マンション消火器の交換時期と点検・費用・業者選定のポイント
更新日:2025年12月14日(日)
マンションの管理組合や理事会にとって、共用部に設置された消火器の維持管理は重要な責務です。消火器は非常時に初期消火の要となる設備ですが、永遠に使えるわけではなく定期的な交換が必要になります。 本記事では、マンションにおける消火器の交換周期(時期)や法定点検との関係、交換にかかる費用や工事の流れ、業者選定のポイントについて解説します。
- 本記事のポイント
- 消火器の交換時期と法定点検の関係、適切なタイミングが理解できる。
- 交換にかかる費用や予算計画の立て方が具体的に学べる。
- 信頼できる業者の選定ポイントや見積り比較のコツがわかる。
消火器の交換周期はいつ?~交換が必要な理由~
消火器にも使用期限がある
消火器は内部に消火剤とガスを封入した高圧容器であり、長期間設置したままにすると経年劣化によって不具合が生じる可能性があります。そのためメーカーが推奨する設計上の使用期限が定められており、業務用消火器では製造から約10年、住宅用(家庭用)消火器ではおおむね5~6年が交換の目安とされています。見た目に異常がなく未使用であっても、消火薬剤の固化や圧力低下、容器の腐食などが進行するため、一定年数を経過した消火器は計画的に新しいものへ取り替えることが推奨されます。
5年・10年がひとつの目安
実際のマンション共用部で使われる粉末ABC消火器など「業務用」タイプの場合でも、10年を待たずに5~6年程度で交換するケースが多いのが現状です。これは、消防法施行規則で製造後5年を過ぎた蓄圧式消火器は内部点検(分解点検)が、製造後10年を過ぎた消火器は容器の耐圧性能点検(水圧試験)がそれぞれ義務付けられているためです。こうした特別点検を実施するには専門資格者による整備や試験費用がかかり、新品に買い替える方が経済的になる場合がほとんどです。そのため、「使えるのにもったいない」という気持ちはありつつも、多くの管理組合では5年目や遅くとも6~7年目あたりで交換を計画し、10年近く使い続けることは避ける傾向にあります。
劣化や規格不適合の場合は早めの交換を
上記の年数に満たなくても、サビ・傷・変形など外観に異常が見られる消火器は安全上ただちに交換すべきです。また、設置環境(高温多湿、海風が当たる等)によって劣化が早まる場合もあります。さらに、旧規格の消火器(消火器本体ラベルに「普通・油・電気」の文字表示のみでピクトグラムがないもの等)は現行法令上もはや「消火器」として認められず、2022年以降設置できません。該当する古い消火器がまだ残っている場合は法令違反となる前に速やかに交換しましょう。いずれにせよ、消火器は万一のときに確実に作動し人命を守るためのものですから、「いつまで使えるか」のギリギリを狙うのではなく余裕をもって交換する習慣を持つことが大切です。
消防法定点検と消火器交換時期の関係
マンションでは消防設備の定期点検が義務
マンションの共用部に消火器や火災報知機など消防用設備等を設置している建物では、消防法に基づき半年ごとの「機器点検」と年1回の「総合点検」、計年2回の消防設備点検が義務付けられています。この点検は消防設備士など有資格者による専門点検で、消火器についても設置状況や外観・圧力計の確認、使用期限のチェックなどが行われます。
点検で期限切れが指摘される
定期点検の際、交換目安の期限を過ぎた消火器や老朽化した消火器が見つかると、点検結果の報告において是正(改善)指導の対象となります。消防署への報告時に「不良箇所あり」とされ、管理者(管理組合等)に対して交換など適切な措置を講ずるよう求められるのです。特に前述の旧規格消火器を放置している場合は「未設置」とみなされ深刻な違反となります。消防から是正勧告を受けたまま改善しないと、最終的には消防法第17条の4に基づく設置命令や違反対象物として公表される、さらには罰則適用(50万円以下の罰金等)といった事態にもなりかねません。こうした事態を避けるためにも、点検で指摘される前に計画的に交換しておくことが望ましいでしょう。
点検時期に合わせた交換が効率的
消火器の交換作業は、可能であれば消防設備点検のタイミングに合わせて実施すると効率的です。例えば年1回の総合点検の際に交換も同時に行えば、別途日程を設ける手間が省けるだけでなく、点検業者にまとめて依頼することで出張費などのコスト削減につながる場合があります。実際に、防火設備業者の中には「消防点検と同時に消火器交換を実施することで費用を抑えられる」と提案するところもあります。このように定期点検計画と交換時期を連動させることで、管理側の事務負担も減らしつつ安全性を確保できます。
消火器の交換にかかる費用と予算計画
消火器本体の価格
消火器の交換費用は、新しい消火器本体の代金と古い消火器の処分費用, そして交換作業の手間賃などで構成されます。一般的な住宅・事業用の粉末ABC消火器(10型)の場合、新品1本あたりの価格はメーカーや性能にもよりますがおよそ3,000~6,000円程度が相場です。例えばホームセンター等では4,000~5,000円前後で市販されています。
一方、業者に交換作業まで依頼する場合は多少上乗せがあり、1本あたり6,000~9,000円程度(処分費込)になるケースもあります。ただし本数が多い場合にはボリュームディスカウントが利くこともあります。
古い消火器の処分費
使用済み・期限切れの消火器は中に加圧ガスが封入されているため粗大ゴミ等で捨てることはできません。専門の方法で廃棄・リサイクルする必要があり、その際のリサイクル費用が発生します。消防設備業者等に交換と処分をまとめて依頼した場合でも処分費は見積に含まれますが、内訳として1本あたりおよそ1,000~3,000円程度が相場です。この費用は消火器本体に貼付されている「リサイクルシール」の代金(工業会で定められた再資源化費用)も含まれます。業者に頼まず自分で処分する場合は、日本消火器工業会の「消火器リサイクル窓口」に持ち込む方法もありますが、結局リサイクルシールを購入する必要があるため1本数百~千円単位の費用は避けられません。したがって業者に交換を依頼して処分まで任せるのが確実かつ手間も少ないでしょう。
費用捻出と承認プロセス
マンション管理組合で消火器交換を実施する際、その費用は通常管理費もしくは修繕積立金から支出されます。どの勘定科目で負担するかは管理規約や金額によりますが、一般的に日常的な維持管理費用であれば管理費から、長期修繕計画に基づく設備更新であれば積立金からとなるケースが多いです。管理費で賄う場合は理事会決議で承認可能なことが多いものの、修繕積立金を充当する場合には金額の大小に関わらず組合規約上総会での決議承認が必要になることに注意が必要です。例えば消火器30本の一斉交換で数十万円規模となれば、年度予算に計上済みでない限り総会の議案として住民合意を得る必要があるでしょう。スムーズに承認を得るには、「なぜ交換が必要なのか」「いくら費用がかかるのか」を理事会として分かりやすく説明できる資料を用意することが大切です。
消火器交換工事の流れと業者選定のポイント
消火器の交換を実施する際の一般的な流れと、業者選びのポイントを押さえておきましょう。計画から施工まで適切に進めることで、円滑かつ確実に交換作業を完了できます。
現状把握と交換計画の立案
まずマンション内の消火器リストを確認し、各消火器の製造年や前回交換時期を把握します。ラベルの製造年月日や「設計標準使用期限」の表示をチェックし、いつまで使用可能かを明らかにします。「〇年〇月製造」と書かれていればそこから5年後(または10年後)が目安です。次に、交換が必要な消火器の本数と大まかなスケジュールを計画します。例えば「来年度中に全○本を更新する」「劣化の激しい屋外設置分は今年度、残りは翌年度に分けて更新する」など、予算や必要性に応じた計画を立てます。
予算確保と組合内承認
消火器交換にかかる概算費用を算出し、予算措置を検討します。日常管理の範囲で賄える金額か、長期修繕計画に沿った更新として積立金から出すべきかを判断します。それによって理事会決議で足りるか総会決議が必要かも決まります。総会決議が必要な場合、次回総会まで期間があるようなら臨時総会の開催も検討します。住民への説明資料には、交換の必要性(法令遵守や安全性向上)や費用の妥当性を記載し、合意形成を図ります。
業者選定と見積取得
信頼できる消防設備業者または防災設備会社を選びます。現在消防点検を委託している業者があればまずは相談すると良いでしょう。同時に相見積もりを取ることも検討してください。複数社から提案を受けることで適正価格や工事内容を比較できます。業者選定のポイントは、消防設備士などの資格保有はもちろん、消火器リサイクルシステムへの対応(古い消火器の引取処分が可能か)、提示価格に作業費や処分費が含まれているか明確か、といった点です。
契約と日程調整
発注する業者が決まったら見積条件を最終確認し、正式に契約します。合わせて工事日程の調整を行います。前述のように可能であれば定期点検日に合わせるか、少なくとも住民の生活動線に配慮した日時を選定しましょう。交換作業自体は各消火器ごとに数分程度ですが、全館で行う場合は作業員数名で半日~1日ほどかかることもあります。エレベーター等での運搬や駐車スペースの確保も必要ですので、管理会社や管理員とも連携し準備します。作業日前には掲示板や回覧で居住者に通知し、「○月○日○時~○時に消火器の取替工事を行います」と周知しておくと良いでしょう(特に音が出る作業ではありませんが、不審者と間違われないための配慮です)。
交換作業の実施
当日は業者が各設置場所を巡回して古い消火器を回収し、新品と取り替えて設置します。消火器ごとに設置基準(床置きスタンドや壁掛けフックの高さ、表示板の有無など)が消防法施行規則で定められていますが、通常は既存と同じ位置に同等規格のものを設置すれば問題ありません。作業員が圧力計やピンの封など新品の状態を再確認し、設置完了となります。回収された古い消火器は業者が責任を持ってリサイクル工場等へ送り、適切に処分されます。管理組合側では作業立会いの担当者を決め、設置漏れがないか、設置箇所が汚れていたら清掃する等の確認を行うと安心です。
完了後の確認と記録
消火器交換が完了したら、設置台帳や消防設備一覧表の更新を行います。新しい消火器の製造年月や型式、設置場所を記録し、次回の交換予定も把握しておきます。交換後初めての消防点検時には、点検業者から消火器が新しくなった旨を報告書に記載してもらいましょう。古い消火器の処分に関しては、業者から「産業廃棄物管理票(マニフェスト)」やリサイクルシール貼付済みの証明などを受け取れる場合がありますので、合わせてファイリングしておくと信頼性が高まります。最後に、今回依頼した業者の対応や費用を振り返り、次回以降の交換計画に活かすことも大切です。
まとめ
マンションに設置されている消火器は、入居者の生命と財産を守る重要な防災設備です。管理組合には、適切な時期に交換し、確実に維持管理する責務があります。
一般的には5~10年を目安に「長期修繕計画に項目を記載し」計画的に交換計画を立て、消防法定点検での指摘を受ける前に更新することが望まれます。
また、定期点検との連携や費用の事前積み立て、総会での合意形成など、計画的かつ透明性のある運用が求められます。
マンションの防火安全を維持するために、最新の情報やサービスも活用しながら、継続的で適切な消火器管理を進めていきましょう。
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本記事の著者

鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
本記事の監修者
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遠藤 七保
大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。
二級建築士,管理業務主任者
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