大規模修繕の工事会社・見積選定の進め方、ポイントについて
2024/09/03
大規模修繕の進行にあたり「工事会社をどう選ぶの?」、「見積をどう比較、どう選定するの?」、「契約、保証、保険はどうなっているの?」、「総会ではどうやって決議するの?」など多くの疑問があると思われます。 この記事では大規模修繕の工事会社・見積選定の進行における「工事の内容・条件の決定」、「工事会社に求める条件の決定」、「見積の取得」、「理事会における見積選定」、「総会における決議」などについてご紹介いたします。これら情報が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。
目次
工事の内容・条件の決定
工事の内容
既に設計コンサルタントなどにより建物診断が行われているケースでは、その診断結果・予算などを基に工事の大枠の内容を決定します。
建物診断、設計含めて、工事会社にお願いしたいケースでは、現段階では工事の内容を決める必要はありません。
予算
工事の資金には、修繕積立金が充てられます。手元の修繕積立金が、工事の内容から想定される費用や工事のおおよその相場(戸あたり100万円~ × 戸数)より多いので、その範囲内での工事なら問題ないとは限りません。修繕積立金は次の工事のためのみならず、その後の工事のためにも必要なものです。長期修繕計画に基づき、どれだけの資金を充てるか?などを判断すべきです。
仮に、修繕積立金が不十分な場合は以下対応を検討する必要があります。
資金面
- 工事を延期、修繕積立金が積みあがるのを待つこと
- 工事に必要性・緊急性があるのに何もせずに延期し、タイル落下による人身事故、屋上漏水多発による多額の損害などに繋がるのは非常に問題です。延期の検討においては、工事の必要性・緊急性、中長期でみた合理性を踏まえたうえで、各種判断(例:一部工事のみを実施)をする必要があります。
- 補助金・助成金の活用
- 住民からの一時金徴収、金融機関からの借入
工事費用面
- 工事範囲などの見直し
保険など条件
見積に付帯する保険などの条件も事前に決める必要があります。例えば、以下で説明する瑕疵保険においては、全ての工事会社が加入できるものではないため、見積依頼時に工事会社に対して可否を確認する必要があります。
大規模修繕工事瑕疵保険のご紹介
国土交通大臣認可の「検査付き保険制度」となります。
特徴は以下の通りとなります。
- 検査員(一級建築士など)による現地調査が事前確認時と工事完了時に実施されるため、工事の品質が一定以上となることが期待できます。
- 瑕疵発生時、修繕費用の大部分が補償されるため、工事会社とのスムーズな調整が期待でき、修繕を行うべき工事会社が倒産などの場合も資金の目途が一定立ちます。
- 保険であるため、保険料(工事費の~1%程度)が発生します。
加入するか否かは、マンションの財政状況・リスク許容度、発注予定の工事会社の経営状況・工事保証の内容など次第であると考えております。当サービス利用時にご検討される場合は、お気軽にご相談ください。
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工事会社に求める条件の決定
見積依頼する工事会社に求める条件を決定する必要があります。
「何を条件とすべきか?」は、誰にとっても正しい解というのはなく、各組合の価値観次第となります。また、この段階で明確な条件を持つのは、通常では困難と考えられますので、譲れない条件(例1:同県内に本社がある工事会社としたい、例2:瑕疵保険付きを条件としたい)のみを定めます。
一般的によく設定される条件は以下の通りとなります。
- 会社規模
- 経営状況
- 実績(集合住宅における改修工事の売上高、元請率など)
- 立地(同県内に本店、支店があるかなど)
- 大規模修繕工事瑕疵保険の対応可否
見積の取得
代表的な流れは以下の通りとなります。
1.候補とする各工事会社に打診 もしくは 公募
- 各工事会社の連絡先に問い合わせをしたり、公募したり、当サービスのような一括見積サービスを活用したりして、候補とする工事会社を見つけ、見積参加意向を確認します。
2.見積に進む工事会社の決定
- 見積参加意向のある全ての工事会社を見積に進めるのは、多くの場合においては見積取得、見積の比較選定の負荷が大きすぎるため、ここで数社に絞ります。
3.各工事会社への情報共有(建物状況、図面、過去の修繕履歴、各種要望など)
- 建物の劣化状況、図面、過去の修繕履歴(例:2回目の大規模修繕、1回目の修繕箇所を共有する)、各種要望などを伝えます。談合や圧力かけなどの不正競争行為の防止の観点では「どの会社が見積に進んでいるか?」は、他工事会社や管理会社には非開示とするのが望ましいです。
4.各工事会社による現地調査
- 各社、数時間~1日程度かけて現地調査を行います。談合や圧力かけなどの不正競争行為の防止の観点では、(組合側の負担は増えてしまいますが)各社の実施日時をずらすこと、立会は組合で行うこと、管理会社と工事会社の挨拶や名刺交換は避けることが望ましいです。
5.各工事会社による見積作成
- 見積作成に要する時間は既存の見積書や工事仕様が存在しない始めからですと~2か月間となります。長めに感じられるかもしれませんが、現地調査を通して工事項目・各項目の量を定め、材料メーカーなどと相談しながら、工法・材料などを定め、そのうえで数十~数百項目のコスト計算、積算、検算するには多くの手間・時間が必要となります。
理事会における見積選定
各工事会社の見積が揃った後は理事会による見積選定に進みます。
留意すべき点は、あくまで最終の意思決定は総会で行われるものですので、この段階では理事会として「総会の決議にかける見積を選定する」という点です。
また、「いくつの見積を選定するか?」ですが、1点をおすすめします。理事会内での議論、説明会・住民アンケートなどでの意見をもとに絞りこみましょう。
1点をおすすめする背景としては、総会は1案の可否を決議する場とすべきであり、仮に複数案から選定する場とした場合、意見が割れ、決議要件を満たさないとなると、最悪、選定が振り出しに戻る恐れがあるためです。
選定において一般的によく加味されるポイントは以下の通りとなります。
工事会社面
- 会社規模
- 経営状況
- 実績(集合住宅における改修工事の売上高、元請率など)
- 立地(同県内に本店、支店があるかなど)
- 意気込み、応対マナー
- 「代理人(工事管理者)」の経験年数、保有資格、人柄
見積面
- 金額
- 留意すべき点は見積上は安くても「実数精算の数量を少なく見積もっているだけで、実際は安くない」、「工事範囲を減らしている、材料グレードを下げている」などのケースがあることです。
- 提案の魅力
- 明細の緻密さ
明細なしで「一式」という表現が多い際は要注意です。成果物の定義が曖昧なため、工事開始後にトラブルとなるリスクが高くなります。
その他条件面
- 契約内容
- 工事保証
- 工事保険
- 瑕疵保険
- アフターサービス
選定にあたり金額が重要なポイントであることは事実です。
ですが、金額だけで選定してしまい、工事品質が悪く建物寿命に悪影響を与えてしまったり、品質保証期間中に工事会社が倒産してしまったり、工事期間中やアフターサービスにおける応対マナーが悪かったりなどの問題が発生し、結局は損になる、後悔してしまうという恐れもあります。
そうならないためにも、組合としての選定基準をしっかり持ったうえで、工事会社・見積を多面的に評価、選定する必要があります。
総会における決議
理事会で選定した案を、総会における決議にかけます。
決議要件は工事の程度次第となり、「形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な」程度の修繕であれば普通決議、「形状又は効用の著しい変更を伴うような」程度の修繕であれば特別決議となります。
提案者は住民に対して以下事項などについて報告のうえで、決議にかけます。
- 建物の劣化状況、工事の必要性
- 選定プロセス
- 工事の内容、時期、金額
- 工事前後の組合の修繕積立金などの財政状況
- 工事期間中の影響、留意すべき点
報告にあたって留意すべき点は以下の通りとなります。
- 工事に詳しくない住民にも理解しやすいような資料作り、説明を心がける。
- 選定プロセスを透明にする(例:理事長が付き合いのある業者を連れてきて、理事長のみがその業者とやり取り、最終的に実質上は特命随意でその業者を選定というようなことは避ける)。
- 必要に応じ、工事会社に総会に出席、各種説明してもらう。
- 情報共有の場を総会以外に、事前の説明会や掲示板などで設ける。
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この記事の著者
豊田 賢治郎
「スマート修繕」代表。過去2年間の顧客マンションへの訪問回数は400回を超え、チェックした見積書の数は千を超える(2024年7月末時点)。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「日本経済新聞」、「羽鳥慎一 モーニングショー」、「日曜報道 THE PRIME」、「モーニングサテライト」。
中小企業診断士
この記事の監修者
別所 毅謙
マンションの修繕/管理コンサルタント歴≒20年、大規模修繕など多くの修繕工事に精通。管理運営方面にも精通しており、アドバイス実績豊富。 過去に関わった管理組合数は2千、世帯数は8万を超える。 メディア掲載「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、「NIKKEI NEWS NEXT」、「首都圏情報ネタドリ!(NHK)」、「めざまし8」、「スーパーJチャンネル」。
二級建築士
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