工場エレベーターのリニューアルガイド|成功させるコツ・コストダウン方法を紹介
更新日:2025年06月29日(日)
この記事では、工場エレベーターの概要からリニューアル方法、成功させるためのコツ、さらにはコストダウンの方法まで、専門情報と公的機関のデータを交えながら詳しく解説します。工場に設置されているエレベーターのリニューアル計画の参考にしてください。
- 本記事のポイント
- 工場エレベーターの法的な位置づけや構造的特徴がわかる。
- 全撤去・準撤去・制御リニューアルそれぞれの工法と費用感を把握できる。
- リニューアル費用を抑えるための実践的な方法を学べる。
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工場エレベーターとは?
工場エレベーターとは、工場や倉庫などで荷物の上下搬送を主目的とするエレベーター(荷物用昇降機)のことです。人を乗せる一般的なエレベーターとは異なり、荷物用エレベーターは荷物の輸送が目的であり、荷扱いを行う作業者やエレベーターの操作員以外の利用は禁止されています。法律上も位置づけが異なり、建築基準法では「人または人および物を運ぶ昇降機」の一種として規定され、かご(箱)の床面積が1㎡を超えるか高さが1.2mを超えるものがエレベーター(荷物用を含む)と定義されています。一方、かごが極めて小さいもの(1㎡以下かつ高さ1.2m以下)は「小荷物専用昇降機(ダムウェーター)」として区別されます。
また、工場内のエレベーターは労働安全衛生法の適用対象にもなります。労働安全衛生法では「工場などに設置されるエレベーター(一般公衆のために使用されるもの以外)で、積載荷重が0.25トン以上のもの」をエレベーターと定義しており、これに該当する設備は年1回の性能検査を受けることが義務付けられています。つまり、工場や倉庫で使われる荷物用エレベーターは、建築基準法に基づく昇降機検査だけでなく、労働安全衛生法に基づく定期検査・届出も必要となる厳格な管理下に置かれています。荷物を大量に運搬できるよう大型で高耐久に作られている反面、安全確保のための法的要件が多く存在するのが特徴です。
以上のように、工場エレベーターは荷物専用エレベーターとして法規上特別な扱いを受けており、高い積載能力・耐久性を備えています。その反面、老朽化すれば故障や事故のリスクが増すため、安全で効率的な運用のためには定期的なメンテナンスと適切な時期でのリニューアルが欠かせません。
工場エレベーターのリニューアル方法
工場エレベーターのリニューアルには、主に3つの方法があります。ここでは「全撤去リニューアル」「準撤去リニューアル」「制御リニューアル」という3種類の工事方式について、それぞれの概要と特徴を説明します。リニューアルの計画を立てる際には、自社のエレベーターの状態や予算、工期の制約に応じて最適な方式を選択することが重要です。
全撤去リニューアル
全撤去リニューアルとは、現在使用しているエレベーターに関連する機器類をすべて撤去し、新品のエレベーター設備一式に置き換えるリニューアル方式です。まさにエレベーターを丸ごと新設し直す方法であり、全て新品に更新するため、最新の建築基準法や安全基準に完全適合させることができ、古いエレベーターが抱えていた既存不適格(旧基準に適合していない点)も一挙に解消できます。また耐用年数もリニューアル方式の中で最も延びるため、今後長期間にわたり安心して使用できるメリットがあります。
全撤去リニューアルを行う際には建築確認申請の手続きが必要になる点にも注意が必要です(エレベーターを新設するのと同様の扱いとなるため)。費用の相場はエレベーター1基あたり約1,500万~2,000万円を超えるケースも多く、3つの工法の中ではもっとも高額です。また、エレベーターの停止期間が長期に亘るというデメリットもあります。
準撤去リニューアル
準撤去リニューアルは、エレベーターの構造のうち建物に固定されている一部の機器(乗場出入口の三方枠や敷居など)を既存利用し、それ以外の主要機器(かご本体、釣合おもり、巻上機、制御盤等)を新しいものに入れ替えるリニューアル方式です。エレベーター本体の骨組みにあたる部分は残すため、全撤去に比べて工期を短縮できます。
費用相場は1基あたり約1,200万~1,700万円程度と、全撤去より低コストに抑えられます。既存の構造物を活かすことで廃材も減り、環境負荷の低減にもつながります。また、建物への取り付け部分を変更しないため、大規模な建築付帯工事(例えば囲いの補修等)が不要なのもメリットです。
一方で注意点として、残された古い機器があるために最新基準への完全適合とならず既存不適格のままになる場合があることが挙げられます。準撤去リニューアルでは、どの部品を既存利用し、どの部品を新調するかを専門家と十分に検討し、安全性とコストのバランスを取ることが大切です。
制御リニューアル
制御リニューアルは、エレベーターの制御関連機器(制御盤、巻上モーター、各種センサー類など)を中心に新しい部品へ交換・改良する部分リニューアル方式です。エレベーターのかご本体やレール、昇降路枠といった機械的構造部分はそのまま残しつつ、心臓部である制御系を刷新することで安全性・快適性を向上させます。作業範囲が限定的であるため工期は最も短く、通常1週間程度で工事が完了します。建築基準法上の手続きも新設扱いとはならず、確認申請は原則不要です。
費用相場は約600万~1,000万円程度(1基あたり)と、他の方式に比べて大幅に安価です。経年劣化しやすい電気制御部品の交換が主体のため、予算が限られる場合でも採用しやすい方法と言えます。また短期間で済むため、エレベーターが長く止まることによる業務影響(工場稼働への支障)も最小限に抑えられます。ただし制御リニューアルの弱点は、エレベーターの構造部分や駆動部分など元の機器の多くが残存する点にあります。そのため現行法規に適合していない「既存不適格」の状態は解消されません。
例えば、古い油圧式エレベーターの場合、メーカー系では制御リニューアルを受け付けずロープ式への丸ごと更新(撤去リニューアル)しか提案されないこともありますが、独立系の施工会社では油圧式のまま制御リニューアルを行いコストを大幅に削減しているケースもあります。制御リニューアルを検討する際は、こうした選択肢も含めて専門業者に相談し、自社設備の状態や今後の利用計画に照らして適切なリニューアル範囲を見極めることが重要です。
以上、3つのリニューアル方法には工期・費用・効果にそれぞれ特徴があります。例えば「生産ラインをなるべく止めたくない」「限られた予算で安全装置だけ付加したい」といった工場側の要望に応じて、最適な方式を選ぶことができます。実際、設置30年超の古い油圧式エレベーターを制御リニューアルで更新し、地震時管制運転装置など安全装置を追加した上で、工場の夏季休暇(お盆)期間10日間で工事を完了させた例もあります。このように自社の事情に合わせた手法を選択することで、工場エレベーターのリニューアルを効率的かつ効果的に実施することが可能です。
工場エレベーターのリニューアルを成功させるコツ
工場エレベーターのリニューアル工事を円滑に進め、望んだ効果を確実に得るためにはいくつかのポイントを押さえておく必要があります。ここでは、特に重要な3つのコツについて説明します。
その1 工事費用の適切な相場を調べる
エレベーターリニューアルの適切な相場を把握することは、過剰な出費を避け、適正価格での契約を実現するために不可欠です。一般的な制御リニューアルの場合、1基あたり約600万円から1,000万円程度が相場とされています。
国土交通省が公表している「昇降機の適切な維持管理に関する指針」では、保守点検業者の選定に当たって価格のみによって決定するのではなく、専門技術者の能力や業務実績を総合的に評価するよう指導しています。この指針は、適正な価格設定の重要性を示しており、極端に安い見積もりには注意が必要であることを示唆しています。
エレベーターリニューアル工事において、仕様の見直しと工事コストの細分化により大幅なコストダウンが可能とされています。費用相場を適切に把握し、専門的な検討を行うことで効果的なコスト削減につながります。
その2 複数の事業者から見積もりを取得する
リニューアル工事の見積もりは必ず複数の業者から取得し、内容と金額を比較検討しましょう。
エレベーター工事の価格は業者によって大きな差が出ることがあります。特に、エレベーターメーカー系列の保守会社と独立系のエレベーター工事会社では、提示される金額に2倍以上の開きが生じるケースもあります。一社だけの見積もりでは適正価格か判断できず、割高な契約を結んでしまうリスクが高まります。また、複数社の提案を比べることで、より良い工事方法やサービス内容を選択できるメリットもあります。
少なくとも2~3社以上から見積もりを取りましょう。既存のメンテナンス契約会社(メーカー系が多い)だけでなく、独立系の昇降機リニューアル専門業者にも声をかけるのがポイントです。独立系企業はメーカーのように開発コスト等がかからない分、安価にリニューアルできます。見積もり依頼時には、各社に同じ条件・要件で伝えて比較しやすくすることが大切です。複数見積もりを取得したら、総額だけでなく内訳明細や提案内容も精査し、不明瞭な項目は問い合せて確認します。その上で信頼性・実績・アフターサービスも考慮しつつ、総合的に最適な業者を選定しましょう。
その3 専門家に相談する
エレベーターのリニューアル計画は、経験豊富な専門家(エレベーターコンサルタントや専門業者)に相談するのが近道です。エレベーターは高度な専門分野であり、素人判断で工事内容を決めたり業者交渉を行ったりすると、重要な見落としや不利益が生じる可能性があります。専門家であれば、最新の法規制や技術トレンドにも精通しており、必要な工事と不要な工事を適切に見極めてくれます。また、第三者的な立場から複数業者の見積内容を比較評価し、発注者側の利益を最大化するサポートをしてくれます。
実際に専門コンサルタントが介入することで大幅なコスト削減に成功した例は多く、専門家が関与しなければ高額な見積もりをそのまま受け入れていた可能性があるところ、プロの目で過剰な仕様や不要な費用をカットすることで適切な金額でのリニューアル工事を実現することにつながります。また、一般社団法人日本エレベーター協会も「高度で広範な専門知識を持った専門技術者による定期的かつ適切な保守点検」が安全確保に不可欠であると強調しており、リニューアル工事についても専門家の助言を仰ぐ意義は大きいと言えます。
工場エレベーターのリニューアル工事にかかるコストダウン方法
老朽化エレベーターの更新には多額の費用がかかりますが、いくつかの工夫でコストダウンを図ることも可能です。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
工事仕様の最適化(必要十分主義)
コストダウンの鍵は、工事の仕様を最適化することです。安全性に関わる部分は確実に最新化しつつ、過剰な高機能や不要な内装仕様を省きます。例えば荷物用エレベーターであれば、乗用のような豪華な内装や高速運転性能は必ずしも必要ありません。耐荷重や安全装置は確保しつつ、内装仕上げはシンプルなステンレス張りとする、照明も標準的なLEDで十分、といった割り切りが可能です。実際、ある現場では耐震性能のグレードや内装コストを見直し、必要最低限の仕様に絞り込むことで大幅な工事費削減に成功しています。自社にとって何が必須なのかを明確にし、見積もり取得段階で業者に伝えることで、無駄のないコスト設計ができます。
工事時期・方法の工夫
工場操業への影響を減らしつつコストも抑えるには、工事時期と方法の工夫も有効です。例えば前述のように工場の長期休暇(年末年始やお盆)を利用して短期集中工事を行えば、代替手段の手配費用など追加コストを低減できます。また、メーカー提案では古い油圧式をロープ式へフル更新と言われた場合でも、独立系業者なら油圧式のまま主要部品のみ交換する工法を提案してくれることもあり、結果的に費用を大幅に節約できます。複数の選択肢を比較検討し、最も経済的な工事プランを選ぶことがコストダウンにつながります。
公的補助金・助成金の活用
国や自治体にはエレベーターの安全対策改修に対する補助制度があります。例えば国土交通省は「エレベーターの防災対策改修事業」として、戸開走行保護装置や地震時管制運転装置など安全向上のための改修に対し、工事費用を補助する制度を設けています。地方自治体でも類似の補助があり、条件を満たせば数百万円規模の補助金を受けられる可能性があります。リニューアル計画時には該当する補助制度がないか情報収集し、申請手続きを行いましょう。補助金の活用は直接工事費を減額する方法の一つです。
以上のような施策を組み合わせることで、工場エレベーターのリニューアル費用を賢く抑えることが可能です。特に仕様見直しには専門的な知見が必要となるため、専門家や経験豊富な業者の協力を得て進めるのが確実でしょう。
まとめ:専門家に相談するのが近道
工場エレベーターのリニューアルは、安全性向上と業務効率化の両面で大きなメリットがありますが、計画・実施には多くの知識と判断が求められます。本記事で解説したように、
法令を踏まえた適切な更新時期(目安20~30年)の見極め
予算内で最大効果を出す工法選択(全撤去/準撤去/制御の比較)
相場調査と複数見積もりによる適正価格の確保
仕様最適化や補助金の活用によるコスト圧縮
といったポイントを押さえることが成功のカギとなります。そして何より、これらを的確に進めるためには信頼できる専門家に相談することが近道です。専門家は最新の法改正動向(耐震基準強化や新技術)にも精通しており、安全面で妥協せずにコストを削減する提案をしてくれます。日本エレベーター協会も、エレベーターの安全確保には専門知識を持つ技術者による適切な対応が不可欠だと述べています。
工場設備管理者の方々におかれましては、自社単独で抱え込まず、ぜひ公的機関の情報提供窓口や実績豊富なリニューアル業者にコンタクトを取ってみてください。きっと最適な解決策が見つかるはずです。
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- エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者

坂本 高信
独立系最大手のエレベーター会社にて、営業現場および管理職として18年間従事。リニューアル、保守、修繕といった複数の部署で実務経験を積み、営業部長などの管理職も歴任。多様な案件を通じて、エレベーターの運用と維持に関する専門知識を培う。その豊富な現場経験を活かし、エレベーターリニューアルに関する実用的かつ現実的な視点から記事を監修。