マンション管理組合必見!熱感知器と煙感知器の違いと見分け方
更新日:2025年11月28日(金)
マンションの火災対策には、熱感知器(熱式探知機)と煙感知器(煙式探知機)の正しい理解が欠かせません。それぞれ火災を検知する仕組みも役割も異なり、設置場所のルールや点検方法にも違いがあります。 本記事では、マンション管理組合の方向けに熱感知器と煙感知器の基礎知識と見分け方を解説します。
- 本記事のポイント
- 熱感知器と煙感知器のそれぞれの仕組みと特性(誤作動しにくさ/火災初期の検知の速さなど)を理解できる。
- どの場所にどちらの感知器を設置すべきか、法的義務や設置場所の考え方(例:寝室や廊下は煙式、キッチンは熱式など)の判断基準がわかる。
- 点検や更新時に見落としやすい「汚れ・埃、誤塗装・カバー残存、経年劣化」などのチェックポイントと、管理組合が具体的にやるべき管理・記録の方法が明確になる。
熱感知器と煙感知器の仕組みと役割の違い
火災感知器は大きく分けて「熱感知器」と「煙感知器」の2種類があります。
それぞれの仕組みと役割には明確な違いがあります。
熱感知器の仕組みと特徴
熱感知器(熱探知機)は、周囲の温度変化を検知して作動します。主な種類は以下の2つです。
定温式:感知部(金属板など)があらかじめ設定された温度に達すると反応するタイプ
差動式:一定時間内に急激な温度上昇があった場合に作動するタイプ
これらは煙や湯気、粉塵などによる誤作動が少なく、安定して動作するのが特徴です。ただし、実際に温度が上昇しないと警報が出ないため、火災初期の段階では反応が遅れる傾向があります。そのため、キッチン・ボイラー室・機械室など、煙感知器が誤作動しやすい環境での設置に適しています。
熱感知器は火災の初期ではなく、火勢が強まった段階で作動することが多いため、人命保護よりも設備や財産の保護を目的とした補助的な役割を担っています。
煙感知器の仕組みと特徴
一方、煙感知器は火災によって発生する煙粒子を検知して作動します。代表的なものは次の通りです。
光電式煙感知器:内部で発光された光が、煙の粒子によって乱反射し、受光部がその変化を感知して警報を出す仕組み
イオン化式煙感知器:放射性物質を利用して煙を検知する方式ですが、日本では現在ほとんど使用されていません
煙感知器は火災初期の「くすぶり段階」で発生する微細な煙にも反応できるため、熱感知器よりも早期に火災を察知できます。特に就寝中の逃げ遅れ防止など、人命保護に適したタイプです。
感知器の種類 | 主な検知対象 | 作動の早さ | 主な設置場所 | 主な目的 |
熱感知器 | 温度上昇 | 遅い(高温時) | 台所・機械室・ボイラー室 | 設備・財産保護 |
煙感知器 | 煙粒子 | 早い(初期段階) | 居室・寝室・廊下 | 人命保護 |
このように、煙感知器は「早期警報・人命保護」、熱感知器は「誤作動防止・設備保護」と、それぞれの特性に応じて使い分けることが大切です。実際の防災設計では、両者を組み合わせて設置することで、より効果的な火災検知体制を整えることができます。
火災感知器の見分け方(外観とラベルによる判別方法)
火災感知器には「熱感知器」と「煙感知器」があり、外観にもいくつかの特徴的な違いがあります。
ただし、外見だけでは判別が難しい場合もあるため、最終的には型番ラベルの確認が最も確実です。
外観による見分け方
■ 煙感知器の特徴
- 側面に多数の通気孔(穴)があり、内部に煙を取り込む構造
- 全体に厚みがあるデザインが多い
- 天井に取り付けられた機器で、周囲にぐるりと小さな穴やメッシュが見える場合は煙感知器の可能性が高い
- 主に光電式が主流で、内部に発光部と受光部があり、煙による光の乱反射を検知します
■ 熱感知器の特徴
- 通気孔が少なく、全体的に平坦で薄い形状
- 中央に感温部の膨らみや金属製の円盤が見えるタイプが多い
- 定温式では感温板(銀色の金属板など)が露出していることがあり、 差動式ではドーム状のカバー内部に空気室を持つ構造が一般的です
- 煙を検知しないため、通気孔が不要でシンプルな見た目をしています
近年はデザインの多様化により、外観だけでの識別が難しい機種もあります。外見での判断はあくまで「目安」と考えましょう。
ラベル(型番)による見分け方
最も確実な方法は、感知器本体に貼付されているラベルの型番や表記を確認することです。
本体の側面または裏面には、メーカー名・型番・認定マークなどが記載されています。
- 型番に「SM(Smoke)」「光電式」などの表記 → 煙感知器
- 型番に「HT(Heat)」「定温式」「差動式」などの表記 → 熱感知器
型番をメーカーの仕様書や台帳と照合すれば、その感知器がどのタイプか(煙式・熱式、光電式・定温式など)を特定できます。
運用上のポイント
- 点検記録や機器台帳に、各感知器の設置場所・型番・種別を明記しておくと、保守や交換時に便利です。
- ラベルが劣化して読めない場合や型番から判断できない場合は、専門業者に相談するのが確実です。 外観写真や既設機器リストから判別してもらうことも可能です。
消防法による設置義務の違いと感知方式選定の理由
1. 消防法と条例による設置義務
2006年の消防法改正により、すべての住宅(戸建・共同住宅問わず)には住宅用火災警報器の設置が義務化されました。
設置すべき場所や感知方式は各自治体の火災予防条例で定められており、一般的な基準は次のとおりです。
- 寝室(就寝に使用する部屋)や階段部分:煙を早期に感知できる「煙感知器」の設置が義務。
- 台所(キッチン):煙や湯気による誤作動を防ぐため「熱感知器」の設置が認められている。
このように、法律上は人命保護を目的とする場所に煙式、日常的に煙が出る場所には熱式を設けるのが原則です。
2. 実際のマンションでの設置傾向
マンションなどの共同住宅では、消防法上「自動火災報知設備(有線式システム)」が共用部と住戸内に設置されます。
そのうち、共用部と専有部では次のような違いがあります。
区分 | 主な設置場所 | 主な感知方式 | 主な目的 |
共用部 | 廊下・階段・エントランス | 煙感知器 | 火災の早期検知と全体警報 |
専有部 | 各住戸のリビング・寝室・キッチン | 熱感知器(差動式・定温式) | 誤報防止・日常使用への配慮 |
専有部では、調理中の煙や湯気、タバコ、ホコリなどで誤報が起きやすいため、現実的には熱感知器が主流となっています。
ただし、寝室や内部階段(メゾネットタイプの階段上など)、または100㎡を超える大型住戸では、条例により煙感知器が追加設置されるケースもあります。
つまり、原則は煙式が望ましいが、実際には生活環境を考慮して熱式が採用されるというのが実情です。 これは法の目的(人命保護)と居住環境(誤報防止)の両立を図った運用です。
3. 感知方式選定の考え方
感知器の種類は、場所の用途と環境条件によって選ばれます。
設置場所 | 適した感知器 | 理由 |
寝室・廊下・階段 | 煙感知器 | 火災初期の煙を早期に検知でき、逃げ遅れ防止に有効 |
台所・浴室付近・機械室 | 熱感知器 | 湯気・煙・粉塵による誤作動を防止 |
無窓室・地下室など | 煙感知器(法令指定) | 換気が悪く煙が滞留しやすいため必須 |
近年は、煙と熱の複合型(マルチセンサー)も普及しており、キッチンなどでも誤作動を抑えつつ早期検知が可能な機種が増えています。消防庁や一部自治体ではこうした複合型の採用を推奨しています。
4. 共用部・専有部のよくある誤解と注意点
マンションでは、共用部と専有部で感知器の種類が異なるため、以下のような誤解が生じやすくなります。
- 「火災報知器=煙で鳴る」と思い込むが、実際は専有部の熱感知器では煙では作動しない。
- 料理中に警報が鳴った場合、火災感知器ではなくガス漏れ警報器が反応しているケースも多い。
- 各住戸内の感知器も、自動火災報知設備の一部として共用設備に該当する。勝手な取り外し・移設は条例違反となる。
マンション管理者は、これらの点を住民に周知し、点検時の立入協力や感知器の故意な取り外し防止を徹底する必要があります。
点検・更新時に見落としやすいポイントと管理組合の確認事項
火災感知器を安全に維持するためには、汚れ・劣化・遮蔽のチェックと定期的な交換が欠かせません。点検時に見落とされやすい項目を把握し、管理組合としても専門業者任せにせず、状態の確認と記録の管理を行うことが重要です。
1. 感知器の汚れ・埃
天井に設置された感知器は清掃が行き届きにくく、埃や油煙の蓄積が原因で誤作動や感知遅れを起こすことがあります。
- 煙感知器:内部への埃や小さな虫の侵入により誤報の原因となる
- 熱感知器(差動式):本体の小さな空気孔(リーク孔)が詰まると誤作動や感知遅延を引き起こす
点検時には、業者が送風や専用清掃器具で除去を行いますが、管理組合でも日常巡回の際に目視で汚れや変色の有無を確認するとよいでしょう。特に、黒ずみや埃が目立つ感知器は清掃・交換の対象として検討が必要です。
2. 経年劣化・寿命の把握
感知器にも寿命があり、一般的な交換目安は以下の通りです。
感知器の種類 | 交換目安年数 |
煙感知器 | 約10年 |
熱感知器 | 約15年 |
長期間使用した機器はセンサーの感度低下や電子部品の劣化により、火災時に作動しない・誤作動が増えるといったリスクが高まります。管理組合では、設置年月日・交換履歴・型番を台帳で把握し、10年以上経過した機器は計画的な更新を検討しましょう。点検報告書で「老朽化」「要交換」と指摘された感知器は、放置せず早めに交換することが安全確保につながります。
3. 感知器のカバー・塗装付着
リフォームや修繕工事時に、感知器へビニールカバーを被せたり、塗装用の養生テープを貼ることがあります。
しかし、工事後にカバーが外されず放置される事例が多く、これが原因で煙や熱を感知できなくなるケースがあります。
また、塗料やホコリが感知部に付着すると感度が大きく低下します。工事完了後には、感知器にカバーや塗装の付着がないかを確認し、必要に応じて理事会・修繕委員会で是正を依頼しましょう。高所に設置されている場合は、脚立や点検鏡を使ってでも確認する価値があります。
4. 試験・動作確認
消防法により、マンションでは年2回(6か月ごと)消防設備点検を行うことが義務付けられています。この際、専門業者がテスト器具を使って感知器の作動試験を実施します。
管理組合としては以下を確認しましょう。
- 点検報告書に「作動不良」「感度不良」などの指摘がないかを必ず確認する
- 各住戸への点検案内時に居住者の立会いを依頼し、全戸で点検が実施できるよう調整する。
- 立会い不可の住戸が多いと、感知器の不具合を見逃すおそれがある。
必要に応じて、理事会または修繕委員会が点検に立ち会い、実際に警報音が鳴るかを確認することも有効です。
5. 管理組合で取り組むべき確認項目(まとめ)
区分 | 内容 |
台帳管理 | 感知器の設置場所・型番・設置年月を記録し、交換計画を立てる。 |
巡回点検 | 共用部・住戸内の感知器に汚れ・破損・塗装・カバー残存などがないか目視確認。 |
点検報告の確認 | 専門業者の報告書を理事会で確認し、指摘事項は早急に是正。 |
居住者への周知 | 感知器は共用設備であり、カバーや取り外しは禁止。点検協力の呼びかけを行う。 |
まとめ
火災感知器は「設置して終わり」ではなく、維持管理によって機能を保つ設備です。管理組合・理事会・修繕委員会が主体的に点検結果を把握し、業者任せにしないチェック体制を整えることで、マンション全体の防災性能と居住者の安全を確実に守ることができます。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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