エレベーターの巻き上げ機交換の進め方|費用や寿命、業者選定のコツ
更新日:2025年05月12日(月)
マンション管理組合やビルオーナー、施設管理者にとって、エレベーターの安全性と信頼性を維持することは重要な責務です。エレベーターの巻き上げ機交換は、その安全性を確保し老朽化による故障や事故を防ぐために避けて通れない課題です。 巻き上げ機(モーターや駆動装置)が古くなると故障や閉じ込め事故のリスクが高まり、万一事故が発生すれば管理者の責任問題にもなりかねません。さらに、安全基準の法改正によって新たな安全装置の設置が義務化されると、古いエレベーターは最新基準を満たさない既存不適格の状態になるため、交換を適切に検討することが求められます。 本記事では、エレベーター巻き上げ機交換の基礎知識から費用、寿命、工事の進め方、そして依頼時のポイントまで詳しく解説します。これからエレベーターの巻き上げ機交換を検討する方々にとって有益な情報になれば幸いです。
- 本記事のポイント
- エレベーター巻き上げ機交換の費用相場や寿命を学べる。
- 巻き上げ機交換工事の具体的な手順と停止期間の目安がわかる。
- 業者選びのポイントや補助金制度の活用方法を把握できる。
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エレベーターの巻き上げ機交換とは?
エレベーターの巻き上げ機交換とは、エレベーターの上げ下げを行う要となる駆動装置(モーターや減速機)を新しいものに取り替えることです。巻き上げ機は通常エレベーターの機械室に設置され、ワイヤーロープを巻き上げることで重量約1トンにも及ぶエレベーターのかごを上下させます。機械室がないルームレスタイプのエレベーターは昇降路内に巻き上げ機が設置されています。
巻き上げ機はエレベーターの心臓部とも言える重要部品であり、老朽化するとエレベーターの動作に支障をきたす可能性があります。例えばモーターやブレーキの劣化により動作不良が起きれば、利用者の安全に直結する重大な事故を招きかねません。
こうしたリスクを未然に防ぐために、巻き上げ機は適切な時期に新品へリニューアルする必要があります。定期的なメンテナンスを続けても限界を迎える部品であるため、エレベーターの巻き上げ機交換は安全運行のための計画的な更新工事と言えるでしょう。
エレベーターの巻き上げ機交換の費用
巻き上げ機を交換する費用はエレベーターの規模や方式によって幅がありますが、部品代だけでおおよそ数十万円から数百万円程度が目安です。巻き上げ機本体(メインマシン)の価格は参考例として約100~150万円程度が相場とされており、これに取り付け工事費や運搬費用が加算されます。実際にはエレベーターの設置場所や巻き上げ機の大きさによって費用は変動し、ビルの高さや積載量が大きいほど高性能な巻き上げ機が必要になるため費用も上振れします。
また巻き上げ機交換は単体でも可能ですが、老朽化の程度によっては他の関連機器(制御盤など)も同時にリニューアルするケースが一般的です。そのため交換範囲が広がるほど費用も増大します。例えばエレベーター主要機器をまとめて更新する制御リニューアルでは1基あたり約500万~700万円程度の費用になります。
エレベーターの巻き上げ機の寿命
巻き上げ機の寿命は一般的にエレベーターの使用開始から約25~30年程度が目安とされています。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」によれば、エレベーター設備の大規模な取替周期はおおむね30年程度とされており、実際に築25~30年を迎えた建物でリニューアル工事を行う例が多くなっています。
エレベーターの法定耐用年数(税法上の償却年数)は17年と定められていますが、適切な保守を継続することで実際の使用可能期間はさらに延ばすことも可能です。一般社団法人日本エレベーター協会によれば、高度な専門知識を持つ技術者による定期的かつ適切なメンテナンスによって故障や事故を未然に防ぎ、エレベーターの耐用年数を大幅に延ばすこともできるとされています。しかし、経年による物理的劣化や技術進歩に伴う安全基準の高度化を踏まえると、永遠に使い続けることはできません。メーカー各社も「30年も部品を持ち続けるのは難しい」として古いエレベーター部品の製造・供給終了を表明しており、部品供給停止を機にリニューアルを促進しています。
つまり巻き上げ機単体が寿命を迎えていなくとも、周辺部品の供給が絶たれれば結果的に交換せざるを得ない場合もあるのです。総じて、巻き上げ機は25~30年を一つの目安と考え、故障が本格化する前に計画的な更新を検討することが望ましいでしょう。
交換工事の進め方
巻き上げ機の交換工事を円滑に進めるためには、計画から施工まで段階的に準備を進めることが大切です。エレベーターは建物の重要インフラであり、交換工事中は利用者が階段を使わざるを得ないなど大きな影響があります。そのため、十分な事前計画のもとで信頼できる業者に工事を依頼し、停止期間を最小限に抑えることが求められます。ここでは、巻き上げ機交換工事の一般的な進め方を5つのステップに分けて説明します。
現地調査と診断の実施
まず専門業者に依頼してエレベーターの状態を詳しく調査します。巻き上げ機や制御盤など主要部品の老朽化度合いや不具合の有無を診断し、交換の必要性や緊急度を評価します。
工事計画の立案と見積もり
調査結果に基づき、どの範囲を交換・更新するか工事計画を立てます。巻き上げ機単体の交換か、制御盤等とのセット更新か、全撤去リニューアル(エレベーター全体の交換)に踏み切るかなど工法を検討します。それぞれ工期や費用が異なるため、複数社から見積もりを取り比較検討すると良いでしょう。マンションの場合は管理組合内での合意形成も必要になります。
部品の手配と準備期間
発注が決まったら、新しい巻き上げ機や関連部品をメーカーから取り寄せます。エレベーターの機種によっては部品製造に時間がかかるため、この準備期間に数ヶ月を要することもあります。また工事日程の調整や利用者への周知(掲示板でのお知らせ等)もこの段階で行います。
施工(撤去解体・設置工事)
定められた工事日にエレベーターを停止し、古い巻き上げ機の撤去と新しい巻き上げ機の据付工事を行います。巻き上げ機交換のみの場合でも安全確認や調整を含め最低数日はエレベーターを連続停止する必要があります。工事によるエレベーターの停止期間は、工法によって大きく異なりますが、一例として 全撤去リニューアルでは約45日〜90日、準撤去リニューアルは約40日〜60日、制御リニューアルは約5日~10日が目安とされています。実際の停止期間は建物の階数やエレベーター台数(複数基あれば順次施工)によって変動しますが、長期停止が避けられない場合は住民への丁寧な説明と代替手段の検討が欠かせません。
検査・引き渡し
工事完了後、新しい巻き上げ機を含めエレベーターが正常に作動するか最終検査(法定検査や行政の完了検査を含む)を実施します。ブレーキや非常用設備が適切に動作するか専門家が確認し、問題がなければ運転を再開します。施工記録や保証書類を受け取り、今後のメンテナンス計画について業者と打ち合わせを行って引き渡し完了となります。
以上が基本的な流れであり、重要なのは早めの計画着手と的確な業者選定です。古いエレベーターでは交換部品の製造中止が進んでいるため、計画段階で余裕を持ち、必要に応じて応急処置(部品修理)から本格的な更新への移行も検討しておくと安心です。
業者に依頼するときのポイント
エレベーターの巻き上げ機交換工事を業者に依頼する際には、事前準備や業者選定の段階で押さえておくべきポイントがいくつかあります。これから重要なポイントを3つ説明します。
計画と見積もりを綿密に行う
巻き上げ機交換にあたっては、まず十分な事前計画と複数社からの見積もり取得を行うことが大切です。交換範囲や工法によって費用が大きく異なるため、1社だけの提案で即決せず、複数の専門業者に現地調査を依頼して比較検討しましょう。エレベーターを製造したメーカー系の会社だけでなく、独立系のメンテナンス会社にも声をかけると選択肢が広がります。複数の提案を比較することで、部分的な部品交換に留める方法からエレベーター丸ごと更新する方法まで、それぞれのメリット・デメリットが見えてきます。
実際、メーカー各社は古いエレベーター部品の供給を打ち切ったタイミングで「必要な部品だけ交換する対応では安全第一の観点から万全でない」として、建物オーナーなどに全面的なリニューアルを促す傾向があります。確かに故障した部位のみ交換する対処療法も可能ですが、必ずしも長期的な安心が得られるとは限りません。場合によっては数年後に別の部品が寿命を迎え、結局エレベーター全体を更新することになれば数千万円規模の出費となるため、将来を見据えた計画を立てることが重要です。こうした理由から、費用面・安全面の両方を慎重に見極め、納得のいく計画を策定しましょう。
信頼できる業者を選び、充実した保守体制を確保する
巻き上げ機交換工事の成功には、経験豊富で信頼できるエレベーター業者の選定が欠かせません。業者選びの際には、これまでのリニューアル工事の実績や技術者の専門資格の有無を確認しましょう。メーカー系・独立系を問わず、エレベーター工事の経験年数が長く、似た規模の建物での施工事例が豊富な会社は安心感があります。また契約前には、工事後のアフターサービス体制もしっかりチェックすることが重要です。エレベーターはリニューアル後も定期点検や緊急対応が欠かせない設備です。万一の故障時に迅速に駆け付けてくれるか、24時間365日対応の緊急連絡体制があるか、定期点検時に詳細な報告書を提供してくれるか、といった点は重要な評価ポイントです。
また、工事後も引き続き保守契約を結ぶケースが一般的です。工事を担当した業者にそのまま保守を任せる場合は、保守契約内容(点検頻度や含まれる修理範囲)も含めて確認しましょう。もし工事業者と保守会社を分ける場合でも、引き渡し後の保証対応が明確になっているかを事前に取り決めておくことが大切です。信頼性の高い業者に依頼し充実した保守体制を確保することで、交換工事後も安心してエレベーターを運用できるでしょう。
最新の安全基準への適合と補助金制度の活用
巻き上げ機交換は、エレベーターを最新の安全基準へアップグレードする好機でもあります。単に古い部品を新しいものに替えるだけでなく、この機会に耐震・防災性能や省エネ性能の向上を図ることも検討しましょう。例えば、2009年以降に新設されるエレベーターには戸開走行保護装置(戸が開いたままかごが動いた際に自動停止させる装置)の設置が義務化されています。古いエレベーターには未搭載の場合も多いため、リニューアル工事で後付けすれば安全性が向上します。
また、大地震時に最寄階に停止・開扉して閉じ込めを防ぐ地震時管制運転装置など、最新技術による防災機能も積極的に導入したいところです。これらの安全装置の導入にあたっては、国や自治体の補助金制度が利用できるケースがあります。国土交通省は既設エレベーターの防災対策改修を促進するための補助事業を創設しており、耐震補強や安全装置の設置工事に対して1台あたり最大950万円の補助金(費用の23%相当、国費+地方費)を交付しています。補助対象には上述した地震時管制運転装置や戸開走行保護装置の設置など複数項目が含まれており、要件を満たせば大きな助成を受けられる可能性があります。こうした制度を活用することで、最新の安全基準への適合と費用負担軽減の両方を実現できるでしょう。ただし補助金は事前申請が必要で、自治体によって条件や金額が異なります。工事を依頼する際は業者とも相談の上、該当する助成制度がないか情報収集し、必要な手続きを漏れなく行うことが大切です。結果的に、最新技術を取り入れた巻き上げ機交換は利用者の安心感を高め、建物の価値維持にもつながる長期的な投資となるでしょう。
まとめ:定期点検をしよう
エレベーターの巻き上げ機交換について、概要から費用、寿命、工事手順、依頼時のポイントまで解説してきました。老朽化した巻き上げ機を適切なタイミングで交換することは、安全性確保と法令順守の観点から管理者の重要な責務です。特にマンションやビルの管理者は、長期的な修繕計画の中でエレベーター更新の時期を見据え、早め早めの準備を心がける必要があります。その際、信頼できる業者の協力を得て十分な比較検討を行い、最新の技術や制度も取り入れながら最善の選択をすることが望まれます。
最後に強調したいのは、日頃の定期点検とメンテナンスの重要性です。エレベーターは精密な機械設備であり、日常の点検・保守を怠れば劣化の進行が早まって故障や事故のリスクが高まります。定期点検で異常を早期発見できれば、巻き上げ機を含む部品交換の計画も余裕を持って立てられるでしょう。法令で定められた年次検査はもちろん、日常点検や専門業者による月例点検を確実に実施し、記録を蓄積しておくことが信頼性向上に繋がります。そして不具合の兆候が見られたら先送りせず速やかに対処し、大きな事故になる前に必要な修繕・交換を行いましょう。
定期点検の積み重ねと計画的な巻き上げ機交換によって、エレベーターは長期間にわたり安全・快適に稼働します。利用者の安心と建物の価値を守るためにも、ぜひ日頃からエレベーターの健康状態に目を配り、適切なタイミングでの巻き上げ機交換と安全対策の強化に取り組んでください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者