大規模修繕における実数精算方式と予備費について
2024/09/03
大規模修繕の見積などに採用される「実数精算方式とは?」についてですが、見積段階ではコストを計測値に基づいて見積もることが難しい部分(例:高所の外壁タイル、足場無しでは計測が出来ない)において、仮数量と単価を定めて仮金額を設定し、工事後に実数に基づき精算する方式のことを指します。約8割が実数精算方式を採用していると言われています。 この記事では、実数精算方式に関連して「見積段階、計測値による見積が困難な部分の設定方式(責任数量方式・実数精算方式)」、「予備費と実数精算方式の関係」などについてご紹介いたします。これら情報が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。
目次
見積段階、計測値によるコスト計算が困難な部分の設定方式
大規模修繕における見積では、建物診断時に修繕が必要な部分の量を計測し、それら計測値に基づいて材料・工数、金額などが見積もられます。ところが、高所などは見積段階の足場が無い状態では計測困難であり、この方式が成り立ちません。
そこで、以下2方式が採用されます。
責任数量方式
工事請負契約者である工事会社が図面・現地確認の結果から自らの責任で数量を設定する、実数精算による増減が発生しない方式となります。工事会社としては工事数量、コストが想定を超える場合に備え、一定の余裕を設ける傾向にあります。
発注者である管理組合などにとっては、工事終了後の追加費用のリスクがおさえられるため、総会で理解・了承を得やすい、予算コントロールがしやすいといったメリットがある反面、前述の余裕分だけ工事費用が膨らむ可能性があるといったデメリットがあります。
実数精算方式
工事前に仮数量と単価から仮金額を設定し、工事後に実数に基づき精算する方式のことを指します。工事を経て、実数が仮数量よりも多くなった場合には見積費用に対し増額となり、少なくなった場合には減額となります。
発注者である管理組合などにとっては、実数精算ゆえにフェアである、数量に関する工事会社との交渉が不要であるといったメリットがある反面、総会で理解・了承を得づらい、上振れ時に予算超過→住民から反発がでる、一時金・借入が必要となるといったデメリットがあります。
それらなどのリスクに備えて、予備費(後述)が設定されます。
大規模修繕においては、約8割が実数精算方式を採用していると言われています。
実数精算方式が採用される工事部分
主に「外壁タイルの補修工事」・「コンクリート躯体(下地)補修工事」に採用されています。
その他に「シーリング工事」・「防水部の勾配調整」・「モルタル補修」・「鉄部や金物部補修」に採用されるケースもあります。
実数精算部分の工事前確認
一般的な進め方としては、足場を組み、実数精算部分が計測可能となってから、工事会社が確認し、「工事箇所の計画(不具合が程度ごとに、どこにどれだけあるかを図面などに記載、集計したもの)」を立てます。その後、発注サイドがそれらの計画を確認、承認した後に工事に進みます。
仮にこの段階で予算を超過しており、予算追加が難しい場合においては、工事内容の変更(例:グレードダウン)などを工事会社と協議する運びとなります。
予備費と実数精算方式の関係
「予備費とは?」ですが、まさに読んで字のごとく工事における予備の費用であり、工事前に総会において予算確保の手続きを取る必要があるものとなります。予備費が必要となる主な理由の一つが、実数精算方式による工事費の上振れリスクとなります。
予備費の程度ですが、一般的には総工事費の5~10%に設定することが多いです。設定においては、建物の築後年数・劣化状況、総工事費にしめる実数精算部分の量などを加味する必要があります。予備費が不十分であると、工事途中に追加工事の必要性が判明した場合や実数精算部分が上振れた場合などに柔軟かつスムーズな対応を行うことが困難となります。
それらを避けるためには、十分な予備費を確保する必要があります。
また、予備費の確保・確保後の執行などにおいて住民内で議論・問題が発生しやすいため、理事会・修繕委員会の方々は予備費の背景・必要性などについてしっかり把握する必要があります。
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この記事の著者
豊田 賢治郎
「スマート修繕」代表。過去2年間の顧客マンションへの訪問回数は400回を超え、チェックした見積書の数は千を超える(2024年7月末時点)。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「日本経済新聞」、「羽鳥慎一 モーニングショー」、「日曜報道 THE PRIME」、「モーニングサテライト」。
中小企業診断士
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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