屋上シート防水とは?種類・施工法・費用・他防水工法との違いを徹底解説
更新日:2025年07月31日(木)
本記事では、屋上のシート防水の基本から種類・工法、他工法との比較、施工手順、費用、メンテナンスまで専門的な観点も交え解説します。
- 本記事のポイント
- 塩ビシートとゴムシートの特性・耐久性・メンテナンスの違いを明確に把握できます。
- 密着工法・絶縁工法・断熱併用工法の違いや施工適性が整理されており、適切な選択に役立ちます。
- ㎡単価や下地処理の重要性、見積チェック項目など実務で活かせる知識が身につきます。
シート防水とは?防水の仕組みと材料の基本
シート防水とは、塩化ビニル樹脂(塩ビ)や合成ゴムなどの防水シートを屋上の下地に貼り付けて一体化させ、雨水の浸入を防ぐ防水工法です。シート状の防水材を下地に敷設・固定し、継ぎ目を接合することで防水層を形成します。そのため「メンブレン防水(膜防水)」に分類され、液体を塗って固める塗膜防水や、熱工法で溶かし重ねるアスファルト防水とは異なる施工プロセスを取ります。
シート防水に用いられる主なシート素材は以下の2種類です。
塩ビシート防水(塩化ビニル樹脂系シート防水)
塩化ビニル樹脂を主成分としたシートを用います。厚さは標準1.5mm程度(高耐久仕様では2.0mm以上も)で、カラーシートも選べます。紫外線や熱に強く耐候性・耐久性に優れるため、近年最も普及しているタイプです。シート同士の継ぎ目は熱風溶接や溶剤接着によって強固に接合でき、防水層として高い信頼性があります。
ゴムシート防水(合成ゴム系シート防水)
加硫ゴム(EPDM等)を主成分としたシートを用います。標準厚さは1.2~2.0mm程度で、塩ビシートよりやや薄め・柔軟です。下地の動きへの追従性に優れ、寒暖差による収縮にもある程度柔軟に対応します。ただし素材自体の耐候性能は塩ビに比べやや劣り、表面に保護塗料(トップコート)を塗って紫外線から保護する必要があります。価格は塩ビ系より安価ですが耐久年数は短め(約10~15年)で、定期的なメンテナンス塗り替えが必要です。
なお、防水シートには他に改質アスファルトシートと呼ばれるものもあります。これはアスファルトに合成ゴムや樹脂を混ぜたシート状防水材で、複数枚を重ねて貼る工法です。改質アスファルトシート防水は材料がアスファルト系のため一般にはアスファルト防水に分類されますが、施工形態はシートを貼る点でシート防水に近い工法です。本記事では主に塩ビシートとゴムシートによる合成高分子系シート防水について解説し、必要に応じて改質アスファルトシートとの違いにも触れます。
シート防水は下地となる屋上がコンクリート造などの陸屋根(平らな屋根)に適しています。国土交通省や建築学会の仕様でも、防水シートはおおむね1/50以上の緩い勾配が確保された平屋根で用いることを想定しています。広い面積でも工場製造のシートを敷くことで均一な厚み・品質の防水層が得られ、施工者の腕による仕上がりの差が出にくいのも特徴です。そのため大面積の屋上や校舎・工場などのフラット屋根で採用されることが多く、ヘーベルハウスや積水ハウスといった大手住宅メーカーの戸建て陸屋根でも標準採用されています。
シート防水の種類と特徴(塩ビシート防水、ゴムシート防水)
屋上シート防水の代表的な種類は塩ビシート防水(塩化ビニル樹脂系)とゴムシート防水(合成ゴム系)の2つです。それぞれの特徴をもう少し詳しく見てみましょう。
塩ビシート防水(PVCシート防水)
塩化ビニル樹脂製のシートによる防水工法です。シート自体に可塑剤が含まれており柔軟ですが、耐候性・耐熱性・耐摩耗性・耐圧縮性に優れ、さらに自己消火性(火源を離すと自然に鎮火する性質)を備えています。標準的な耐用年数は約10~15年ですが、厚手仕様(例えば厚さ2.0mmで遮熱機能を持つシート)にすることで20年以上寿命を持たせる商品もあります。
塩ビシート防水最大のメリットは高耐久・低メンテナンスである点です。紫外線や雨風に強く、施工後のトップコート塗り替えが不要なため維持管理が容易です。また既存防水層を問わず上から直接かぶせて施工できるため、既存撤去の廃材処分費を削減でき環境にも優しい工法とされています。一方で、施工には高度な技術を要します。シートを現場の形状に合わせて裁断したり、役物(金属プレートや成型部材)の取り付け、シート同士の溶着(シーム溶接)作業など専門的な工程が多く、「最も技術を要する防水工法」とも言われています。そのため施工できる業者が限られ、他工法より工事単価が高めになる傾向があります。しかしながら耐久性の高さやトータルコストの安さから人気が高く、公共工事でも採用例が増えています。
ゴムシート防水(合成ゴム系シート防水)
加硫ゴム(EPDM等)製のシートによる防水工法です。シートは弾力があり下地の動きに追随しやすく、施工も比較的簡易です。塩ビシートに比べ材料価格が安価で工事費も抑えられる傾向があります。一方、耐久性は塩ビ系より低く、標準的な耐用年数は約10~15年程度です。ゴムシートは紫外線に長期間さらされると劣化(硬化や亀裂)しやすいため、保護塗料(トップコート)の塗布がほぼ必須となります。例えばシート防水の施工後、溶剤系や水性のカラートップコートを上塗りして紫外線からシートを守る処理が行われます。トップコートは5~7年毎を目安に塗り替えることで防水層を長持ちさせることができます。メンテナンスを怠ると耐用年数前でも劣化が進み、防水性能に影響する点に注意が必要です。塩ビと比べるとゴムシートは可塑剤の移行など化学的な制約が少なく、下地への接着安定性が高い利点もあります。一般に塩ビシートは可塑剤が下地の発泡スチロール系断熱材に触れると化学反応を起こすため、間に絶縁シートを敷く必要がありますが、ゴムシートではその点の心配が少ないといった違いもあります。
総じてゴムシート防水は初期コスト重視や短期間での改修に向いた工法と言えます。なお、ゴムシートにも「非加硫ゴム系(ブチルゴムシート等)」と「加硫ゴム系(EPDMシート等)」がありますが、現在主流は耐久性の高い加硫ゴム系シートです。
以上の2種類に加え、前述の改質アスファルトシート防水もシート防水工法の一種です。改質アスファルトシートはアスファルト防水に分類されますが、その特性を簡単に触れると、耐用年数は15~20年程度と長く、防水信頼性も高いため公共建築で歴史的に多く採用されてきました。ただし施工時にバーナーで炙るなど加熱処理が必要な工法もあり(トーチ工法など)、シート防水の中では臭気・煙や防火管理の面で制約がある工法です。工期や作業性は塩ビ・ゴムのシート防水に比べるとかかりますが、重厚な多層構造による安心感から長期運用を重視する建物で用いられます。
シート防水の工法(接着工法、機械的固定工法、断熱併用工法)
一口にシート防水と言っても、シートの固定方法や下地との組み合わせによりいくつかの工法があります。代表的なのは接着工法(密着工法)と機械的固定工法(絶縁工法)の2つで、必要に応じて断熱材を併用する方法も取られます。
ここではそれぞれの工法の特徴を解説します。
接着工法(密着工法)
下地コンクリート面にプライマーと専用接着剤を塗布し、防水シートを全面的に貼り付ける工法です。下地とシートが密着して一体化するため、防水層が捲れたり浮いたりしにくく、軽歩行程度の荷重にも耐えられます。下地に凹凸や段差が少なく平滑であるほど施工が容易で、仕上がりも美しくなります。ただし下地の状態に影響されやすい点に注意が必要です。もし下地に湿気が残っていると、密着ゆえにシート下面に水分が逃げ場を失い膨れ(浮き)が発生する恐れがあります。また施工後時間が経つと接着剤の劣化でシートが剥がれるリスクもわずかながらあります。こうした理由から、接着工法では下地の乾燥と清掃を十分行い、必要に応じ脱気筒(通気板)を設置して内部結露や水蒸気圧を逃がす対策が取られます。密着工法は下地撤去をほとんど要さないため改修工事にも適していますが、下地が不陸(凹凸)だとシートが密着せず施工が難しい場合があります。一般に密着工法の耐用年数目安は12~15年程度とされています。
機械的固定工法(絶縁工法)
アンカーや専用ビスで防水シートを屋上構造体に機械的に固定する工法です。下地に接着しないため「絶縁工法」とも呼ばれます。具体的には、まず下地コンクリート上に不織布などの緩衝・絶縁シートを敷設し、その上から防水シート本体をかぶせます。シート端部や所定の位置にシート押さえ用の金属プレートとビスを打ち込み、機械的にシートを固定します。固定箇所は次のシートの重ね代で覆い隠し、最終的にシート同士を溶接して継ぎ目を止水します。
この工法ではシートと下地の間に隙間があるため、下地の亀裂や動きが防水層に直接影響しにくい利点があります。万一下地から湿気が上がってきてもシート下を通気でき、部分的な膨れが生じにくい構造です。機械固定工法は下地の撤去や乾燥調整をそれほど要さないため改修工事に最適とされています。耐久性も高く、標準的な耐用年数は15~18年程度と密着工法より長持ちです。ただし、ビス留め部分への風圧力を考慮した設計・施工が重要になります。メーカー各社の仕様では立ち上がりや端部は金属押さえ金具で固定し、シーリング処理してシート端末の捲れを防止することが定められています。また固定間隔は建物高さや立地の風圧を計算して決定し、必要本数の固定金具を配置することで強風対策を行います。機械固定工法も改修の際に既存防水を撤去せず上から施工できるため、工期短縮とコスト削減のメリットがあります。一般に機械的固定工法の費用相場は接着工法と同程度かやや高めですが、耐用年数が長い分ライフサイクルコストでは遜色ありません。
断熱併用工法(断熱絶縁工法)
防水シート施工時に屋上の断熱材を組み合わせる工法です。近年、省エネや室内環境向上のため防水改修と同時に断熱性能を高めるケースが増えています。断熱併用工法では、下地コンクリート上に硬質ウレタンフォームや押出法ポリスチレンフォームなどの断熱材ボードを敷設し、その上に防水シートを施工します。断熱材は接着剤またはビスで固定し、その上にシートを被せて接着 or 機械固定します。機械固定工法の場合は断熱材ごとビスで留め付けることで固定し、塩ビシートの場合は断熱材が可塑剤で劣化しないよう間に防護シートを挟む措置が推奨されています。断熱材を入れることで屋根の断熱性が向上し、トップライトや屋上の温度上昇を抑えて建物の省エネ効果が得られます。一方、コストは断熱材材料費と施工手間が加わる分だけ上昇します。概算では断熱無しのシート防水が㎡単価5,000~7,000円程度に対し、断熱併用では㎡あたり数百~数千円程度の追加が見込まれます(断熱材厚みによる)。ただ、断熱工法により夏季の熱負荷低減や結露防止効果も期待でき、建物の快適性・長寿命化に資するため、トータルではメリットの大きい工法と言えます。
メリットとデメリット(施工性、耐久性、メンテナンス性、コスト)
ここまで述べたように、屋上シート防水には他の防水工法にない多くのメリットがあります。一方で留意すべきデメリットや適さないケースも存在します。主なメリット・デメリットを整理すると次の通りです。
シート防水のメリット
既存防水を残して施工可能
シート防水は既存の防水層を撤去せず、その上に新たなシートをかぶせる「カバー工法(かぶせ工法)」が可能です。そのため廃材処分費が不要になり、工期短縮とコスト削減につながります。既存防水がアスファルトでもウレタンでも種類を問わず施工できる柔軟性も利点です。
工期が短く、作業効率が高い
シート防水は、シートを敷設・固定していく工法のため、液体材料のように乾燥や硬化を待つ必要がなく、養生期間も不要で、施工がスピーディーです。特に広い屋上などで同じ作業を繰り返す場合は、工程がシンプルで作業効率が良く、全体の工期短縮につながります。また、工場で均一に製造された製品を使用するため、塗膜工法のように仕上がりに個人差が出にくく、一定の品質を保ちやすい点もメリットです。
臭気や騒音が少ない
アスファルト防水のように現場でアスファルトを溶かす工程が無いため煙や強い臭いが出ません。ウレタン防水で問題になる溶剤臭(シンナー臭)もなく、居住者や近隣へのニオイの心配がほとんどありません。騒音面でも、ディスク盤の固定で多少ドリル音が出る程度で、機械攪拌機や大型バーナーのような大きな音は限定的です。
高い防水性能と耐久性
シート防水は適切に施工すれば非常に信頼性の高い防水層となります。特に塩ビシート防水は耐候性が高く、ウレタン塗膜防水のようなひび割れリスクも無いため長期間安定した防水性能を維持できます。継ぎ目は熱融着などで強固に接合され、水の浸入しやすいコーナーや立上り部分も成型役物やシーリングで入念に処理されます。結果として雨漏り有効度(止水効果)の高い工法と評価されています。実際、公共建築物の調査ではシート防水の標準耐用年数は約13年とされ、他の一般的防水工法と比べても遜色ないか上回る耐久性を示します。
メンテナンスコストが低い
塗膜防水(ウレタンやFRP)の場合、表面保護トップコートの再塗装を5~7年毎に行うのが望ましいですが、塩ビシート防水では基本的にこうした中期メンテナンスが不要です。ゴムシート防水ではトップコート塗り替えが必要なものの、塗膜防水ほど頻繁ではありません。さらにシート防水は防水層が比較的厚く均一なため、部分補修が容易です。万一シートが破れたり継ぎ目に不具合が生じても、該当部位に同種シートを貼り増ししてシーム処理することで補修できます。適切な点検と補修を行えば防水層全体を張り替えずに寿命を延ばすことも可能です。
シート防水のデメリット
複雑形状の屋上には不向き
シートを大きく貼り広げる工法上、障害物(設備機器や配管)が多数ある屋上や、凹凸・段差が多い複雑な形状の場所には施工しづらい欠点があります。シートを部分ごとに細かく切り継ぐ必要があり、その分継ぎ目も増えて防水上不利になります。一般に「障害物のない広い屋上」に適し、「入り組んだ場所には不向き」とされるのはこのためです。複雑形状・小面積の場所では、液状で隙間なく塗れるウレタン防水やFRP防水の方が適しています。
品質を確保するには専門的な施工技術が必要
一見すると「シートを敷いて貼るだけ」と思われがちですが、実際には継ぎ目の溶着処理や立上り部の納まりなど、細部の施工に高度な技能が求められます。特に塩ビシートの場合、溶着の温度管理や成型部材の正確な取り付けが防水性を大きく左右します。そのため、工法自体は合理的で効率的でも、“質の高い仕上がり”には専門業者による正確な作業が必要不可欠です。
初期費用が高め
シート防水は材料費・施工費ともに㎡単価がウレタン塗膜防水より高めです。一般的なシート防水(塩ビ・ゴム)工事費は1㎡あたり5,000~8,000円程度が相場で、ウレタン防水(4,500~7,000円/㎡程度)より若干高い水準です。特に機械的固定工法の場合、固定金具や絶縁シートなど副資材が必要になるため若干コストアップします(標準相場:機械固定6,500~7,500円/㎡、接着工法6,000~7,000円/㎡)。もっとも耐用年数が長い分、再施工までのスパンが延びるためライフサイクルコストでは大差ない場合もあります。
下地の事前調整が重要
密着工法の場合、下地が不陸なく乾燥していることが重要条件となります。水分を多く含んだ下地に施工すると膨れの原因になりますし、埃や油分が残っていると接着不良を起こします。そのため下地清掃・プライマー処理に手間がかかり、下地のひび割れ補修や不陸調整も念入りに実施する必要があります。また機械固定工法でも、下地の強度確認やアンカー引抜き試験を行い、所定の保持力を満たす下地か確認するプロセスが必要です。他工法に比べ施工前準備がシビアとも言えます。
部分的な破損リスク
シート防水は防水シート自体に引張強度・伸び性能がありますが、鋭利な工具や飛来物などによる突き破りには注意が必要です。他工法に比べ防水層が薄いため、重量物の落下や頻繁な人の出入りでシートが傷つくケースもあります(必要に応じ歩行用ゴムマット等で保護します)。もっとも、そのような破損が生じた場合でも前述の通り当該箇所を張り替える補修が比較的容易である点は救いです。
ウレタン防水・アスファルト防水との比較(用途に応じた選び方)
シート防水のメリット・デメリットを踏まえ、他の代表的な屋上防水工法であるウレタン塗膜防水やアスファルト防水と比較してみましょう。それぞれ適した用途が異なり、建物や要求性能に応じて最適な工法を選定することが重要です。
ウレタン防水との比較
ウレタン防水は液体状のウレタン樹脂を現場で塗り重ねて防水膜を形成する工法です。最大の特徴は液体ゆえにどんな形状にも隙間なく施工できることで、複雑な形状や狭いベランダ・立上りの多い場所でも継ぎ目のない防水層を実現できます。一方で耐用年数はシート防水より短く、標準10~12年程度(通気緩衝工法など高性能仕様で12~15年)とされています。また紫外線に弱いため5~7年毎のトップコート塗り替えが推奨され、トータルメンテナンス費用がかかります。初期施工費はウレタンの方が安価で、㎡単価4,500~7,000円程度が相場です。総じて「狭小部や複雑部はウレタン、防水性能・耐久性重視の広い屋上はシート」という使い分けになる傾向があります。実際、シート防水は平坦で障害物の少ない屋上に向き、ウレタン防水は複雑形状の場所でも継ぎ目なく施工できるため、お互いの利点を活かして選定します。
アスファルト防水との比較
アスファルト防水はアスファルトを含浸させたルーフィングシートを何層も重ね、熱や接着で一体化させる伝統的工法です。耐久性が非常に高く、押さえコンクリート仕上げのアスファルト防水では物理的耐用年数40年以上に及ぶ高耐久仕様も存在します。標準的な耐用年数も15~25年程度と長く、長期運用したい建物で選択されます。一度施工すれば工事頻度を減らせるメリットがありますが、初期費用は㎡単価6,000~10,000円程度と最も高額です。また重量が大きいこと、施工時にバーナーやアスファルト溶解釜を使うため煙や臭いが発生しやすい点にも留意が必要です。シート防水と比べ工期も長めですが、防水性能の信頼性は厚い多層構造ゆえ非常に高いです。改修では既存防水を撤去してから新設するケースが多く、その際発生する産業廃棄物処理など手間も見込む必要があります。まとめると、「とにかく耐久性重視ならアスファルト、防水性能と工期・コストのバランスを取るならシート」といった選び分けになります。実際、公共施設では耐用年数と実績重視でアスファルト防水を採用し、民間ビルやマンションではトータルバランスに優れるシート防水が選ばれる傾向があります。
なお、FRP防水(繊維強化プラスチック防水)という工法もありますが、これはベランダなど小規模部位向けであり、広い屋上にはあまり用いられません。FRP防水は硬化が速く耐摩耗性に優れますが、下地の動きに弱く面積が大きいとクラックが入りやすいためです。屋上防水では上記のウレタン・シート・アスファルトの三者が主要な選択肢となります。その中で、シート防水は耐用年数・防水性能・施工性・コストのバランスに優れた工法であることが比較からお分かりいただけるでしょう。
屋上シート防水の施工手順(現場フロー、下地処理、貼り合わせなど)
屋上シート防水工事がどのような手順で進むのか、その一般的なフローを紹介します。ここでは代表として「密着工法による塩ビシート防水」の新設施工手順を例に挙げ、要所要所で他の工法の場合についても触れます。
下地調査・下地補修
施工に先立ち、既存屋上の状態を調査します。防水改修であれば既存防水層の劣化状況を確認し、膨れや剥がれがあれば部分撤去します。下地コンクリートにひび割れがあればUカットシーリングやポリマーセメントなどで補修し、段差や凹凸もモルタルなどで平滑にならしておきます。またドレン(排水口)の詰まりがないか、脱気筒の設置箇所なども検討します。機械固定工法の場合は下地強度を確認し、アンカーの引抜試験を行って所定の保持力を満たすことを確認します。
下地清掃・プライマー塗布
下地表面のゴミ・埃・油分・水分を徹底的に除去します。ブロアーや掃除機で清掃し、必要に応じて下地乾燥の時間を置きます。次に下地にプライマー(接着増強剤)をムラなく塗布します。プライマーは接着工法でシートと下地の密着力を高める重要な下地処理材です(塩ビシートの場合、メーカーによってはプライマー不要の接着剤もあります)。プライマー塗布後、所定のインターバル(数十分~1時間程度)をおいて乾燥させます。
入隅・出隅・配管周りなど細部処理
シートを貼る前に、屋上の入り隅(下り立ち上がりの角)や出隅(上り立ち上がりの角)に増張りシートやコーナーパッチを取り付けます。これは角部でシートが折り曲がる部分の厚み補強と、防水性向上のための措置です。加硫ゴムシートの場合はあらかじめ非加硫ゴムの増張りシートを貼り、塩ビシートの場合はシート施工後に成型コーナー材を貼り付けシール処理するのが一般的です。またドレン(排水口)や貫通配管まわりには増し張り用シートを丸型・矩形に貼り付け、局部的に二重の防水層として補強します。これら細部処理は漏水リスクを減らす重要工程です。
立上り部のシート貼り付け
防水層は基本的に立上り(パラペットや立壁部分)から施工します。シートを適切な大きさに裁断し、立上り面に所定の接着剤(塩ビシートの場合はポリマーセメントペーストなど)を塗りながら貼り付けます。シワや浮きが出ないようにローラーで圧着し、上下端は一時的にテープ等で仮留めします。立上り天端やパラペット笠木部への処理は、追ってシート金属押さえやシーリング処理を行うので、この段階では貼るところまでです。
平場(屋上面)のシート貼り付け
屋上の平らな部分(平場)にシートを順次貼っていきます。接着工法では下地またはシート裏に接着剤を所定量塗布し、所定のオープンタイム(接着剤が半乾きになる時間)を経てからシートを敷き込みます。機械固定工法の場合は、あらかじめ絶縁シートや断熱材を敷き詰めた上にシートを広げ、所定箇所で固定ディスク+ビス留めを行います。シートは一定幅ごとにロール状で用意されており、隣り合うシート同士は規定の重ね幅(通常50~100mm程度)を確保して敷設します。全てのシートを仮配置したら、接着工法では下地との間の空気をローラーなどで丁寧に押し出しながら貼り付け、密着させていきます。機械固定工法ではシートの割付位置に従い、所定間隔でディスク板を置いてビス留めし、シートがずれないよう仮固定します。
シート継ぎ目の接合処理
シート同士の重ね継ぎ目を専用の接合方法でシールします。この作業はシート防水の品質を左右する肝心な工程です。塩ビシートでは一般に熱風溶接機(熱風機)を使い、重ね部に高温の熱風を吹き込みながら圧着ローラーで溶着します。近年は自走式の自動熱風溶着機も使われ、一定速度で走らせることで均一な溶着が可能です。加硫ゴムシートでは接着剤やシームテープを用いて継ぎ目を貼り合わせます(ゴム系は熱融着できないため)。シームテープ工法では重ね部にプライマーを塗り、片側に貼った両面粘着テープで接合します。いずれの場合も、継ぎ目端部からの水の侵入を防ぐため最終シール処理を行います。接合幅は仕様で40mm以上などと定められており、全ての継ぎ目について専用の検査器具で圧着不良がないか確認します。
役物取付け・端末処理
ドレンや出入口扉敷居、水抜きなどの貫通部にはシート防水用の成型役物(樹脂成型品や金属製ドレン皿等)を取り付け、シートとの接合部をシールして仕上げます。立上りの端部(パラペット天端など)には専用の押さえ金物(シート押さえ金具)を取り付け、シートを機械固定します。笠木などで押さえられない立上り端はこの金物+シールで止水処理し、シートの捲れや剥がれを防止します。最後に立上りシート上端や金物と壁の取り合い目地にコーキング(シーリング材)を充填し、防水端末を完全に閉塞します。
保護仕上げ(トップコート塗布等)
露出仕様のシート防水では、耐候性をさらに高めるため表面に保護塗料を塗布することがあります。特にゴムシート防水では必須で、完工後にウレタン系またはアクリル系のトップコートを2回塗りして仕上げます。塩ビシート防水では一般にトップコート不要ですが、遮熱性向上の目的で白色系のトップコートを施すケースもあります(近年の塩ビシートは淡色化され遮熱効果を持つため塗装省略可のものが多い)。押さえコンクリート仕上げやタイル仕上げなど、人が頻繁に歩行する屋上利用を前提とする場合には、シート防水の上に保護層を設けることもあります。例えばシート上にモルタルを3~5mm程すり込み、その上にコンクリート平板を敷設する防護コンクリート工法などです。こうした仕上げは防水層を紫外線や外力から守り、更に耐久性を高めます。
検査・引渡し
防水シート全体を目視と散水で最終チェックし、膨れや接合不良がないか確認します。不良箇所があれば補修し、防水層に水張り試験(漏水検査)を行って漏れがないことを検証します。問題なければ工事完了となり、保証書(一般に10年保証が多い)を発行して引き渡します。
費用相場とコスト構成(㎡単価、工法別、断熱有無による違い)
屋上シート防水の費用相場は、一般的に1㎡あたり5,000~7,500円程度とされています。具体的な単価は工法や下地条件、施工規模によって変動しますが、以下に主な要因を挙げます。
工法別の単価差
密着工法と機械的固定工法で大きな価格差はありません。密着・機械固定いずれも標準相場は5,000~7,000円/㎡程度です。ただし一部では機械固定工法の方が若干高めに設定される場合もあります。これは機械固定用のディスク金具やビス、絶縁シートといった副資材コストや、固定設計の手間が反映されているためです。一方、密着工法は接着剤やプライマーの材料費がかかりますが、それらはさほど高価ではなく、総額への影響は限定的です。選定にあたっては費用差より建物条件適合性を重視するのがよいでしょう。
平場と立上りの単価
防水工事費用は一般に「平場(水平面)○円/㎡、立上り(垂直面)○円/㎡」と分けて見積もられることがあります。立上り部分は作業効率が落ちることや役物処理が必要なため、平場単価より高めに設定されるのが通例です。見積もりを見る際は、平場と立上りで単価設定が分かれているか確認しましょう。
下地処理・諸経費
見積もりには防水層本体の施工単価以外に、下地補修費や下地清掃費、廃材処分費、足場費、諸経費などが別途計上されます。シート防水は既存防水を撤去しない場合が多いため、撤去処分費は基本的に発生しません。ただし既存防水が劣化激しく一部撤去する場合や、下地コンクリートの大面積補修が必要な場合は、別途費用がかかります。見積書にこれら項目がきちんと明記されているかチェックし、過不足がないか確認することが大切です。
規模による増減
工事規模(面積)が大きくなるほど、㎡単価は割安になる傾向があります。100㎡程度までは最低出面積費用などで高めに出ますが、数百㎡規模になると1㎡あたり単価が下がるケースが多いです。これは材料のロス率低減や人件費効率が上がるためです。逆に極端に狭小な面積(例:10㎡以下など)では最低料金が適用され割高になります。
断熱材併用のコスト
断熱工法を採用する場合、断熱材本体の費用と取り付け作業費が加算されます。断熱材(硬質ウレタンボード等)の材料費は厚さ50mm程度で2,000~3,000円/㎡前後が目安で、これに施工手間を含めると㎡あたり+3,000円程度の増額になることもあります。ただし断熱材を入れるか否かで見積が分かれていない場合もあり、トータル金額として提示されることもあります。断熱材有無でどのくらい費用差が出るか、事前に確認すると安心です。
耐用年数とメンテナンス(トップコート、改修目安、点検タイミング)
屋上シート防水の耐用年数は、塩ビシート防水で約10~20年、ゴムシート防水で約10~15年が一般的な目安です。この幅があるのは、使用材料の質や厚み、暴露環境(日射や温度変化の厳しさ)、さらには適切なメンテナンス実施の有無によって寿命が変動するためです。国土交通省のガイドラインでは屋上防水は概ね12~15年で改修(更新)推奨とされており、適切な周期での改修が建物の資産価値維持に直結するとされています。実際、多くのマンション大規模修繕では築後12年程度で屋上防水の全面改修が計画されます。
メンテナンスのポイントとして、以下のようなタイミングと内容が推奨されます。
5~7年ごと: 部分補修・トップコート塗り替え
シート防水自体は長寿命ですが、ゴムシート防水の場合は5~7年毎にトップコート(保護塗料)の再塗装が必要です。またシートの継ぎ目や立上りシールに劣化が見られればシール打ち替えを行います。定期点検時にシート表面の傷み(褪色や硬化)、浮きや破れの有無を確認し、小さな不具合は早めに補修しておきます。これにより防水層の寿命を延ばすことができます。
10~15年ごと: 全面改修または重ね防水
防水層の耐用年数が近づいたら、既存防水の上に新たな防水層を設ける「かぶせ工法」や、防水層を撤去して新規にやり直す全面改修を検討します。シート防水は既存を活かした重ね張りがしやすいため、下地が健全であれば撤去せず新シートを重ねる方法がコスト的にも有効です。一方、既存シートが劣化して浮きや破断が多発している場合は、撤去してから新規に防水する方が望ましい場合もあります。改修方法の選定には専門業者の防水診断が役立ちます。
随時・緊急時: 部分補修・応急処置
台風などで飛来物によりシートが破損した、経年で継ぎ目に浮きが発生した、といった場合には放置せず早めに補修します。シート防水は部分補修が比較的容易な工法であり、補修シートを貼り増すことで応急的にも本格的にも修繕可能です。雨漏りが発生した際も、原因箇所を特定してシートの継ぎ目を溶着し直す、シールを詰め直す等で対処できるケースが多くあります。
定期点検については毎年または少なくとも数年に一度は専門業者等による目視点検を行うのが理想です。とくに台風シーズン前や大雨のあとには、屋上の状況(シートのめくれや破れ、ドレン詰まりによる水たまり等)を点検しましょう。早めの発見・対処が結果的に修繕費用を抑えることにつながります。マンション管理組合などでは長期修繕計画に基づき計画的に改修工事を実施することが多いですが、計画期間内でも劣化が進んでいる兆候があれば前倒しで防水改修を検討すべきです。
最後に、屋上防水の維持管理では日常的な清掃も重要です。落ち葉やゴミで排水口(ドレン)が詰まると、水が排水できず水たまりが発生して防水層を傷めます。適切な勾配が取られていても、排水経路が塞がれば意味がありません。定期的にルーフドレンのゴミかごを清掃し、常に排水が機能する状態を保ちましょう。勾配不良で慢性的に水たまりができる場合は、改修時にモルタルなどで傾斜を付ける、追加ドレンを設ける、といった改善工事を検討します。シート防水自体は多少の水たまりがあっても劣化しにくいですが、長期間水に浸かった状態はシートや接着層の寿命を縮める恐れがあります。
まとめ:シート防水は機能性・経済性のバランスに優れた防水工法
屋上シート防水は防水性能・耐久性に優れつつ工期が短く経済的負担も抑えられる、バランスの良い防水工法です。他の工法にもそれぞれ得意分野はありますが、マンション・ビルの陸屋根においてはシート防水が第一選択肢となる場面が増えています。もちろん建物の構造・用途・予算によってベストな選択は異なりますので、専門家の診断や提案を仰ぎつつ、最適な防水方法を選んでいただければと思います。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
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