理組合が講じるべき具体策を以下にまとめます。
事前申請と承認のルール化
管理規約や使用細則に「給湯器等の専有部分設備を交換・改修する際は事前に所定の申請書を提出し、理事会の許可を得ること」と定めます。申請書には工事内容や日程、依頼業者、共用部分への影響などを記載させ、「万一工事により共用部分に不具合を生じた場合は原状回復する」等の誓約事項も盛り込んでおくと安心です。あらかじめ申請書フォーマットを用意し、管理事務室や掲示板で周知しておけば、居住者も手順が分かりやすくスムーズに申請できます。
工事ルールの明確化
給湯器交換工事の作業可能時間帯やマナー、業者選定基準を明文化しましょう。例として「工事は平日○時〜○時まで(夜間早朝・休日の作業は禁止)」「騒音を伴う作業は事前に管理組合へ届け出」「交換業者は所定のガス工事資格を有すること」等です。これらのルールを細則に定めて周知すれば、不要なトラブルを減らせます。
近隣への周知と配慮
給湯器交換の工事日が決まったら、管理人経由で掲示板に告知したり、隣接住戸へ個別に「○月○日○時頃に◯◯号室で給湯器交換工事を行います。騒音等ご迷惑おかけしますがご了承ください」といった通知を配布したりします。工事当日は防音シートの設置や養生の徹底など、共用部や近隣への配慮を業者にも求めましょう。
統一仕様の維持
外観や性能に関するルールも遵守させます。例えば「給湯器の色は外壁と調和した○色系に限る」「号数アップは禁止(または要承認)」など、管理規約で決められた制限がある場合は申請時に必ず確認します。必要に応じてメーカーに特注塗装を依頼するなど、マンション全体の美観・機能に影響が出ないよう調整しましょう。
修理・交換履歴の共有
管理組合で各住戸の給湯器交換履歴や保証書情報を把握・共有しておくと、将来の修繕計画に役立ちます。また、理事会で推奨業者リストを用意し、入居者が安心して相談・依頼できる窓口を示す取り組みも有効です。さらに、必要に応じて老朽化した給湯器の一括交換(希望者を募ってまとめて交換するなど)を検討すれば、割引により費用負担軽減や急な故障リスクの低減も期待できます。
マンションの給湯器交換では専有部分と共用部分の境界を正しく理解し、費用負担の原則を踏まえて適切なルールとコミュニケーションを図ることが大切です。区分所有者は自分の給湯器に責任を持ち、管理組合は安心・公平に工事が進む環境を整えることで、給湯設備を長く安全に維持することができるでしょう。
給排水設備等修繕の支援サービス「スマート修繕」
- 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- 給排水工事では、専有部含め多数、約600戸 多棟型マンションでの実績もあります。社内にはゼネコン、デベロッパー、修繕コンサルティング会社、修繕会社、管理会社出身の建築士、施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
- 事業者からのマーケティング費で運営されており、見積支援サービスについては最後まで無料でご利用可能です。更新工事/更生工事(含むFRP)それぞれに強みを持つ紹介事業者は登録審査済でサービス独自の工事完成保証がついているため、安心してご利用いただけます。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
.png&w=640&q=75)
遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
24時間対応通話料・相談料 無料





.png&w=3840&q=75)
