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耐震補強は意味ない?施工内容の決め方と工事費用を抑えるポイント

更新日:2025年09月17日(水)

地震大国・日本では、マンションなど建物の耐震性向上が重要な課題です。しかし、管理組合やオーナーの中には「高額な耐震補強工事をしても本当に意味があるのか?」と疑問を抱く方もいます。 本記事では、「耐震補強は意味がない」と感じられがちな背景から、耐震診断と補強計画の立て方、具体的な補強工法の種類と特徴、費用相場と助成制度の活用法、工事費用を抑えるポイント、そして住民合意形成の進め方について解説します。

本記事のポイント
  • 耐震補強が「意味ない」と感じられる背景(費用対効果の不透明さ、目的の誤解、不信感)と、それを払拭する考え方がわかる。
  • 補強工法(鉄骨ブレース/炭素繊維シート/耐震壁の増設など)の特徴とメリット・デメリット、およびどのケースでどの工法が適するかが理解できる。
  • 助成金や税制優遇、相見積もり取得、住民合意形成など、実際に工事費用を抑えて実施するための具体策が学べる。

「耐震補強は意味がない」と言われる背景

耐震補強工事に消極的になってしまうのには、いくつかの共通した理由があります。その主な背景を整理すると以下のとおりです。

費用対効果への不安・効果が実感できない

耐震補強には多額の費用がかかる一方で、その効果は日常では実感しにくいことが挙げられます。実際、大地震が起きてみなければ倒壊防止の効果を体感できず、「本当に意味があるのか分からない」という声が多いのです。地震が来なければ効果が不明な点や、工事前後で生活が何も変わらない点が、不必要に感じられる一因です。

耐震補強の目的への誤解

耐震補強は建物の倒壊を防ぐことが目的で、地震の揺れ自体を小さくするものではありません。しかし「補強すれば揺れも軽減できるはず」と誤解していると、実際に揺れ自体は変わらないため「意味がなかった」と感じてしまいます(揺れの低減には制震ダンパーや免震装置など別の対策が必要)。

「新耐震基準だから大丈夫」という思い込み

1981年以降の新耐震基準で建てられた建物であれば補強は不要と考えるケースです。現行基準の建物(耐震等級1相当)は震度6強~7でも倒壊しない水準ですが、一方で耐震等級3相当の建物は震災時の損壊率がさらに低いというデータもあり、新基準だから絶対安全というわけではありません。それでも「うちは新耐震だから大丈夫」と補強の必要性を感じにくい方もいます。

耐震工事への不信感(悪徳業者や詐欺への懸念)

耐震補強は見た目に大きな変化が出にくく効果がわかりづらいため、悪質なリフォーム業者によるトラブルも報じられています。「高額な工事を勧められ騙されるのでは」という不信感から「意味のない工事なのではないか」と疑われることがあります。

「どうせ大地震には勝てない」という諦め

「いくら補強しても、巨大地震が来れば結局倒壊する時は倒壊する」という極端な考えです。確かに直下型の大震災では被害ゼロにするのは難しいですが、補強によって倒壊・崩壊の危険性を大幅に減らせるのは事実です。最悪の事態を防ぐための備えとして補強には十分な意義があります。

以上のように、「耐震補強は意味がない」と感じられる背景には効果の不透明さやコストへの不安、目的に対する誤解などがあることが分かります。しかし、次に述べるとおり適切な耐震補強は人命と資産を守る上で非常に重要であり、決して無意味なものではありません。

建物の耐震性評価方法と判定基準(一次診断・二次診断など)

耐震補強の必要性を判断するには、まず建物の耐震性を客観的に評価することが不可欠です。一般に既存建築物は「耐震診断」を行い、安全性の指標を算出します。特に1981年以前(旧耐震基準)に建てられたマンションは現行基準を満たしていない可能性が高いため、まず専門家による診断を受けることが推奨されます。

耐震診断の種類

RC造やSRC造の建物では、診断の精度に応じて一次・二次・三次の方法があります。

一次診断は設計図や簡易な現地調査に基づき、各階の壁量(柱・壁の断面積)と建物重量の比率から耐震指標(Is値)を算出する簡便法です。壁式構造など壁の多い建物には一次診断でも概ね精度が出ますが、壁の少ないラーメン構造の建物では耐力を過小評価しがちなため不向きです。

一次診断で概略的に問題が見つかった場合、さらに詳細な二次診断(精密診断)が行われます。二次診断では柱・壁の配筋やコンクリート強度等まで調査し、保有耐力を詳しく計算します。三次診断はさらに梁の耐力や建物全体の崩壊形まで考慮する高度な解析で、大規模建築物などで必要に応じて行われます。

判定基準(Is値)

耐震診断の結果は構造耐震指標(Is値)という数値で示され、値が大きいほど耐震性が高いことを意味します。耐震改修促進法の基準では、一次診断ならIs値0.8以上、二次診断・三次診断ならIs値0.6以上で「倒壊の危険性が低い=安全」と判定されます。逆にIs値が0.3未満だと「倒壊する危険性が高い」、0.3~0.6未満だと「倒壊の危険性がある」と評価され、早急な対策が望まれます。診断結果でこの基準を下回る場合は耐震補強工事が推奨されます。

診断の流れ

多くのマンションではまず一次診断によるスクリーニングを実施し、問題が疑われれば二次診断(精密診断)に進むケースが一般的です。一次診断では主に共用部分の状況確認など簡易チェックを行い、それで耐震性に不安が見つかれば本格的な詳細診断(二次診断)で柱や壁ごとの強度を測定し、補強の必要性を判断します。診断の際には設計図の有無や建物の履歴・劣化状況なども調査して総合的に評価します。診断結果は報告書としてまとめられ、管理組合に提示されます。

自治体の診断助成

自治体によっては耐震診断に補助金や無料診断制度を設けている場合があります。例えば自治体が専門家(耐震アドバイザー)派遣や診断費用補助を行うケースもあるので、費用面の負担を理由に診断を躊躇している場合は積極的に制度を活用すると良いでしょう。

補強内容の決め方(診断結果に基づく計画と優先順位)

耐震診断の結果、補強が必要と判定された場合は、診断報告をもとに具体的な補強計画を立てる段階に進みます。補強内容を決める際のポイントは以下のとおりです。

専門家による補強設計

補強工事に着手する前に、構造設計の専門家(構造設計一級建築士など)に依頼して補強設計を行います。診断で明らかになった各部位(柱・梁・壁・基礎など)の耐力不足を補うよう、どの部位にどのような補強を施すか詳細な計画を策定します。建物全体のバランスや構造計算に基づき、必要最小限の補強で目標の耐震性能を確保できるよう検討することが重要です。

補強目標の設定

補強設計では目標とする耐震性能(Is値)を設定します。一般には現行基準相当(Is値0.6~0.8以上)を目指しますが、建物の用途や予算に応じて段階的な目標を設ける場合もあります。例えば、初回の補強ではひとまず「倒壊の危険が低い」(Is値0.6以上)状態に引き上げ、将来的な改修でより高い耐震等級を目指す、といった計画も考えられます(※耐震改修促進法では原則現行基準への適合を目指すとされています)。

弱点部位の優先補強

診断結果から明らかに耐震性が不足している部位(例:耐震壁の少ない階や、柱脚・梁端などの弱点)が判明した場合、それらを優先して補強する方針を立てます。マンションによっては全体の合意形成や資金の面ですぐに全面補強が難しいケースもあります。その場合、比較的合意を得やすい箇所だけ先行して補強工事を行い、残りは資金準備や合意が整い次第段階的に実施する方法も検討されます。例えば、1階ピロティ部分の耐震壁やブレース増設だけ先に行い、他の階の補強は後回しにする、といったアプローチです。

補強範囲と影響の検討

補強方法によっては居住空間に影響を及ぼすため、計画段階で住民への影響を検討します。壁を新設・増設する場合は部屋の一部が使えなくなる、ブレース設置では窓を塞ぐ可能性がある、柱・梁の補強では工事中に室内作業が必要になる、等それぞれ影響があります。工事期間中も居住継続が可能か、一時退去が必要かといった点も考慮して、最適な補強内容を選択します。

補強しない選択肢

補強診断の結果、既に耐震基準を満たしている場合は無理に工事を行う必要はありません。また、補強より建替えや除却を選択した方が合理的な場合(例えば築年数が相当経ち老朽化が激しい場合や、構造的に補強では不十分な場合)もあります。この判断も専門家と協議しながら、補強案と合わせて比較検討します。国土交通省の「マンションの耐震化マニュアル」などでは、建替えも含めた選択肢の検討フローが示されています。

補強内容の決定に当たっては、「費用対効果」と「安全性向上」のバランスを考慮する必要があります。構造技術者の提案を踏まえ、管理組合内で十分に話し合って計画を固めましょう。

耐震補強工事の主な工法と特徴比較

一口に耐震補強といっても、建物の構造や弱点に応じて様々な工法があります。ここではマンションで採用される代表的な3つの工法について、その概要とメリット・デメリットを比較します。

鉄骨ブレース工法(筋交いによる補強)

鉄骨ブレース工法は、既存の柱と梁の間に斜め材(ブレース)を追加して構造架構を三角形で支えるようにする方法です。一つの矩形枠(ラーメン)のみに頼っていた部分に斜材を入れて複数の三角形で支えることで、水平方向の耐震強度を高めます。ブレース材には一般に鋼材が用いられ、引張力・圧縮力で地震の横揺れに抵抗します。鉄は曲げより引張・圧縮に強いため、比較的細い材でも大きな耐力を発揮でき、少ない補強量で効果を上げやすいのが特徴です。

メリット

高い耐震効果とコストパフォーマンス

ブレース追加により低コストで大きな耐震強度アップが期待できる工法です。柱や梁が負担する水平力をブレースが分担するため、建物全体の耐震性向上に寄与します。

比較的施工が容易

後付けの補強としては工期が短めで、取り付け工事自体もそれほど複雑ではありません。既存構造を大きく壊す必要がない場合が多く、補強計画が立てやすいです。

主要構造部材の保護

ブレースが地震時のエネルギーを吸収・分散することで、柱や梁など主要部材の損傷リスクを下げられます。

デメリット

開口部や景観への影響

ブレースを入れる場所によっては窓や出入口など開口部を塞いでしまうため、建物の使い勝手や採光・通風に制約が出ます。特に居住空間内にブレースを設置する場合、間取り変更や内装復旧が必要になることもあります。

美観・メンテナンス面

RC造マンションの場合、ブレースを外壁側に露出配置すると外観デザインが損なわれる恐れがあります。また露出した鋼材は定期的な塗装など防錆メンテナンスが必要です。

設置スペースの確保

ブレース材の大きさや配置によっては施工時に広い作業スペースが必要になり、狭小空間では工事が難しい場合があります。外側に余裕がない建物ではブレース工法単独では対応できず、他工法と組み合わせるケースもあります。

適用ケースとしては、比較的壁面の開口が少なくブレース設置による支障が小さい部分(吹き抜け部分やピロティ階など)に向いています。外壁側にある程度スペースの余裕があり、多少外観が変わっても問題ない箇所であれば有力な選択肢です。また、既存躯体の強度不足が「あと少し」の場合にコストを抑えて強度を底上げする方法としても有効です。

炭素繊維シート工法(CFRP巻き立て補強)

炭素繊維シート工法は、鉄よりも高強度で軽量な炭素繊維(CFRP)シートを柱・梁・壁などの表面に貼り付けて補強する方法です。エポキシ系の接着剤を用いてコンクリート躯体表面にシートを貼り、部材の耐力(主にせん断耐力や曲げ耐力)を向上させます。構造体に直接シートを巻き付ける外付け補強工法であり、既存のコンクリートを大きく壊さずに施工できるため、居住しながらの工事も可能なのが利点です。

メリット

軽量で構造への負担が少ない

炭素繊維シートは鉄の約1/4の比重しかなく、補強による建物自重の増加がごくわずかです。そのため基礎や他部材への追加荷重影響がほとんどなく、補強によって建物が重くなりすぎる心配がありません。

高強度・高耐久

炭素繊維は引張強度が鉄の約10倍と非常に強靭で、また腐食しにくく長期間性能を維持できます。適切に施工されたシート補強により、部材の耐震性能(粘り強さやせん断耐力)が飛躍的に向上します。

短工期かつ居住への影響が小さい

従来のRC増し打ち(コンクリート巻き立て)工法などに比べて工期が短くて済み、施工中の騒音・粉じんも少ないため住民への負担が軽減されます。重機を使う大掛かりな工事が不要で、狭い場所でも容易に施工可能です。居住者が退去せず在宅のまま工事を進められる場合が多いのも大きなメリットです。

仕上がりが薄く美観に配慮可能

炭素繊維シートは厚み数mm程度と非常に薄いため、補強後に上から塗装や仕上げを施せば見た目にもほとんど影響が出ません。建物の意匠を損ねずに耐震性を高められる点で、景観重視のマンションにも適しています。

デメリット

施工精度に高度な技術が必要

シート貼り付けは下地処理や樹脂含浸など繊細な作業を伴うため、施工者の熟練度によって仕上がり品質に差が出る可能性があります。信頼できる経験豊富な業者を選定し、品質管理を徹底することが重要です。

材料コストが高い

炭素繊維シートや専用樹脂は高性能なぶん価格も高めです。そのため一見コスト高に感じられますが、トータルでは工期短縮や省人化により他工法より安く済むケースもあります。初期費用は高いものの、仮設費削減や営業損失低減などを考慮すると費用対効果は必ずしも低くありません。

適用範囲の限界

炭素繊維補強は主に部材表面の補強であり、大規模な架構全体の剛性向上には限界があります。極端に耐震性が不足している建物では、この工法だけでは不十分で追加の補強(例:基部の鋼板巻き立てやブレース併用)が必要になる場合があります。また耐火性能が低いため、所定の耐火被覆など別途対策を要する点にも注意が必要です。

適用ケースとしては、構造体を大きく壊せない場合や、工事中も居住を続けたいケースに最適です。例えば、居住者の退避が難しい高経年マンションで短期間に補強したい場合や、重機を搬入できない狭い敷地の建物などで威力を発揮します。また、柱・梁の耐力不足を補う局所補強や、ひび割れ・劣化が見られる外壁の補強にも有効です。最近では古いマンションの耐震改修で炭素繊維シート補強を採用する例が増えており、長所と短所を正しく理解した上で使えば非常に効果的な工法と言えます。

耐震壁の増設工法(壁式フレームの追加)

耐震壁(筋交いや配筋コンクリート壁など)の増設は、建物内に新たな壁式構造要素を設けて水平耐力を高める工法です。具体的には、開口部だった部分やスリットを入れて非構造壁としていた部分に、新しく鉄筋コンクリート壁や耐力壁パネルを構築します。既存の床・梁・柱と一体化させることで、建物全体の耐震性(剛性と強度)を底上げします。マンションではエントランスホールや駐車場のピロティ部分に壁を追加するケースが典型例です。

メリット

耐震性の大幅向上

壁は面で力を受け止めるため、少数でも配置すれば建物の水平変形を大きく抑制できる非常に効率の良い補強手段です。特に壁の少ない中層マンションなどでは、新設壁を加えることで耐震性能を劇的に改善できます。

既存壁の活用も可能

非耐力壁だった部分を耐震壁化する場合、レイアウトを大きく変えずに補強できる利点があります。例えば住戸間のコンクリート壁を補強して耐震壁とする手法や、エレベーターシャフト周りに壁を追加してコアを強化する手法など、建物の構造計画に合わせて柔軟に壁を配置可能です。

剛性バランスの調整

壁を増設する位置や数を計画的に選べば、建物の剛性バランス(剛心と重心のずれ等)を改善することもできます。この結果、地震時のねじれを抑え建物全体の損傷を減らす効果も期待できます。

デメリット

居住性への影響(空間の制約)

新たに壁を作るため、その分空間が狭くなる/動線が遮られるといった影響は避けられません。特に開放的だったエントランスや駐車スペースに壁を追加すると利便性が下がる場合があります。また壁設置に伴い窓を潰すことになれば採光や通風にも影響が出ます。必要に応じて換気設備の追加やレイアウト変更など付帯工事が発生することもあります。

建物重量の増加

鉄筋コンクリートの壁を増設するとその分建物が重くなるため、上階より下層階での使用に限られる傾向があります。高層階に重い壁を足すと下部構造への負担が大きくなるため、通常は低層部(1~2階部分など)のみにとどめます。また重量増加に対応して基礎補強が別途必要になるケースもあります。

工期・コスト

壁増設は型枠工事や鉄筋工事、コンクリ打設など工程が多く、工期・費用とも比較的かさみます。工事中は当該部分を使用停止にする必要があり(例:駐車場を閉鎖する等)、住民への影響期間も長くなりがちです。

適用ケースとしては、建物の構造的に壁量が極端に不足している場合(スレンダーなラーメン構造など)は、壁増設が最も効果的な解決策となります。また、大規模マンションで特定の階だけ耐震性が低い(例:ピロティ階の柱が細い)ような場合に、その階に壁を追加して弱層を補強するケースがよく見られます。既存の共用部空間に余裕があるなら、壁を新設しても実用上支障が少ないため採用しやすいでしょう。壁増設工法は確実な耐震性能向上が見込める反面、居住性やコストへの影響も大きいので、他の工法との組み合わせも含め慎重に計画する必要があります。

以上のように、耐震補強工法にはそれぞれ一長一短があります。実際の工事では、建物の状況に応じて複数の工法を組み合わせることも一般的です。例えば「下層階で壁増設+上層階で炭素繊維補強」「主要フレームにブレース追加+接合部は鋼板や繊維で補強」といったように、メリットを生かしデメリットを補う形で使い分けます。信頼できる施工会社・設計者と相談し、最適な補強手法を選択しましょう。

耐震補強工事にかかる費用目安

耐震補強工事の費用は、建物の規模・構造・補強範囲や採用する工法によって大きく変動します。あくまで一般的な目安として、マンション全体の規模別に考えると、戸数に応じた総工事費を想定して計画することになります。

  • 小規模マンション(10戸程度):数百万円規模
  • 中規模マンション(25~50戸程度):数千万円規模
  • 大規模マンション(75戸以上):億単位規模

実際の費用は、建物の状態や補強内容によって上下します。たとえば、構造が脆弱で大規模な補強が必要な場合や、逆に一部の補強で済む場合では大きく異なります。また、工事範囲(全戸か一部共用部のみか)、仕上げのグレード、仮設工事の規模、地域の工事単価なども費用に影響します。そのため、正確な費用は専門家による耐震診断と見積もりを受けて判断するのが基本です。

費用の支払い方法としては、管理組合の長期修繕積立金や借入金を活用するのが一般的です。大規模修繕と合わせて実施する場合は積立金から拠出し、不足分を一時金徴収や金融機関からの借入で補うこともあります。さらに、国や自治体の補助金や税制優遇制度を活用すれば、実質的な負担を軽減することも可能です。

補助金・助成制度の活用方法

国や自治体は、耐震改修を促進するため様々な補助金・助成制度を用意しています。それらを上手に活用することで、耐震補強工事にかかる費用負担を大きく軽減することができます。主な支援策をいくつか紹介します。

国の補助制度(住宅・建築物安全ストック形成事業)

国土交通省管轄で、民間建築物の耐震診断・改修を支援する制度です。具体的には、耐震診断や耐震改修計画の策定費用の2/3を国と地方で補助(民間実施の場合)し、自治体が事業主体となる場合は国が1/2を補助します。さらに耐震改修工事費用については、分譲マンションの場合国と自治体が合計1/3を補助する仕組みがあります。これらは各自治体が国庫補助を受けて実施する形になるため、制度の名称や細部は自治体ごとに異なりますが、概ね「診断・設計費の2/3補助、工事費の1/3補助」が基本となっています。

自治体独自の助成金

多くの自治体では、国の制度とは別にマンション耐震化への助成制度を設けています。例えば千葉市では分譲マンションの耐震診断に対し「診断費の2/3(上限1管理組合あたり500万円)」、耐震改修設計に「設計費の2/3(上限同じく500万円)」、耐震改修工事に「工事費の1/2(上限1棟あたり1億円)」といった補助を行っています。神戸市では2025年度の制度で「改修工事費の1/2、または延べ面積×5,000円、または1棟当たり13,500万円のいずれか低い額」を上限に補助するなど、自治体ごとに上限額や条件は様々です。お住まいの自治体の制度を調べ、診断から設計・工事まで各段階で使える補助金を漏れなく申請しましょう。

税制の優遇措置

耐震改修を行った住宅・建物には税金の優遇もあります。代表的なものが固定資産税の減額です。一定の耐震改修工事を行い所定の条件(例:工事費が住宅1戸あたり50万円超など)を満たすと、工事完了後の固定資産税が一定期間1/2減額される特例措置があります。この減税措置は近年延長が決定しており(※詳細は最新の税制を確認)、適用を受ければ数年分の税金が軽減されるため見逃せません。また、耐震診断や補強によって地震保険料の割引(耐震等級割引)を受けられる場合もあります。例えば地方公共団体等による耐震診断や改修の結果、建物が新耐震基準に適合した場合は、地震保険料が10%割引になる制度があります。

融資制度の活用

補助金だけで足りない費用は、低利の融資を活用する方法もあります。住宅金融支援機構(フラット35で知られる旧住宅金融公庫)では、マンションの耐震改修に対応した長期融資メニューを用意しています。管理組合向けの大口融資や、各所有者が個別に受けられるリフォームローンなど選択肢がありますので、金融機関に相談してみましょう。また信用保証協会を通じてマンション耐震化支援融資を行う自治体もあります。

以上の制度を組み合わせれば、耐震補強費用の実質的な自己負担は大幅に圧縮できます。助成金は申請手続きや期限に注意が必要ですが、管理組合でしっかり情報収集し計画的に進めれば強い味方となります。

工事費用を抑えるためのポイント

耐震補強工事は大きなお金が動くプロジェクトですが、工夫次第でコストを抑える余地があります。以下に費用負担を軽減するための主なポイントをまとめます。

優先順位をつけ段階的に実施

前述したように、建物の中で特に弱い部分だけを先行して補強し、他の部分は次期工事に回すという段階的な方法も検討しましょう。耐震診断で「ここが致命的に弱い」という箇所が判明した場合、その部分の工事にまず合意を得て着手し、残りは資金計画を立てながら追って実施することで、一度に多額の費用を用意せずに済みます。住民の心理的ハードルも下がり、合意形成しやすくなるメリットがあります。

大規模修繕工事と同時に行う

マンションの計画修繕(大規模修繕工事)のタイミングに合わせて耐震補強を実施すれば、仮設足場の設置費用や設計監理費用を共有化でき、結果的にコスト削減につながります。実際、外壁改修や設備更新と同時に耐震補強工事を行うマンションも多く、工事期間を一本化できるため居住者の負担軽減にもなります。ただし、合意形成や資金手当てのスケジュール調整が必要になるので、早めに計画を練りましょう。

コストパフォーマンスの高い工法選定

補強方法によって費用対効果が異なります。例えば鉄骨ブレースは比較的安価で効果が大きいですが見た目に影響する、一方炭素繊維シートは材料費が高めでも工期短縮や居住負担減の利点がある、など一長一短があります。建物の状況に照らし、必要最低限の工事で最大の効果が得られる工法を選ぶことが肝要です。複数の工法を組み合わせる場合も、工事工程を一本化できる組み合わせにするなど工夫しましょう。

補助金・減税フル活用

前項で述べた補助制度や税制優遇は、費用軽減のために必ず活用すべきです。診断から設計・工事まで、一連の流れで使える補助は全て申請し、固定資産税減額や地震保険割引なども申告漏れのないよう確実に適用しましょう。手続きや書類作成で不明な点があれば、自治体の窓口や専門家に相談してサポートを受けると安心です。

相見積もりの取得と交渉

工事費用は施工業者によって見積額が異なることがあります。管理組合として複数の信頼できる業者から見積もり(相見積もり)を取り、工事内容と金額を比較検討しましょう。不明瞭な項目があれば遠慮なく質疑を出し、適切な範囲で金額交渉することも大切です。近年ではデータベースを用いて見積妥当性をチェックするサービスも登場しており、そうしたものを活用すれば価格の適正化が図れます。

不要な工事をしない

耐震補強工事に付随してリフォーム的な要望が出ることもありますが、コスト削減の観点では本当に必要な補強に絞ることが大切です。例えば耐震性に関係ない内装一新や設備更新を同時に行うと費用が膨らみます。欲張りすぎず、「まずは命を守るための最低限の補強を確実に実施する」というスタンスで臨みましょう。

以上のポイントを押さえれば、限られた予算内で最大限の耐震化効果を得やすくなります。管理組合内で知恵を出し合い、専門家のアドバイスも受けながら、経済的に無理のない耐震補強計画を立ててください。

専門サービスの活用による耐震補強サポート

耐震補強工事は、耐震診断の手配から補強計画の策定、施工会社選定、資金調達、住民合意形成まで、多くの課題を伴います。こうしたプロセスを専門家のサポート付きで進められるのが「スマート修繕」です。

スマート修繕の特長

ワンストップで専門家が伴走

一級建築士事務所が運営するサービスで、耐震診断や補強計画の検討、施工会社の紹介・選定、見積取得、契約交渉、工事中の品質チェックや完成保証まで、最初の検討段階から工事完了まで一貫して支援。技術的な判断や業者対応も経験豊富な専門家がリードするため安心です。

適正価格の実現と見積もりサポート

複数の優良施工会社から相見積もりを取得・比較し、独自データベースを活用して費用の妥当性をチェック。コスト面の不安を減らし、無駄のない工事計画が可能です。

住民合意形成や手間の軽減

住民アンケートの実施や総会資料作成の支援もあり、議案書作成や説明会運営のアドバイスを受けられます。管理組合の役員が負担しがちな業者折衝や調整作業も代行。検討期間の短縮にもつながります。

実質無料で安心の保証付き

サービス利用料は工事業者からの費用で賄われるため、管理組合は無料で利用可能。万一施工会社が倒産した場合も独自の工事完成保証制度で保護され、工事後のアフターケアも充実しています。

初めての耐震補強で不安を抱える管理組合にとって、スマート修繕は技術・価格・合意形成すべての面で頼れるパートナーとなります。耐震補強の計画や費用、工事進行に関するご相談は、ぜひスマート修繕にお問合せください。

まとめ

「耐震補強は意味がないのでは?」という疑問は、確かに効果が目に見えにくかったり費用負担が大きかったりすることから起こりがちです。しかし、耐震補強の本来の目的は大地震から人命と住まいを守ることにあります。その意義は過去の震災データや専門家の知見から明らかであり、適切な補強によって倒壊リスクを大幅に低減できるのは間違いありません。

費用対効果や合意形成など課題はありますが、この記事で述べたポイントを踏まえ計画的に進めれば、きっと乗り越えられるはずです。マンションの管理組合・オーナーの皆様には、将来の安全安心と資産価値維持のために耐震補強に前向きに取り組んでいただくことを強くおすすめします。何か少しでも不安があれば、遠慮なく専門家や支援サービスに相談し、万全の体制でプロジェクトを成功させましょう。

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本記事の著者

鵜沢 辰史

鵜沢 辰史

信用金庫、帝国データバンク、大手不動産会社での経験を通じ、金融や企業分析、不動産業界に関する知識を培う。特に、帝国データバンクでは年間300件以上の企業信用調査を行い、その中で得た洞察力と分析力を基に、正確かつ信頼性の高いコンテンツを提供。複雑なテーマもわかりやすく解説し、読者にとって価値ある情報を発信し続けることを心掛けている。

本記事の監修者

遠藤 七保

遠藤 七保

大手マンション管理会社にて大規模修繕工事の調査設計業務に従事。その後、修繕会社で施工管理部門の管理職を務め、さらに大規模修繕工事のコンサルティング会社で設計監理部門の責任者として多数のプロジェクトに携わる。豊富な実務経験を活かし、マンション修繕に関する専門的な視点から記事を監修。

二級建築士,管理業務主任者

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