マンション理事会の「なり手がいない」問題と解決策
更新日:2025年11月28日(金)
マンション管理組合の理事会で「なり手がいない」と嘆く声が増えています。 本記事では、理事の成り手不足が起こる背景と現状、法制度上のポイント、具体的な解決策(役員報酬制度、外部専門家活用、理事会業務の効率化等)や成功事例について、一次情報を交えて解説します。
- 本記事のポイント
- なぜ「理事をやりたがる人がいない」のか、年齢構成やライフスタイルの変化、無理解や負担感など背景事情が整理され、リアルな現状が理解できる。
- 法律上、区分所有者に理事就任義務はないこと、かつ輪番制などを定めても強制できないという制度的な制約がある点を把握できる。
- 役員報酬の導入、外部専門家の活用、IT化・業務効率化など、多様な解決策とその手順・注意点が具体的に示され、実践のヒントを得られる。
問題の背景と現状
マンション管理組合の理事会では、役員のなり手がいないという状況が各地で深刻な課題となっています。過去の国土交通省の調査結果から見ても、多くの管理組合が理事の選任に困難を感じており、理事を快く引き受ける人は少ない傾向が示されています。また、理事を引き受けたくない理由としては、「高齢で務まらない」「仕事が忙しい」「面倒だから」といった声が多く挙げられています。こうした状況から、役員の担い手不足は多くのマンションに共通する懸念と言えるでしょう。
特に築後数十年が経過したマンションでは、建物の老朽化と居住者の高齢化が同時に進行するため、役員の担い手不足は一層深刻になりやすい状況です。高齢化が進み住民の大半が高齢者となったマンションでは、理事への就任を体力的・精神的に負担に感じる人が増えています。また共働き世帯の増加やマンションへの関心の低い所有者も多く、理事会への参加意欲が全体的に低下しています。とりわけ居住せず賃貸に出している区分所有者など無関心層の存在が担い手不足に拍車をかけています。さらに建物自体の老朽化が進む中で、修繕計画の策定や工事発注など理事会に求められる責任はむしろ増しています。
しかしその重大な意思決定を担うべき理事会が機能不全に陥れば、マンションの資産価値低下や住環境の悪化に直結しかねません。高齢化や関心低下で理事の成り手不足が顕在化し、管理組合運営の維持が危機に瀕しているのが現状です。
法制度上の理事選任義務と輪番制の有無
結論から言えば、マンションの区分所有者に理事就任を強制する法律上の義務はありません。区分所有法第3条で管理組合への加入義務は定められていますが、役員就任までは義務ではありません。区分所有法や標準管理規約にも「必ず役員にならなければならない」といった規定はなく、理事はあくまで総会で選任されるものです。
そのため慣例的に輪番制で順番が回ってきても、本人の意思に反して就任を強制することはできず、管理規約でそのような義務を定めても公序良俗に反し無効となります。
つまり法律上は理事就任の義務も輪番制の強制力もないため、結局は住民の自主的な立候補や承諾に頼らざるを得ないのが実情です。なお、万が一管理組合に役員が不在で運営に支障を来す場合、区分所有法には裁判所が管理者(理事長に相当)を選任する制度もあります。しかしこれはあくまで最終手段であり、費用や手間もかかるため、できる限り組合内で解決策を講じることが望ましいでしょう。
現実には理事長が見つからずマンション運営が停止しかねない事態も起こっており、「理事長がいないと管理会社との契約更新ができない」「修繕工事の発注や支払いが滞る」といった深刻な例も報告されています。管理不全マンションに陥ることを避けるためにも、早急な対策が求められます。
理事の成り手不足を解消する具体策
理事のなり手不足問題に対応するため、管理組合では様々な工夫や制度導入が検討されています。ここでは結論として役員の負担軽減とインセンティブ付与、そして外部リソース活用という三つの方向性で具体策を整理します。
各対策の導入にあたっては規約改正や総会決議が必要になるケースが多いため、住民への丁寧な説明と合意形成の進め方も踏まえて解説します。
役員報酬の導入による担い手確保
理事長や理事に対し報酬を支給し、役員就任のインセンティブとする方法です。実際に役員に年間数万円程度の手当を支給する管理組合もあり、理事長・副理事長など役職に応じた定額報酬とする例が一般的です。
報酬導入には管理規約への「役員報酬規定」追記が必要で、総会で支給額や支給方法を決議します。役員就任を躊躇する理由の一つである「割に合わない」という不満を和らげ、立候補の動機付けにつなげる狙いがあります。なお報酬を受け取った役員は税務上雑所得として申告が必要になる場合もあるため、支給額の設定にあたっては管理会社や税理士に確認するとよいでしょう。
役員資格・任期の見直しによる候補者拡大
規約を改正し、理事になれる人の範囲や任期を柔軟にする対策です。例えば区分所有者本人だけでなく、その配偶者や同居の親族でも理事に選任可能としたり、不在オーナー(賃貸に出している所有者)にも役員を務めてもらえるようにするケースがあります。
また役員の任期を1年から2~3年に延長し、一度に全役員が交代しない半数交代制にすることで、毎年の選任負担を減らし業務の継続性も高めます。任期延長と引き換えに、長期継続による特定人物への負担集中を防ぐ工夫として、役職を持ち回りにする運用も考えられます。
なお、理事や監事の定数そのものを削減する規約変更も選択肢です。例えば理事を5名から3名に減らせば必要な担い手数は減りますが、その分一人当たりの負担が増すため慎重な判断が必要です。
これらの変更はいずれも規約改正事項となるため、総会での特別決議が必要です。事前に管理会社やマンション管理士などの専門家に相談し、他マンションの事例も参考にしながら現実的なルールを検討しましょう。
外部専門家の登用(第三者管理方式等)の活用
専門知識を持つ外部の第三者に理事長や理事の役割を担ってもらう方法です。標準管理規約でも「組合員以外の者」を理事や監事に選任できる旨が規定されており、マンション管理士など有資格者を外部役員として招くケースが増えています。
さらに国土交通省は、理事会を設置せず外部の管理者にマンション運営を委ねる「外部管理者方式(第三者管理方式)」という新たな仕組みをガイドラインで令和6年(2024年)6月に策定・公表しました。
これは総会が選任した外部の専門家が法律上の管理者となり、管理会社との契約締結や修繕工事の発注など従来理事長が行っていた業務を代行するものです。外部管理者の業務は総会が監督する形で進められ、区分所有者の負担軽減とプロの知見による的確な管理運営を両立できます。ただし外部登用には費用負担(報酬支払い)や利害相反リスクの管理も伴うため、導入前に住民への十分な説明と信頼できる人材の選定が重要です。
第三者管理方式導入後も外部管理者の活動状況を理事会または総会で定期的に報告・検証し、透明性を確保することが求められます。
なお、完全に外部に委ねるのではなく、業務の一部を管理会社へ委託することで役員負担を減らすことも有効です。特に自主管理(管理会社非利用)の組合であれば、会計業務のみ委託するといった部分委託を検討する価値があります。外注コストは増えますが、役員が重要事項の意思決定に専念でき、管理の質向上につながるでしょう。
理事会業務の効率化・IT化による負担軽減
役員の業務負荷そのものを減らすため、作業の効率化やICT活用も有効です。例えば理事会や総会をオンライン会議で開催できるよう規約を改正し、遠隔からでも参加可能なハイブリッド型会議を導入すれば、多忙な現役世代でも出席しやすくなります。議案書や議事録、各種資料も紙で配布する代わりに電子回覧やクラウド共有に切り替えることで、印刷・配布作業の手間を削減できます。
近年では管理組合向けのITツールやアプリも登場しており、管理費の徴収や会計帳簿の作成、組合名義口座からの支払いなど煩雑な事務を一括管理できるサービスもあります。例えば専用アプリを導入すれば、これまで理事長や会計担当理事が担っていた出納管理や会計処理を効率化でき、専門知識がなくてもミスなく業務を遂行できるようになります。こうしたIT活用は若い世代の協力も得やすくする効果があり、役員の心理的・時間的負担を軽減することで「それなら役員をやってもいい」という人を増やすことにつながります。
成功事例と支援制度の紹介
マンション管理組合では、役員のなり手不足を克服するために、さまざまな工夫が試みられています。
例えば、築年数が経過した中規模マンションでは、理事長候補が見つからないという問題に直面した際、数名の組合員が交代で理事長を務める仕組みを導入したケースがあります。これにより、負担を分散しながら理事長職を継続的に維持できるようになりました。ただし、一年交代制では引き継ぎが十分に行えないなどの課題もあり、専門家の助言を受けたり、管理業務の一部を委託したりして、管理の質を確保する取り組みも見られます。
また、理事経験者や有志住民が中心となって専門委員会を設け、修繕計画や防災対策といった特定の課題を分担する方法もあります。理事以外の住民も参加できるようにすることで、将来的な役員候補を育成する効果も期待されています。
行政や専門団体による支援制度も活用が進んでいます。多くの自治体ではマンション管理相談窓口を設け、マンション管理士などの専門家による無料相談やセミナーを開催しています。専門家を管理組合に派遣し、役員の成り手不足に関する助言や合意形成を支援する制度を設けている自治体もあります。
国も、マンション管理計画認定制度の創設や外部管理者方式のガイドライン策定など、管理組合の自立的運営を支援する仕組みを整備しています。さらに、管理会社では理事長代理サービスや電子投票システムなど、ITを活用した運営支援の取り組みが広がっています。こうした公的・民間の支援制度をうまく活用することで、「理事のなり手がいない」という課題を緩和しやすくなります。
役員の担い手不足は、どのマンションにも起こり得る問題です。管理組合の運営は区分所有者全員の共同責任であり、一部の人に頼るのではなく、住民全体で協力しながら課題解決に取り組むことが大切です。身近なところから改善策を実践し、安心で快適な暮らしを支える管理運営の持続可能性を高めていきましょう。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
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