マンションの耐震基準、耐震診断、耐震工事について徹底解説
2024/09/04
日本は地震大国であり、地震の発生は避けられません。そのため、私たちが住むマンションの耐震性は、生活の安全に直結する非常に重要な問題です。 この記事では「マンションの耐震基準とは?、旧耐震/新耐震とは?、耐震等級とは?」、「耐震診断の必要性とその内容」、「耐震工事とは?、その内容は?」などについて説明します。これらの情報が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。
目次
マンションの耐震基準とは?
マンションの耐震基準とは、日本国内で新たに建設される建物が満たすべき安全性の基準となります。建築物が地震の揺れに耐える能力を設定するための重要な指標であり、住民の命を守るための最初の防波堤とも言えるものです。この基準は、建築基準法や建築物の構造規制など、様々な法令により定められています。
耐震基準は、建物の構造や素材、設計、施工方法など、様々な要素に対して具体的に定められています。たとえば、地震の揺れに対する建物の強さ(耐力)や、地震のエネルギーを吸収・消散する能力(耐震性)などが定められています。また、地震発生時に生じる揺れの大きさや方向、持続時間などに対する建物の耐久性も重要な要素となります。
旧耐震基準と新耐震基準
分譲マンションの建て替えが進まない理由のひとつに、住民から建て替えへの賛成決議を得られにくいという問題があります。住民が反対する理由としては、建て替えに必要な自己負担額が大きいという経済的な理由や、住民に高齢者が多い場合は身体的・精神的な負担が大きいことなどがあります。
旧耐震基準は1981年(昭和56年)6月までのマンションに適用されていました。重要なのは、旧耐震と新耐震の基準が分かれる境目が「建築確認申請が受理された日」になることです。つまり、「旧耐震のうちに建築確認申請を通してしまったマンション」で「建築工事に時間がかかり、出来上がったのが3年後」というマンションは旧耐震になるのです。1982年(昭和57年)や1983年(昭和58年)に建てられたマンションも「旧耐震」ということがあり得ますので、十分に注意してください。
※調べ方としては、マンションの管理室に保管されている「建築確認通知書」を見れば「受領日」が載っていますので、そこで判断することができます。マンションの管理室に保管されていない場合は、市役所の建築課に行き、「確認台帳記載事項証明」の発行を依頼することで、建築確認通知書が受理された月日を確認できます。
※ごく一部、旧耐震基準の際に建てられたが、新耐震基準に適合しているマンションがあります。
一方、新耐震基準は、1981年(昭和56年)6月以降に建設された(建築確認申請が受理された)マンションに適用され、地震発生時に建物内での生命・財産の安全を確保することを目的としています。
新耐震基準では、地震の揺れに対する建物の強度だけでなく、揺れの大きさや時間、揺れの方向などを総合的に考慮した設計が求められます。細かな点を記載すれば、「許容応力度計算」「保有水平耐力計算」というものが求められて、構造計算書として提出をすることが必要となりました。このため、新耐震基準のマンションは、地震による揺れが大きくても倒壊することが少なく、住民の安全を保つことができます。これらの基準は、マンションの安全性を確保する上で重要な要素であり、ご自身が住んでいるマンションや、これから新たに新築マンション、中古マンションを購入する際には、耐震基準を確認することをおすすめいたします。
新耐震基準と現行の耐震基準(2000年基準)の違い
1995年の阪神淡路大震災を受け、建築基準法は2000年に改正されました。それ以降の耐震基準は、「現行の耐震基準(2000年基準)」と呼ばれています。
現行の耐震基準(2000年基準)は、新耐震基準をさらに厳しく改正した耐震基準です。建物全体の耐震性を向上させるため、地盤に応じた基礎設計や、耐力壁のバランスと配置などが強化されています。
現在、家を建てる場合は現行の耐震基準(2000年基準)が適用されますが、現行の耐震基準(2000年基準)は、木造住宅に適用されるものであるため、マンションの建築にはあまり関係ありません。
以上のことから、マンションと戸建て住宅の耐震基準は築年数によって変わり、マンションでは「新耐震基準」、戸建て住宅では「現行の耐震基準(2000年基準)」が最も地震に強い設計となります。
耐震等級とは?
耐震等級とは、建築物の地震への耐久性を定量的に示す指標です。2000年に定められた「住宅性能表示制度」において制定されたもので、地震への耐久性を3段階の等級で表しています。
等級1は、建築基準法の水準に基づく耐震性能レベルです。数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度)に対しても倒壊や崩壊しない水準となっています。等級2は、等級1の1.25倍、等級3は等級1の1.5倍の強さがあると定義されています。マンションでは、耐震等級1が主流となっており、戸建て住宅では、耐震等級3が多くなっています。
なお、耐震等級は第三者機関の審査を受けることで認定されますが、耐震等級は任意の制度であるため、必ずしも認定を受ける必要はありません。
参考:住まいの情報発信局「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」(監修:国土交通省)
耐震、制震、免震の違い
マンションの地震対策には、耐震、制震、免震の3種類の基本的な技術があります。これらは一見似たような意味合いに思えますが、その役割と機能は大きく異なります。
『耐震』は、壁や柱を強化するなど、建物自体が地震の揺れを吸収し、倒壊を防ぐための設計や工法のことを指します。
『制震』は、建物が地震の揺れによって受ける振動を抑制し、揺れを小さくする技術です。具体的には、ダンパーと呼ばれる振動軽減装置を設置し、地震のエネルギーを吸収させる方法です。建物に粘りを持たせて振動を抑えることにより、建物の損傷を最小限に抑えることが可能となります。
『免震』は、建物と地盤との間に免震装置を設け、地震の揺れが直接建物に伝わらないようにする技術です。建物と地面の間に免震装置を設置し、建物を地面から絶縁することで振動が伝わらないようにします。これにより、建物自体が揺れによるダメージから守られます。
RC造、SRC造、S造の違い|地震に強い構造は?
マンションの地震に対する耐性はその構造に大きく依存します。RC造、SRC造、S造はそれぞれ異なる特徴と長所を持ち、地震に対する耐性もそれぞれ異なります。
RC造(鉄筋コンクリート造)は、鉄筋とコンクリートで構成され、耐火性や耐久性に優れていますが、重量があるため、地震の揺れを直に受けやすいという特性があります。RC造(鉄筋コンクリート造)には、鉄筋コンクリートの柱と梁を接合して骨組みを造る「ラーメン構造」と、鉄筋コンクリートの壁で箱のように建物を支える「壁式構造」があります。簡単に見分ける方法は、室内に柱や梁の出っ張りがあるのが「ラーメン構造」で、室内に出っ張りがないのが「壁式構造」となります。RC造(鉄筋コンクリート造)は、鉄骨がないため、自由な空間設計をすることができる点で優れています。
SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)は、鉄骨(S)と鉄筋コンクリート(RC)を組み合わせた構造で、RC造の重厚さとS造の軽さを兼ね備えるため、地震に対する耐性が高まります。高層ビルやタワーマンションなど、大規模な建物に用いられています。
S造(鉄骨造)は、鉄骨で建物を構築する方式で、軽量であるため地震の揺れを受けにくいとされていますが、耐火性には劣ります。
1970~1980年代に建設された7階建て以上の高層マンションでは、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)が多く見られましたが、近年は、高層マンションでもRC造(鉄筋コンクリート造)が主流となっています。これは、技術の進歩によってコンクリートの性能(強度)が高まったためで、コスト負担の大きい鉄骨を組み入れなくても、RC造(鉄筋コンクリート造)で十分な強度が保てるようになったことが理由です。
建築の技術は進歩しているので、鉄筋コンクリートで作られたマンションであれば、適切に維持・管理されることで寿命は100年を超えると言われています。国土交通省による調査によると鉄筋コンクリート造の建物の効用持続年数(寿命)は120年、大規模修繕工事などで適切に修繕を行えば、最長で150年まで住み続けることができるというデータもあります。
参考:国土交通省「期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について」
マンションの耐震診断
ご自宅のマンションが旧耐震であることが明らかで、構造上のバランスが悪い場合は、「耐震診断」を行うことをお勧めします。
耐震診断は、図面や現地での調査に基づき、建物の保有する耐震性能を数値で評価するものであり、その結果に基づいて耐震化の必要性を確認することになります。
耐震診断は、まず予備調査により、建築物の概要や使用履歴、増改築、経年劣化、設計図書の有無などの内容を確認、耐震診断のレベルの設定などを行います。 その後、現地調査にて、マンションの現況を把握し、設計図書との整合性を確認するほか、マンションの劣化状況などの診断計算に必要な調査項目を確認します。そして調査結果から構造の耐震性の検討・評価を行い、耐震補強案及び概算工事費などを検討していきます。
【予備調査】
現地での目視調査、設計図書の内容の確認、建物修繕履歴などを確認し、診断レベルを判断
【現地調査】
診断レベルに応じて必要な、基礎・地盤、劣化状況、部材寸法や配筋状況、コンクリート強度などの調査を実施
【詳細調査】
第一次診断
・壁の多い建築物が対象
・柱/壁の断面積から構造耐震指標を評価
第二次診断
・主に柱/壁の破壊で耐震性能が決まる建築物
・柱/壁の断面積に加え、鉄筋の影響も考慮し、構造耐震性能を評価
第三次診断
・主に梁の破壊や壁の回転で耐震性が決まる建築物
・柱/壁(断面積/鉄筋)に加えて、梁の影響を考慮し、構造耐震指標を評価
これらの調査結果をもとに、建物の耐震性能や改修の必要性を判断し、適切な対策を提案することが耐震診断の目的となります。
前述の通り、旧耐震基準で建設されたマンションは、震度7規模の地震を直下で受けた時に建物が倒れないという「証明がなされていない建物」であるため、どの程度の強さがあるのかがわからないというのが実際の状況です。耐震診断を実施して調べてみれば、もしかすると「問題ない」というデータが出るかもしれません。ただ、統計が出ていないため、確実なことは言えませんが、大半は「耐震性が乏しい」という結果になると言われています。
耐震診断は、マンションの安全性を確認するために重要なステップであり、特に築年数が経過したマンションや、地震発生のリスクが高い地域に位置するマンションでは必須といえるでしょう。耐震診断を受けることで、マンションの安全性が確認でき、必要な改修工事を計画的に行うことが可能になります。耐震診断では、補助金などを活用することもできるため、専門家に依頼するなどして、耐震診断を行い、地震の発生に備えましょう。
マンションの耐震工事
マンションの耐震診断を経て、必要な改修工事が明らかになった場合には、次のステップとして「耐震工事」の実施に向けての検討が必要になります。耐震工事は、マンションの構造を補強したり、建物の損傷を修復したりするための工事で、地震による被害を最小限に抑えることを目指しています。
耐震工事の具体的な内容は、マンションの構造や築年数、地震のリスクなどにより異なりますが、一般的には柱や梁の補強、壁の強化、基礎の改修などです。これらの工事により、マンションが地震の揺れに対してより強く、また柔軟に対応できるようになります。
耐震工事は専門的な知識と技術を必要とするため、信頼できる専門業者に依頼することが重要です。この耐震工事ですが、「耐震設計」によって方式や金額が大きく異なります。設計の段階で、様々な工法を検討したほうが好ましく、複数社から見積を取ることをお勧めします。その分、手間/費用はかかりますが、それに見合った大きな成果が出ることがあります。
マンションの耐震診断と耐震工事は、地震が頻発する日本においては避けて通れない課題です。自身の住まいが安全であることを確認し、万が一の地震に備えるためにも、耐震診断と耐震工事の実施を検討してみてください。
「スマート修繕」では、マンションの耐震診断および耐震工事の見積りを取得することが可能です。マンションで安心して生活するために、ぜひご利用ください。
※戸建て住宅は対象外となります。
マンションの「建替バリュー」 を見える化する「スマート建替」のご紹介
「スマート建替」は、マンションの「建替バリュー」がマップ上で分かる、ディー・エヌ・エー(DeNA)グループの無料のサービスです(特許出願中)。
※建物を建て替える価値を自動で計算しマップ上で表示するWEBサービスは、日本初となります。(2024年6月・当社調べ)
「建て替えるべきか」、「耐震補強工事をするべきか」、「修繕工事をするべきか」、「それぞれの経済性の評価、検討プロセスはどうしたらいいのか」、といったお悩みを、スマート建替の専門的なアドバイスとサポートで解決します。
※「耐震補強工事」「修繕工事」については、「スマート修繕」で各種支援をさせていただきます。「スマート修繕」では、担当コンサルタントが、建物調査診断から、工事会社のご紹介、見積取得、工事内容のチェック、契約、工事完了までをワンストップでサポートいたします。
この記事の著者
鵜沢 辰史
信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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