大規模修繕のCM方式とは?メリットとデメリット、課題も解説
更新日:2025年08月25日(月)
マンションの大規模修繕工事において、どの発注方式を採用するかは、工事の品質やコスト、理事会の負担にも大きく関わります。これまで多くの管理組合で用いられてきたのは、施工会社に一括で依頼する「責任施工方式」や、設計監理を建築士などのコンサルタントに任せる「設計監理方式」です。 近年では、これらに加え、第三者のマネジメント専門家(コンストラクション・マネジャー:CMr)を活用する「CM(Construction Management)方式」も選択肢のひとつとして注目されるようになりました。 本記事では、CM(コンストラクション・マネジメント)方式の基本的な仕組みと、導入を検討する際に押さえておきたいポイントを解説します。発注方式の選択に迷っている管理組合の方にとって、自分たちに合った進め方を見極めるヒントとなれば幸いです。
- 本記事のポイント
- CM方式の仕組みと適用パターンが理解できる
- CM方式の利点と注意点をバランスよく把握できる
- 現実的で安心な「スマート修繕」の選択肢を知ることができる
大規模修繕におけるCM方式とは?
大規模修繕工事におけるCM方式(Construction Management方式)とは、マンション管理組合が選任した**第三者の専門家「CMr(コンストラクション・マネジャー)」**が、修繕工事全体のマネジメント業務を担う発注方式です。
国土交通省の定義では、CMrは管理組合の立場でプロジェクトに参画し、設計・発注・施工の各段階で、工程・品質・コストなどを管理・調整する役割を果たします。業者選定の助言、見積もりの査定、工事のスケジュール調整などを中立的な立場で行い、管理組合を支援します。
CM方式の特に大きな特徴は、発注形態の柔軟さにあります。従来の責任施工方式では、元請施工会社に一括で発注するのが一般的でしたが、CM方式では以下のように工事の発注先を細かく設計することができます。
CM方式における主な発注形態(3パターン)
完全な分離発注型
各工種(防水、外壁、設備など)ごとに、管理組合が専門施工業者と直接契約
一部分離発注型(ハイブリッド)
複数の工種をまとめて総合工事業者に発注しつつ、特定の工種だけを専門業者に分離発注
総合発注型(責任施工方式と同様)
施工会社に一括で工事を発注し、CMrは施工契約とは独立して管理業務を担う。従来の責任施工方式に近い形態でありつつ、CMrによるマネジメントを組み合わせるのが特徴です。
このように、CM方式は「完全な分離発注方式」というよりも、発注者の方針や状況に応じて調整可能な柔軟な仕組みと位置付けられています。
日本のマンション大規模修繕においても、こうした柔軟性が評価され、導入事例が少しずつ増えてきています。次章では、CM方式を選択する際に考慮すべきメリットとデメリットを整理していきます。
CM方式のメリット
CM方式には、コスト構成の透明化や品質確保のしやすさといった、従来方式では得られなかった利点があります。
メリット1:費用の明確化と適切なコスト管理
CM方式では、「設計・施工・マネジメント」それぞれの費用を明確に把握できます。そのため、不要な上乗せを削り、管理組合が精査・比較することで適正価格で契約できるようになります。
メリット2:品質を保ちながら工期短縮が可能
企画・設計段階からマネジャーが関与することで、施工性を踏まえた設計や工期の最適化が行えます。無駄な工程を省き、トラブル発生時には柔軟な調整が可能となり、円滑な進行に貢献します。
メリット3:専門家を組み合わせた分業による最適化
設計・マネジメント・施工をそれぞれ得意な専門家に任せることで、全体としての工事品質向上とコスト抑制につながります。「分業による柔軟な業者選定」が可能な仕組みです。
CM方式のデメリット
とはいえ、CM方式には導入にあたって慎重に考えるべき懸念も存在します。
デメリット1:工事の成否がCMr(マネジャー)の力量に左右される
CM方式はCMrのマネジメント能力に依存します。経験や提案力に欠ける人物が担当した場合、品質低下やコスト管理の不備が発生するリスクがあります。
デメリット2:コスト超過などのリスクを管理組合が負う可能性
「ピュアCM方式」では管理組合が複数業者と直接契約するため、予期せぬ追加費用が発生した場合、責任と負担が管理組合側に及ぶ可能性があります。対策として「アットリスクCM方式(最大保証)も存在します」が、国内導入は限定的です。
デメリット3:管理組合の業務負担が大きくなる可能性
複数の契約先との調整が多くなり、理事会や委員会の負担が増加します。専門知識が不足していたり、関与できるリソースがない場合は、責任施工方式や設計監理方式が適切な選択になることもあります。
スマート修繕で実現できること
CM方式には多くのメリットがある一方で、「体制が複雑でわかりにくい」「管理組合の負担が増える」「万一のリスクを組合が背負う可能性がある」といった懸念もあります。
その点、スマート修繕方式(責任施工方式)は、CM方式の良さを取り入れつつ、より現実的かつスムーズに進められる発注方法として、多くの管理組合に選ばれています。
責任施工方式で工事全体の責任を一本化
専門家による第三者チェックで品質確保
複雑な契約・手続きを削減し、理事会・修繕委員会の負担を軽減
つまり、CM方式の「透明性」「品質重視」といった利点を、もっとわかりやすく・効率的に実現できるのが、スマート修繕方式の最大の魅力です。
CM方式の課題
CM方式にはメリットがある一方で、導入・運用にあたっては乗り越えるべき実務的な課題がいくつかあります。以下に、代表的な3つの課題を整理します。
管理組合に求められる知識と体制の負担
CM方式では、管理組合が複数の専門工事業者と直接契約を結ぶため、発注者としての判断力と運営体制の強化が必要です。理事会や修繕委員会のメンバーが、プロジェクト全体の流れを把握し、専門家の提案を理解・判断する体制を整えなければなりません。
しかし実際には、「理事のなり手が少ない」「役員の交代が頻繁」「専門知識に不安がある」といった事情を抱える管理組合も多く、現実とのギャップを感じるケースが目立ちます。CM方式を導入するには、ある程度「プロジェクトを主導できる管理組合」が前提となるため、負担感が大きくなってしまうことも少なくありません。
信頼できるCMr(専門家)の見極めが難しい
CM方式は、CMr(コンストラクション・マネジャー)の力量が成否を大きく左右します。ところが、国内ではまだ実績豊富なCM会社が限られており、「どこに頼めばよいのか分からない」「本当に中立か見極めづらい」という不安を抱く管理組合も多いのが現状です。
実際、国土交通省も注意喚起を行っており、CMrの選定に際しては利益相反や過剰な影響力の排除、選定プロセスの透明性確保などが求められます。しかし、管理組合自身がこうした適正な選定基準を持ち、複数の提案を比較検討しながら判断を下すのは簡単なことではありません。
情報の少なさと制度的な支援の限界
CM方式に関する公的なガイドラインや支援策は整備が進んでいますが、まだまだ普及段階にあります。
資料や情報も専門的で複雑なものが多く、「読んだけれどよく分からなかった」「現場の運用イメージが湧かない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
いざ導入しようとしても、手間や不安を感じて立ち止まってしまう。こうしたケースは少なくありません。
スマート修繕という、より実践的で安心な選択肢
このように、CM方式は理想的な考え方ではあるものの、実際に導入してうまく運用するにはハードルが高い方式でもあります。「スマート修繕」方式は、CM方式の“良いところ”を活かしながら、もっと現実的に、もっとスムーズに大規模修繕を進められる選択肢として注目されています。
責任施工方式で工事全体の責任を一本化
専門家による第三者チェックで品質確保
複雑な契約・手続きを削減し、理事会・修繕委員会の負担を軽減
CM方式の理想と、スマート修繕の現実的な安心感
どちらも知った上で、本当に「組合にとって無理のない選択」はどちらかをじっくり考えてみてください。
「よく分からないまま進めてしまうのが一番のリスク」です。
まずはお気軽にご相談いただければ、無理のない進め方、最適な方式をご提案いたします。
まとめ:信頼できる専門家を見つけるのがカギ
大規模修繕のCM方式は、コスト削減や透明性向上など魅力的なメリットがある一方で、高度なマネジメント力や組合の主体性が要求される手法です。 メリット・デメリット、課題を総合的に考慮すると、CM方式が向いているかどうかはマンションの規模や管理組合の体制によって異なります。工事費の内訳を明らかにして適正価格で発注したい、複数業者の競争で品質の良い工事を実現したい、といった要望が強く、理事会が熱意を持ってプロジェクトに関われるのであればCM方式は有力な選択肢となるでしょう。一方で、組合の人的リソースが限られていたり、信頼できるCMr候補が見つからない場合は、無理に採用すればかえってリスクを招く可能性もあります。
いずれにせよ、大規模修繕工事を成功させる最大のカギは「信頼できる専門家(プロ)」を見つけてパートナーとすることです。経験と実績が豊富で、管理組合の立場に立って助言・サポートしてくれるコンサルタントやCMrと出会えれば、工事は格段にスムーズに進むでしょう。管理組合は複数の候補者から提案を受け、丁寧に比較検討して、知識と説明力がありこちらの要望を理解してくれる相手を選びましょう。契約後も密なコミュニケーションを取り、疑問点は遠慮なく相談するなど、専門家との信頼関係を築くことが成功への近道です。
大規模修繕はマンションの資産価値と居住者の安心・安全を守る一大プロジェクトです。CM方式を含め発注方式ごとの特徴を正しく理解し、信頼できるプロの力を借りながら、ぜひ納得のいく修繕工事を実現してください。
大規模修繕の支援サービス「スマート修繕」
- 「スマート修繕」は、一級建築士事務所の専門家が伴走しながら見積取得や比較選定をサポートし、適正な内容/金額での工事を実現できるディー・エヌ・エー(DeNA)グループのサービスです。
- ボリュームゾーンである30~80戸のマンションのみならず、多棟型やタワーマンションの実績も豊富で、社内にはゼネコン、修繕会社や修繕コンサルティング会社など出身の建築士等が多数いますので、お気軽にご相談ください。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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