エレベーターのインバーター交換費用はいくら? 進め方や注意点を解説
更新日:2025年04月30日(水)
マンションのエレベーター設備の維持管理は、居住者の安全と快適さに直結する重要事項です。中でもインバーターは、エレベーターの動きを制御する心臓部であり、その劣化や故障は大きな影響を及ぼします。けれども、交換工事の費用が気になる方もいるのではないでしょうか。見積もりの取り方次第で費用も変わるため、あらかじめ情報収集しておくことは重要です。 本記事では、マンション管理組合の理事や組合員の方向けに、エレベーターのインバーター交換について解説します。インバーターの役割から寿命、交換費用の目安、適切な交換時期、実際の進め方や注意点まで網羅し、専門知識がなくても理解できるようにまとめました。
- 本記事のポイント
- エレベーターのインバーターが果たす役割と交換の重要性を学べる。
- インバーター交換の適切なタイミングと寿命がわかる。
- インバーター交換の費用相場や計画的な進め方を把握できる。
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インバーターとは何か?役割と重要性
エレベーターのインバーターとは、電動機(モーター)に供給する電力の周波数と電圧を変化させることで、モーターの回転速度を自在に制御する装置です。これによりエレベーターのカゴ(乗降スペース)の昇降速度を滑らかに加減速させることができ、乗り心地の向上につながります。従来の二段速制御(一定の低速・高速のみで動く方式)と比較して、インバーター制御は発進や停止時のショックが少なく、スムーズな乗降を可能にします。
インバーターは必要な分だけエネルギーを供給し無駄を減らすため、省エネルギー効果も高いのが特長です。例えばモーターの速度をきめ細かく制御することで、消費電力を削減し電気代の節約にも寄与します。エレベーターのインバーターは、モーターの速度制御を通じて乗り心地や省エネ性能を支える重要部品です。安全・快適なエレベーター運行のため、インバーターの健全性を維持することが不可欠です。
インバーターの寿命と交換が必要になる理由
インバーターは精密な電子機器であり、内部の電子部品(コンデンサや冷却ファンなど)は経年劣化します。一般的に汎用インバーターの設計寿命は約10年程度とされ、使用環境や稼働頻度によって寿命は前後します。エレベーター用インバーターについて法律上の耐用年数(使用可能年限)の明確な定めはありませんが、部品の劣化が進むと故障のリスクが高まります。
インバーターの寿命が近づくと、制御の誤動作やエレベーターの緊急停止(トリップ)といったトラブルが発生しやすくなります。例えばインバーターが故障するとエレベーターが自動停止し、かご内閉じ込め事故につながる恐れもあります。また一度故障するとエレベーター自体が使用不能となり、復旧までマンションの住民生活に大きな支障をきたします。
以上のようなリスクから、メーカーや保守会社ではインバーター本体や主要部品を寿命を迎える前に計画的に交換することを推奨しています。「壊れてから対応」ではなく予防保全の観点で早め早めの交換が重要です。適切な時期にインバーターを更新すれば、エレベーターの安全性と信頼性を維持でき、突発的な故障による長期停止を防ぐことができます。
インバーターの寿命はおおむね10年前後であり、劣化が進むとエレベーターの安全運行に支障を来す恐れがあります。安全性確保のためには、寿命が来る前にインバーターを交換することが望ましく、管理組合として計画的な交換を検討すべきです。
インバーター交換にかかる費用相場
インバーター交換と言っても、壊れた部品のみを取り替える部品交換レベルのものから、制御装置全体を新型に更新するリニューアル工事まで、対応の範囲によって費用は大きく異なります。インバーターユニット(制御盤全体)の更新の費用相場は約100万~150万円程度(税別)です。メーカーによっては、200万~300万円ほど費用がかかるものもあります。
ある実例では、インバーター制御装置や操作基板、配線類など制御関係一式を取り替える工事で約400万~700万円の費用がかかり、工期(エレベーターが使えない期間)は3日~15日程度だったとされています。これは既存のエレベーターの構造を活かしつつ制御系統を刷新する大規模な更新工事のケースです。逆に、制御盤の一部基板のみ交換するような小規模修繕であれば1日程度の作業で済み、費用も100万円以下に収まる場合もあります。
インバーター交換費用がこれほど幅広いのは、エレベーターの規模・種類(定員や階数、機種)、交換する範囲、依頼する業者(メーカー系列か独立系か)などによって変動するためです。また部品単体の価格に加えて、工事の人件費や停止期間中の仮設設備費(必要な場合)なども費用に影響します。インバーターユニット自体が高価であり、専門技術者による調整作業にもコストがかかるためです。
インバーター交換の費用相場は、メーカーや交換内容の規模によって数十万円から数百万円と大きく変わります。管理組合としては見積もりの際に何をどこまで交換するのかを確認し、適切な範囲で予算計画を立てることが重要です。
インバーターを交換するべき時期・タイミング
エレベーター設備全体の耐用年数は、一般的に約20~25年程度とされています。日本エレベーター協会でも主要機器の寿命を概ね20年程度と示しており、法定耐用年数(減価償却上の目安)は17年です。インバーター自体の設計寿命(約10年)を踏まえると、使用開始後10年前後で一度インバーターの更新や主要部品交換を検討し、遅くともエレベーター導入から15~20年が経過する頃までには交換を実施するのが望ましいと言えます。
※メーカーによっては、インバーターユニットの交換推奨を10年としています。実際に10年以内に故障するケースも聞かれます。
定期点検の際に保守会社から「インバーターの劣化が見られる」「基板のコンデンサが膨れている」など指摘を受けた場合も、交換時期のサインです。特に製造後10年以上が経過したインバーターでは内部部品の故障率が高まっているため、点検で異常予兆(異常発熱やファン故障、電子部品の劣化兆候)が確認されたら早めに交換の検討を始めましょう。また、メーカーからその機種の保守部品供給終了(生産中止)アナウンスが出た場合も、交換を急ぐ必要があります。古い機種では万一壊れても交換部品が入手困難となり、エレベーター自体を長期間停止せざるを得なくなるためです。
エレベーターは人命を預かる設備であるため、「まだ動いているから大丈夫」と寿命切れのインバーターを放置するのは避けるべきです。特に高層階の多いマンションではエレベーター停止が生活に及ぼす影響が大きいため、故障前の計画交換が理想です。計画的な修繕積立金の活用により、耐用年数や点検結果を踏まえた計画修繕としてインバーター交換を行うと良いでしょう。
インバーター交換の適切なタイミングは、一般には設置後10~15年程度が目安で、遅くとも20年以内には実施するのが安全策です。定期点検での劣化兆候やメーカーからの部品供給終了情報にも注意し、計画的な交換時期を見極めましょう。
インバーター交換の進め方
現状の把握と必要性の確認
まず現在のエレベーターのインバーターの使用年数や状態を把握します。保守点検報告書を確認し、インバーター関連の指摘事項や経過年数をチェックしましょう。保守会社の技術者にヒアリングし、「交換が必要かどうか」「推奨される時期」について意見をもらうことも重要です。経年15年近くになる場合や故障が発生し始めた場合は、交換の必要性が高いと判断できます。
複数の業者から見積もり取得
次に、専門業者へ見積もりを依頼します。現在契約しているエレベーター保守会社だけでなく、場合によっては他社(独立系のエレベーター保守会社など)からも相見積もりを取ると良いでしょう。交換方法として、インバーター本体のみを純正部品と交換するケースや、制御盤全体を新型に更新するケースなど複数のプラン提案がありえます。それぞれの費用見積額と工事内容、エレベーター停止期間の目安を比較検討します。
資金計画と合意形成
見積もりと提案内容をもとに、管理組合内で資金計画を立てます。修繕積立金の範囲内で賄えるか、不足する場合は臨時徴収や金融機関からの借入れを検討する必要があるかなど、財政面の検討を行います。また、大規模な工事となる場合は総会での承認が必要になるため、理事会で住民に提案する資料を作成し、交換の必要性・費用・工事内容・メリット等を丁寧に説明して合意形成を図ります。
工事スケジュールの調整
管理組合として業者と工事日程を調整します。エレベーターを停止する期間については、できるだけ住民の負担が少ないタイミング(例:長期休暇中や平日昼間など)を選定します。工事規模によりますが、小規模な部品交換なら半日~1日、大規模な制御盤更新では数日から最大2週間程度エレベーターが使えなくなる可能性があります。停止期間中の案内文をエントランス等に掲示し、住民への周知徹底を図ります。
工事実施と完了確認
工事当日は、管理組合から立ち会い担当者を決めておくと安心です。インバーター交換作業が完了したら、業者とともに試運転や安全装置のチェックを行い、正常に稼働することを確認します。さらに、リニューアル工事の場合は検査機関の安全検査(昇降機等検査員による検査)を受けて問題がないか確認し、必要書類を受け取ります。最後に工事報告書や保証書類を管理組合で保管し、今後の保守計画に活かしましょう。
インバーター交換を進める際は、現状把握から見積もり比較、組合内の合意形成、工事日程調整、工事立ち会いまで一連の手順を計画的に行うことが大切です。住民への周知や安全確認を怠らず、円滑に交換工事を完了させましょう。
インバーター交換時の注意点
信頼できる業者選定
インバーター交換は高度な専門作業のため、経験豊富で信頼できる業者に依頼することが重要です。メーカー系だけでなく独立系の保守会社も含め比較検討し、実績や保証内容を確認しましょう。安易に安価さだけで選ぶのではなく、万一のアフター対応や長期保証があるかも判断材料とします。
交換範囲の妥当性
提案内容が過剰または不十分でないか注意します。例えばインバーター本体だけ交換しても、周辺の古い部品が原因で引き続きトラブルが起きる可能性があります。逆にまだ使える部品まで含めて全交換する提案の場合、費用対効果を検証しましょう。専門家と相談し、必要十分な交換範囲を見極めることが肝心です。
補助金や制度の活用
エレベーターの安全対策工事には、公的な補助金制度が利用できる場合があります。例えば国土交通省では、古いエレベーターへの戸開走行保護装置(かごの戸が開いたまま動いてしまうのを防ぐ装置)の設置に対し、1台あたり最大950万円の補助を行っています。インバーター交換と同時にこうした安全装置を導入する計画であれば、補助金対象になるか確認しましょう。
会計処理と税務
マンション管理組合の場合、インバーター交換にかかった費用は修繕積立金から支出されるのが一般的ですが、区分所有者(オーナー)にとっては修繕費として経費計上できるケースがあります。老朽化による機能維持のための交換であれば税金の負担を軽減できる可能性があります。ただし劣化していないのに性能向上目的だけで交換した場合などは修繕費ではなく資本的支出(資産計上)と判断されることもあります。税務上の扱いについては必要に応じて税理士等に確認してください。
今後のメンテナンス計画
インバーター交換後も、定期的なメンテナンスは引き続き重要です。新しいインバーターにも寿命がありますので、メーカーが推奨する周期で冷却ファンやコンデンサの交換を実施し、長寿命化を図りましょう。交換後しばらくは様子を見る期間とし、万一初期不良や設定調整の不具合があればすぐ保守会社に連絡する体制を整えておきます。
インバーター交換に際しては、適切な業者選定と交換範囲の判断、利用できる補助金の確認、会計上の対応など多岐にわたる注意点があります。これらを事前に把握して準備することで、工事を安全・確実かつ有利な形で進めることができます。
まとめ
エレベーターのインバーター交換は、マンションの安全安心な暮らしを守る上で避けて通れないメンテナンス事項です。インバーターはエレベーターの走行を制御する要となる装置であり、寿命は約10~15年程度が目安です。適切な時期に交換しないと故障によるエレベーター停止や安全事故のリスクが高まるため、管理組合は計画的にインバーター交換を検討・実施する必要があります。
費用は交換内容により数十万円から数百万円と幅がありますが、見積もり比較や専門家の活用によってコストを抑える工夫が可能です。また交換の際には住民への周知徹底と安全確認を忘れずに行い、信頼できる業者の下で確実な施工をしてもらうことが肝要です。今回解説したポイントを踏まえて、エレベーターインバーターの適切な維持管理にお役立てください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者