マンションの大規模修繕の費用相場は?大規模修繕の周期や修繕積立金が不足する場合の対応などについて解説
2024/09/04
10数年に一度、マンションの機能や美観を維持するために行う大規模修繕において、マンション1戸あたりの費用は、百数十万円と非常に大きいものです。だからこそ本当に必要な時期に、適正な工事項目や仕様で大規模修繕を実施する必要があり、工事内容や費用をしっかり精査することが大切です。 この記事では「大規模修繕とは(主に外壁/防水)、修繕周期の目安」、「大規模修繕の費用相場(含む2回目、3回目以上)」、「修繕積立金が不足する場合の対応」、「工事を見直しする場合の留意点」などについてご紹介いたします。これらの情報が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。
目次
大規模修繕とは?、修繕周期の目安は?(国土交通省)
建築基準法における大規模修繕は、マンションやアパートなどの集合住宅、ビル、ホテル、商業施設など、「建築物の主要構造部(壁、柱、梁、床、屋根、階段など)の一種類以上について行う過半の修繕」と定義されています。一般的には、躯体(下地)補修工事、タイル補修工事、シーリング工事、内外壁天井塗装工事、鉄部塗装工事、防水工事、それらに付随する仮設工事の総称で、広義には、内装工事や設備系工事を含みますが、工事を手配する上では、大規模修繕と内装工事、設備系工事は分離発注した方が、工事費用を抑えることができます。
マンションの大規模修繕の周期の目安として、国土交通省の長期修繕計画のガイドラインでは、「12~15年周期」となっています。国土交通省が実施した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、『マンション大規模修繕工事の平均修繕周期は、「13年」が最も多く、次いで「12年」「14年」「15年」と、全体の約7割が12~15年周期で実施となっている』とあります。
各マンションの大規模修繕の周期の目安は「何年ごとになるか?」については、新築の施工品質、RC(鉄筋コンクリート)か/PC(プレスト・コンクリート)か、環境、メンテンナンス状況などで変わるため、一概には言えません。各マンションの大規模修繕の適正時期は、建物劣化診断などを定期的に実施して把握することになります。
マンションの大規模修繕の費用相場(1回目、2回目、3回目)
大規模修繕の費用は一体どのくらいかかるのでしょうか。本節では大規模修繕の費用相場について解説します。
大規模修繕の費用相場(マンション1戸あたり)
国土交通省が実施した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」におけるマンションの大規模修繕の費用相場(マンション1戸あたり)は下記の通りです。
1回目:中央値110.2万円、平均値151.6万円
2回目:中央値106.1万円、平均値112.4万円
3回目:中央値 97.0万円、平均値106.1万円
これら金額には共通仮設費(総工事費の約10%)、消費税が含まれていません。
共通仮設費と消費税を含んだ場合のマンションの大規模修繕の費用相場は下記の通りです。
(計算式 = 金額 ÷ 0.9 × 1.1)。
1回目:中央値134.7万円、平均値185.3万円
2回目:中央値129.7万円、平均値137.4万円
3回目:中央値 118.6万円、平均値129.7万円
マンション1戸あたりの費用相場は、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目の方が金額が低くなっています。
年代ごとに戸あたりの床面積の大きさが異なること(近年のほうが大きい傾向に)、外壁の仕上げ材が異なること(近年のほうがタイルが多い傾向に)が影響しています。
大規模修繕の費用相場(床面積㎡あたり)
前述の実態調査におけるマンションの大規模修繕の費用相場(床面積㎡あたり)は下記の通りです。
1回目:中央値1.1万円、平均値1.3万円
2回目:中央値1.3万円、平均値1.5万円
3回目:中央値1.2万円、平均値1.9万円
上記と同様、共通仮設費と消費税を含めた場合の費用相場は下記の通りです。
(計算式 = 金額 ÷ 0.9 × 1.1)。
1回目:中央値1.3万円、平均値1.6万円
2回目:中央値1.6万円、平均値1.8万円
3回目:中央値1.5万円、平均値2.3万円
マンション床面積㎡あたりの費用相場は、1回目よりも2回目~3回目の方が高くなっています(20年以上経過しているもののほうが、床面積あたりだと高いという結果に)。
大規模修繕の費用に影響を与える要素
「国土交通省発表の金額に近いから適正費用である」とは限りません。理由は、マンションごとに大きさや形状、素材、劣化状況、工事内容などの前提が変わり、大規模修繕の費用相場は大きく異なるためです。
以下に「マンションの大規模修繕の適正費用を大きく左右する」主な要素を紹介します。
1)戸あたりの大きさ
床面積66㎡の部屋と80㎡の部屋では約20%異なり、それに伴い大規模修繕(外壁など)の工事量が異なります。
2)建物形状
上空から見た形状が正方形なのか、細長い長方形なのかで、床面積あたりの工事量が大きく異なります。
以下に簡単なシミュレーションを示します。
当シミュレーションのように、同じ建物面積でも建物の形状次第で周辺長→外壁などの工事量が数十パーセントレベルで異なります。
3)工事範囲(除外範囲)
屋上防水を保護塗装のみにするか/除外とするか、廊下や階段床の長尺塩ビシートを洗浄と端末シールのみにするかなどで金額は数十パーセントレベルで変わります。リスクと劣化度を基に優先順位をつける方法が一般的な対処方法となります。
また、ルーフバルコニーの有無は、マンションの大規模修繕費用に影響を及ぼす要素の一つです。マンションにルーフバルコニーがある場合、修繕の内容や工事の進行方法が変わり、防水性や耐久性を確保するために特別な修繕が必要となるなど、費用を押し上げる要因となります。
4)材料グレード
屋上防水をシート防水にするか/ウレタン塗膜防水にするか、シーリングを通常仕様にするか/高耐久仕様にするか、外壁塗装をシリコンにするか/フッ素にするかなどで金額は大きく変わります。
5)戸数
戸数が一定以上のマンションは規模の経済が働き、大規模修繕の費用を抑えることができます。逆に、小規模マンションは大規模修繕費用が割高になる傾向があります。
タワーマンション(タワマン)の費用
「通常のマンションと比べて、大規模修繕の費用が高いか/安いか?」ですが、高くなる要素も安くなる要素もあるものの、総じて言えば、通常のマンションと同等程度になると想定されます(弊社が支援させていただいたタワーマンションの大規模修繕においても戸あたり費用は一般的なマンションと同等でした)。
高くなる要素
①足場が適用可能な建物の高さ制限(45m、マンションの14~15階が目安)を超えて足場が使えず、外壁工事をゴンドラなどによる無足場でおこなうため、仮設工事費用が膨らんだり、工程管理の難しさ/作業効率の悪さ/天候面の制約などにより工事期間が長くなったりすること
②工法などが特殊になるケースがあること
③上記①/②を背景に、実績あるコンサルタント/工事会社が限られ、談合などが行われやすいこと
安くなる要素
①タワーマンションの規模/実績構築の魅力により競争原理が働くこと
②内廊下である(開放廊下が少ない)ため、表面積が少なくなること
③戸あたりの屋上/ルーフバルコニーなどの防水工事が少ないこと
近年の建設工事費用の推移(国土交通省)
建設工事費用は、近年上昇傾向にあります。
国土交通省が発表した「建設工事費デフレーター(2015年度基準)」における「建築補修」の数値は、2015年度が100に対し、2022年度(暫定)は119.9と2割ほど増加しています。特に2018年以降に建設工事費の高騰がみられます。実際に、大規模修繕費用の高騰により、修繕積立金が不足してしまい、大規模修繕費用が払えないという問題は多くのマンションで発生しています。
今後の見通しですが、建設資材の値上げのほか、労働人口(建設従事者)の減少、2024年問題、大阪万博などの影響により、あまり楽観視できない状況となっています。
当サービス「スマート修繕」は、大規模修繕の支援を多数行っております。支援を通し入手した多数の見積書内の各工事の単価をデータベースに登録し、各工事の工事金額を単価レベルで把握しています。当データベースの活用により、お手元見積書の金額妥当性の査定や(以前の大規模修繕明細を基に)「当時の明細内容で、現状の相場だと費用がいくらぐらいになるか?」といったシミュレーションを実施可能となっております。
大規模修繕の見積費用が修繕積立金を超えている場合の対応
マンションの大規模修繕は、購入したマンションをしっかり維持するために住民にとって避けては通れない大きな出費となります。予定された大規模修繕工事の見積り費用が高く修繕積立金が不足してしまうという事態に直面した場合、どのような対処が必要になるのでしょうか。本章では、そんな突如として現れる予想外の出費にどう対処したらよいのかを解説します。
資金面
1)工事を延期、修繕積立金が積み上がるのを待つ
まず最初に考えるべきは、工事の延期です。これは、全面工事の緊急性が高くない際に有効な手段となります。しかし、工事を無期限に延期するわけにはいきません。大規模修繕に緊急性があるのに延期し、タイルの落下による人身事故や、屋上漏水多発による多額の損害(保険を利用するため将来の保険料が値上げされる)、住民トラブル、躯体の劣化進行によりマンションの寿命が縮んでしまうことなど、マンションの資産価値の低下に繋がることは好ましくない事態です。大規模修繕の延期を検討する場合には、専門家による建物劣化診断などの結果を踏まえ、判断する必要があります。
2)補助金/助成金の活用
マンションの大規模修繕でも、国や地方自治体の補助金や助成金制度を利用することができます。補助金や助成金の活用は、マンションの大規模修繕を行う場合に費用負担を軽減するための重要な手段です。国や地方自治体、さらには公的機関から提供されるこれらの資金は、適切な手続きを経て申請することで、修繕費用の一部を補填することが可能となります。
3)一時金徴収・借入などによる資金調達
マンションの大規模修繕には莫大な費用がかかることは周知の事実です。修繕積立金だけでは対処しきれないケースも少なくありません。では、修繕積立金が不足してしまう場合、どのように資金を調達すればよいのでしょうか。
まずは、修繕積立一時金の徴収です。これは、毎月徴収する修繕積立金とは別に、臨時で修繕積立金を追加徴収する方法で、大規模修繕費用に対して修繕積立金が不足する場合によく用いられます。マンションの各戸から専有部分の面積などに応じて徴収します。しかし、修繕積立一時金の徴収には住民の負担が大きくなるというデメリットがあり、修繕積立一時金の金額が大きい場合は、払えない住民が出てきます。
次に、金融機関などから資金を借り入れる方法があります。長期的な返済計画を立てることができますが、利息負担や審査が必要となる点に注意が必要です。代表的なものに独立行政法人住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」があります。
修繕積立一時金を徴収する方法、金融機関からの借り入れる方法のどちらも総会決議に伴う困難、経済的負担、住民間の関係性が悪化するリスクなどを伴うものであり、軽々に判断するものではなく、「できる限り回避、軽減」、「再発防止」を目指すべきものとなります。
工事費用面
1)手元の工事見積をベースにした工事範囲などの見直し
すでに手元にある工事見積を基に、大規模修繕内容や工事範囲を見直す方法について解説します。まず、既存の見積がすべての必要な工事をカバーしているか、あるいは余分な工事項目が含まれていないか確認します。これは、無駄な費用を削減するために不可欠です。
次に、修繕箇所の優先順位を決定します。これは、修繕積立金が限られている場合や、すべての修繕を一度に行うことが不可能な場合に特に重要です。専門家による建物劣化診断などの結果を踏まえ、工事の緊急性、中長期で見た合理性を踏まえた上で、判断をする必要があります。例えば、屋上防水が劣化進行し、緊急性が高い(リスクがある)場合には、先に屋上防水工事のみを実施し、数年後に修繕積立金が貯まった際に他の工事を実施します。このように優先順位を設定することで、最も重要な修繕箇所から順に対処し、修繕積立金を効率的に使うことができます。
2)工事見積の見直し
マンションの大規模修繕において不必要な工事を避けるための助言や、費用を節約する提案を受けるために当社「スマート修繕」のような外部専門家を活用することも選択肢となります。また、複数の工事会社から見積を取ることをお勧めします。これにより、大規模修繕にかかる費用と工事内容を比較し、最適な大規模修繕を選択することができます。
「工事費用が高く修繕積立金が不足する」原因として、長期修繕計画の不全、ひいてはそれを招いた管理体制にも問題がある可能性があります。そのような体制で取得した工事見積はそもそも不適切である可能性があります。管理会社に任せるだけでなく、マンション管理組合が主体となってセルフチェックを行う体制を整えることが大切です。
大規模修繕を見直しする場合の留意点
見直し体制/情報管理
「なぜこんなに見積が高いのか?」といったことでお困りのマンションは多くあります。談合や競合排除(例:他社が見積参加しようとした際、その会社との他取引の存在などを背景に圧力をかけ、参加を断念させたり高額の見積を出させたりする)などが少なくない業界です。管理組合主導で工事会社の選定、相見積を取得する必要があります。理事会メンバーで理事会以外の場で集まるようにする、修繕委員会を設置するなど、情報管理に気を付けて進行しましょう。
工事会社の選定
マンションの大規模修繕は、「数千万円~費用がかかる大規模な工事であること」、「高所作業を伴う、ドリルなどの危険物を扱う作業であること」、「住生活や周辺住民への配慮が必要な工事であること」などから、候補にする工事会社は価格競争力のみならず、経営状況、実績(大規模修繕工事の売上高・元請率など)、立地などの条件も入れるようにして、慎重に選定する必要があります。また、選定者と工事会社との癒着を疑われないよう、公正かつ透明性のあるプロセスが大切になります。
複数社による建物調査、設計、見積
見積を取るのが1社のみの「特命随意」では、競争原理が働かない、他住民から癒着を疑われるなどの問題があります。
複数の工事会社から見積を取得することにより
①多様な提案の取得
②競争原理による見積金額の適正化
③複数の専門家の目による劣化状況の周到なチェック
が期待できます。
いっぽう、見積を取る工事会社の数を増やし過ぎると
①採用確率の低下に伴い工事会社のモチベーションが低下してしまう
②見積を比較選定する負荷が増加する
③選択肢が多すぎることで意思決定が難しくなる
などの問題が生じます。
見積を取得する工事会社の数は3社程度とするのが適切と考えられます。
見積取得、工事会社/見積費用の比較選定
見積を適切に取得するためには
①見積要綱などを通して、ご要望、品質/契約条件、判断基準などを的確に伝えること
②図面など関連する必要資料を提供すること
③建物調査を手配すること
等々を、各社に対して実施する必要があります。
工事会社/見積の比較選定を適切に行うにあたっては、見積の提案内容や金額のみならず、各工事会社の経営状況、実績(大規模修繕工事の売上高・元請率など)、立地、意気込み、応対マナー、重要事項である現場代理人候補者の資質などを含めてトータルで判断する必要があります。
また、他の区分所有者が、それら選定の経緯/適正さについて理解できるよう、整理/資料化する必要があります。
契約(含む工事保証/工事保険)
マンションの大規模修繕では、工事中のトラブルに伴うリスク(例:建物に被害発生、作業者・住民が大怪我、工事会社が倒産)、工事品質に伴うリスク(例:工事後に工事不良などが判明、アフターフォローすべき工事会社が倒産)などといったリスクが存在します。
それらリスクをカバーできるように、適切な工事保証・工事保険などを伴う工事契約を締結する必要があります。また、保険などは補償範囲・程度を広げれば広げるほど費用がかかるため、各マンションにとって適切な水準にする必要があります。
大規模修繕など共用部工事の見積、工事支援サービス「スマート修繕」のご紹介
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この記事の著者
豊田 賢治郎
「スマート修繕」代表。過去2年間の顧客マンションへの訪問回数は400回を超え、チェックした見積書の数は千を超える(2024年7月末時点)。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「日本経済新聞」、「羽鳥慎一 モーニングショー」、「日曜報道 THE PRIME」、「モーニングサテライト」。
中小企業診断士
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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