マンション理事会トラブルのよくある事例と対応策
更新日:2025年11月28日(金)
マンションの理事会は管理組合の運営に欠かせない組織ですが、人間関係や意思疎通の問題からトラブルが発生しがちです。 この記事では、マンション理事会で起こりやすいトラブルのパターンと、その解決・予防策について解説します。国土交通省や自治体のガイドライン、関連する判例も踏まえ、理事会役員の交代や引き継ぎ時のポイント、トラブルを未然に防ぐための施策を紹介します。
- 本記事のポイント
- 理事長の独断、情報共有不足、議事録の未作成など、理事会でよく起こるトラブルの典型パターンと、その構造的な原因が理解できる。
- マンション標準管理規約 や最高裁判例など、公的指針や法的な裏付けに基づく、理事会運営の望ましいルール・判断フローの考え方が把握できる。
- 役員交代時の適切な引き継ぎ、議事録の公開・共有、意思決定の透明化、外部専門家の活用など、トラブルを未然に防ぎ、住民の信頼を維持するための具体的な改善策や運営方法が学べる。
よくある理事会トラブルのパターン
マンション理事会では、理事長の独断専行や理事同士の対立、情報共有不足による住民からの不信感など、いくつかの典型的なトラブルパターンが頻発します。これらは主に理事会運営のルールが曖昧だったり、コミュニケーション不足で情報が偏っていることに起因します。
例えば、理事長が管理会社とのやり取りや重要な意思決定をほぼ一人で進めてしまい、他の理事が蚊帳の外になるケースがあります。このような状況では理事長と他の理事との間で深刻な対立が生じやすく、理事会内部が分裂する原因となります。
また、ベテラン理事が長年の経験から実質的にワンマン状態で運営し、新任理事が意見を言えない雰囲気になることもあります。さらに、理事会内の情報共有が不十分な場合、一般組合員である住民から「議事録も公開されず密室で勝手に決めているのではないか」と不信感を持たれる恐れがあります。
実際に理事会で議事録が作成・共有されないと、「そんな決定は聞いていない」と後で紛糾するトラブルにつながります。こうした議事録問題や情報不足は、理事会と住民との信頼関係を損ないかねません。さらに、理事会が管理会社に運営を任せきりにしてしまい、報告を聞くだけで実質的な議論や判断が行われない形骸化も問題です。これでは理事会本来の機能が果たせず、管理会社との関係悪化や責任の所在不明といった二次トラブルを招きます。
上記のようなトラブルを解決するには、まず原因となっている運営上の不備を是正します。理事長の独断が問題なら、議事録や連絡事項を全理事に共有徹底し、理事会で意思決定するルールを明文化することが有効です。また必要に応じて第三者の専門家(マンション管理士やコンサルタント等)を交えて中立的な立場で議論を進行してもらうと、公平な合意形成が期待できます。
理事同士の対立には、理事長以外が議事進行役を務める輪番制の導入や、意見交換のみを目的とした場を設ける工夫が効果的です。理事会と住民との情報断絶を防ぐため、議事録の作成・公開ルールを徹底し、重要な検討事項は総会や回覧板などで周知して透明性を確保します。管理会社任せによる形骸化には、議題ごとに理事が主体的に役割を担うよう分担を明確にし、理事会から管理会社へも改善要求や提案を行う姿勢が大切です。
ガイドラインや判例に基づくトラブル対応指針
国土交通省や地方公共団体が公表するガイドライン、およびマンション管理を巡る判例は、理事会トラブルへの対応策として重要な指針を示しています。ガイドラインは理事会運営の望ましいルールや手続きを提示し、判例は具体的な紛争解決の方向性を示すことで、理事会の適切な対応を後押しします。
国土交通省が策定した「マンション標準管理規約」(管理組合のモデル規約)では、理事長の権限は限定的であり、理事長が独断でできることはほとんどなく、重要な事項は必ず理事会や総会の決議を経なければならないとされています。このように公的な指針でも、理事長一人の専断を許さず合議制を徹底する原則が示されています。
また、理事長の解任に関して重要な判例があります。2017年の最高裁判決では、「理事会が互選で選んだ理事長は、規約に明記がなくても理事の過半数の合意により理事長職から解任できる」という初めての判断が示されました。一審・二審では理事会による解任決議は無効とされていましたが、最高裁が覆した形です。この判決により、管理規約に特別の定めがなくとも理事長の暴走を理事会決議で止められることが明確になり、理事会内部の権力濫用に対する抑止策となりました。
さらに自治体レベルでも、マンション管理の手引き等で理事会運営上の留意点やトラブル相談窓口が示されています。例えば自治体のガイドラインでは、役員の選任・解任方法や理事会・総会の運営手順について標準的なルールを提示するとともに、役員間の対立が深刻化した場合はマンション管理士等の専門家やADR(裁判外紛争解決手続)を活用するよう助言がなされています。
ガイドラインや判例を踏まえて、管理組合として取るべき対応策は次のとおりです。
規約・細則の順守と見直し
標準管理規約にならい、理事会の決議事項と理事長の権限範囲を管理規約で明確化します。既存の規約が不備であれば改正を検討しましょう。例えば「理事長および役員の解職は理事会決議で行える」旨を規約に追加しておけば、緊急時に総会を待たず円滑に対応できます(最高裁判例を踏まえたルール整備)。
専門家への相談
トラブルの兆候があれば早期にマンション管理適正化推進法に基づく相談窓口(マンション管理センターや自治体の無料相談等)やマンション管理士・弁護士に相談します。公的機関のガイドラインにも専門家の活用が推奨されており、第三者の知見を借りることで公正かつ的確な対応策を導きやすくなります。
総会や理事会運営の適正化
議事運営について標準的な手続きを踏み、招集通知や議事録作成・保存を怠らないようにします。総会決議事項・理事会決議事項を整理し、ガイドラインに沿った手順で意思決定することで、手続き上の瑕疵によるトラブル(無効主張など)を防止できます。
役員の交代・引き継ぎ・運営ルール整備のポイント
理事長・副理事長・理事など役員の交代時には円滑な引き継ぎを行い、理事会の運営ルールを整備しておくことが重要です。適切な引き継ぎと明文化されたルールによって、理事会運営の継続性が保たれ、役員交代時の混乱やトラブルを最小限に抑えることができます。
マンション管理組合では通常、役員の任期は1〜2年程度で定期的に交代します。とくに一年任期で毎年理事が総入れ替えとなるような場合、前任者から後任者への引き継ぎが不十分だと、新任役員は何をどう進めればよいかわからず運営に支障を来す恐れがあります。実務でも、引き継ぎがほとんど行われずに理事会運営が停滞したり、重要事項の失念によるトラブルが発生したケースがあります。また、マンション管理の複雑化に伴い、役員個人の負担が増大しているため、一人の理事長に業務が集中するとリスクが高まります。そのため、負担を分散しつつ継続性を持たせる仕組み作りが必要です。
最近の動向として、役員の成り手不足を受けてマンション標準管理規約も改正され、居住者でない区分所有者でも役員に選任できるよう資格要件が緩和されています。これにより親族や賃貸オーナー、外部の専門家など、マンションに住んでいない人にも理事を委嘱できる仕組みが整いました。役員交代時の負担軽減と人材確保のため、国もルール面で支援を行っています。
理事会の引き継ぎと運営ルール整備に関して、以下のポイントを押さえておきましょう。
重要書類・情報の引き継ぎ
通帳や印鑑、管理規約や契約書類、建物の図面・設備点検記録、未解決の課題リストなど、管理組合運営に必要な書類や情報は漏れなく新役員に引き継ぎます。保管場所や管理方法も説明し、引き継ぎ後すぐ業務を遂行できる状態にします。
引継ぎ手順のマニュアル化
毎年の役員交代に備え、引継ぎ事項のチェックリストやマニュアルを用意しましょう。総会・理事会の開催時期や準備手順、緊急時の対応方法(火災・断水など)、各役職の職務内容などを文書化しておくと、後任役員が戸惑わずに済みます。前任理事長・役員は面倒がらず主体的に次の人への引き継ぎに協力する姿勢が大切です。
運営ルールの明文化
管理組合の運営規約や細則を整備し、理事会の議事運営ルール・役割分担・決裁フローなどを文章で定めます。例えば「理事会は毎月○回開催する」「緊急支出は理事長と会計担当理事の決裁で可」等のルールを決めておけば、誰が何をすべきか明確になりトラブルを予防できます。加えて理事長・理事の職務権限範囲(どこまで単独判断できるか、どこから理事会決議が必要か)を定めて共有しておくことも重要です。
輪番制と外部人材の活用
役員の負担と権限が一部に集中しないよう、輪番制(持ち回りで理事長や役職を交替する仕組み)を導入することも検討しましょう。また、どうしても担い手が不足する場合には、外部理事やアドバイザーを導入するのも一案です。管理規約を変更すればマンション住民以外の専門家(マンション管理士や弁護士、不動産の有資格者など)を理事に招くことも可能です。外部の知見を取り入れることで運営スキルが向上し、トラブル発生時にも冷静な対応が期待できます。
理事会トラブルを予防するための対策
日頃から理事会運営の仕組みを整えておくことで、トラブルの発生自体を減らすことができます。居住ルールに沿った管理規約・使用細則の策定や、定款・規約の改正、外部専門家の関与、合意形成フローの可視化などの予防策によって、理事会は安定し住民からの信頼も高まります。
前述のとおり、理事会トラブルの多くは運営ルールの曖昧さや情報共有の偏りが原因です。したがって「問題が起こってから対処する」のではなく、「起こらないように予めルールを作り見える化しておく」ことが肝要です。国土交通省も、マンション管理の事前計画やルール整備がトラブル防止に不可欠だと強調しています。
トラブルを未然に防ぐため、以下のような施策を講じましょう。
規約・細則の定期点検と改善
管理規約や使用細則を定期的に見直し、問題の芽を摘む条項を追加・修正します。例えば、理事長の解職手続や理事会緊急時の意思決定方法を事前に規定しておくことで、いざという時スムーズに対処できます。また、総会の議決権行使方法や理事会のオンライン開催規定など現状に即した改正も検討しましょう。規約変更には総会決議が必要ですが、マンションの実情に合ったルール整備は長期的に見てトラブル抑止に繋がります。
合意形成フローの可視化
理事会や管理組合内の合意形成プロセスを見える化します。管理組合のホームページで規約や細則、議事録、申請書類などをいつでも組合員が見れるるようにしておくなどの工夫が必要です。議案が提起されてから決定に至るまでの手順をフローチャート等で明示し、全組合員に共有しましょう。例えば「理事会→専門委員会→理事会再審議→総会決議」というステップを図示して周知すれば、「いつの間にか決まっていた」という誤解を防げます。手順が透明になれば組合員の理解も深まり、理事会への信頼醸成につながります。
情報公開とコミュニケーションの促進
トラブルの多くは「聞いていない」「知らなかった」から起こります。議事録は必ず作成して全組合員が閲覧できるようにする、理事会で議論中の重要事項は随時お知らせや掲示で周知する、など情報開示を徹底しましょう。併せて、住民から意見を募る仕組み(意見箱やアンケート、オープンな意見交換会の開催)を設けておくと、理事会と居住者の間の溝を平時から埋めておくことができます。日頃のコミュニケーションが良好であれば、小さな不満がエスカレートして大きな対立に発展するリスクも下がります。
外部の知見を取り入れる
トラブル予防策として、外部専門家を理事会に加えることや、必要に応じて第三者委員を設置することも有効です。マンション管理士や弁護士、不動産コンサルタント等に理事会アドバイザーとして定期的に参加してもらえば、問題発生の兆候に早めに気づき対処できます。また、理事会では解決困難な対立が生じそうな場合、総会に第三者の立場の議長を招いたり、専門家を交えた調停の場を設けることも検討しましょう。外部の知見と中立性を活用することで、内部では感情的になりがちな争点も冷静に整理され、合意形成が円滑になります。
まとめ
マンション理事会のトラブルは放置すると管理組合全体の停滞や資産価値の低下につながりかねない重大な問題です。理事会のルールを整備し、情報共有と透明性を確保し、必要に応じて専門家の力を借りることで、多くのトラブルは未然に防ぐか早期に解決できます。理事会役員は「自分たちのマンションを良くする」という共通の目的のもと、対立より対話を優先し、公平公正な運営に努めましょう。そうすることでマンション全体の信頼性が高まり、安心して暮らせる良好なコミュニティの維持につながります。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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