大規模修繕における談合など不正行為のメカニズム、対策
2024/09/04
国土交通省の通達や新聞・テレビなどの各マスコミの報道にあった通り、大規模修繕において談合などの不正行為が行われるケースが少なからずあります。管理組合にとってはゆゆしき事態です。 この記事では「大規模修繕における不正行為」、「不適切コンサルタント問題の背景」、「談合など不正行為を防止するために」についてご紹介いたします。 これら情報が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。
目次
大規模修繕における不正行為
談合
発注者の知らぬところで、相見積における落札者と落札金額などの条件が仕組まれる行為のことです。むろん、これらの条件は発注者にとって不利な、市場価格よりも高額なものとなります。
談合は、大規模修繕において少なからずあるのが現状です。
2017年には国土交通省が設計管理方式における設計コンサルタントの不適切な活動について、異例の注意喚起の通知を出しています。
(抜粋)「一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様 の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している。」
理事会・修繕委員会の方々にとっては、設計コンサルタントを採用するために苦労して探索、比較選定、さらには総会において予算取得までしたにもかかわらず、その設計コンサルタントに騙されるというのは非常につらいことだと思われます。また、被害は理事会・修繕委員会の方々のみならず全組合員に及ぶため、責任問題となり、その後の組合内の関係にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
競合排除
業界関係者のほうで既に見積済もしくは工事会社に声をかけている中で、組合のほうで独自に工事会社に声をかけた際や公募に対してしがらみのない工事会社が応募した際に「競合排除」が発生します。
辞退させる、実質辞退させるケース
組合が声をかけた工事会社に対して、業界関係者が(他物件での取引などを背景に圧力をかけて)見積への参加辞退や高額な見積の提出を強いるというものとなります。
落選させるケース
公募の際に応募書類の提出先を業界関係者の住所とし、業界関係者が競合となる工事会社を組合の許可なしに落選させます。
追加工事費ありきの見積
様々な手法がありますが、代表的なものの一つに数量の不確定部分を活用したものがあります。
「一式」の悪用
「一式」という用語は定義が曖昧です。この用語を悪用し、工事開始後、工事会社が「組合側が期待する範囲の工事を行うためには追加工事費が必要である」と主張するケースがあります。こうなると、工事に詳しくない組合が専門家である工事会社と交渉するのは簡単なことではありません。
「実数精算方式」の悪用
大規模修繕においては、「実数精算方式」という「工事前の見積金額は仮数量での仮金額、工事後に実数に基づき精算したものを正式な金額とする方式」が一般的になっています。
当方式を悪用し、見積時の数量を意図的に少なめに見積もっておき(かつ単価は高くしておき)、工事開始後、工事会社が「劣化状況を鑑みると、見積時の数量、金額より膨らむ」と主張するケースがあります。こうなると、組合側としては見積額以上を払うか、見積額内で工事内容を調整するかしかできません。
本来は見積の比較選定時に組合側で気付くべきなのですが、特命随意で1社しか見積もっていない場合や組合側が専門性・注意力不足より実数精算部分をしっかり確認できていない場合は、このような事態になってしまうことがあります。
不適切コンサルタント問題の背景
「不適切コンサルタント問題はなぜ発生するのか?、国土交通省が通達するほどまでになったのか?」の背景は以下の通りとなります。
業界関係者と組合との情報格差
組合にとっては日々の生活の中で建設関連に関わることはまれですし、ましてや「大規模修繕」という各マンションにとって十数年に一度のイベントに関わることは非常にまれとなります。
ゆえに、組合は大規模修繕については詳しくなく、相見積の各プロセス「工事会社探し(※)」、「見積の取得」、「見積の比較選定」、「契約、工事保証などの取決め」における業界関係者への依存度が高くなりがちです。
※修繕工事専業会社の社名を複数あげることができる方は非常に少ないと思われます。
「組合と業界関係者との情報格差が大きく、組合の業界関係者への依存度が高い」=「業界関係者が自己の利益のために不正行為を行いやすい」となってしまいます。
設計コンサルタントの比較選定時における「悪貨が良貨を駆逐する」ループ
先ず問いですが「当初より多くの設計コンサルタントが不適切だったのでしょうか?」、答えはもちろん「違う」と考えております。
このような事態になってしまった背景に、組合による設計コンサルタントの選定行為における事情があると考えております。その流れは以下の通りです。
(1)現状、設計コンサルタントと不適切コンサルタントを見分ける術はない。
(2)組合は設計コンサルタントの比較選定のためにコンペ(相見積、比較選定)を行う。
(3)組合は設計コンサルタントの各事務所や業務内容などについて詳しくないため、評価ポイントは価格と実績に偏りやすい。
(4)不適切行為を行いリベートをもらう設計コンサルタントのほうが(収益源が多い分だけ)価格競争力を有する。
(5)不適切コンサルタントが採用されやすい。
(6)不適切コンサルタントが実績・経験を積み、コンペにおける競争力を更に増す。
これらの流れをループ図にしたものが以下となります。
このループはどんどん回り、どんどん強化されていきます。
こうなるとリベートなどの収益源を有しない真っ当なコンサルタントは、採用されず、ビジネスとして立ち行かなくなり、消えていきます。
まさに「悪貨が良貨を駆逐する」事態が発生してしまいます。
では、次の問いですが「この現状において、設計コンサルタントの評価ポイントを価格に偏らないようにすれば、不適切コンサルタント問題は解決するのか?」、答えは「残念ながら、、、」となります。
談合のメリットの大きさ
談合は業界関係者にとってメリットが大きいです。代表的なものは下記の通りです。
(1)設計コンサルタントにとっては、管理組合からの報酬に加え、工事会社からの報酬を貰える。
(2)設計コンサルタントにとっては、(設計を、裏で決まっている工事会社が行うケースだと)設計の工数/コストが不要、責任も工事会社に負ってもらえる。
(3)設計コンサルタントにとっては、馴染みの工事会社とやり取りができ、楽である。
(4)工事会社にとっては、受注競争/価格競争がなく、楽である、好ましい利益水準を維持できる。
(5)工事会社にとっては、受注が読みやすく、経営が安定しやすい。
(6)工事会社にとっては、設計コンサルタントから厳しい監理/指摘をうけるリスクが低くなる。
談合など不正行為を防止するために
工事会社の選定を組合主導で行うこと
一部の業界関係者にとっては、工事会社・工事材料の選定業務=利権(リベートを貰えるチャンス)となり、それら関係者は組合のためではなく、自身・業界関係者のために選定を行うこととなってしまいます。
組合のために工事会社の選定を行えるのは、第一には組合自身であることを忘れてはいけません。談合など不正行為を防止したいのであれば、工事会社の選定を組合主導で行うことも手段の一つです。
また、組合で設計コンサルタントを活用するケースにおいても、コンサルタントへの委託業務から「工事会社の選定補助業務」を除外して、この部分は組合で主導することも考えられます。
複数の工事会社から見積を取得すること
特命随意などの工事会社1社のみに見積相談するのは、基本あまりおすすめしません。
競争原理が働かない状況下ですと金額面のみならず、工事内容・工事保証などの条件面で不当なものが提示される恐れがあります。見積提出側が「競合無しで、基本採用される状況」と「競合ありで、金額・条件次第で採用される状況」、どちらの状況でより組合側に好ましい見積を提出するでしょうか?
また、組合が複数の見積を見ることで、金額面・条件面の業界相場を把握できることにより、組合と工事会社の間のコミュニケーションがスムーズになったり、組合が工事会社に対して無用な不信感を抱くことが減ったりすることも期待できます。
候補会社は自分達で探すこと
設計コンサルタントや工事会社の選定において、業界関係者から紹介してもらった会社から選ぶということも考えられますが、時には「その時点でどの会社を選んでも、談合など不正行為が行われるように仕組まれている(そして紹介者も得をする)」ケースもあります。談合など不正行為を防止したいのであれば、候補とする会社は自分達で探すことも手段の一つです。
工事会社の選定時の情報取扱いに注意すること
前述の通り、談合のみならず競合排除など様々な形の不正行為が考えられます。それらを防止するためには、工事会社の選定に関する情報(例:どの工事会社が見積に参加しているのか?)(例:A社の見積はいくらか?)を、できる限り組合の選定担当者以外に漏らさないようにする必要があります。
不正行為が疑われる際は選定をやり直す、他ルートで見積を取ること
「見積金額が相場よりも大きく上回っている」、「見積金額が修繕積立金残高とほぼ同額である」、「工事会社による見積参加の辞退や見積途中での辞退が複数ある」、「(金額が数千万円~の大型工事にもかかわらず)複数の工事会社は提出資料・現地調査の態度・プレゼン態度を見る限りやる気がない」などの不正行為が疑われる際は、選定をやり直す、もしくは手元見積をベースに他ルートで見積を取ることも手段の一つです。
それまでにかけた労力・設計料などであったり、スケジュール遅延であったり、他組合員の目であったりが気になるとは思いますが、それらと引き換えに失うものは全組合員の少なくないお金となります。
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この記事の著者
豊田 賢治郎
「スマート修繕」代表。過去2年間の顧客マンションへの訪問回数は400回を超え、チェックした見積書の数は千を超える(2024年7月末時点)。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「日本経済新聞」、「羽鳥慎一 モーニングショー」、「日曜報道 THE PRIME」、「モーニングサテライト」。
中小企業診断士
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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