老朽化キュービクルの更新工事:必要性・手順・費用まで徹底解説
更新日:2025年10月31日(金)
老朽化したキュービクル(高圧受電設備)の更新工事は、安全確保や設備の安定稼働、省エネ化、さらには法令遵守の観点から非常に重要です。 本記事では、キュービクル更新工事の適切なタイミングや必要性、基本的な工事の流れ、費用の相場、停電時の対応、安全管理のポイント、そして業者選びの注意点について詳しく解説します。
- 本記事のポイント
- キュービクル更新の必要性と、設置後15~25年を目安とする最適な交換タイミングを理解できる。
- 工事の基本手順(調査・設計・申請・停電・据付・検査)と費用相場の内訳・見積もりの見方を習得できる。
- 停電時の影響軽減策、安全確保・法令遵守(電気事業法対応)、信頼できる業者選びの実践ポイントを学べる。
 
キュービクル更新工事の必要性とタイミング
キュービクルは一般的に15~25年程度を目安に計画的な更新が必要です。経年による劣化で絶縁性能や機器機能が低下し、そのまま放置すると故障や事故のリスクが飛躍的に高まるためです。実際、電気保安協会の統計でも、長期間使用した高圧機器ほど故障率が著しく上昇する傾向が確認されています。
日本電機工業会や電気保安協会では、高圧受電設備の代表的な機器ごとに更新推奨時期の目安を示しています。たとえば、変圧器は製造から20~25年程度、高圧開閉器は約20年、避雷器は約15年が目安です。これらは定期点検で良好な結果が得られていても、経年劣化により突然故障する可能性があるため、計画的な更新を促す指標となっています。
実際の事故事例では、経年劣化した高圧ケーブルや開閉器が原因でビル全体が長時間停電し、周囲の事業者にも波及被害を与えたケースがあります。もし自社設備の事故が電力会社の配電線にまで影響を及ぼせば、多数の利用者を巻き込む波及事故となり、設置者は事故報告義務だけでなく、多額の損害賠償責任を問われる可能性があります。
更新のタイミングを判断する際は、「設置後の経過年数」だけでなく、定期点検の結果や過去の故障・トラブルの履歴も重要な指標です。経過年数が浅くても、異常過熱や絶縁低下など深刻な劣化兆候がある場合は早めの更新を検討すべきです。また、外観や機能に問題がなくても、変圧器のPCB(ポリ塩化ビフェニル)混入の有無を分析する必要がある機器など、法令上使用継続が問題となる設備は計画的に交換することが義務付けられています。総合的に判断し、安全かつ安定した受電を維持できる時期に更新工事を計画しましょう。
※PCB混入機器:1970年代以前に製造された変圧器やコンデンサには、有害物質であるPCBを含む油が使われている場合があります。法律により適切な処分が義務付けられています。
キュービクル更新工事の基本的な流れ
キュービクルの更新工事は、事前調査から設計・申請、停電日時の調整、施工、試運転・検査まで一連のステップで進められます。高圧設備の工事では関係各所との綿密な調整が不可欠であり、適切な手順を踏むことで停電時間の短縮と安全の確保が可能です。
オフィスビルだけでなく、マンションの管理組合においても、更新工事は大切な資産管理の一環です。住民への影響を最小限に抑えつつ、安全で安定した電力供給を維持するために、以下の流れを理解し、計画的に対応することが求められます。
1. 現地調査・診断
工事業者が現地でキュービクルの劣化状況や設置スペース、搬入経路を確認します。機器容量や電力使用状況のヒアリングも行い、更新機器の仕様検討に役立てます。マンションの場合は共用部分の電力需要や将来の増設予定も確認します。
2. 計画設計と見積もり
調査結果に基づき、新しいキュービクルの設計を行い、工事内容と費用の見積書を提示します。あわせて電力会社と事前協議を行い、受電設備変更に伴う電力会社側の工事費用(工事負担金)の概算見積もりも取得します。
3. 工事日の調整・届出
電力会社・工事業者・管理組合(あるいはオーナー)・担当主任技術者の間で停電工事日程を調整します。マンションの場合は、理事会や管理組合から住民への事前告知が重要です。必要に応じて道路使用許可など官公庁への申請も行い、工事計画の詳細な手順書を作成します。日程が確定したら関係者へ周知徹底を図ります。
4. 旧設備の停電・撤去と新設備の据付
約束の日時に受電を停止し、既存キュービクルの解体撤去と新設キュービクルの据付工事を行います。高圧ケーブルの接続や保護継電器の動作試験、絶縁耐圧試験など必要な検査も施工中に実施します。
5. 試運転・復電と最終確認
工事完了後、主任技術者(有資格者)が使用前の自主検査を行い、設備が技術基準に適合し安全に運転できることを確認します。その後、電力会社担当者の立会いのもと受電を再開し、新キュービクルへの切替が完了します。
このような標準的な手順を踏むことで、多くの場合、停電時間は半日(6~8時間程度)で済みます。マンションでは住民への影響を考慮し、停電時間の周知や非常用設備の活用などの準備が特に重要です。
工事期間は数か月にわたる計画となりますが、事前の調整と段取りにより、住民やテナントへの影響を最小限に抑え、安全かつ円滑な工事を実現します。
必要に応じて、管理組合の理事会や住民説明会で工事の概要や停電スケジュールをしっかり共有し、理解と協力を得ることが成功のカギです。
工事費用の相場と見積りの考え方
キュービクル更新工事の費用は一般的に数百万円規模となり、設備容量や現場の状況によって大きく変動します。マンション管理組合やビルオーナーの皆さまは、見積もり内容をしっかり把握し、複数の業者から提案を受けて比較検討することが重要です。
費用を左右する主な要素は以下の通りです。
キュービクル機器本体の価格
変圧器容量や回路数、環境対応機器(例えば低損失トランスなど)かどうかで価格が異なります。容量が大きいほど高額になる傾向があります。
工事施工費
現場の状況によって作業の難易度が変わり、例えば大型クレーンや高所作業車の手配が必要か、狭い場所での作業か、夜間工事かどうかで費用が増減します。条件が厳しいほど人件費も上がります。
付帯工事費
老朽化した高圧ケーブルの交換や、コンクリート基礎の補修、撤去した古い機器の廃材処理費用が含まれます。特に、PCB(有害物質)を含む可能性がある変圧器油の分析・処理費用は別途かかります。また、受電設備図面の更新作成費用も必要となる場合があります。
停電対策費
停電が難しい重要施設(例えばマンションの共用部分や病院の設備など)では、仮設発電機や仮設受電設備の設置費用が追加されます。夜間・早朝の工事設定も割増料金が発生することがあります。
実際の費用相場例としては、
- 契約電力100kW程度の小規模施設で約200万円前後、
- 200kW程度の中規模施設で約400万円前後、
- 500kWクラスの大規模施設(病院や工場など)では800万円~1200万円程度とされています。
これらは機器一式の価格に加え、工事施工費や付帯工事費、停電対策費などを含んだ概算イメージです。
見積もりをチェックする際は、以下をしっかり確認しましょう。
- 各項目(機器本体・施工費・付帯工事費・停電対策費など)の内訳
- 基本工事範囲と追加費用の明確な区分
- 高圧ケーブルや避雷器の交換が含まれているか
- 夜間工事の割増料金や電力会社への工事負担金が反映されているか
複数業者からの見積もりを比較し、内容の妥当性や信頼性を見極めることで、適正価格かつ安心できる工事計画を立てることができます。管理組合では理事会や管理会社と連携し、納得のいく提案を選定しましょう。
工事中の停電対応と影響軽減の工夫
キュービクル更新工事では一時的な停電が避けられません。そこで、事前準備や工夫をしっかり行い、利用者への影響を最小限に抑えることが重要です。具体的には、仮設電源の活用、工事時間帯の配慮、周到な周知対応が効果的です。
高圧受電設備の交換作業は、安全確保のため対象設備を完全に停電させて行います。そのため、更新工事中は建物全体または一部のエリアで電気が使えなくなります。影響を和らげるため、以下のような対策が取られます。
仮設電源の供給
病院やデータセンターなど停電が許されない重要負荷には、事前に可搬型発電機を設置し、工事中はそこから電力を供給します。これにより照明や医療機器、IT機器など必要最低限の電力を維持します。
工事時間の工夫
テナントビルやマンションでは、利用者が少ない夜間や休日に工事を行うことが多いです。深夜帯に停電作業を集中させることで、営業や生活への支障を抑えます(ただし夜間施工費用は増加します)。
段階施工・系統分離
設備の構成によっては、一度に全てを停電させず、系統ごとに順次更新する方法も検討されます。例えば受電回路が二重化されている場合は、片系統ずつ工事を行い、もう一方で電力供給を継続することが可能です。
事前周知と協力依頼
停電の日時・時間帯は早めに利用者へ通知し、協力を依頼します。マンションであれば各戸へのお知らせ掲示、商業施設ではテナントと調整し営業スケジュールの変更など、利用者側で事前準備ができるよう十分な周知期間を設けます。
現実には「停電できない」と考えられる施設でも、計画と対策次第で問題なく更新工事を実施できた事例が多数あります。例えば、ある工場では自家用発電設備と系統予備電源を活用して操業を止めずにキュービクル更新を完了しました。またテナントビルでは、テナント休業日に合わせて深夜から早朝に工事を行い、翌営業開始前に復電することでビル利用者への影響をゼロに抑えた例もあります。
重要なのは、オーナーと工事業者、保安担当者が一体となって最適な停電対策を講じることです。必要に応じて仮設受電設備のレンタル費用も見積もりに含め、安全と事業継続性を両立できる工事計画を立てましょう。
安全確保と法令遵守(電気事業法などへの対応)
キュービクル更新工事では、電気事業法をはじめとする関係法令の遵守と万全の安全対策が大前提です。国家資格者である選任電気主任技術者の指導・立会いのもと、技術基準に適合した施工を行い、必要な届出や検査を確実に実施します。これにより法令違反や事故のリスクを防ぎ、安全に新設備を運用開始できます。
高圧受電設備は法律上「事業用電気工作物」に該当し、設置者(オーナー)には以下のような義務があります。
有資格者の選任
キュービクルを設置する事業所では、第三種以上の電気主任技術者免状保有者を電気主任技術者(保安責任者)として選任し、保安監督部へ届け出る必要があります。自社に資格者がいない場合は、各地域の電気保安協会や登録電気保安法人などに外部委託して主任技術者業務を実施します。
技術基準への適合
電気設備技術基準およびその解釈に則り、キュービクルの設計・施工・検査を行う義務があります。工事中は労働安全衛生法に基づく安全作業手順(充電部分の停電措置や接地など)を順守し、感電災害を防止します。施工担当者も高圧電気取扱特別教育を受けた有資格作業員で構成されます。
工事計画の届出・検査
高圧(~7,000V級)の受電設備については、2003年の法改正以降、経済産業省への工事計画届出は原則不要となりました。しかし工事完了後には、主任技術者による使用前自己確認(自主検査)を実施し記録することが義務付けられています。さらに受電後1か月以内には所轄保安監督部による使用前安全管理審査(必要な場合のみ)を受ける流れです。
諸官庁との調整
工事内容によっては消防法に基づく防火対象設備の届出や、省エネ法の変更届(エネルギー管理指定工場の場合)など関連する行政手続きを確実に行います。また、電力会社との系統連系手続き(停電作業申請や受電再開の承諾)も工事業者が代行して進めます。
信頼できる電気工事業者は、これら法令順守事項を踏まえてオーナーに適切に説明し、必要な申請手続きを代行してくれます。専門家と連携することで、安全面・法令面の抜け漏れなく工事を進められます。
実際の更新工事では、主任技術者が工事計画を事前に確認し、停電手順や安全措置を指示します。工事当日も立ち会い、安全確保に努めながら作業前後の電源遮断・復旧を厳密に管理します。さらに新旧設備の性能試験結果を確認し、所定の試験成績書や自主検査記録を作成・保存します。これらのプロセスを経て初めて、新しいキュービクルは法的にも運用上も「安全に使える状態」となります。
電気事業法や関連法令を順守した確実な工事は、結果的にその後の安定稼働と保安に直結します。
工事業者の選び方と発注時の注意点
キュービクル更新工事を成功させるには、実績豊富で資格要件を満たした信頼できる工事業者を選ぶことが不可欠です。単に見積額の安さや近隣業者という理由だけで選定すると、施工不良や追加費用、トラブル対応の不備など、後々大きなリスクを招く恐れがあります。
高圧受電設備工事は高度な専門知識と経験を要し、不適切な施工は重大事故や損害につながりかねません。そのため業者選びでは以下のポイントを確認しましょう。
法定の許可・資格の保有
電気工事業の建設業許可や都道府県への電気工事業登録を正式に取得していること。加えて高圧工事に対応できる第一種電気工事士など国家資格者が在籍していることも最低条件です。許可番号や資格者情報は会社案内やホームページで確認できます。
類似工事の実績
過去にキュービクル更新工事を手掛けた十分な実績があるかを調べます。実績豊富な業者は施工写真やレポートを公開している場合が多く、技術力や対応力を判断できます。経験の蓄積は現場でのトラブル対応力にも繋がります。
見積もりの明瞭さ
提示された見積内容が内訳まで明確で、疑問点に丁寧に説明があるかを確認しましょう。不明瞭な見積もりや極端に安すぎる見積もりは、後の追加請求や質の低い施工リスクがあります。複数社の見積もりを比較して妥当性を総合的に判断してください。
アフターサポート体制
工事後の保守点検や故障対応について、きちんと説明やサービス提案があるかも重要です。キュービクル設置後は主任技術者の選任と定期点検が法的に義務付けられていますが、信頼できる業者は運用後の保守体制についても適切に説明し、必要に応じて保安協会などへの引継ぎまで対応します。アフターサービスや保証内容も含めて長期的に安心できる業者を選びましょう。
実際に電気工事業者を選定する際は、まず複数社に現地調査と見積りを依頼し、各社の提案を比較することが大切です。チェックポイントを踏まえ、各社の強み・弱みを見極めましょう。例えば、一社は価格が安いが高圧工事の実績が乏しい、一社は価格は高めだが電力会社OBの主任技術者が在籍し信頼性が高いなど、特徴が見えてきます。
また、資格のない業者に依頼して重大な不具合が発生し、追加工事や長期停電を余儀なくされたケースや、経験不足により検査不合格・再施工となった事例もあります。こうしたリスクを避けるため、価格面・技術面・対応面を総合的に評価して、基本的な信頼要件を満たす業者を選ぶことが肝心です。
発注者(管理組合やビルオーナー)は、自らの優先条件(安全最優先、予算重視、工期短縮など)に合った業者と契約することで、後悔しないパートナー選びを実現できます。
まとめ:長期計画と信頼できるパートナー選びが鍵
キュービクルの更新工事は、施設の電気インフラを次世代へと確実に引き継ぐための重要な長期計画です。その成功には、老朽化の兆候を見逃さず早期に計画を立てること、そして信頼できる専門パートナーを選ぶことが欠かせません。
計画的な更新により、重大事故のリスクを大幅に低減するとともに、エネルギー効率の向上や法令遵守も同時に達成できます。さらに、経験豊富な工事業者や電気保安の専門家と連携することで、工事中の影響を最小限に抑え、工事後も安心して運用を続けられる体制が整います。
本記事のポイントを参考に、自施設のキュービクル更新計画をしっかり検討し、安全・安心で持続可能な電力設備の運用につなげてください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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