エレベーターの作動油交換とは?気になる費用や時期、工事の注意点を解説
更新日:2025年05月31日(土)
エレベーターの安全性と快適な運行を維持するためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。国土交通省の標準契約書でも「保守」とは清掃や注油、消耗品(オイル等)の補充・交換を行うことと定義されており、法令に基づく定期点検を怠れば罰則の対象にもなります。こうした保守点検項目の中で、油圧式エレベーターに特有の重要な作業が「作動油」(油圧作動油)の交換です。一般にはあまり馴染みのない作業かもしれませんが、エレベーターの寿命や安全運行に大きく関わっています。 本記事では、マンションの管理組合やビルオーナーの皆様向けにエレベーターの作動油交換について解説します。作動油とは何か、交換にかかる費用の目安、交換が必要となる時期や段取り(手順)、そして工事実施上の注意点までポイントを網羅します。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
エレベーターの作動油とは?(油圧式とロープ式の違い)
エレベーターの「作動油」(作動油)とは、油圧式エレベーターで昇降の動力を伝えるために用いられる油(油圧ポンプ用オイル)のことです。油圧ジャッキ(シリンダー)と油圧ポンプから構成される油圧式では、この作動油をポンプで加圧・循環させて昇降機(かご)を上下させます。いわばエレベーターの血液のような存在で、作動油の状態がエレベーターの動作や耐久性に直結します。
一方、ロープ式(巻上機式)エレベーターでは電動機とワイヤーロープによってかごを巻き上げるため、昇降用の油圧作動油は使われません。ロープ式でも巻上機ギヤの潤滑油(ギヤオイル)などオイル類は存在しますが、その役割は歯車の摩耗軽減や冷却であり、油圧式の「作動油」とは目的も性質も異なります。巻上機のギヤオイルは一般的に2~3年に一度交換が推奨される消耗品ですが、油圧式エレベーターの作動油は昇降の動力伝達そのものを担うため、劣化すると運行性能や安全性に深刻な影響を及ぼします。
作動油は時間の経過や使用頻度に応じて徐々に劣化・汚染していきます。ポンプの動作熱や金属摩耗粉、水分混入などにより油の性質が変化し、粘度低下・酸化・異物混入といった問題が生じます。その結果、油圧弁の動作不良やポンプの性能低下を招き、エレベーターの挙動に不具合(例えば上下動作の速度低下、停止位置のずれ等)が発生する可能性があります。実際、作動油が汚れたまま放置されると「乗り心地が悪くなる」「油圧バルブが目詰まりしてエレベーターが停止する」等の不具合につながりかねないと指摘されています。こうしたリスクを防ぐため、油圧式エレベーターは約10年を目安として作動油を新しい油と交換する必要があります。
エレベーターの作動油交換に要する費用
作動油の交換費用は、エレベーターの種類や規模、必要な油量によって大きく異なります。家庭用の小規模なエレベーターであれば比較的負担は軽く済む場合が多い一方、マンションやビルなどに設置されている業務用エレベーターでは使用量が多くなるため、交換にかかる費用もその分高くなる傾向があります。金額の目安として約50万円~150万円(税別)で作動油の量で異なります。
たとえば家庭用のホームエレベーターでは、必要な油の量も限られているため、費用も一定の範囲に収まることが一般的です。これに対して、業務用や中高層の建物に設置された油圧式エレベーターでは、使用される油の量が非常に多く、工事費や作業の手間も加わるため、費用が大きく変動する場合があります。
このように、作動油の交換費用はエレベーターの設置環境や構造によって大きく異なるため、実施を検討する際は、現地調査や見積もりを通じて正確なコストを把握することが重要です。
費用内訳の主な要素は、新油(作動油そのもの)の材料費、古い油の回収・処分費用、そして作業工賃(人件費)です。新しい油の価格はメーカー純正品だと20リットル缶1本あたり数万円しますが、独立系の保守業者では同等規格の油をより安価に調達できる場合もあります。人件費については、通常2~3名の技術者が数時間かけて作業することになるため、その作業時間分の費用が発生します。交換作業では「基本フラッシング(油圧回路内の洗浄作業)」を伴います。また使用済み油の廃棄は産業廃棄物処理となり専門業者での処分費用がかかるため、その分も見積もりに含まれます。
こうした作動油交換の費用は保守契約の内容によっても異なります。フルメンテナンス契約であれば契約内で定められた部品交換に含まれ追加費用が発生しない場合があります。一方、POG契約(消耗品の交換・補充は含むが部品修理は別料金の契約)の場合、オイルやグリースなどの消耗品交換は保守料に含まれているケースもあります。実際の契約条件を確認し、別途費用が必要かどうかを把握しておくことが大切です。
いずれにせよ、「油交換が必要だが費用が適正かわからない」と感じた場合には、複数の保守会社から見積もりを取り比較検討するのが望ましいでしょう。作動油交換を先延ばしにして劣化を放置すると、バルブやポンプなど高額部品の故障につながり、結果的に交換費用以上の修理費が後日発生しかねません。適切な時期に適正な費用で油交換を実施することが、長い目で見ればコスト面でも有利といえます。
エレベーターの作動油交換が必要になる時期
油圧式エレベーターの作動油交換の目安は一般的に「約10年に一度」とされています。ただし、使用頻度や設置環境によって適切な交換周期は異なるため、多くの場合は約10年を目安に作動油の性状検査を実施し、劣化状況に応じて交換を判断します。また、パッキンはおよそ5年ごとに交換することが一般的です。さらに、設置から約20年を目安にバルブのオーバーホールが推奨されており、これを行わないと停止故障や油の詰まりによるトラブルのリスクが高まります。
この5年という目安は、作動油における粘度の変化や酸価(油中の酸化物質の量)などの劣化兆候が現れやすいタイミングとされているためです。状態を正確に把握するには、定期的なオイル分析を行い、基準値を超えた場合は速やかに交換することが望まれます。
もっとも、適切な交換タイミングは一律ではありません。実際の現場では「○年経過したから必ず交換」ではなく、油の汚れ具合や性能低下の有無を見極めて判断することになります。定期点検時には油圧ユニットの油量や油の色・臭いなどを確認し、乳白色に濁っていたり黒く異臭がする場合は劣化のサインとして交換が必要と判断されます。例えば、水分が混入すると油が乳化して白濁しますし、酸化が進行した油は黒褐色に変色して焦げたような臭いを発します。また透明な油でも微細な黒い粒子(スラッジ)が沈殿・浮遊している場合は異物混入が疑われ、そのままでは弁の動作不良を招くためフィルターろ過や油交換が推奨されます。作動油が黒く変色し沈殿物が見られる状態では、既に油圧機器への悪影響が懸念されます。「何年経ったか」だけでなく、「油が劣化しているか」が重要です。日頃から保守点検担当者と相談し、油の劣化度合いやメーカー推奨時期を踏まえて最適な交換タイミングを計画立てることが肝要です。
交換工事の段取り
作動油の交換作業は専門業者によって計画的かつ安全に行われます。その一般的な段取り(手順)は次のとおりです。
1.エレベーターの停止・養生
まず交換作業を行うためにエレベーターを停止させます。作業員の安全確保のため、かごを最下階または指定の位置に停止させ電源を切り、誤作動で動かないようにします。乗場入口に作業中の張り紙をするなど、利用者が誤って乗ろうとしない対策も講じます。
2.古い油の抜き取り
油圧ユニットのタンクから古い作動油をポンプ等で吸引し、タンク内の油を可能な限り抜き取ります。油圧配管やシリンダー内に残った油も、可能であればエア抜き弁等を使って排出します。抜き取った廃油は漏斗を使って廃油容器に移し、産業廃棄物として回収します。
3.タンク内およびフィルター類の清掃
油を抜いた後、油圧タンク内部に付着したスラッジ(沈殿物)や汚れを清掃します。必要に応じてタンクを開放し、ウエス(油拭き取り布)や洗浄液で内部を拭き取ります。同時にサクションフィルターやストレーナーなど油系統のフィルター類も点検し、汚れていれば清掃・交換します。メーカーによっては5年程度でフィルター交換を推奨している場合もあり、このタイミングで新品に取り替えることが望ましいでしょう。
4.新しい作動油の注入(必要に応じフラッシング)
タンクやフィルターが綺麗になったら、指定グレードの新油をタンクに注入します。ポンプのオイルゲージで適正油位になるまで充填し、必要なら配管内にも充分行き渡らせます。一度に全量を入れず、フラッシング(洗浄)用として一部の油を循環させて汚れを浮かせてから排出し、改めて新油を補充することもあります(劣化がひどい場合の工程)。最終的に指定量の作動油を満たし、油面計が適正位置にあることを確認します。
5.試運転とエア抜き
新しい油を入れ終えたら、油圧ユニットのエア抜き作業と試運転を行います。ポンプを動かしてシリンダー内に油を送り、上下動作を数回繰り返して配管内の空気を抜きます。かごを最上階・最下階まで動かし、停止位置にずれがないか、動作音や振動に異常がないかを確認します。最後に油漏れ箇所がないか各接続部を点検し、問題がなければ作業完了です。作業時間はエレベーターの規模にもよりますが、おおむね2~3時間程度で完了するケースが多いようです。作業後はエレベーターを通常運転に戻し、利用者に開放します。
以上が一般的な段取りですが、機種や現場状況によって多少手順が増減することがあります。例えば、大容量の油が必要な場合は油を温めて粘度を下げてから抜き取る、交換後に油圧シリンダーのパッキン類から漏れがないか長時間テストする、など追加の措置を取る場合もあります。
工事を検討する時の注意点
エレベーターの作動油交換を行う際には、以下のような注意点に留意する必要があります。安全かつ確実に作業を完了させ、トラブルを防ぐために重要なポイントです。
注意点1:適切な油種の選定とフィルター管理
交換用の油は必ずエレベーターメーカー指定の規格品を使用します。作動油には粘度グレードや添加剤の種類などいくつかの種類があり、誤った油を入れると油圧弁の動作不良やポンプの損傷を招きかねません。メーカー指定以外の油を用いることは取扱説明書でも禁止されています。保守業者が信頼できる適合油を使っているか確認するとともに、異なる種類の油を混ぜないよう注意しましょう。
また、フィルター類の交換・清掃も忘れてはならないポイントです。せっかく新油に入れ替えても、油圧ユニット内のストレーナーやフィルターが目詰まりしていては新油がすぐ汚れてしまい、性能低下の原因となります。メーカー資料によれば、一部機種のフィルターは5年程度で交換が必要とされており、より目の細かい200メッシュのフィルターへの交換が推奨されています。現場でも油交換と同時にフィルターの点検・交換をセットで実施するのが一般的です。特に長年フィルター交換をしていない場合は、新油充填前に新品交換し、古い油分を含んだろ材は廃棄してしまう方が安全でしょう。
注意点2:工事計画と安全対策の徹底
作動油交換工事を行う際は、計画的なスケジュール設定と安全管理の徹底が重要です。エレベーターを停止させる必要があるため、利用者への影響を考慮して利用が少ない時間帯に計画したり、事前にアナウンスを行っておく配慮が求められます。例えば、オフィスビルであれば深夜や休日、マンションであれば日中の人の出入りが少ない時間帯に作業を実施するなど、できるだけ利用者の支障が少ないタイミングを選ぶとよいでしょう。作業自体は2~3時間程度で完了する場合が多いものの、万一の予備時間も含め半日程度はエレベーターが使えない計画で周知しておく方が安心です。
安全対策の面では、専門資格を持ったエレベーター技術者に作業を任せることが絶対条件です。作動油の交換作業時には適切な油の選定やフラッシング作業、エア抜きなど高度な知識と経験が要求され、素人判断で行うのは大変危険です。作業員は必ず複数名で行動し、油圧ユニット周辺の火気厳禁(油は可燃物のため)や、エレベーターが誤作動しないための電源遮断・標識設置などの措置を講じます。万一に備えて油受け用のオイルパンや消火器を用意するなど、現場のリスクに応じた安全管理を徹底することが大切です。作業当日はエレベーターの使用を制限し、関係者以外が機械室や作業エリアに立ち入らないよう協力しましょう。
注意点3:廃油の適切な処理と環境への配慮
交換作業で発生した使用済みの油(廃油)は産業廃棄物として適切に処理しなければなりません。油圧エレベーターから抜き取った大量の油は産業廃棄物の「廃油」として収集・運搬し、専門の処理業者によって処分されます。廃油の引き取りや処理が不十分だと、環境汚染の原因となるだけでなく廃棄物処理法違反となり罰則を受ける可能性もあります。
環境面への配慮としては、万一作業中に油が床やピットにこぼれた場合の対応も含まれます。油圧エレベーターのピット(最下部の穴)に油が溜まってしまった場合、油交じりの水などは産業廃棄物として吸引回収し、高圧洗浄で清掃する必要があります。作動油は植物油ではなく鉱物油が主成分のため土壌や水への影響が大きく、環境中に漏らさないことが大前提です。交換作業前にオイルトレイやシートで養生を行い、万一の漏洩にも備えておくと安心です。使用済みのウエス(油拭き取り布)も産業廃棄物となるため、作業終了後は油と合わせて回収・処分してもらいましょう。
まとめ:適切な見積もりを取ろう
油圧式エレベーターの作動油交換は、安全なエレベーター運行を支える重要なメンテナンス項目の一つです。作動油の状態を良好に保つことで、昇降動作の安定や乗り心地の維持、機器寿命の延長につながります。逆に交換を怠れば、油の劣化によって弁やポンプの不具合が生じ、思わぬ事故や高額な修理につながるリスクがあります。定期点検時に油の状態チェックを欠かさず、適切な時期に計画的な交換を実施することが肝要です。
メーカーや保守会社から交換の提案を受けた際には、今回解説したポイント(油の役割・重要性、費用相場、交換時期の妥当性、注意点など)を踏まえて検討しましょう。見積もりを取得する際は、費用内訳(油代・作業代・廃油処理代等)が明確か確認し、不明点は遠慮なく質問します。また可能であれば複数社から相見積もりを取り、価格とサービス内容を比較すると安心です。国土交通省登録の昇降機等検査員やメンテナンス資格者が在籍する信頼性の高い業者に依頼することで、結果的に安全面でもコスト面でもメリットを得られるでしょう。
エレベーターは人命を預かる重要インフラです。適切なメンテナンスを継続することで、故障の予防や省エネ運転にもつながります。ぜひ本記事の情報を参考に、油圧式エレベーターの作動油交換について納得できる適正な見積もりを取った上で実施してください。定期的な作動油交換を含む計画的な保守管理によって、利用者にとって安心・快適なエレベーター環境を維持していきましょう。
エレベーター等修繕の支援サービス「スマート修繕」
- 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- エレベータのリニューアル工事の支援実績は多数(過去1年で数百基、2025年2月現在)。特殊品である高速、油圧、リニア、ルームレスの実績もあり、社内にはエレベーター会社、ゼネコン、修繕会社など出身の施工管理技士等の有資格者が多数いますので、お気軽にご相談ください。
- 事業者からのマーケティング費で運営されており、見積支援サービスについては最後まで無料でご利用可能です。大手ゼネコン系を含む紹介事業者は登録審査済でサービス独自の工事完成保証がついているため、安心してご利用いただけます。
電話で無料相談
24時間対応通話料・相談料 無料
Webから無料相談
専門家に相談する
こちらもおすすめ
本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
.png&w=640&q=75)
遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者