エレベーターの遮煙性能とは?既存不適格の改修対応や工事費用の相場
更新日:2025年05月30日(金)
みなさんのなかには、エレベーターの遮煙機能に関する改修を検討している方もいるのではないでしょうか。火災時にはエレベーター昇降路が煙の通り道となり得るため、各階ごとに煙を遮断する性能が求められます。実際、その改修を検討するときは何に注意すればよいのでしょうか? 本記事では、「エレベーターの遮煙性能」とは何か、その重要性と法的な位置付けを説明します。また「遮煙性能は不要なのか義務なのか?」という疑問に答え、法律上の扱いを確認します。その上で、既存不適格となっている場合の改修方法や、工事費用の相場について解説します。
- 本記事のポイント
- エレベーターの遮煙性能の法的義務や重要性を学べる。
- エレベーターの遮煙性能を確保するための具体的な改修方法や費用相場がわかる。
- 導入後の定期点検や維持管理の方法、注意点を把握できる。
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エレベーターの遮煙性能とは?
エレベーターの遮煙性能とは、火災時にエレベーターの出入口(乗場扉)から煙が漏れないようにする性能のことです。簡単に言えば、エレベーターの扉まわりで煙を遮る「防煙機能」です。
建築基準法施行令では、エレベーター昇降路などの縦穴部分を防火区画する際、煙が防火戸(扉)の隙間から通過しない構造にすることが求められています。エレベーターの乗場扉自体、またはその周囲に設ける設備に煙を遮る性能を持たせる必要があるのです。
建築基準法施行令第112条第14項(二号)において、エレベーター昇降路と他の部分を区画する防火設備は「遮煙性能」を有するものでなければならないと定められています。実際、2002年の同施行令改正時に、旧来のエレベーター扉の仕様(遮煙性能が十分でないもの)に関する経過措置が終了し、以降は国土交通大臣が認定した遮煙性能付きの防火戸等で区画することが必須となりました。この改正によってエレベーターの乗場扉にも煙を通さない気密性が強く求められるようになったのです。
エレベーターの遮煙性能は不要?
エレベーターの遮煙性能は法律上“義務”です。 現行の建築基準法令では、該当する規模・用途の建物においてエレベーター昇降路を遮煙性能付きの防火設備で区画することが明確に義務付けられています。したがって新築や大規模改修時には遮煙対策は必須となります。ただし、既存の古い建物で当初この基準がなかったものは「既存不適格」として扱われ、直ちに違法とはならず使用が認められているケースがあります。以下でその点を詳しく説明します。
2002年(平成14年)6月の建築基準法施行令改正により、「エレベーターの昇降路を遮炎性能および遮煙性能を有する防火設備で区画すること」が義務化されました。国土交通省の告示などで経過措置が講じられた旧仕様が失効し、それ以降に着工する建物はエレベーター扉に煙を通さない性能を持たせることが新たな基準となりました。2002年6月以降に建築確認を受けた建物では、遮煙性能付きエレベーター扉等の設置が法的義務となっています。
なお、建築基準法では、原則着工時の法律に適合する事が要求されている為、既存不適格と判定された項目については、直ちに改善を求められる事はありません。
既存不適格の改修対応
古いマンションでエレベーターの遮煙性能が備わっていない既存不適格の場合、改修によって現行基準に適合させることが可能かつ望ましいです。具体的な対応策としては、①遮煙性能付きのエレベーター扉(乗場戸)へ交換するか、②耐火クロス製の防煙スクリーン等を後付け設置する方法があります。
改修方法①:遮煙性能付きエレベーター扉への交換
エレベーターの乗場扉そのものを最新の遮煙・遮炎性能付き扉に交換する方法です。これは根本的な解決策であり、新築建物と同等の安全性が得られます。平成14年以降、各メーカーから「遮煙性能付きエレベーター乗場戸」が提供されています。扉自体が防火戸扱いとなるため、エレベーターホールに別途シャッターや幕体を追加する必要がなく、扉交換により見た目も一新します。また、防煙スクリーンが不要になるメリットもあります。
一方、 既存エレベーターの年式や構造によっては扉交換が困難または高額になる場合があります。古い機種だとメーカーが対応部品を持っておらず、結局エレベーター一式のリニューアルに近い工事になることも考えられます。また居住者への影響として、交換工事中はエレベーターが使用停止となります。1基しかないマンションでは工事期間中の昇降手段の確保(階段利用等)に配慮が必要です。
改修方法②:耐火クロス製の防煙スクリーン設置
扉自体を替えず、エレベーターホール開口部に後付けで防煙用のスクリーン(幕)を設置する方法です。遮煙性能付き扉への交換が難しい場合の解決策として広く採用されています。防火シャッターの一種ですが、金属ではなく耐火繊維(ガラスクロスやシリカクロス)製で軽量な幕体である点が特徴です。通常は巻き上げられており人の行き来を妨げませんが、火災時には自動降下してエレベーター前を遮断します。国土交通大臣認定品のスクリーンであれば、遮煙性能を有する防火設備として法令上有効に機能します。
スクリーン設置は比較的簡易な工事で済む場合が多く、エレベーター本体には手を加えないためコストが抑えられる傾向があります。巻取り式やバランス式などタイプがありますが、いずれも既存天井や壁面にユニットを設置する形で施工でき、短期間で後付け可能です。またスクリーンは薄く透光性もあるため、閉鎖時でも圧迫感が少なく心理的負担を和らげる効果があるとも言われます。高齢者や車椅子利用者でも避難時に扱いやすい設計(軽い素材、段差がない等)の製品が多い点もメリットです。
一方、スクリーンは可動部品を含む防火設備ですので、定期的なメンテナンスや作動点検が必要になります。毎年1回、防火設備検査員など有資格者による作動試験や劣化チェックが義務付けられており、その維持管理コストが発生します。また、設置場所の制約からスクリーンボックスが天井から下がって見える形になる場合もあり、意匠上若干の影響があります。さらに後付けスクリーンは火災時に自動降下させるための火災感知器や連動装置を別途設置・接続する必要があり、電気工事等も伴います。これらを総合すると、スクリーン方式は扉交換より工事ハードルは低いものの、導入後の維持管理や見た目の変化に留意が必要です。
既存不適格の改善工事を行う際は、専門家への相談と行政手続きも忘れずに行いましょう。建築基準法の規定を満たすため、改修内容によっては建築確認申請の変更手続きや所轄消防への防火設備設置の届出が必要になることがあります。実際の工事ではエレベーター会社や防火設備メーカーが連携して計画を立て、役所との事前協議を行うのが一般的です。また自治体によっては、こうした防災改修に対して補助金制度を設けている場合もあります。
エレベーターの遮煙に関する改修工事費用の相場
エレベーターの遮煙性能確保にかかる工事費用は、改修方法や工事範囲によって大きく異なります。おおまかな相場感としては、エレベーター扉の交換を含む大規模改修なら数百万円~数千万円単位、防煙スクリーン後付けなど部分的な対策なら数十万~数百万円程度が目安です。ただし実際の費用は建物規模・階数や工事内容によって幅が広いため、必ず複数の専門業者から見積もりを取って確認することが重要です。
改修工事するときの注意点
エレベーターの遮煙性能を確保する工事を行う際には、技術面・運用面でいくつか注意すべきポイントがあります。ここでは代表的な注意点を3つ挙げ、それぞれについて解説します。
注意1:認定品の使用と専門家による計画立案
遮煙性能の改修工事では、必ず法令に適合した認定製品・工法を使用することが重要です。エレベーター扉や防煙スクリーンはいずれも国土交通大臣認定を受けた防火設備でなければ、遮煙性能があるとは認められません。認定品以外を設置すると、せっかく工事をしても法定の遮煙性能を満たさず無駄になってしまいます。製品選定時には必ず認定の有無を確認しましょう。
また、工事計画は専門家やエレベーター技術者と十分に練る必要があります。建築基準法の既存不適格改善には法的知識が不可欠で、行政との事前協議も必要です。例えばエレベーター扉を防火戸に替える場合、防火設備の種類(常時閉鎖式か随時閉鎖式か)や感知器連動の方式など細かな仕様を建築基準法施行令・告示の基準に合わせる必要があります。専門家の監修なく独自判断で改修を進めるのは危険です。必ず信頼できる専門家やエレベーター会社と協議し、適切な計画と手続きを経て工事を行うようにしましょう。
完了後の検査手続きについて、防火設備を新設・交換した際は完了検査や定期報告時に確認されます。適切に設置されていれば建築基準法第12条に基づく防火設備定期検査でも「指摘なし」となり、安全性が証明されます。
以上のように、認定品の使用と専門的な計画・手続きは工事成功の大前提です。
注意2:工事スケジュールと居住者への周知徹底
エレベーター遮煙性能の工事を行う際には、マンション居住者への影響を最小限に抑える計画を立てることが大切です。エレベーターは生活インフラであり、長期間停止すると住民の負担となります。したがって工事スケジュールの調整と事前周知は周到に行いましょう。
スケジュール調整
可能であれば建物にエレベーターが複数基ある場合、1基ずつ順番に工事して常に少なくとも1基は使えるように計画します。1基しかない場合でも、工事は平日の昼間に限定し夜間は仮復旧するなどの工夫が考えられます。遮煙扉への交換作業は各階で扉枠の調整等が必要になるため数日~1週間程度、スクリーン設置なら比較的短期間(数日)で完了するケースが多いです。工事契約前に工期の見込みをよく確認し、できれば閑散期や在宅者の少ない時期に工事をあてると良いでしょう。
周知とサポート
管理組合から居住者への事前説明をしっかり行います。エレベーター停止期間や使用制限の内容、階段利用への協力依頼など具体的に知らせ、不安や不満が出ないよう配慮します。高齢者や身体の不自由な方がいる場合、特に長時間のエレベーター停止は負担です。必要に応じて一時的な支援策(例えば荷物運搬の手伝いなど)も検討します。工事当日は安全確保のためエレベーターホールへの立ち入り規制が行われる場合もあるので、その点も含め掲示板などで丁寧に周知しましょう。
美観と空間への影響
防煙スクリーンを設置する場合は、そのボックスが天井に露出することがあります。工事前に住民に完成イメージを示し、納得を得ておくことも望ましいです。最近の製品はコンパクト化されていますが、内装への影響がゼロではありません。扉交換の場合は見た目が新しくなるメリットがある一方、色やデザインが変わるため、サンプル写真を提示しておけば安心です。
注意3:導入後の定期点検とメンテナンス
遮煙性能の確保工事が完了した後も、継続的なメンテナンスを怠らないことが肝心です。新たに設置された遮煙設備(遮煙扉や防煙スクリーン)は防火設備として法令で定期点検が義務付けられています。また、エレベーター自体の保守点検にも新しい扉や連動装置の項目が追加されます。以下の点に注意して維持管理してください。
防火設備定期検査の実施
建築基準法第12条に基づき、防火設備(随時閉鎖式の防火戸や防火シャッター等)は毎年1回の定期検査と報告が義務となっています。遮煙性能付きエレベーター扉や防煙スクリーンもこれに該当します。検査では、スクリーンに損傷がないか、火災感知器と連動して正常に降下・閉鎖するか、扉の気密パッキンに劣化がないか等を確認します。この検査は一級建築士または防火設備検査員など資格者でないと行えませんので、専門業者に依頼しましょう。費用は防火シャッターと同程度で1枚あたり数千円(おおむね4,000~8,000円程度)です。複数箇所ある場合はその枚数分かかりますが、安全の要ですので必ず実施してください。
エレベーター保守への追加
遮煙性能付き扉に交換した場合、従来より扉周りの部品点数(シール材等)が増えています。定期点検時に気密材の摩耗や破損がないかチェックし、必要に応じて交換しましょう。エレベーターの保守契約を結んでいる場合は、事前に保守会社と新しい扉や装置の点検項目を契約に含めるよう調整します。防煙スクリーンを設置した場合も、エレベーターとは別にその保守契約や点検計画を立てる必要があります。いずれにせよ、新設した設備の取扱説明書や点検基準に従って管理することが大切です。
非常時動作の訓練
遮煙設備が正常に作動するか定期的に簡易テストをしておくと安心です。例えば、防煙スクリーンの手動降下訓練や、非常時にスクリーン下部を持ち上げて避難する要領の確認などを、年1回程度は実施すると良いでしょう。マンションの防火訓練などに組み込めれば、居住者も非常時の対応を理解できます。せっかく導入した設備も、使い方を誤ると思わぬ事故につながる可能性があります(スクリーンに慌てて衝突しないよう誘導方法を考える等)。
不具合時の迅速対応
万一、遮煙扉が閉まりにくくなった、スクリーンの動作がおかしい等の不具合が発生したら、早急に専門業者を呼んで修理しましょう。遮煙性能に問題がある状態で放置すると、いざという時に機能せず被害が拡大する恐れがあります。また不具合のままでは定期検査で「要是正」と指摘される対象にもなります。日常の巡回時にも目視で異常がないか気を配るようにしてください。
まとめ
エレベーターの遮煙性能向上は居住者の命を守ることに繋がり、火災時の煙対策は建物全体の防災力を飛躍的に高めます。適切な情報に基づいて対策を講じれば、万一の災害時に大切な居住者や資産を守ることができます。専門家の協力を得ながら安全・安心なマンション運営に活かしていただければ幸いです。
この記事が、エレベーターの遮煙性能についての理解を深め、具体的な対応の一助となれば幸いです。マンションの防災対策は日々の積み重ねが肝心です。これを機に、防火シャッターや避難設備など他の防災設備も含めた総合的なチェックと対策を進め、安全な暮らしの場を守っていきましょう。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者