大規模修繕における公募・入札の進め方、留意すべき点
2024/09/03
大規模修繕の工事会社を募集する際に行われる「公募・入札」、この記事では「公募・入札」における「メリット・デメリット」、「進め方(〝公募手段の決定〟から〝総会における決議〟まで)」、「留意すべき点」をご紹介いたします。これら情報が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。
目次
公募・入札とは
公募とは広く募集する方式のことです。大規模修繕においては、一定の条件を設定のうえで(例:特定建設業の許可を取得していること)、工事会社を広く募集することを指します。
入札とは公募と同様の意味を指すこともありますし、より金額に焦点をおいた募集(例:最低額を提示したところが落札)や公募に対して応募する行為を指します。
以降では「公募・入札」=「修繕工事の工事会社を広く募集すること」とします。
公募・入札と対照的なのが、特命随意となります。こちらは特定業者を指名する方式で、組合による工事会社の選定、見積の取得・比較選定の負荷が少ないというメリットがありますが、一方で競争原理が働かないことにより工事が割高になりやすい・組合内で異論がでやすいというデメリットがあります。
工事会社を募集する際の工事仕様面では大きく2方式に分かれます。
工事仕様を定めたうえでの募集
設計監理方式で主に採用されている方式で、設計コンサルタントなどが工事仕様を定め、各工事会社がその仕様にのっとり提案する方式となります。
主な評価ポイントは工事会社自体と見積金額です。
メリット
- 評価ポイントが絞られているため、比較選定がしやすい、組合内でのコンセンサスが取りやすいこと
- (工事会社の応募の負荷が小さいため)多数の応募を集めやすいこと
デメリット
- 工事仕様を作成するための設計コンサルタントの費用が必要なこと
- 工事仕様が正しいか、見落としなどがないかの第三者チェックが働きにくいこと
- (工事会社からの仕様提案が減るため)工事選択肢の多様性が抑えられること
- 談合が発生しやすいこと(後述)
当方式は評価ポイントが絞られているため設計コンサルタントによる落札誘導がしやすい、工事会社の応募の負荷が小さい(例:各社が現地調査、設計、見積・提案書作成をする必要がない)、業界関係者にとって談合に適したものとなります。
2017年には国土交通省が設計管理方式における設計コンサルタントの不適切な活動について、異例の注意喚起の通知を出しています。
(抜粋)「一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様 の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している。」
理事会・修繕委員会の方々にとっては、設計コンサルタントを採用するために苦労して探索、比較選定、さらには総会において予算取得までしたにもかかわらず、その設計コンサルタントに騙されるというのは非常につらいことだと思われます。また、被害は理事会・修繕委員会の方々のみならず全住人に及ぶため、責任問題となり、その後の住民間の関係に悪影響を及ぼす恐れがあります。
工事仕様の提案含めた募集
各工事会社が現地調査、設計、仕様・見積提案をする方式となります。
総合的な評価となります。
メリット
- 工事仕様を作成するための設計コンサルタントの費用が不要なこと
- 複数の観点で建物状態をチェックしてもらえること
- 工事選択肢に多様性が出ること
- 談合が発生しづらいこと
デメリット
- 見積の条件、区分けなどを整理しないまま相見積を取ると、比較選定がしづらいこと、組合内でのコンセンサスが取りづらいこと
- (工事会社の応募の負荷が大きいため)積極的な工事会社しか応募せず、応募数が減ること
メリット・デメリット
特命随意と比較したメリット・デメリットをあげます。
【メリット】
- 競争原理が働くこと
- 工事選択肢に多様性が出ること
- 組合員による癒着や(工事に問題発生時の)紹介者の責任問題のリスクが低いこと
- 公正なプロセスにより、組合内でのコンセンサスが取りやすいこと
【デメリット】
- 組合の工事会社の選定、見積の取得・比較選定、「なぜその工事会社、見積に絞り込んだのか?」の説明などの負荷が大きくなること
進め方
公募手段の決定
「マンション内の公募」と「新聞など媒体での公募」があります。併用も考えられます。
マンション内の公募
掲示板などでマンション住民からの推薦を募集する手段となります。
メリットは住民と工事会社の不適切な癒着の確率が比較的低いこと(とはいえゼロではないです)、住民と工事会社の信頼関係の活用が期待できることとなります。
デメリットは声をかけることができる工事会社が住民のネットワークに制限をうけること、集合住宅の改修工事の実績・実力に乏しい不適切な工事会社に声をかけてしまう恐れがあること、(工事に不具合が起きた際や癒着を疑う声があがった際に)深刻な住民間トラブルとなる恐れがあることとなります。
新聞など媒体での公募
業界紙などで公募する手段となります。
メリットは透明性ある手段であること、広く募集できることとなります。
デメリットは素人には「どの新聞のどの窓口に問い合わせればいいのか?」などの申込み方が分からないこと、工事会社の参加要項の設定が難しいこと(不適切な要領とすると工事会社が集まり過ぎたり、少なくなり過ぎたりする)、紙面の枠に限りがあることとなります。
工事会社の参加要項の設定、募集
「公募要項」などと呼ばれるものです。
無条件で募集すると、集合住宅の改修工事の実力・実績不十分なところ含めて多数応募がきて、比較選定の手間がかかり過ぎるなどの事態になるため、それらを避けるために設定します。
代表的な項目は以下の通りとなります。
- 物件、工事概要
- 参加要項(設立からの年数、資本金、事業所所在地、1級建築士事務所か否か、特定建設業許可の有無、改修工事の売上高/元請率、近年の赤字決算の有無、経営事項審査の評点、特定の保険への加入有無、現場代理人の経験年数/保有資格など)
- 締切日
- 提出書類
- 提出先
厳しくし過ぎると、参加可能な会社が限られる=(いつものメンバーとなり)談合しやすくなります。また、参加要項の意思決定は理事会・修繕委員会が行うこと、書類の提出先は組合とすることを強くおすすめします。
書類審査
応募してきた工事会社の数が多すぎる場合や実力・実績が不十分な工事会社が応募してきた場合は、書類審査で絞り込みをかけます。
前述の参加要項のうちどの部分を重んじるかは価値観・好みによるところもありますが、集合住宅の改修工事は固有のノウハウ・工事保険が必要な工事であることもあり、売上や元請実績が不十分なところは避けることをおすすめいたします。
絞り込みの意思決定は理事会・修繕委員会が行うことをおすすめいたします。
見積の取得
工事仕様の有無により、若干変わりますが、大枠では以下の流れとなります。
各工事会社への情報共有
建物の劣化状況、図面、過去の修繕履歴(例:2回目の大規模修繕、1回目の修繕箇所を共有する)、各種要望などを伝えます。
談合や圧力かけなどの不正競争行為の防止の観点では「どの会社が見積に進んでいるか?」は、他工事会社などの組合以外の方には非開示とするのが望ましいです。
各工事会社による現地調査
各社、数時間~1日程度かけて現地調査を行います。
談合や圧力かけなどの不正競争行為の防止の観点では、(組合側の負担は増えてしまいますが)各社の実施日時をずらすこと、立合は組合で行うこと、管理会社と工事会社の挨拶や名刺交換は避けることが望ましいです。
各工事会社による見積作成
見積作成の時間は既存の見積書や工事仕様が存在しない始めからですと2ヶ月前後となります。
長めに感じられるかもしれませんが、現地調査を通して工事項目・各項目の量を定め、材料メーカーなどと相談しながら、工法・材料などを定め、そのうえで数十~数百項目のコスト計算、積算、検算するには多くの手間・時間が必要となります。
理事会における見積選定
各工事会社の見積が揃った後は理事会による見積選定に進みます。
留意すべき点は、あくまで最終の意思決定は総会で行われるものですので、この段階では理事会として「総会の決議にかける見積を選定する」という点です。
また、「いくつの見積を選定するか?」ですが、1点をおすすめします。理事会内での議論、説明会・住民アンケートなどでの意見をもとに絞りこみましょう。
1点をおすすめする背景としては、総会は提案の可否を決議する場とすべきであり、仮に複数案から選定する場とした場合、意見が割れ、決議要件を満たさないとなると、最悪、選定が振り出しに戻る恐れがあるためです。
選定において一般的によく加味されるポイントは以下の通りとなります。
工事会社面
- 会社規模
- 経営状況
- 実績(集合住宅における改修工事の売上高、元請率など)
- 立地(同県内に本店、支店があるかなど)
- 意気込み、応対マナー
- 「代理人(工事管理者)」の経験年数、保有資格、人柄
見積面
- 金額
- 留意すべき点は見積上は安くても「実数精算の数量を少なく見積もっているだけで、実際は安くない」、「工事範囲を減らしている、材料グレードを下げている」などのケースがあることです。
- 提案の魅力
- 明細の緻密さ
- 明細なしで「一式」という表現が多い際は要注意です。成果物の定義が曖昧なため、工事開始後にトラブルとなるリスクが高くなります。
その他条件面
- 契約内容
- 工事保証
- 工事保険
- 瑕疵保険
- アフターサービス
選定にあたり金額が重要なポイントであることは事実です。
ですが、金額だけで選定してしまい、工事品質が悪く建物寿命に悪影響を与えてしまったり、品質保証期間中に工事会社が倒産してしまったり、工事期間中やアフターサービスにおける応対マナーが悪かったりなどの問題が発生し、結局は損になる、後悔してしまうという恐れもあります。
そうならないためにも、組合としての選定基準をしっかり持ったうえで、工事会社・見積を多面的に評価、選定する必要があります。
総会における決議
理事会で選定した案を、総会における決議にかけます。
決議要件は工事の程度次第となり、「形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な」程度の修繕であれば普通決議、「形状又は効用の著しい変更を伴うような」程度の修繕であれば特別決議となります。
提案者は住民に対して以下事項などについて報告のうえで、決議にかけます。
- 建物の劣化状況、工事の必要性
- 選定プロセス
- 工事の内容、時期、金額
- 工事前後の組合の修繕積立金などの財政状況
- 工事期間中の影響、留意すべき点
報告にあたって留意すべき点は以下の通りとなります。
- 工事に詳しくない住民にも理解しやすいような資料作り、説明を心がける。
- 選定プロセスを透明にする(例:理事長が付き合いのある業者を連れてきて、理事長のみがその業者とやり取り、最終的に実質上は特命随意でその業者を選定というようなことは避ける)。
- 必要に応じ、工事会社に総会に出席、各種説明してもらう。
- 情報共有の場を総会以外に、事前の説明会や掲示板などで設ける。
留意すべき点
しっかり準備したうえで臨むこと
公募時の参加要項の設定、見積書の比較を適切に行うには一定の知識が必要となります。しっかり準備をせずに臨むと組合内での意見が割れて比較選定ができなかったり、不適切な工事会社・見積を選定したり、不適切な契約内容・工事保証となったりする恐れがあります。
談合や圧力かけなどの不正競争行為の抑止につとめること
「公募するから談合、特定の工事会社への落札誘導が起こり得ない」とは限りません。
落札誘導の手段
- 公募する場を特殊な場とすること(例:設計会社のサイト)(例:認知度の少ない新聞)
- 参加要項を厳しくすること
- 参加要項を特殊にすること(例:特殊な工法・素材の仕様にする)
- 資料の提出先を設計事務所とすること
- 工事会社にコンタクトを取り、辞退や高額入札を強いること
抑止に向け、工事会社の選定は組合主導で行うこと、選定に関する情報は組合内のみで扱うことなどの検討をおすすめいたします。
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この記事の著者
豊田 賢治郎
「スマート修繕」代表。過去2年間の顧客マンションへの訪問回数は400回を超え、チェックした見積書の数は千を超える(2024年7月末時点)。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「日本経済新聞」、「羽鳥慎一 モーニングショー」、「日曜報道 THE PRIME」、「モーニングサテライト」。
中小企業診断士
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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